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1.  夜は短し歩けよ乙女 《ネタバレ》 
京都を舞台にした青春映画には独特の雰囲気があるが、その雰囲気が世界観に昇華されているのが本当にスバラシイ。よく知っている風景が続出するだけに、そこで展開される奇想天外な物語とのギャップに完全にやられた。原作未読だが湯浅監督の『四畳半神話体系』は完走済。同じ世界観ではあるけれど、ハチャメチャだった『四畳半』と比べると、非リア充な「先輩」の恋というモチーフが一貫しているぶん、この映画のほうが感情移入もしやすい。とくに、先輩と黒髪の乙女の、さわやかでシンプルなラストは心から「美しい」と思って涙してしまった。こんなところからもわかるように、私もけっこう「先輩」に近い青春を送ってきたわけだが、一緒に飲み会にいるのに結局話しかけられない感じだとか、人知れず彼女との共通項を求めて奮闘してしまう感じとか、イベントにかこつけて近づいてみようとする感じとか、いざ接近してみたらいろいろ恐ろしくなって結局挙動不審になるところとか、いちいちグサグサと来る。結局、本作で一番のスペクタクル場面が、もう一度心を閉ざすか、一歩踏み出すかの先輩の心の葛藤である点も象徴的だ。ある意味、『桐島部活やめるってよ』とは全く正反対のアプローチで、見事に自分を(あんまり戻りたくもないと思っていた)青春時代へと連れ戻し、そして、その「愛おしさ」を再発見させてくれるという意味で、自分にとって大事な作品になった。あと秀逸なのが、時間の設定。一夜で一年という矛盾も、一人一人が生きる時間の相対性を見事に表現している。そう、ある時代の一夜は、1年に相当するだけの濃度と長さをもって経験されるのだ。そして、人の緩いつながりを可視化して「社会」を描いた映画に僕は弱いのだが、そんな僕にストライクな展開も待っていた。細かいことを言えば、序盤のはしご酒や演劇シーンの描写は(わざとだったとしても)面白みに欠ける平板さで、ちょっと退屈だなと感じたし、登場人物ももう少し絞ったほうが90分の物語の「濃度」がもっと凝縮されたようにも思う。でも、かつての(今もか)「四畳半主義者」に捧げるストレートな青春賛歌として、幸福な90分間をありがとー!と叫びたくなる作品である。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2018-06-08 21:50:17)
2.  横道世之介 《ネタバレ》 
原作未読なので、途中まで、どういう映画かよくわからないまま戸惑いながら見てた。ちょっと挙動不審な田舎出身の人のいい大学生の青春物語かなと思ったら、いきなり話は現代に飛んで・・・。ただ、中盤で主人公の末路がわかった時点で、実はこの映画、最初から視点は現代に固定されていたのだと気づいた。みんな「故人」である横道世之介を偲んでる。世之介の「人のよさ」とか「憎めなさ」も実際は「思い出補正」なのかもしれない。BGMで流れるのが、レベッカと石井明美っていうベタ過ぎる選択も、そう考えればよくわかる。世之介の(そして祥子さんとの)その後が全く描かれていないのもそのためだろう。けれど、この映画の魅力は、「補正だからウソとか虚構」でも「あの日に帰りたい」でもなく、そうやって「思い出す」ことが人生を豊かにするっていうことをきっちりと描いている点だ(その自覚が「三丁目の夕日」とは明らかに違う!)。それは、祥子さんがハンバーガーを二度食べるシーンに、これ以上ないくらい美しく描かれている。まあ、それは、登場人物たちよりは年下だけど十分おっさんになった自分が見るからそう思うのかもしれないけど。普通に青春物語としても美しいし、世之介と祥子さんの映画史上最強レベルの大ボケカップルは必見の価値あり。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2017-03-05 13:57:48)(良:2票)
3.  八日目の蝉 《ネタバレ》 
原作既読。基本的に時系列順に話が展開する小説と異なり、映画では2つの時間軸を交互に見せることで希和子と恵理菜のそれぞれの物語の重なりがうまく表現できたと思う。ちょっとあざといというか、わかりやすすぎ、という気もしないでもないが、小説以上にさまざまな観客を想定した映画の場合、それも一つの方法なのだと思う。2時間半という時間を考えれば、どちらかというと希和子のエピソードにページを割いた原作に対して、「恵理菜の物語」として全体を再構成したのも正解だったのだろう。そういう意味で、ラストが原作と異なっているのも、「恵理菜の物語」としての映画版としては十分に納得できるものだった。実は本作を観に行ったのは、原作が好きだったこともあるのだが、この夏休みに小豆島に家族旅行に行くことになったのも理由の一つだったのだが、あとでガイドブックとあわせてみると、見事に小豆島の観光スポットを抑えていてびっくり。小豆島観光協会の人たちがんばったなあ、と妙に関心してしまった。しかし、そういう映画の裏事情のようなものが嫌みにならないくらい、本作では小豆島という場所が魅力的に描かれていた。夏休みの小旅行が数倍楽しみになりました。
[映画館(字幕)] 8点(2011-07-22 18:04:34)
4.  容疑者Xの献身
原作既読+ドラマはたまに見ていた程度で飛行機で鑑賞しました。冒頭の爆破と実験シーンで「ああ、テレビの延長なのね」と思いましたが、本編が始まれば、もう別の「映画」になってました。全体を通してみて、堤&松雪がつくる「映画」の世界と、福山&柴咲の「テレビ」の世界が最後までかみ合っていなかったように感じて、うまく物語に入れませんでした。ただ、過酷なシチュエーションを感情移入を廃して淡々と描く東野作品の雰囲気はうまく出せていたのではないかなと思います。ベタベタになりそうなところをうまくコントロールしていたのでは。それだけに、二つの世界の不整合が残念。他のベストセラー原作邦画のように、いっそのこと別モノにしたほうがよかったんじゃないのかなあ・・・。
[ビデオ(邦画)] 6点(2009-03-31 13:28:25)(良:1票)
5.  用心棒
三船敏郎の魅力、個性的な脇役たち、電光石火の殺陣、効果的な音楽。ストーリー的には王道の娯楽映画ですが、個人的には、人物の立ち振る舞いから宿場町のセットまで、すべてが「美しい」映画という印象が残っています。余談ですが、60年代アメリカの学生運動のパンフレットに、『用心棒』の三船敏郎風のイラストが使われていたのを見たことがあります。この映画の美しさと力強さが世界共通であることを実感して、なんだかうれしくなりました。
[CS・衛星(邦画)] 10点(2009-02-13 23:30:50)
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