1. 用心棒
いやあ素敵です。面白いし、もう。キャラ造形の深いこと、巧みなこと。主人公三船の存在の圧巻なことはもとより、世話焼き(+説教)役の東郷のじいちゃんは安定の脇支えだし、悪役の面々も惚れ惚れするほどの面構えだ。そう、間抜けな役どころ(あの眉毛!反則だ)を一人置いて肩の力を抜かしてくれるのも良い。 宿場町のあっちとこっちでいがみ合う二件の賭場を、余裕と風格で行ったり来たりの三船は大きい鯨のよう。三船によってくるくる展開する運びは程よくビビるし、仲代の登場のタイミングも絶妙。 流れるようなカメラワーク、じいさんの飯屋の中から外をうかがういくつもの場面や、殺陣での継ぎ目の無いなめらかさは観てて心地よい。 なんといっても鳥肌もののクライマックス。強すぎるほどのつむじ風を背負って登場の三船侍、なんというかっちょ良さでありましょうか。外国人がお侍に憧れるがごとく、ワタシの頬は紅潮し心臓は高鳴り、三船にもこの映画にも恋したものでありました。 [DVD(邦画)] 9点(2017-06-04 23:59:20)(良:1票) |
2. 夜明けのゾンビ
《ネタバレ》 最初のうちは19世紀のクラシックな風景にゾンビ、ていうのが目新しかったんですが。草原や森林といったアメリカの大自然の中に見え隠れするゾンビって斬新だなあと。 でも喜んでいたのは相方と出会うまで。アイザックの妹が登場するあたりから話はどんどん雑に進み、あっさり脱出&あっさり魔女と和解&銃創完治、そしてあっさりと免疫者が判明し、さらわれてまた取り戻す。はらはらも何もあったもんじゃありません。 主人公、息子の思いを叶うべく滝へ赴きます。ここはこの男の生きる証といいますか、このために生き抜いてきたようなものですから観てる側は当然彼の中のドラマの盛り上がりを期待すると思うのですが、あれっなんも無いのかい。これまたあっさり滝から帰還、あの滝って徒歩でちゃっちゃと行って帰ってこれる距離だったのか。しかも将軍らの襲撃が終わりたて、というご都合のよさ。色々ケチをつけるとまあキリの無い映画なんですが、主人公と将軍の人相がそっくりに見えるっていうのが一番参っちゃったかな。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2016-05-21 00:46:17) |
3. 容疑者(1987)
《ネタバレ》 この手の法廷ドラマは、弁護人と被疑者との関係を丁寧に描くのがセオリーかと思うんだけども。なぜかシェールとドラマを展開するのが陪審員のD・クエイド、リーアム・ニーソン放ったらかし。聾唖者にした設定もほとんど活きてない。デニス側の人間関係をやけに描き込むのも蛇足気味。票集めに女議員と関係を持つくだり、要ります?シェールを手伝う探偵も一瞬で消えちゃうし、同僚の弁護士ももっと何かしてくれるのかと思わせておいて特に何もなし。雰囲気ばかり出そうとして、人物の置き方、絡み方の配置が雑だという印象を受ける。判事が自ら弁護士を殺害に行くって、そもそも無理がありすぎじゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2014-08-29 00:30:47) |
4. 4ヶ月、3週と2日
チャウシェスク政権末期のルーマニア、病んだ国家で青春を生きる女の子のある一日。ぱっと見、国情は全く豊かでなく、補修を一切してなさそうなビル、滞りがちな物資、停電の頻繁に起こる街。薄暗くて汚い小路。官僚的でサービス精神ゼロのホテル受付の態度に共産圏の香りをびしびし感じる。国がきちんと運営されていなくとも人はそれなりに結託して生き抜くもので、学生寮にまで闇市まがいの流通はあるしバスの切符すら見知らぬ人に融通する助け合いの精神があるのに驚いた。主人公オティリアもまた、その「助けなきゃ精神」によって友人に翻弄される。だけど彼女の助け合いポリシーが揺ぎ無いんだ。胎児を処理(!)までして危険な街路を帰ってきたオティリアをけろりと食事して待つ友人。そんな相手を特になじるでなく疲れを漂わせながらも大変な一日を淡々と終えるオティリアの横顔。理不尽で厄介なことに慣れた、独裁国家の国民そのものを象徴するよう。だけどこの人たちは打ちひしがれたままでない、その後の経緯を知ってるからこそ、とても興味深く観賞できた。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-11-01 01:46:18) |
5. 夜の大捜査線
《ネタバレ》 ポワチエもスタイガーも両者相譲らぬ存在感なんだけど、私は僅差でR・スタイガーに一票。このおやじが自らの内面のひだを上手く演じていて唸る。上手い、上手すぎる。黒人に対する偏見をことごとく覆されて、ポワチエに一目置くようになってる自分への戸惑い、しかし“黒人ごとき”に同情されたくない、というプライド。声はでかいけど威張りちらすわけではなく、誤認逮捕もしぶしぶ認める。危ないから逃がしてやりたいのに言う事聞かない黒人の若造。イライラしているスタイガー親父が人間味をざぶざぶ溢れさせて目が離せません。ナイスな小物ぶりを見せる脇役サムや電話番の彼も良いです。そしてなによりも、立ち上る夏の夜の空気、匂い、蒸し暑さ。こんなにも画面から感じた映画はこれが初めてでした。 [地上波(字幕)] 9点(2012-11-01 00:57:25) |
6. 善き人のためのソナタ
管理社会も人間の美しい部分を完全に奪うことなどできないのだなあ、となんだか勇気が湧く。美しい部分て、例えば友人をかばうことだったり、人に恋をすることだったり。監視される側とする側は、美しい要素を持つ者と持たざる者という見方もできる。当局ににらまれる芸術家たち 彼らに比べて圧倒的に社会的強者である大尉の、しかし私生活のなんと寂寞として無様なことか。クリスタに恋するヴィースラーの、必死な表情に胸が詰まる。彼女の尊厳が自分の上官に踏みにじられるのは耐えられなかっただろう。終盤、ドライマンに「君なんか完全監視だよ」と言い放つ元高官の、いまだ残る優越の表情に血圧が上がりそうになった。 [DVD(字幕)] 8点(2011-08-04 15:09:06) |