1. 旅愁(1950)
《ネタバレ》 大恋愛は超え難き障碍があってこそ。大きな障害と見えた妻の側の理性的な譲歩により「もうこれで自由だ」となった瞬間「自由ではない」ことにヒロインが気づく。つまり障碍がないことが最大の障碍である逆説の成り行き。ヘイズコードがまだ生きている時代だからか、恋する「肉体」を全く感じさせない淡交。実は「時代」といえばこれは赤狩りの時代で演出のディターレは大変な目に遭っていることの方が重大である。 [DVD(字幕)] 7点(2025-04-28 23:07:30)★《更新》★ |
2. メランコリア
《ネタバレ》 作品の形式はいかにもアンバランスだが、前半のニヒルなヒロインによる体面ぶち壊しの迫力、後半の迫り来る滅亡に対処する人物たちの姿勢の逆説的な変化など、個々の表現は充実している。いい映画だ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-04-27 22:32:15)★《更新》★ |
3. さざなみ
《ネタバレ》 日常的な平凡な些細な事柄が、深掘りするとこんな怖い話になる。深掘りの技法は、だから大切なのだ。特別に突飛な「無い話」に依存しないで。 [DVD(字幕)] 7点(2025-04-23 12:20:33)《新規》 |
4. 雨
《ネタバレ》 階段があって、上段に屹立する宣教師が下段から見上げる倫落の女に対して、一方的に罪を宣告する(まるでドライヤー『裁かるるジャンヌ』のように一方的)。段差で、両者の視線は「交わらない」。で、この宣告の最中に後者はとうとう回心する(ように見える)。が、やがて宣教師の抑制され得ぬ肉欲のせいで身体の方が「交わり」大逆転となる。雨で外界が遮断されているという設定は演劇に好都合(元は演劇作品)だが、極めて映画的な興奮を呼ぶのは外界への想いならびに外界の断片的な挿入である(ムルナウ『タブウ』のような南の島であること、皮肉にも晴れた朝のエンディング)。単純な立て付けながら素晴らしい映画である。 [DVD(字幕)] 9点(2025-04-16 09:18:01)《更新》 |
5. ブルックリン
《ネタバレ》 ヒロインからすればぜんぜん「ハッピー」エンドではないのを、さりげなく見せているのであって、リアルということなのである。諸事情の影響を受けてブレずにはいない、一途の恋であったはずのものも。恋愛至上主義(?)からの抗議の声を受け止める覚悟はできている映画だ(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2025-04-14 22:23:15)《更新》 |
6. マグノリア
《ネタバレ》 この群像ものというのは、けっきょく個々の話題の深掘りが苦手なのだろうか。ありそうなモンダイをいくつか配置して浅いまま終わってゆく、バラバラな印象をカエルで強引にくっつけましたぁ、で。 [DVD(字幕)] 5点(2025-04-13 09:45:07) |
7. マルホランド・ドライブ
《ネタバレ》 こういうの「難解」とかではなく、意図的に迷路にされているだけ。上手いのは、ヤバそうな大金の存在が、あの「鍵」(迷路を解除する鍵)により霧散すること、それと同時にナオミ・ワッツ演じるヒロインの姿も消えることだ。全ては彼女の妄想なのだ。隠れたものを覗き見るスリリングなスタイルがこの映像全般にあるが、なかでも精神分析的な無意識への探索(「リタ」の部屋に入ることの、つまりは自分の無意識の)を、深掘りして欲しかったかな。 [DVD(字幕)] 8点(2025-04-10 22:23:36) |
8. 雪の轍
主体というものが無意識的に前提している自己満足の楼閣が切り崩され始める(姉や妻などによって)、という普遍的な話である。人はこういう映画を観て、自分の生が無意識的に依拠している(踏み付けている)構造を反省するのだ。 [DVD(字幕)] 8点(2025-04-10 18:04:29) |
9. 朝の波紋
《ネタバレ》 日本が復興してゆく戦後期、 この映画は五所平之助監督らしく、ほのぼの温かい。高峰秀子が同僚(岡田英次)からのプロポーズを振り切って「もっと他にある」希望に向かおうとするクロースアップの顔は本当に美しく瑞々しい。そして(実人生でもこの映画の役でも、戦地からよく生きて帰ってきた)池部良が魅力的に共演している。この同年に池部良は『現代人』、高峰秀子は『稲妻』、ともに日本映画史上最高級の映画を創っている。 [インターネット(邦画)] 9点(2025-03-11 10:12:48) |
10. フォーゲルエート城
《ネタバレ》 『最後の人』や『サンライズ』などの極上の作品に比べれば、評点の9点は、ムルナウを偏愛するゆえの高すぎる評価なのは承知だが、かつてドイツ映画祭で観て、その深い寂寥感に撃たれたのが原点にある。シュトラッツ作の同名の原作小説(ドイツ語髭文字の原書!)が魅力的な形式(登場人物たちがそれぞれ「私」形式で語る、複数の語り)を備えているだけではなく、人物像にも重要な違いがある。ムルナウの映画版では、主人公エーチュがあの告解を盗み聴く僧侶に変装するのみならず、死刑を宣告する裁判官役割も兼ねて、作品の進行を決定する主体となる。原作小説ではなんとエーチュ自身も死んで、そもそもその主人公という地位も相対化されるというのに。男爵夫人も映画版では「運命の女」「妖婦」的により濃厚に輪郭付けられる一方、逆にそのパートナーである男爵像の原作における大変な悪どさが映画版では消えて、妙に繊細なむしろ切ないような役作りに変改されている。おそらくこの点にこそこの映画のエキスがありムルナウ自身のゲイ性が反映されていると見る。そういえば主人公エーチュも単独者であり、警察権力(原作小説のエンディングで支配的な役割を演ずる警察関係者が、映画版では影が薄い)を脇に除ける主体としてこの映画を締めくくっているのも極めて印象的だ、と言わねばならない。同性愛者に敵対的なドイツ刑法175条の縛りのある時代のことだから。この映画美術としては、階段が大きな役割を担う。脚本のカール・マイヤーに『裏階段』という禍々しき作品があるのも頷ける。 [映画館(字幕)] 9点(2025-03-10 18:47:58) |
11. 現代人
《ネタバレ》 生家の鬱陶しい環境からの切断を生きる主人公(池部良)のあくまでシャープな身のこなし(これだけでも素晴らしい)、清濁合わせ飲む覚悟への無謀な移行、移行といえば長回しの画面奥へのキャメラの縦の移行に山田五十鈴が魅力的に絡む。フランス・ヌーヴェルヴァーグに先立つ圧倒的な名作。 [DVD(邦画)] 9点(2025-02-08 13:02:35) |
12. 街の上で
《ネタバレ》 硬派な他者性が貫かれていることが、この一見穏やかな名作の根幹をなしている。主人公が相手の言葉をすぐには受け入れずに頻繁に反復して咀嚼する間(ま)、これが実に曲者である。細かい誤解や諍いがジャズのように反発と仮初めの投合を繰り広げながら束の間のハーモニーを奏でる。 [DVD(邦画)] 9点(2024-10-06 13:39:58) |
13. 女ともだち(1956)
長回しという言い表し方では済まないような巧みな撮影・演出手法で、目まぐるしく動く人物たちが主体として浮上しては脇へ外れてゆく様を描き出す。けっして、人物たちの間に割って入って見交わしをモンタージュするようなことはないのは、ほんとうにすごいことだ。ほとんんど取るに足らない筋で不思議に充実しているアントニオーニ作品たち! [ビデオ(字幕)] 9点(2022-11-13 23:06:25)(良:1票) |
14. 妻二人
《ネタバレ》 イマジナリーラインを絶えず踏み越えて、見交わしの都度人物の位置が左右反転するという画面演出スタイルが目立っている。それは調和的な向かい合いの否定である。つまり、人物たちがそれぞれに潔く自分であることを追求しぶつかり合う増村流で、かくて未練がましい絡みのない、メリハリのあるスピーディな進行となる。岡田茉莉子の代表作の一つとなっているのではないだろうか、増村映画の偉大な常連若尾文子を脇に回して。 [DVD(邦画)] 8点(2021-05-18 10:21:01) |
15. 天然コケッコー
《ネタバレ》 横恋慕してくる男、父親の浮気、カレとの別離の可能性などなど深刻な話題となりうる局面で、ヒロインは積極的には動かない、受動的である(が、従属的ではない)。とにかくボーっとして、まずはながめている(観客もボーっとながめている)。中心人物が受動的なので、周囲世界のほうが重量を帯びる、といっても、なんだか周囲世界の方で納まってくれるので、しあわせな映画となる。そんな映画があってもいいではないか。 [DVD(邦画)] 8点(2021-01-06 13:59:55) |
16. 暖流(1957)
《ネタバレ》 左幸子が回る、環境の同調圧力を振り払う独楽のようにブンブン回りながら、恋のターゲットに向かって一直線。野添ひとみも素晴らしい。きわめて動的で立体的な演出で、イマジナリーラインを絶えず踏み越えるゆえ、見交わしの都度人物の位置が左右反転する。人物が頻繁に横に動いてイマジナリーラインを跨いだり、カメラが人物の背後に回って逆サイドからも撮ったりで。もちろん人物位置の反転自体が良いのではなくて、輪郭のある人物どうしの格闘が、反転の度により深められ、映画語りの速度を上げることこそが。この『暖流』の秀逸な撮影者ということで村井博を知る、すると、彼にはあの宮川一夫を鋭く相対化する視点がある、ということに出会う(「インタビュー 村井博」『映画監督 増村保造の世界』所収)、興味津々! [DVD(邦画)] 9点(2020-12-17 02:17:25) |
17. ヒッチコックの ファミリー・プロット
《ネタバレ》 この作品のサスペンスは、観客の同一化の対象がずっと宙ぶらりんなこと、それが揺れながら移動することこそにある。詐欺師カップルにはとりあえず同一化はできないが、転回点は詐欺師カップルが極悪犯側からの攻撃(壊された車)を耐え抜くところで訪れる。実行犯の死を伝えられた極悪犯が一瞬安堵の表情をみせる(実行犯にゆすられる心配が解消)というきめ細かさである。 [DVD(字幕)] 8点(2016-06-06 16:40:07) |
18. ジャンゴ 繋がれざる者
《ネタバレ》 この作品の構成には媒介項が不可欠である。まずは、黒人の味方をする白人が筋を引っ張る(黒人主人公と助力白人が捜索の旅に出る)→それを、白人の体制に忠実な黒人が妨害する→とうとう主人公の黒人の大活劇。プロップの『昔話の形態学』における、説話の必勝パターンのことを考える。 [DVD(字幕)] 7点(2016-05-28 21:57:43) |
19. JAWS/ジョーズ
《ネタバレ》 身体を直撃する痛い映画、ていうか、映画は眼だけのレヴェルでおさまるものではまったくないということを再認識させる。事態の深刻さときちんと向き合おうとしないで対処の邪魔をする権力(市長)が、リアルであると同時に、筋の展開に効果的な役割を演ずる。それだけでも巧みである。 [ビデオ(字幕)] 8点(2016-04-15 20:47:56) |
20. 曳き船
《ネタバレ》 1941年の、フランスにとっても過酷な時代に、この古典的な名品。古典的といえばスタジオでの制作の感じが強いし、筋もまた禁欲的な節度を保つ。こういう「古典的」なものが戦後はリアルな表現によって乗り越えられていくわけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2016-04-10 13:51:54) |