341. パニック・ルーム
プロットは確かにサスペンス・スリラーの王道。だけど、あのデビッド・フィンチャーがまともにそんな映画を撮るワケないじゃないか。…と、考える人こそが本作の幸福な鑑賞者になれるでしょう。すべてに破格な『ファイト・クラブ』の後、彼が次に目論んだのは、ワンショットもゆるがせにしない古典的演出を、いかに現代的なキャメラワークで実現できるかということ。実際、ここでフィンチャーが見せるサスペンス演出は、あきらかに50・60年代的なものであり(この作品と比較するに最もふさわしいのは、『不意打ち』というオリビア・デ・ハビランド、ジェームズ・カーン主演の1964年度作品でしょう)、いささかも「現代的」な大袈裟かつセンセーショナルなこけおどしを用いていない。それゆえ、かったるいだの、物足りないとおっしゃる向きも分からなくはないのだけど、そういう時に皆さんが求めているのは「サスペンス」じゃなく「サプライズ」でしょう? そういったハズシ方こそが、いかにもフィンチャーらしい「戦略」だと思うんだけどなあ。あと、これを「本当は『エイリアン3』をこういう風な映画にしたかった」という彼の、”裏『エイリアン3』”として見ても、面白いんじゃないでしょうか。…この見方、ダメ? 9点(2003-10-06 18:21:16)(良:2票) |
342. 恋におちたシェイクスピア
他の方のレビューを拝見して、どうも採点「8」が多いという印象。でも、これが本当に「8」な映画なんですよね。つまり、面白いし良く出来ている。けれどそれ以上ではない…という。青年シェークスピアと、彼が生きた時代の雰囲気をいきいきと描いた脚本の勝利だと思うものの、別に映画でなくとも、例えば舞台の方がより面白いものになったんじゃないかと思わせるところが、物足りなさの理由か。でも素直に面白いし、出来としては良い。ああ、やっぱり8点じゃん(笑) 8点(2003-10-06 17:17:54) |
343. マーフィの戦い
初めはピーター・オトゥール扮するマーフィの「たった一人の戦争」に協力していたフィリップ・ノワレの気のいいオッサンが、遂には彼を見放すあたりの感じ…この男の「狂気」にはついていけんという感じが、観客にもストレートに理解できる。前半のユーモラスさと後半の凄絶さのコントラストの妙が、実に効いてます。最後にはUボートの乗員の方に同情してしまうであろう、オトゥールの主人公の「イッてしまいました」ぶりが、強烈すぎて忘れられません。 8点(2003-10-06 17:04:29) |
344. 彼方へ
素手で山をよじ登るクライミング・シーンは、確かに迫力あり。でも、だったら初めからドキュメンタリーとして作れば良かったのに…。苦心の撮影も、かったるいドラマ部分ですべて台無し。ヴェルナー・ヘルツォークって、所詮ハッタリとクラウス・キンスキーがあってこその監督だったのね。失望。 5点(2003-10-06 16:56:18) |
345. オルランド
男装のティルダ・スイントンに一票。女性に戻った時(?)の全裸ヘアに、満票(笑)。ヴァージニア・ウルフを『めぐりあう時間たち』で深刻そう暗そう…と思われた皆さん、彼女の茶目っ気とユーモアを正しく表現したこの映画もまた、ウルフの世界です。 9点(2003-10-06 16:51:44) |
346. プレイタイム(1967)
おっさん氏、これをオリジナルの70ミリ版でご覧になられたのですか…ク~ッ、うらやまし~いっ! あの工場の巨大セットをはじめ、ジャック・タチならではのシュールでウルトラ・モダンな世界は、永遠に新しい。それでいて、超俗的で飄々としたユロ氏のあたたかさが画面を優しく彩るあたり、ほんとポエジーだなあ。スケールが大きくなっても、タチはやっぱりタチです。 10点(2003-10-06 16:44:25) |
347. 遠き落日
神山征二郎監督と新藤兼人脚本のコンビ作としては、世評に高い『ハチ公物語』よりもよっぽどいいと思う。いささか、”人間・野口英世”の露悪的な部分を強調しすぎるあたりはさすが新藤・脚本だけど、三田佳子の母親像は正しく「日本の母」として美しく偶像化され、それが素直に心にしみる。あの有名な手紙のくだりには、滂沱の涙…。見終わった後、親孝行したくなります。なるだけですが。 7点(2003-10-06 16:34:24)(良:1票) |
348. 日本海大海戦 海ゆかば
正直なところ、戦争映画ってあんまり好みじゃないんで、この映画の正当な評価はできないのですが…。だのに何故レビューを書くのかとなれば、円谷英二の戦争もの特撮シーンの本作こそが白眉だと核心しているからに他なりません。日露の戦艦が海上で交戦するそのミニチュアワークとち密なカット割りは、『パールハーバー』なんぞのCGよりもはるかに視覚的快感に満ち、これぞスペクタクルの極致。三船敏郎の東郷元帥の、「立派な軍人さん」ぶりも、タカ派うんぬんじゃない、明治の男の「尊厳」が描かれて、軟弱な現代っ子の小生なんぞ、ははぁ~と素直に感心しましたです。 7点(2003-10-06 16:25:09) |
349. 空の大怪獣ラドン
東宝の怪獣ものとしては、『ゴジラ』と並ぶ代表的傑作にして古典。炭坑での奇怪な連続殺人に始まって、少しずつ事の核心へと至っていく展開が、ほんとスリリングです。特に、ジュウシマツか何かの卵から、ラドンの孵化につながるシーンは、屈指の名場面。後半のラドンによる市街破壊のスペクタクルも、CG全盛の現代だからこそそのミニチュア合成が逆に新鮮なんじゃないかな。いや、もうまったく、この頃の怪獣映画は志が高かった… 9点(2003-10-06 16:11:47)(良:2票) |
350. 大運河/グランカナル
はるか昔に、名画座(って、もはや死語か…)で見ました。その時は知らなかったけど、これ、ヘンリー・ジェームズの『ねじの回転』(映画題名は『回転』)の”前日譚”を勝手にデッチ上げたものなのね。マーロン・ブランドとステファニー・ビーチャムのベッドシーンがやたらエロいなあってこと以外、ほとんど印象なし。一応6点献上ですが、どなたか、本当のところこの映画ってどんなもんなんでしょう? …あ、子ども好きの方にはオススメできませんので、念の為。 6点(2003-10-06 16:01:44) |
351. アパッチ砦・ブロンクス
うん、これはいい。冒頭、あのパム・グリア姐さんが頭のイカれた娼婦になって警官をいきなりブチ殺すシーンから、しがない制服警官の悲哀や心意気などが点描される中、当時のアメリカ社会の荒みっぷりがひしひしと伝わってきます。80年代以降のポール・ニューマンじゃ、『評決』とかよりもこの作品が最も好きだな。がんばれ、公僕! 8点(2003-10-06 15:44:29) |
352. 地獄のデビル・トラック
「恐怖」よりも、あきらかに「笑い」を意識しているところが、いい感じ。まあ、スティーブン・キングがおのれの趣味に走って50年代B級SFスリラーの再現を目論んだ代物だけに、同好のマニア以外にゃ今イチ楽しめんでしょうなあ。小生、大好き。 7点(2003-10-06 15:38:03)(良:1票) |
353. こねこ
主人(猫)公のこねこチグラーシャの、やんちゃぶりは、ネコ好きの琴線に触れまくりっ! そうそう、子ネコってこんなにイタズラで、でも何やっても可愛いんだよなあ…と、心の芯がホンワカ・ジンワリきちゃいます。そんな中にも、裕福な層と貧困に喘ぐ層の格差が広がるロシア社会の現実を、それとなく感じさせるあたりのデリケートな監督の眼差しがしっかりと盛り込まれている。どこか、クシシュトフ・キェシロフスキ(『ふたりのベロニカ』)の影響を感じさせるところも、ナイーブな感じで好感度大。ネコ好き以外にも、一見の価値あり! と声を大にしておきましょう。特にクリスマスシーズンに、恋人や愛する家族と見るもよし、独りでしみじみ見るもよし。ささやかだけれど、だからこそ素敵なキャンドルライトをココロに灯してくれるに違いありませんよ。 7点(2003-10-06 15:23:46)(良:1票) |
354. まぼろしの市街戦
朝吉殿、輸入盤ならDVDが入手できますぞ。そして、確かにビジョルド(ビュジョルドが正しいんだろうけど、こちらの表記の方が好みなんで)は、ほとんど天使的な可愛らしさ。最後、精神病院の患者たちの方が「正常」で、戦争をくり返しては死んでいく現実世界の人間の方が「異常」だというメッセージは、なくもがなだとは思うけど…素直に「美しい映画」です。 8点(2003-10-06 15:08:45) |
355. デス・レース2000年
ロードショーで見て(自慢)、キッチュなウサンクサイ面白さが「なかなか」と思っていたら、いつの間にか「おバカ映画のケッサク」としてカルト化していたのね、これ。幸い、昔に撮ってそのままになっていたTV放映時のビデオが出てきたんで再見したら、キッチュさはそのままなれど、ウサンクサイならぬただのビンボークサイ映画でしかないことに、がっかり。こういう未来の”ディストピア”な殺人ゲームを描いたものでは、(スティーブン・キングが別名義で書いた原作ともども)あきらかにこの映画の影響下にある『バトルランナー』が、質量ともに超えちゃったからなあ(賛同者は少ないかと思いますが…)。ともあれ、いかにもロジャー・コーマン的な”バイオレンス、セックス、そしてささやかな社会派ブリッコ”のなつかしい味わいは珍重に値します。聞けば、トム・クルーズがこれをリメイクするって話だし。…本気か? 《追記》いやぁ~、本当にリメイクが決定したみたいですね。で、監督が『バイオハザード』やら『エイリアンvsプレデター』の人…。いえ、まあいいんですけどね。けど、やっぱり↑の方もおっしゃる通り、ポール・バーホーヴェン作品で見たかったなぁ。せっかくのカルトな「お宝(?)」映画を、単なる頭の悪い本物の「バカ」なヴァイオレンスものにされちゃう気配が濃厚だもんなぁ…。 6点(2003-10-06 14:51:23)(良:2票) |
356. アリゲーター(1980)
当時流行した「巨大生物パニックもの」の1本。とは言え、そんな中でもピカイチの面白さでしょう。捨てられたペットのワニが下水道で巨大化した…とは代表的な”都市伝説”のひとつ。それを、一見ストレートに見えて、小技の効いたウィットとユーモアで「現代の大ボラ話」にしたジョン・セイルズの脚本と、ルイス・ティーグ監督のセンスの良さが光ります。『ジャッキー・ブラウン』に通じる、ロバート・フォスターのオフビート感もナイス! …ただ、巨大ワニの造型には、あまり期待しないように(笑) 8点(2003-10-06 13:57:09) |
357. クリープショー
けっこうオーソドックスなホラー・ネタを並べて、それぞれがみごとにオチている。いかに、スティーブン・キングとジョージ・ロメロが「恐怖・怪奇もの」のマニアであるかが伝わってきて、思わずニンマリしてしまいます。個人的には、「ワシの誕生日を祝えっ!」と、地獄から蘇ってくるゾンビ爺のおぞましくも笑えるエピソードが最もお気に入り。ロメロにしちゃ、軽いけど良く出来たエンタテインメントとして、推奨します。 8点(2003-10-06 13:46:26) |
358. テキサスの五人の仲間
《ネタバレ》 こればっかりは、いくらネタバレを認めるこのレビューでも、バラしちゃいかんでしょう。それほど、最初から最後まで見事に仕組まれた展開の完璧さに脱帽。しかも、ネタがわかっても、また見たくなる、映画としても実に上出来のウエスタン・コメディであります。それにしても、さすが名優たちで、その芸達者ぶりがあってこその作品であることも、最後まで見ているとよ~く分かる。…なんて、本当はバレてはいけないネタがあると書いた時点で、もうネタバレの恐れがあることに、気づいた。とにかく、ポーカーがメインとなるストーリーだけに、そういった駆け引きの面白さを最・後・ま・で・楽しみましょう。ジョアン・ウッドワードに、乾杯! 完敗! 8点(2003-10-06 13:37:39) |
359. ザ・カー
《ネタバレ》 きっと、監督も何かのっぴきならない事情があって引き受けたものの、あまりの脚本のくだらなさを前に、「こうなりゃ、裏コメディにしちゃる」とばかりにシリアスを装いつつ、思いっきりバカやってる…といった感じ。でもまあ、その馬鹿馬鹿しさを愛する同好の士はいるもので、ステーブン・キングの『クリスティーン』なんか、きっとこの映画が元ネタなんじゃ? クライマックスの、崖から爆発炎上して落ちる”ザ・カー”が一瞬、悪魔の姿になるあたりの楽しさも、なかなか。確かに凡作だけど、ヘンな愛嬌があります。 5点(2003-10-06 13:23:06) |
360. パーティ
60年代のブレイク・エドワーズの映画は、どれもハズレなし。これも、ピーター・セラーズ扮するインドから来た俳優が、ハリウッドの俗物性をコテンパンにぶっ壊していく、ただそれだけの内容なんだけど、後半なんかほとんど台詞もない、サイレントのスラプスティック喜劇調がなんともクール! クルーゾー警部とはまたひと味違うセラーズの「聖なる道化」ぶりも、素晴らしいです。 8点(2003-10-06 13:12:44) |