341. “アイデンティティー”
《ネタバレ》 いやはや、マトリックスだったわけですね。アイデアの勝利だ。そのアイデア以上にサスペンスに満ちたシナリオがうまい。そのサスペンスを大いに堪能させてくれる演出がうまい。どこから見ても怪しいレイ・リオッタの存在もサスペンスを盛り上げる。人格統合の舞台がなぜモーテルなのか(しかも大雨!)は、精神科医が多重人格について検察官や刑事たちにレクチャーしながら同時に観客に説明するという同じシーンをもつヒッチコック『サイコ』のパロディなのかな。モーテルってのはアメリカ映画のホラー・サスペンスの定番的舞台でもあるのでなんとも言えんけど。てか、あのレクチャーのほうがパロディか。展開がスピーディなので今どきな消費型作品の様相もあるんだけど、サスペンスがしっかりしているので2度目3度目も楽しめると思います。まだ試してませんが。 [DVD(字幕)] 6点(2010-05-28 15:39:31) |
342. 隣人13号
《ネタバレ》 俳優陣全員がはまり役。中でも現実離れした強烈なキャラを演じた中村獅童と、ヤンキーあがりのちんたらぶりとその実尋常ならざる肝っ玉ぶりを見せた新井浩文は流石。吉村由美をことさらいやらしい目線で撮りながらもそこからそのいやらしさを発展させないのがどうにも消化不良ぎみなのだが、もしかしたらそれは、いつでもオレンジのダウンジャケットを着続ける小栗旬というけったいな描写ともども、これが少年の妄想だからということなのだろうか。全体的にはキャスティングとキャラ作り以外はそれほど特筆するものが見出せず、もうちょっと緊迫感があってもいいのではとかもうちょっとカタルシスがあってもいいのではとか思いながらも、それほど悪いとも思わず、というのがあるシーンを除いた概ねの感想なんだけど、あるシーンというのがビデオテープに録画されていた子供が泣き叫ぶシーンで、あれはどうみても本気で泣かせているようにしか見えず、もしあれが演技だったらごめんなさいなんだけど、私にはとうていそうは思えず、ああいうのは許せんのですわ。その不快感のぶん、減点させてもらいます。 [DVD(邦画)] 3点(2010-05-27 15:09:25) |
343. 秘密(1999)
恋愛感情をより明瞭に、恋愛ドラマをより大袈裟に描くために特殊な環境が用意される東野圭吾作品の定番的物語構成をうまく引き継いで語っていると思う。映画を見たのも原作を読んだのもずいぶん前なので両者が頭ん中でこんがらがっちゃってる部分もあるんですが、原作で一番ショックだったのが、娘が年頃になると父親を毛嫌いするのはそれまでの父と娘の関係とは全く関係なく訪れる本能的なものだという部分。私もそのうち娘から理由無く毛嫌いされちゃうのかと思うとなんともせつなくて・・。映画は父の執拗な拘束が鬱陶しいってだけで、そこんとこ、あんまり切り込んでなかったような。より感情の抑揚の部分に重きを置いてわかりやすい展開にしているようです。コミカルさを加味した作りと型どおりの人物描写が良くも悪くも滝田監督らしい。説明的なのもまた然り。最後の岸本加世子の顔はいかんだろ。あそこだけで2点減点。 [DVD(邦画)] 3点(2010-05-26 14:19:13)(良:1票) |
344. シャッター アイランド
けっこう期待して観に行った。精神を病んだ犯罪者を収容する施設から一人の女が消える。それを追う捜査官。古き良き(?)ハードボイルドが拝めそうだ。ましてや『ディパーテッド』で豪華な大作路線から初期のインディペンデントとまではいかずとも本来の小回りのきく作品に回帰したスコセッシだ。その期待に応えるようにまずティム・バートンよりもずっと魅力的な灰色の世界で幕を開ける。舞台は誰が撮っても絵になりそうなニューヨークの雑踏ではなく閑散とした孤島。しかしこの孤島が雨によってなんとも怪しく光りだす。結果として上出来だった。上出来すぎるぐらいに。偽の回想であることを示しているのだろう、横移動するカメラに合わせてドイツ兵を虐殺してゆくシーンの残酷なファンタジックさや灰になる女のCGの素晴らしさ、あるいはその女が登場するシーンの色鮮やかさはこれまでのスコセッシ像を大きく上方修正するものだった。それでもやっぱり『ディパーテッド』同様に欲求をじゅうぶんには満たしてくれなかった。今さらロボトミーって・・てのもあるけど、一つ目のオチ、つまり灯台シーン、このオチってはっきりいってここまで引っぱるようなオチでもなんでもない。それにしてはそこにたどり着くまでが長すぎる。その間ずっとディカプリオの険しい表情を見続けなくちゃならんのだからこの長さはたまらん。もうちょっと遊びがほしい。硬いよ。 [映画館(字幕)] 6点(2010-05-25 15:18:07) |
345. ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲
仲里依紗が挑発ポーズで歌い踊るシーンがたっぷりとあるんだけど、たっぷりあるのも頷ける歌唱力とダンスパフォーマンス。あのふくよかなお腹には個人的にそそられはしないんだけど、これ見よがしに映し出されるボンレスハム状態のお肉はそうとうにエロい。見てはいけないものが映し出されているような、そんな気恥ずかしさがある。ストーリーもストーリーを中断させるギャグも世評の悪さとは裏腹にけっこう気に入ってます。でも「白馬の家」の二人と喪黒福造のような都知事のセリフ過多がどうにもこうにも。たしかにセリフ過多は子供向けヒーロー番組っぽくもあって、もしかしたらわざとしているようにも思えるのだが、そもそもセリフ過多の要因でもある「続編」であることに問題がある。むりに前作から繋げなくともよい。辻褄を合わせるためのいろいろがかなり鬱陶しかった。ホントは25歳のすみれちゃんを演じた子役の子の顔はどこか若かりし原田美枝子を彷彿させて今後が楽しみ。 [映画館(邦画)] 5点(2010-05-24 14:44:51)(良:1票) |
346. 貴方なしでは
製作がセルズニック。同年に『風と共に去りぬ』がある。翌年製作の『レベッカ』も当然かぶっているだろう。それでも現場まかせにせずにあーだこーだ言ってくるってのは凄すぎる。ちなみにセルズニックは『レベッカ』の主演女優もキャロル・ロンバードにするつもりだったとか。そのキャロル・ロンバードを美しく撮る照明とカメラは当時のハリウッド映画のレベルの高さを証明している。しかし一番輝いていたのはジェームズ・スチュワート。人がよくて損をする役柄にぴったりはまる。映画は小粋な恋愛コメディといった感じで始まり、家庭を持つことの様々な苦難が襲い掛かる中盤にはちょいと辛気臭くなるのだが、ニューイヤーパーティで一気にメロドラマへと昇華する。と思わせておいてここから大変な事に。ワクチンだか血清だかを嵐の中を運ぶ飛行機乗りの登場は同年製作の『コンドル』とかぶるが偶然か。このあたりの描写は前半と同じ監督だとは思えないほど色調が暗く、またスリリングだ。『風と共に去りぬ』や『レベッカ』と比べると明らかにお金をかけていないのがわかるし、ストーリー自体も陳腐かもしれない。でもこのストーリーを100分を切る映画にしたってだけでも凄いことだと思う。 [映画館(字幕)] 7点(2010-05-21 16:10:07) |
347. 今度は愛妻家
仕事もせずにフラフラして妻にはいつもえらそうで、その妻はというと文句を言いながらも天然ボケで和ませながら結局は大きな懐で夫を支える。一昔前なら当たり前だったかもしれないこんな夫婦のカタチも今では非常に奇特なカタチになるのではないだろうか。そんな時代錯誤感をまず感じた。いつの映画やねんと。ほとんどが夫婦の自宅のリビングルームを舞台としているため、どこか舞台劇的でもあるのだが(と思ったらやっぱり戯曲の映画化だった)、途中まではそれが良く思えて、最後のほうはそれが良くなく思えたのだが、たぶんその途中までというのはその場所に薬師丸ひろ子がいるからというのが大きい。それほどに薬師丸ひろ子がいい。すごくかわいかった。豊川、薬師丸の貫禄を消し去った余裕の演技、落ち着いた口調はセンスのいいコメディを見ているような気にさせられた。途中で外に出るところも開放感があって良かったし井川遥の意味深で優しい表情も良かった。一方後半の薬師丸不在のパーティシーンの皆が皆すばらしい滑舌でセリフが飛び交う様はまさに舞台劇のまんまという感じでうんざりした。後半、もうちょっと屋外が映されたらとも思ったんだけど、どうだろう。 [映画館(邦画)] 5点(2010-05-20 15:54:06) |
348. 愛妻物語
レビュー二番目にして前の方と同じく4点というのはなんだか気がひけるのだが、見る人によってはじゅうぶんに高得点だってありえる感動ドラマですので。とフォローから入ってみる。シナリオライターの主人公が「これはシナリオじゃない。ストーリーです。」と大御所映画監督・坂口から付き返されるシーンがありますが、これは実際に新藤が溝口健二監督に言われたという有名なエピソードです。そのことからもこれは「半自伝」どころか「ほぼ自伝」と言っていいかもしれません。新藤監督の亡き妻への気持ちと監督デビュー作ならではの力の入りようゆえか全体的にちょっと硬い印象を受けました。演技自体もどこか前時代的に見えたのは、たまたま同時期に拝見した同時代同テーマの清水宏『もぐら横丁』のせい(清水監督の演出は際立って自然を装ってるもんで)だけではなかろう。でも私映画の、しかもこの内容ならではの監督の真剣さは伝わります。 [映画館(邦画)] 4点(2010-05-19 16:53:56) |
349. ブレーキ・ダウン
《ネタバレ》 主人公のわき見運転によって危うく事故りかける。その些細なミスが不条理なまでの恐怖の発端のように映される。スピルバーグ『激突!』である。スタンドでの会話、先で回転して止まるトラック。主人公夫婦とともに我々も不安でたまらない。しかしその後夫婦に訪れる恐怖の源は冒頭のわき見運転ではないことが判明する。中盤あたりでほぼ真相がはっきりとする。薄気味の悪い不安感が廃されてしまう。実にもったいない。映画史に残る傑作になり得たかもしれないのに自ら拒んでしまった。ところがここからもけしてつまらなくはならない。むしろカート・ラッセルには不似合いだった普通のおっさんが、いよっ!待ってました!と声をあげたくなるような本来のカート・ラッセルの顔になり、その後のほぼお決まりの、それでいて見応えのあるアクションを堪能できる。前半の不条理を痛快に撃破するカート・ラッセル。実に気持ちのいいアクション映画だった。そして冒頭で見せていた夫婦の関係はもちろんより強固となって一件落着。シンプルなオチが心地良い。 [DVD(字幕)] 7点(2010-05-18 14:26:16)(良:1票) |
350. ぐるりのこと。
高評を得ているとは聞いていたがここまで高いとは思わなかった。多くのお気に入りレビュワー様方まで褒めているのでちょっと困惑。正直つまらなかった。というか面白くなりようがないと思うのだが。ゲイカップルに女という異物が混入する(『ハッシュ!』)から映画になるのであって、ずっと妻と夫の10年を映し続けたって面白いわけがない。せめて自動車で移動(ロッセリーニ『イタリア旅行』)でもしてくれりゃスリリングにもなろうにそれもない。あえて面白くなりようのない設定に挑戦してるのだろうか。夫婦の10年というのはもしかして面白くなりようのない代物であって、それを描くためにあえて映画の醍醐味を封印してるのだろうか。だとしても、つまらないものはつまらない。冒頭、「セックスをする日」という取り決めに関する夫婦の会話はなるほど可笑しかったし、両者の性格を見事に描写もし、その後の展開を大いに暗示もする見事なシーンになってはいるが、見事すぎるというか、あまりに意味を持たせすぎてわざとらしく感じられた。そう、会話のひとつひとつがわざとらしかった。物語そのものに文句はないが、その物語のためだけに交わされる会話が自然体で交わされれば交わされるほど不自然でわざとらしく感じた。裁判シーンは相当にわざとらしかったのだがこれはあえてしてるんだろう。ほとんどコメディのノリ。そのノリは何も起こらない夫婦の物語の単調さを救うためのノリだったのか。でも元ネタ事件がわかりやすすぎてちょっと受け入れ難くもあった。 [DVD(邦画)] 2点(2010-05-17 18:36:37) |
351. 我が至上の愛 ~アストレとセラドン~
《ネタバレ》 我が至上の愛。なんとも大層なタイトルがついているが、男女の恋愛を描くときのロメールのいつもの軽やかさは時代を5世紀にしたって変わらない。軽やかさはそのままに、時代を遡ることでより原初的な恋愛劇となっている。人を好きになることの至福と人に好かれることの至福がある、ただそれだけ。呆気にとられるほどのシンプル且つストレートさ。終盤、なぜ男は女装するのか。ロメールの真骨頂ともいえる女同士の会話をさせるためだ。そしてここで無防備に見せる乳房のなんて美しいこと。今までもロメールは若い女の体をとくに部位を強調して見せてきたがここまでモロに見せたことはなかった。愛の原初的な形を見せるにあたってこのストレートな見せ方になったのだろう。またそのストレートさに負けないほどの美がそこにある。若い男女の恋愛を、そしてそれに伴う「若さ」ゆえの肉体的反応を、美しく且つ健全に描ききった傑作である。軽いタッチでありながら、なるほどこれは至上の愛であった。ロメールの遺作にして最高傑作。 [映画館(字幕)] 9点(2010-05-14 15:16:17)(良:1票) |
352. パリのランデブー
《ネタバレ》 ロメールらしいかわいい恋愛コメディ3篇。 ■「7時の約束」 会うはずのない3人が出会うべくして出会う。そんなアホな!な偶然。この「偶然」ってのがロメール映画の重要な鍵。さらに他人の財布を拾って直接届けにきて意気投合しちゃう女二人ってのがいかにもロメール映画のリアル。「偶然」がドラマを作り人生を豊かにしてゆく。 ■「パリのベンチ」 ああ、ここでも言ってる恋愛哲学。日を変え場所を変え延々と続く会話の中に女の哲学が明示される。そして言ってることに思いっきり矛盾する行動というオチ。この無情なオチに愕然とする男は私でもある。 ■「母と子」 母と子の話ではなく、展示されているピカソの作品「母と子」をナンパの(正確にはナンパ前の準備段階)道具にする下心全開男の話。といってもロメールの男たちはたいてい下心全開なのだ。けっきょく何も得るものがなかった男が最後にぼそっと言う。「それでも無駄ではなかった」と。このセリフは3つの短編全てを締める言葉でもある。もっと言うとロメール作品全てに当てはまる。無駄ではない。いや、無駄なんてものは元々無い。何がしかの教訓を得た。そう思うことでまた楽しい人生が始まるのだ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-05-13 14:16:02)(良:1票) |
353. 木と市長と文化会館/または七つの偶然
《ネタバレ》 文化会館建設にまつわる意見交換であっても、ロメールのいつもの恋する男女のたわいなく、どうでもいいような内容の会話同様に、どうでもいい会話なのだった。ただし大人、しかも政治がからんでるのでいつも以上に理屈っぽい。こんなどうでもいい会話を延々と聞いていたってちっとも面白くない。ところがラストシーンでひっくり返される。子供によって。 <超ネタバレ注意> 小さな女の子が大人顔負けの政治的見解を述べる。文化会館よりもみんなが楽しめる公園を。みんなが歌いだす。笑顔で楽しそうに。このラスト数分にはまいった。全てはこのエンディングのための「フリ」だったのだ。ちょっと長かったけど。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-05-12 13:48:54) |
354. レネットとミラベル 四つの冒険
ロメールの作品で女の子が二人出てくると、もうそれだけで満足。ジャック・ロジエやジャック・リヴェットとはまた違う女二人。何気ない会話の中に彼女らのはちきれんばかりの若さを見せるのは『男の子の名前はみんなパトリックっていうの』から変わらない。第1話「青の時間」で二人は出会う。ミラベルの鮮やかな赤い服の胸元から目が離せない。『緑の光線』を彷彿させる自然の神秘が二人の出会いを印象的に演出する。第2話「カフェのボーイ」はロメール映画の定番、パリのオープンカフェでのお話。コメディ色の濃い楽しいエピソードの中に対照的な二人を映し出す。第3話「物乞い、万引、ペテン師」は連作「六つの教訓話」女の子版といったところか。二人の哲学の頑固なまでの主張と、一人になってからのころりと柔軟になる変わり身の早さというか若さゆえの奥の無さというか、このあたりの描写はロメールの真骨頂。第4話「絵の販売」はしゃべり続けるロメールの女を黙らせるというこれまたロメールらしいパロディを兼ねながら、第1話から順に繋がるエピソードをうまく締める。ザ・ロメール!です。この軽やかさこそがロメールなのです。 [映画館(字幕)] 8点(2010-05-11 14:00:32) |
355. クレールの膝
《ネタバレ》 登場人物が独自の恋愛哲学を持ち延々と講釈をたれ、その挙句にその哲学に思いっきり矛盾した行動をとらせて終わる、というのはロメールの、とくに短編映画によく見られる光景なのだが、この作品はその哲学が崩壊しないことを証明してみせようと主人公が実験を試み見事成功させるというメタ・ロメール映画的な筋立てなのだが、そこから落とすオチが素晴らしい。とは言うものの主人公の思考は嫌悪感を抱かずにはおれないというのも頷けて、長編でオチまでずっとこの嫌悪感と共にいるのはたしかにつらいものがある。ただ、「膝」に固執する主人公がいよいよその「膝」を我が物にする瞬間が近づきつつある、あのエロチックさを出さないようにしているのに出てしまったような場面はどうにもたまらん。しかも女を動けなくしている雨。あれは本物の雨なのだろうか。本物の雷なのだろうか。でもよく考えたらこの運命的な雨を背景に「膝」って。「膝」だけって。そこがロメールの偉大なところでもある。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-05-10 14:58:16) |
356. 刑事(1959)
ビスコンティ『ベリッシマ』あたりを想起するアパートの喧騒から始まり、ラストシーンなんてもろにロッセリーニ『無防備都市』のアンナ・マニャーニだったのだが、そんなネオレアリズモの世界にハードボイルドなピエトロ・ジェルミ扮する刑事がいることの不思議。捜査も地道さを強調しており、ずっとネオリアリズモ風を維持してるんだけど、それゆえにジェルミ刑事のかっこよさが浮いているように思えた。疑わしい人間に対する強引で横暴なジェルミ刑事のやり口も、これまた当時のリアルなんだろうけど、それをかっこよくしちゃってるところにやっぱり違和感あり。嫌いじゃないんだけど。 [DVD(字幕)] 6点(2010-04-23 15:01:41) |
357. コップランド
デ・ニーロ、カイテルのタクシードライバーコンビに押しも押されぬアクションスター、スタローンの異色の共演ということで既成概念に凝り固まった期待をさせてしまっているのがもったいない。ストーリーだけ見てみると社会派色が強いのだが、映画はそこに重点を置かない。かといってサスペンスにも力を入れていない。警官の汚職、真相の追究と社会派でありサスペンスであることは間違いないのだが、映画はひたすら、過去にニューヨーク市警に憧れたが人としての正しい行いと不器用な愛ゆえに断念せざるを得なかった男の人間臭い生活と葛藤と哀愁を丁寧に描いてゆくのだ。それをスタローンにさせているのだが、巷の悪評はアテにならない。なかなかどうして、いいんです、スタローンが。クライマックスの耳の不自由さを活かした演出も見せ場を効果的に盛り上げていてよかった。安定した生活をけって男としての決断を見せるというのは、今思えば同じマンゴールド作品『3時10分、決断のとき』に通じてゆくんですよね。ちなみにスタローンの演じたフレディ・へフリンという名は『3時10分、決断のとき』のオリジナルに当たる『決断の3時10分』の主演俳優ヴァン・へフリンからとったのだそうです。なので『決断の3時10分』と『3時10分、決断のとき』をつなぐ重要な作品ということにもなりそうです。 [DVD(字幕)] 6点(2010-04-22 14:20:43) |
358. 砂の器
犯人がいかにかわいそうな生い立ちであったかを説明する丹波。いらんやろ。映像でいやっちゅうほど見せてるんだからそこは冷酷な国家の立場にいてていいじゃん。というかそれ以前に後半の生い立ちの部分、ごっそりいらん。前半の刑事たちの無駄になるかもしれない捜査の連なりの部分は楽しめたのだが、仮にそんな刑事ドラマよりもミステリーよりも社会派であることをこの映画が選んだのだとしても、長々と再現映像を見せる必要はない。動機が判明した時点でじゅうぶん社会派になってるんだから。その再現ドラマをメインにしたいなら最初から主人公を犯人にし、幼少から時系列順に見せて、謎めかすことなく犯行が行われ、警察は一警察官としてしか登場せず、ひたすら主人公のドラマにすりゃいい。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2010-04-21 17:03:44) |
359. クワイヤボーイズ
冒頭、ベトナム戦争中の恐怖体験が描かれるのだが、その伏線回収がずっと後で、しかもそれまでひたすらはちゃめちゃな展開なもんだから一瞬プリントミスかとも思ったぐらいだったんだけど忘れた頃に辛辣に回収されていった。ロス市警の警官たちの仕事ぶりと毎夜のパーティが描かれてゆくのだが、仕事におけるエピソードもまあぶっ飛んでるのもあるんだけど、パーティの羽目の外し方が半端ない。とくにえらく暴力的な警官が一人いるんだけど、彼が同僚たちのおふざけで下半身素っ裸で公園の木に手錠で繋がれてるとホモが近寄ってくるところとか、急所を咥えた池のガチョウに向かって発砲しまくるシーンとかもう最高に可笑しかった。いやもうむちゃくちゃ。お下劣。最高。その後に冒頭のシーンを回収する悲しい事件が起きるんだけど、この「悲しい」を全く引きずらない。同じ原作者の作品『センチュリアン』(リチャード・フライシャー)をはちゃめちゃにしてそのうえ感傷を抜き取ったような映画でした。 [映画館(字幕)] 7点(2010-04-20 15:07:42) |
360. センチュリアン
以前見たロバート・アルドリッチ『クワイヤボーイズ』(1975年)と似ている部分が多いなと思ったら原作者が同じでした。「センチュリアン」は原作者(ジョセフ・ウォンボー)がロス市警在職中に書いたものらしく、前半の「警察24時」ばりの他愛のない事件も含めた日々のパトロール風景は実に生々しく描かれており、映画がどこまで原作に沿っているかは知りませんが原作にあるだろうリアルな風景はじゅうぶんに再現されているように思いました。それでいて本作の真に素晴らしいところは登場する警官たちの人となりをその日々のパトロール風景のみで描ききっているところ。ステイシー・キーチ演じる主人公のドラマの行く末はいたってありがちなんだけど、ストーリーを構成する人物、出来事のこれ以上ない合理的な配置には唸らされる。一瞬で緊張のボルテージを上げる一発の銃声といい、凄まじいカーアクションといい、魅せどころもしっかりと用意されている。 [映画館(字幕)] 7点(2010-04-19 17:39:35) |