361. アウトブレイク
《ネタバレ》 他の感染症映画を先に見て、この映画も見ずには済まない気分になって見た。むかし最初に見た時点では、とにかく出血熱が恐ろしいことは知っていたが、この映画では恐ろしいところはほどほどにして、きっちり娯楽映画に仕上げていたので呆れた記憶がある。 それでもこの映画で初めて覚えたのがUSAMRIIDとかCDC、Biosafety levelというものの存在だった。今回見ると、序盤でレベル1から順番に奥へ進んでいき、4まで行ったところでカメラが止められたように見えるのが少し面白い。また、拡大が始まったばかりでいきなりアメリカの西端から東端まで飛んだのは怖いことで、どれだけ田舎に住んでいても、飛行機が毎日飛んでいるからには油断できないと思わせるものがある。 ほか初見時に非常に印象的だったのが、映画館での感染拡大を映像化していたことである。見た人のほとんどがこれを憶えているのではと思うが、その割に2020年の現時点で、映画館はそれほど危ない場所とは思われていないらしい。これに関しては、集団感染の3条件である①換気の悪い密閉空間、②多くの人が密集、③近距離での会話や発声ということから考えると、劇中では大口開けて笑う人物がいたのが③に該当するのでまずかったが、みんな黙って静かに映画を見る日本は事情が違うということかも知れない(客席での飲食はどうか不明)。ちなみにうちの地元の映画館は、客がいないので②の条件も満たしていない。 そのほか娯楽映画らしく笑わせるところが結構多く、個人的には中盤の「7月に寝た」という台詞が、修羅場でもジョークの言える冷静さの表現のようで好きだ。しかし終盤に入ると大活劇の展開に合わせてコメディ色まで出していたようで、操縦士が便所に行っていてshitなどというしょうもないギャグを入れていたのはやりすぎだ(笑った)。あまり観客を笑わせると映画館が危なくなる。 なお社会的なメッセージ性ということでは、ウイルスは危なすぎて生物兵器には使えないとのアピールにはなっていたかも知れないが、今でも開発しているところはあるに違いない。また登場人物に関して、小さい子のいる若いお母さんが2人とも清楚系かつカワイイ系の美女で、個人的に心惹かれるところがあって余計に心配させられた。こういう人なりご家庭なりを犠牲にしてはならないというメッセージは個人的に強く感じた。 ちなみに撮影地はカリフォルニア州のFerndaleという町らしい。現在の様子はストリートビューで見られる。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-03-23 20:28:56) |
362. 米中開戦 20XX年: 悪魔のシナリオ
《ネタバレ》 ニュージーランドの映画らしい。脚本・監督・プロデューサーの人物と、少なくとも主演女優は同国出身、撮影場所も同地である。どうせしょうもない映画だろうとは思ったが、IMDbのユーザーレビューを読んで大笑いしたので見ずには済ませられなくなった。 邦題はともかく当初の時点では北朝鮮・ロシア・中東に国際紛争の火種があり、このうち最初のが世界大戦につながった形になっている。いきなり大軍で侵攻してから全面核戦争にまで発展するなどまるで20世紀の発想だが、しかしそういうのが第三次世界大戦のイメージだとすれば、劇中の中高年の道楽で起きるようなのが原題の「第四次世界大戦」というつもりかも知れない。 物語的には一応、人類存亡の危機に警鐘を鳴らす体裁になっており、悲しみや憤りも表現されている。日本人なら反戦映画として見られなくもないが、それほど真面目に見るものとも思われない。 なお日本は当然破滅する側だが、当のニュージーランドは最後まで出て来ない。自分だけ離れた場所から北半球の破滅を眺めて面白がっていたようでもあり、いわば劇中の愉快犯の位置にいたということらしい。 映像面では各種兵器や戦闘場面が豊富だが、多くは本物の戦闘や演習や訓練などの映像をつなぎ合わせてそれらしく見せたもののようで、それがこの映画の最大の特徴である(素人動画にもありそうだが)。ちなみに艦隊の映像は環太平洋合同演習(リムパック)の映像が使われていたようで、個人的に贔屓にしている「ちょうかい」DDG-176が映ったのは嬉しい(邦画「空母いぶき」では変な名前に変えられてしまっていたが)。また同演習に参加した中国のジャンカイ級フリゲート(572衡水)の映像が使えたのはストーリー的に都合がいい。 ほか個人的にはリトアニアにNATO諸国の戦闘機が配備されているというのが興味深かった(ノルウェーのF-16など)。ほかにも軍事ファンの人々ならいろいろ見どころ(突っ込みどころ)があるかも知れない。自分としては「空母いぶき」と同程度には楽しめる映画だった。 [2022-05-14追記] いきなり大軍で侵攻してから核戦争に発展するなど20世紀の古くさい発想かと思っていたが、今年のロシア軍のウクライナ侵攻を見るとそうでもなかったらしい。この映画で国際紛争の火種になっていたのは北朝鮮・ロシア・中東の3つだったが、ロシアというのもありえなくはなかったことがわかる(映画でもウクライナや黒海が出て来る)。 なお劇中の道楽オヤジはいわゆる陰謀論的な世界観の所産のようでもあるが、現実問題としては人類文明を滅ぼすなどという、誰の得にもならない(本人も得しない)ことを趣味的にやらかす者はいないと思うのが普通である。その点で荒唐無稽な映画であるのは間違いないが、それにしても今回若干見直したところもなくはなかったので、最初は4点だったが少し点数を上げておく。 [インターネット(字幕)] 5点(2020-02-13 23:06:58) |
363. デスフォレスト 恐怖の森5
《ネタバレ》 監督・脚本がまた代わっている。福田陽平監督はこの手のホラーではお馴染み感がある。 今回は本格的な東京進出ということで、渋谷を舞台にした若者の生活圏が表現されている。「…チャン」とか「…メン」とかの若者言葉(オタク用語?)が多用されていたが、変にくどいので劇中人物までが「どうなってんだよ最近の日本語」と言っていたのは笑った。また若者なら知らない者のない?フリーゲームとの関係について、因果関係を逆にしていたのは一応の言い訳になっている。 映像技術の面では前回以下のようだったが、上空にいて獲物を見つけると降下して来るのは悪くない。今回も鳥のイメージだったかも知れない。 内容的には、若者の集まる街で被害が広がる展開のためやたらに登場人物が死んでいく。五次元だの仏教だの適当なことを言う奴は必ず死ぬ、とか思っていたら順当に死んでいたが、どうも最後は本当にそういう結末になっていたらしい。レギュラーの男はみなが行くところに毎回行けず、一人取り残される境遇を嘆いていたということか。また蝋燭が108本消えたからには、もしかすると平成の怪異はこれで終了なのかも知れない。 それにしてもバケモノ連中の正体は結局明らかにされず、前回のミステリー展開は一体何だったのかという思いは残る。しかし今回は時間も長くして(1時間半もある)、賑やかに盛り上げておいてから有無を言わさず終了した印象があり、ここでシリーズが打ち止めになったのも一応納得だった。いわば5連作の最後を飾る娯楽大作といった位置づけかと思われる。 なお今回は美少女・美女系だけでも大人数になっており、ほかにお笑い関係とかコスプレーヤーとかいろいろ出ていたようだがほとんど知らないので誰が誰だかわからない。個別の人物で印象的だったのはアイドルオタで、「女の子を守ったり…する…推しごと」を実践しようとする気概を見せていたのは感動した。こいつはヒーローだと思ったがやはり順当に死んでいた。 ほとんど唯一見たことがあったのが秋山依里(元・秋山奈々)という人で、前に見た「アイズ」(2015)では無駄にかわいい精神科医役だったが今回は刑事をやっている。同僚刑事の「正義の味方だよバカヤロー」も感動的だったが、この人もカワイイので絶対正義で間違いない。登場人物がほとんど全滅する中で、この人は無事に終わってハッピーエンドだった。 [DVD(邦画)] 5点(2020-01-25 10:29:35) |
364. デスフォレスト 恐怖の森4
《ネタバレ》 一般的な低予算ホラー水準で推移しているように見える。 前回まだしも見えていた人間ドラマ要素はほとんどなく、代わりにフリー記者を中心にしたミステリー調の展開になっている。これまで秘められていた各種事実が小出しになってはいたが、それで最後に何らかの到達点があるわけでもなく、結局予想も期待も裏切られた形で終わる。一方でホラー色は薄まっており、特に今回は映像効果が貧弱で昭和特撮並みに見える(もとからこの程度だったか?)。これで次回に向けて観客の関心をつなぐことができたのかと心配になるが、とりあえずここまで来たからには次回で完璧に真実を明らかにし、完璧に納得のいく結末を作ってもらわなければ困るという気にはさせられた。ちなみにフリー記者役の熱演がやたらに印象付けられる映画ではあった。 ほか細かい点として、「ご家族のところに…」「縁起でもない…」のやり取りは少し面白かった。また年長の看護師が絶体絶命になった場面の挙動がユーモラスだったが、ここは少し早回しにしていたかも知れない。もう一つ、題名のデスフォレストがどこにあるのか劇中では明らかにされていないが、今回「篠森病院」という名前が出ていたことからすると、本当に篠森(しのもり)という地名だったのかと思った。 なお今回はDVDにメイキングが付いていたので一応見た。名前からして異色のサイボーグかおりという人は、劇中では意外に普通の女子だったが(終盤の顔が見せ場か)メイキングでは本来の個性が丸出しのようで、理屈っぽく熱く語るのにためらいのない人だった。 また安手の邦画ホラーにアイドルは付き物だが、今回特に若い看護師(介護職?)役の藤田あかりという人の出番を見て、さすがにこれはもう笑うしかないと思わされた。その後にメイキングを見ると劇中そのままの雰囲気でしゃべっていて、どうも完全に地のままだったらしいのでまた笑わされた。この人は2018年に芸能界を引退したそうだが、この映画の出演はいい思い出になったのではないか。 そのほか謎の老婆役の下東久美子という人もレギュラー出演だが、メイキングには顔を出しておらず、またネット上で調べても他の低予算ホラーへの出演のほかコミュニティ演劇のようなものに出ていた(多分)程度の情報しかない。この人の存在が最もミステリアスだ。 [DVD(邦画)] 4点(2020-01-25 10:29:32) |
365. デスフォレスト 恐怖の森3
《ネタバレ》 冒頭、前回出演の下垣真香という人が実年齢なりの大人っぽい姿で出たので一瞬期待したが、いきなり前回の感動物語をぶち壊しにする展開になっていたのは怒った。監督・脚本が代わったので、まずは前回スタッフの仕事をチャラにしてみせたのかも知れないが、その割に今回分のドラマがまともにできているわけでもない。 まず率直な疑問として、女子高生が性的暴行をされないで済んでいるのはなぜかと思うわけだが、実はされていたのを観客への配慮から映像化せず、曖昧にほのめかすだけにしたのかと後で思った(小学生が見る映画だったのか)。本当にそうなら黙認していた母親も相当の鬼畜ということになるわけだが、その段階から始めて最後の和解に至ったのであれば、今回なりに達成感のある人間ドラマができたとはいえそうである。 しかし実際には、よくわからない状態から始まって大した展開もなく、死ぬべき者は都合よく死んで愚かな者は愚かなままで終わったように見える。また大顔キャラがDV加害者を狙うのはいいとして、被害者(の支援者)まで襲うのは行動原理が不明瞭でストーリーに寄与していたようでもない。加えて特に今回は都合のいい展開が多すぎで(路傍にスマホ他)目に余るものがあったが、そういうことを含めて一般的な低予算ホラー並みとはいえる。 ちなみにレギュラー化しているフリー記者が今回は主役に昇格した感じで、物語の構造に変化が出ていたかも知れない。 映像面では、平野部の水田で野焼き(燻炭づくり?)をしていたのが目についた。また解説文では今回いよいよ東京進出というようなことが書いてあったが、事件の後は素直に田舎へ帰ったようで(秩父市か飯能市か)、ラストの映像からすると暗い森に棲んで変な声で啼く鳥のようなもの、というイメージかと思った。ほか終盤の娘と母親の再会場面は、一瞬のミスリードを狙ったのかも知れないが、あるいは回り道だったがやっとわかり合えた、ということの映像的表現かとも思った。そんなことまで読み取ろうとする真面目な観客は多くない。 ちなみに今回はアンクレットankletという言葉を習った。右足につけるのは特定の相手がいないという意味だそうだ。 追記: 娘がいわば“生贄”だったとすれば、そこから次回の老人につながっていくとも取れるが、それで最終的にまとまった話ができていたようでもない。どうも話がつながりそうでいて断片化した印象がある。 [DVD(邦画)] 4点(2020-01-25 10:29:30) |
366. デスフォレスト 恐怖の森2
《ネタバレ》 同じ監督の第2作だが脚本の主担当は代わったらしい。前回が基本型とすれば、今回はドラマ性と娯楽性を増して強化した形になっている。 場所設定は一転してなぜか女子高だが、撮影場所にした廃校を、校舎移転中の寂しい場所として使ったのは悪くない発想だ。禁断の園っぽい雰囲気ながら演者はとても高校生には見えないが(1人だけ当時10代か)、高校演劇部らしい?わざとらしさがかえっていい印象につながっており、一応この劇中世界につき合ってやるかという気にはさせられた。 今回は特に物語面の充実が特徴である。前回タイプの人物は簡単に死んで破滅型の愛も報われず、結局は単純バカ的に心正しく前向きな人物と、その人物に引っ張られて現状打破を決意した人物が残っていた。その上で人助けということを軸にして、完璧主義に縛られてはならないということと、他人のためが自分のためにもなることをそれぞれ知った形になっている。結果として、危機に際して居合わせた人物同士が影響し合って人間的に向上したという、極めて正統派の青春物語になっていたのが自分としては非常に心地いい。 バケモノ類に関しては、大顔キャラに立体感があるとか白塗りが実体感を増しているのは進化した印象もある。大顔が正面から迫るのは一応怖いが、同時に笑いの衝動を抑えられないところもあり、またフラッシュをたくと慌てた顔でプルプルっと震えるのは可愛かったりする。ほかにあからさまなドッキリで爆笑させられる場面もあったりして、これならよくいうように皆で集まって騒ぎながら見るのにふさわしい。ちなみにグロ場面は比較的リアルだが、演出的にドライなので嫌悪を感じるものでもない。 なお「ロケーション/熱海市観光推進室」はガキっぽい俗悪映画に名前が出ていて呆れたこともあったが、今回はいい映画に協力した(たまたまだろうが)。 キャストに関しては初めて見た人ばかりだが、W主演はそれぞれいい感じを出していて好きだ。倉持由香という人は、一般映画としては当然だろうが尻ばかり強調する場面はなく、主に顔の雰囲気を見せている。下垣真香という人は本来もっと大人の役をすべきだろうが、今回は確信犯的天然真面目キャラになっていたのは嫌いでない(ちょっと惚れた)。なお脚本家役をやった人は、現在は芸能活動をやめて帰郷して結婚して子育て中とのことである。どうかお幸せに。 [DVD(邦画)] 6点(2020-01-25 10:29:27) |
367. デスフォレスト 恐怖の森
《ネタバレ》 ゲーム原作ホラーとのことで、安手ながらそれなりに映画として見られるものになっている。一見正隆監督は、前に「いばらのばら」(オムニバス映画「恋につきもの」(2013)より)を見たことがあって全く期待していなかったが、まともに作ればそれなりだということが今回わかった。 全体としては簡素な作りで1時間に収めている。前半ではかえって時間が余っているようにも見えたが、中盤に至って林の中で「あれ」と指差した先に何かいて、浮足立ったように逃げ出した場面はいい感じだった。ガキの人間関係は煩わしいが、全部を他人のせいにするクレーマー気質の連中が先にいなくなり、残った人物で終盤の危機を乗り切るのはオーソドックスな展開で悪くない。 夜の場面は周囲が真っ暗で、光が当たった所だけ見えるのはいわばドキュメンタリーホラーの投稿映像の感覚ではないか(普段見ないがホラーDVDの「新作案内」に入っているようなもの)。もとからそうなのだろうが大顔キャラクターは出方が特徴的で、またフラッシュで一瞬白くはっきり見えるのはこのバケモノにふさわしい映像化と思われる。白塗り男も年齢不詳の独特な顔(笹野高史的)でけっこう不気味だ。濃厚なホラーというよりは、ゲーム原作らしい?ドライな印象でそれなりに面白い映画だった。 全部で5作あるとわかって見れば、今回はまず導入部として基本型を作ったようでもある。バケモノキャラクターのほか記者や謎の老婆はシリーズ共通の登場人物らしいので、次回以降の展開にも一応期待しておく。 ちなみに大顔キャラ役は奥咲姫(おく さき)という女優らしいが、事務所のプロフィールを見ると可愛い顔の写真が載っていて和まされた。そのうちちゃんと顔を見せてもらいたい(最後の写真がそうだったのか)。 [DVD(邦画)] 4点(2020-01-25 10:29:25) |
368. アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場
《ネタバレ》 フィンランド独立100周年記念プログラムの一環とのことである。原作は有名な長編小説で、海外版は132分に短縮されているがオリジナルは180分あるらしい。似た例でいえば「ウィンター・ウォー」(1989)の短縮版のようなもので、そのためか意図不明のところが結構ある。 簡単に書くと、第二次世界大戦中の「冬戦争」(1939.11-1940.3)に続き、フィンランドがソビエト連邦との間で戦った「継続戦争」(1941.6-1944.9)に従軍した人々の物語である。最初は激しい戦闘だったがその後は塹壕に籠る状態が続き(ときどき帰宅)、最後の撤退でまた苦しい戦いを強いられる。風景はひたすら森と岩、川や湖、ときどき雪だが映像的には美しく感じられる。ちなみに大笑いさせられる場面が一か所あった。 [以下長文] よく知らないが継続戦争に関しては、大義という面で少し無理があったのではという気がしている。表向きは名前のとおり冬戦争の続きで、ソ連に奪われた土地を取り戻すためのものだったはずだが、しかし問題は台詞にもあったように、「旧国境」を越えてソ連に逆侵略をしかけた形になっていることである。それで「盗賊」なる言葉も出ていたわけだが、公式説明では一応「相手側の領土に戦争をもちこむとか、戦略的見地とか、講和をする時に取引材料に使おう」という意図だったとされている(※)。 しかしドイツの勢いに乗じて、あわよくば同系民族を統合した「大フィンランド」を実現したいとする目論見がなかったともいえず、そのことが、地図で娘が遊んでいた場面に出ていたと解される。また、もともとロシアの都市だったペトロザヴォーツクをアーニスリンナ Äänislinna(字幕ではアニスリナ)と改名したのはソ連のやり口をやり返していたわけだが、恒久的な領有を意図してのことならいかにも調子に乗った風に見える。 さらに戦争が長引くと、徴集兵と士官の意識の違いも問題になっていた。終盤でもう撤退にかかっているのに、将校が玉砕だと言わんばかりの理不尽な命令をして“きさまらそれでもフィンランド人か!”(意訳)と怒鳴っていたのは戦後日本人のイメージする日本軍そのままなので笑ったが、ここはもう国民意識の鼓舞だけでは兵を動かせなくなっていたと取れる。 国の上層部には大それた野望があり(?)、また軍人の意識も一般兵とかけ離れたところにあったが、主人公(に見える男)に関しては、ソ連に奪われた自分の土地を取り戻したいという思いがあるだけだった。しかし結果的にそれもかなわず、ただ人々が死んでいったことへの失望と憤懣が表現されていたように見える。 ※「フィンランド小史」日本語版(1994年第2版)より。駐日フィンランド大使館に無料でいただいたもの(ありがとうございました)。 ただし軍事的に見れば、撤退時には後衛の役目が大事だろうから一斉に逃げればいいわけでもなく、劇中の将校が特に阿呆だったとは限らない。また国同士の駆引きでも、あくまで抗戦の構えを見せてこそ相手と交渉できる立場が確保されることになる。ラストでは「第二次世界大戦で負けた国でフィンランドだけが他国に占領されなかった」(字幕)と書いていたが、これは戦争末期に死んだ人々の犠牲が決して無駄でなかったという意味らしく、結局最後は穏当にまとめた形で終わっていた。 それまでさんざんこの戦争を批判的に描写していながら、現実認識に縛られたのか国民感情への配慮か原作との関係か、最後だけ批判精神を封印した印象だったのは正直困惑させられたが(この監督は左派系ではないのか?)、しかしここは日本人の単純な観念論では割り切れない、フィンランドなりの現実的判断があるのだと思われる。少なくとも最後まで、ソ連に奪われた土地を取り戻そうとすること自体には否定的でなかった。それがあってこその継続戦争である。 ちなみに最後の水中全裸は主人公の望郷の思いの表現かと思った。 そのほか、同じ監督の「4月の涙」で印象的だった既存楽曲の使用は今回少し控え目だったかも知れないが、国民的作曲家シベリウスに関していえば、序盤では軍隊向けの勇ましい行進曲op.91a、ヒトラー来訪の場面では「歴史的情景」(組曲第1番op.25の第3曲、ただしニュース映像の背景音楽)が聞かれた。 以上は事態の展開に沿った形だが、しかし戦争が終わって死者と生者が帰った場面で、あえて交響詩「フィンランディア」(中間部のメロディを民衆音楽風にアレンジしたもの)を流していたのは、この曲で象徴されていた国民の、戦いの末の悲しい姿を表現したということか。あるいは歴史的にいえば、19世紀末以来の国民意識高揚の時代がここで終わりを迎えたというように取るべきかも知れない。何にせよこれが最後に物悲しい印象を残す映画だった。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2020-01-17 23:15:03)(良:1票) |
369. ヒトラーに屈しなかった国王
《ネタバレ》 1940年にドイツが北欧に侵攻した際の映画である。先に降伏したデンマークには「エイプリル・ソルジャーズ」(2015)という映画があり、内容は全く違うが姉妹編のようでもある。原題のKongens neiは「国王の“No”」(拒否)の意味らしい。 まず、最初にノルウェー側がドイツの大型艦を簡単に撃破してしまったのは驚いた(前部射撃指揮所に初弾命中!)。砲弾2発、魚雷2本命中というのも史実のようで、ノルウェー軍恐るべしと思ったが、そもそも沿岸要塞とはこういう時に威力を発揮するのだということか。映像的には炎上する艦の様子がかなり悲惨だった。やはり戦争は恐ろしい。 その一方で意外に笑うところもあったりして、個人的にはドイツ公使の挙動にけっこう笑わされた(奥さんを完全に怒らせてしまって大変だ)。少年兵の敬礼にも笑った。 全体としてはノルウェーの王家とはどういうものかを表現していたようで、北欧共通のことだろうと思うが、その辺の人々と一緒に歩いたり逃げたりする姿によって国民との間に隔てがないところを見せている。国王本人はそれほど威厳のある人のようでもなかったが、何より周囲から寄せられる敬意がこの人物を国王として成り立たせているように見えた。また家族思いの印象を強く出しており、特に孫3人にはかなり和まされたり泣かされたりする。 ちなみに国王の言っていた「Alt for Norge」(全てはノルウェーのために)は王家のモットーだそうで、これは国民の望みで招かれたからにはその国民のために尽くす義務があると解される。これなら国王の言葉として理解できるが、日本語字幕のように「全ては祖国のために」と書いてしまうと、この祖国に生を受けた者は祖国に全てを捧げて当然、という感じの過激なナショナリズムを国王自ら煽っているかのような印象になる。ドイツに抗う小国の心意気というニュアンスにしても勝手な改変はすべきでない。 ところでラストの説明文を読むと(原文をGoogle翻訳で)、戦時に国王が果たした役割というのがこの映画のテーマらしい。それは息子が考えたように、勝手に軍部をたきつけるようなことではなく、また自ら戦いに臨むことでもなく、「政治プロセスへのユニークな介入」(同前)によるものだったとのことである。 国王の考え方は本人が説明していたが、そこで絶対条件だったのは“民主主義の根幹を損なわない”ということである。一方の政府としては“国王を失ってはならない”というのが最優先事項だったようで、結果としてこの点が決定要因になったと取れる。そのように政府が判断し、また国民(代表:少年兵)が支持したのも、平時に国王が象徴としての役割をしっかり果たしていたため国民の敬愛の情が厚かったからだ、ということなら美しい感じの結論になる。これこそがノルウェーの立憲君主制だ!!!ということかも知れない。 しかし、結果としては国王個人のこだわりのために国民多数が死んだ形になっており、これでよかったという確信の持てない話になってしまっている。戦後日本人なら問答無用で全否定するだろうし、劇中の国王本人にも迷いはあったようだが、まあどう考えるかはノルウェー国民次第と思うしかない。ちなみに終盤で、木の根元に少女がいた場面の意味は、国王個人が後悔したかどうかに関わりなく、ノルウェー国民には自分らの手で自分らを守る意思がある、と解すべきか(ちょっと難しい)。 よくわからないこともなくはなかったが、映像面や演出などを含めた印象として悪い点はつけられない。 [DVD(字幕)] 7点(2020-01-17 23:14:43) |
370. 新・御宿かわせみ<TVM>
《ネタバレ》 平岩弓枝の時代小説シリーズを原作にして1980~83年に放送されたNHKのTVドラマ「御宿かわせみ」の続編で、旧作から30年後の製作になる。このドラマも同じ著者が2007年から発表している同名シリーズが原作で、その原作自体はこの後も続いているがドラマの続きは実現しておらず、現時点ではこの単発ドラマで終わっている。旧作は幕末だったが今回は明治5年とのことで、名前が東京になって建物や風俗は欧風化してきているが実はほとんど江戸のまま、という微妙な時代を映像化している。 もとのドラマはほとんど見たことがなく、宿屋を舞台にした人間模様という程度にしか思っていなかったが、実際は毎回何らかの事件が起こって解決して終わる短編シリーズのようなものだったらしく、このドラマもその作りを踏襲していたようである。もとからそうなのだろうが少し古風でわかりやすい時代劇を目指したようで、「あら茶柱が」には笑ってしまったが「下郎」というのは好きだ(3回も言っていた)。 登場人物の多くは旧作から引き継いでいるが、今回は主要人物の息子・娘に当たる若い世代がドラマを動かす形になっている。前時代から生き延びてきた極悪人を縛につかせるため奮闘し(叩き斬ればよかったが時代が明治)、同時に登場人物がこれまで引きずってきたものにも片をつけ、それぞれが新しい時代に向き合う覚悟をした物語ということらしい。 ちなみに若い世代に関しては、青春ものらしく男2人女1人の緩い三角関係(時かけパターン)ができていたように見える。実際は母親の違う兄妹が入っているので三角関係にはならないが、ラストでじゃれ合っていた姿には和まされた。また主人公の娘にとっては、今回は通りすがりの青年にちょっと心惹かれたエピソードという意味合いがあったらしい。 キャストに関しては、物故者を除き以前の役者がほとんどそのままなので往年のファンには嬉しいだろうが、年齢も一斉に+30になっており(60代中心)、その分若い世代を新鮮に見せる効果を出している。若手も名のある役者だが、その中で前田希美という人はちょっと異色な感じで、これは以前からNHKの番組に出ていたことの流れかも知れない。周囲がベテランぞろいの中で、時代劇の少し改まった物言いや立ち居振る舞いは大変だったのではと思うが、主人公の娘にふさわしく可憐でいじらしい表情は見られた。また結城美栄子という人も久しぶりに見た気がする。 [DVD(邦画)] 6点(2020-01-11 00:20:23) |
371. 臨場 劇場版
《ネタバレ》 TVシリーズは見ていない。昨年判決の出た新幹線の事件とは違って刑法39条の話だったが(相模原の事件に近いか)、責任能力の有無が大前提になるこの社会では一般大衆が何を願っても無駄である。法律の世界は一般大衆と別次元で閉じている。 劇中では殺人者が「みんなに保護されている」のは理不尽だという発言があったが、これはこういう世の中なのだと思うしかない。上層民は当然のように守られる一方、お上品な社会を演出するため犯罪者もしっかり守るので、そのしわ寄せがその他一般大衆に来る構図になっている。日頃権力批判に熱心な社会勢力やメディアも一般大衆の味方はしない。 この映画にしても、別に最初から期待してはいなかったが、やはり一般大衆の味方をしないメディアの立場だったらしい。復讐者だけが死んで悪人が生きている結末を見れば、一般大衆の心よりも綺麗事を優先する姿勢が明瞭である。復讐しなかった人物だけは最後に救われていたが、これは現にある社会の枠組みを仕方ないものとして諦めて、あとは各人の気分の持ちようでそれぞれ何とかしろという発想のようで、まるで江戸時代か何かの身分制社会の人生訓のようだった。 ちなみに、ドラマの主人公は主人公というだけで恩師を罵倒して構わないほど偉いものなのか。一応は主人公のいうことなので話は聞いたが、あくまで当該個人の納得の仕方を言っていただけで、偉そうに他人に説教するほど汎用性のある話ではない。それより少しでも社会に影響を及ぼそうとした恩師の行動は、一般大衆の立場としてもより共感しやすいはずだが、これを否定してみせるのがこのドラマの意図ということなら、結局は薄っぺらい安手の綺麗事ヒューマンドラマの枠から出ていないことになる。まあそういうものを目指したのなら成功作だろうが。 ほかキャストに関して、冒頭場面で殺される役の前田希美という人はこれ以外にも殺され役が多かった人らしいが、単に殺されて終わりかと思ったらそうでもなく、最後に笑顔の場面が用意されていたのは意外だった。何であの場所(宇都宮?)にいたのかわからないというのでいろいろ邪推していたわけだが、ちょっと泣かせる趣向を残していたのは反則じみている。若村麻由美は久しぶりに見た気がするが、演技はともかく台詞や演出が陳腐で見ていられない場面が多かった(心霊現象もある)。 [DVD(邦画)] 3点(2020-01-11 00:20:20) |
372. がっこうぐらし!
《ネタバレ》 原作は読んでない。アニメも見ていない。 最近どうも女子高生ホラーのようなのが一番心安らぐ気がしていて、実はこの映画にも期待していたが、期待通りというか期待を若干上回った。監督の柴田一成という人物は、以前からしょうもないホラー映画のプロデューサーとか脚本とか監督をしていたので名前は見たことがあり、これまでも結構悪くないのはあったが、今回も結果的にいい方だった。 ちなみにこの映画に先立って、前日談の「がっこう×××~もうひとつのがっこうぐらし!~」(2019)がAmazonプライム・ビデオで公開されているが、個々の出演者(わりと豪華)を見たいのでない限り見る必要はない。また以前に放送されたAKB48メンバー主演のTVドラマ「セーラーゾンビ」(2014)と基本設定が似ているが、これの方が本家と思われる。そういうのを見たのも一応予習のようなものである。 内容としては、基本的に原作のおかげだろうが心に染みる青春物語の体裁が一応できている。怖さやグロさを売りにせず、登場人物のほのぼの感と極限状態との対比で切なさを出しており、最後はちゃんと泣かせる場面も用意されている。途中で気になった点としては、登場人物が部屋に入って話し始めた場面で、中にいたはずの人物をなかなか映さないので不安な気分にさせられるところがあったが、しかしその後は予想通りというか終盤で、幻影を見ていたのが一人だけではなかったことが明らかにされる場面があって、ここは少し感動的だった。 また映像面ではゾンビに火がついて燃えているのがそれらしく見えて、いちいち危ないスタントなどしなくていい時代になったのだという感慨があった。 出演者について、主要人物はみなアイドルだそうだが、演技の素人ながらいきなり映画に出てそれなりに役目を果たしていたようでお疲れ様でした。中で主人公役の阿部菜々実という人が、長身(168cm)ですらりとした体型なのは感心した。山形市出身だそうだが日本人も進化しているらしい。ほかは小柄な人が多いので、養護教諭役との間で少女と大人の対比を見せている。 おのののか嬢については最近いろいろ噂もあるようだが、この映画では優しいおねえさん役が非常に似合っていて好きだ。また特別出演で名前の出ている足立梨花さんはどこにいたのか気づかなかったが、本人によれば「タイトルの前に出てくるゾンビ」だそうで、改めて見れば確かにそうだが最初から意識していなければ気づかない。 [ブルーレイ(邦画)] 7点(2020-01-04 09:29:42) |
373. うしろの正面<OV>
《ネタバレ》 監督・脚本とも女性だが、妊娠中の女性には向かない映画かも知れない。 映画宣伝でいう「レディース・ホラー」とは何かと思って見ていたが、妊婦のいわゆるマウンティングのようなものとか、寄り添ってくれているようで認識がずれている夫、歓迎されているようで本当に安心していいのかわからない義実家、という感じのものが見えた気はした。当事者にはかえって不快な場面もあるだろうが、これだけでもホラーとしては異色に思われる。 物語的には変則ながら一応の邦画ホラー形式に乗っていたようで、主人公が遭遇した呪いの発祥地がたまたま夫の実家にあり、出産前の里帰りという形で恒例の現場突撃をやる展開になっている。 ところで呪いの真相に関しては、安手の邦画ホラーでよくあることだが無駄に難解で(はっきりいって独りよがりだ)、各種の解釈をやたらに取り入れたことでわけがわからなくなっている。 ①まず歌詞について、最も普通の解釈は“悪意による堕胎”ということだろうが、これは劇中でいえば主人公が「美紀」に?石段で突き落とされた場面に当てはまる。また10年前の死産も例えば姑のせいだったかも知れない。この場合の「鬼」は堕胎させられる側になるはずだが、実際は美紀?(または姑?)の方が鬼に思われる。 ②しかしその後は、歌詞でなく遊びの解釈としての「口減らし」説が前面に出たらしい。胎児を取られた「舞衣子」が今度は「神からのお告げを受ける役目」の鬼になり、胎児を取る相手を指名する権限を行使していたようだが、実際は神の意志というよりただの八つ当たりに見える。その点、産婆だった義祖母の方が神の執行者としての鬼に近いかも知れない。 ③しかしその後にまた鬼の意味が変わり、最後は主人公の立場で“他者を排除しても自分の子を守る母親”という解釈に落ち着いたように見える。「鬼は私」という台詞もあったが、その主人公にも“何であいつに子ができるのか”といった負の感情は当然あったわけで、そのため最初のうちは主人公が元凶のように見えたが、最終的には守りの意思の方を強く出していた。 以上について感覚的にまとめると、妊娠・出産(+育児もか)にまつわる悪意(鬼)は至るところに存在するので、それをはねのけるため母親自らも鬼になれ、というメッセージだと勝手に受け取った。レディースというよりオンナのホラーという印象だったが、それにしてもこういう面倒くさいものの解釈を強いられるのは疲れる。 ほか世間ではかごめの遊びを降霊術と関連づける説もあり、劇中でも霊媒師が出る場面がある(漫才師は不要)。また鏡に映すと降りたものが見えるという説もあるようだが、スマホの自撮りと終盤の鏡は“鬼を映すもの”として機能していたように見える。そういうことを調べているうちに怖くなって来たので、ホラー映画本来の性質も備えていたといえなくはない。 なお映像面では天井から降る鋏がユニークで、また西部劇の決闘場面のようなのも悪くない。赤い食物は他者を食って自分の子を生かすということの隠喩か。主演の吉田裕美という人はそれなりのお年頃だろうが、なかなかいい感じの女優さんだった(惚れた)ので悪い点はつけられない。 [DVD(邦画)] 6点(2020-01-04 09:29:39) |
374. コープスパーティー Book of Shadows
《ネタバレ》 前回の時点で続編は見ないと宣言しておいてから結局見るのは阿呆というしかない。 内容的には前回の延長戦のようで、仲間を助けに行く話なら少しは人道的になるかと思ったが、死ぬ人間は死ぬと早々に宣告されてしまうのでは来た意味もない。新登場の猟奇殺人者は前回の用務員に相当するものとして、ほかにいわゆるピノコとか魔導書のようなのを動員して無理に話を盛ったようだが、それにしても最後の締めがありきたりで意外性も何も感じない。ちなみにエンドロールの後にも何もない。 友情とか愛情とか「強くなりたい」とか一応の人間ドラマを作ったようでもあるが、どうせ惨殺されて観客を喜ばすためのキャラクターが何をやっても茶番でしかなく、逆にそういう人の心をせせら笑って踏みにじるのが目的に見える。中学生向け映画にまともに物言うのも大人気ないが、もし騒乱や災害などで社会秩序が失われる事態になった場合、劇中の猟奇殺人者のような連中(中高生)がそこら中に湧いて出るだろうから、何より治安維持が最重要だという社会的メッセージを勝手に読み取った。 なお今回もS県A市が撮影協力しているが、この手の俗悪映画で名前を売って観光推進とは恐れ入る(※個人の感想)。「みんな!エスパーだよ!」(2015)くらいならまだしも笑って済ませられたが。 ほかキャストに関して、前田希美さんは引き続きこの人ならではの役を務めているが、その姉役で出た石森虹花(欅坂46)という人が、妹役よりも年下で童顔というのはどういうキャスティングなのか。演者の年齢では前田希美(93)>生駒里奈(95)>石森虹花(97)のはずで、今回最も変だと思ったのはここだった。 [DVD(邦画)] 2点(2020-01-04 09:29:37) |
375. 成熟
《ネタバレ》 昭和の怪獣映画「ガメラ」シリーズに携わった監督と脚本家が、大映の倒産直前に完成させた最後の映画とのことである。冒頭からテロップが出る通り山形県庄内地域のPR映画で、これほどあからさまなご当地映画が当時あったのかと思ったが、監督の評伝「ガメラ創世記 映画監督・湯浅憲明」によれば、県が中心になって商業映画を作るための資金を出したので大映側の負担はなかったらしい。 内容としては、田舎のPR映画には過ぎた豪華キャストによる青春純情ラブストーリーになっている。水産高校と農業高校の対立感情(ジェット団とシャーク団?)とか、漁家と農家の利害が一致しない(モンタギュー家とキャピュレット家?)とかいう障害はあるにせよ、全体的には緩い感じで笑わせるところもある。主演女優のオッパイは見られないが、主人公の乳首が黒いのは妊娠しているからだとシャワー室で指摘される場面があり、うち妊娠については当然ながら事実無根ということになっていたが、乳首が黒いことの方は否定されないで終わっていた(見えないので不明)。また初めてのキスで鼻が邪魔だったというのは笑った。菊池俊輔氏の音楽が当時の特撮TV番組のように聞こえるところもある。 当時の世相として興味深かったのは、外来種であるアメリカシロヒトリの大発生が全国的な問題になった時期らしいことである。劇中では高校生が公園地で桜の防除作業を大々的にやっていたが、実際は行政主体で本当にこういうことをやっていたと想像される。 方言に関しては、地元民の助言がなければ出て来なかったであろう表現(「んだなしや」など)も入っており、庄内方言の特徴を捉えようとしたといえなくはない。しかしこの地方では絶対使わない助詞が残っているほか、特にアクセントが考慮されていないのでそれらしく聞こえない。この映画に限ったことではないが、どうしても東京語の話者が勝手にイメージした田舎言葉がベースになるのは残念なことで、この点では「隠し剣 鬼の爪」(2004)の田畑智子さんを見習ってもらいたいところだが(30年も後の映画だが)、地元言葉を積極的に取り入れようとしていたのは努力賞である。なお伴淳三郎氏は同じ県内でも方言の系統が違う地域の出身者なので当てにならないが、「おっかねぞ」は少しよかった。 ほかキャストに関して、ヒロインの友人役の八並映子さんは、同年の「ガメラ対深海怪獣ジグラ」にも出ていたので知らない人ではないが、2017年に亡くなられたのだそうで少しショックだ。また若手芸者の千鳥(演・深沢裕子)がなかなか可愛い人で、ヒロインと同じ豊田地区の出身ということになっていた。美人の産地という設定らしい。 [DVD(邦画)] 5点(2020-01-01 09:17:35) |
376. でんきくらげ
《ネタバレ》 昔から名前が気になっていたので興味本位で初めて見た。このシリーズは6作あるそうだが全部制覇しようという気は全くない。 内容としてはそれほど盛り上がるものでもなかったが、話はちゃんとできているので一応見られる映画にはなっている。結果的に主人公はどこまでものし上がるつもりがあるわけでもなく、母親を楽にさせて一緒に暮らすことが目標だったようで意外につつましい望みだが、これから一生それで済むのかはわからない。 主演女優はあまり馴染みがなかったが、「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」(1968)には出ていたので見たことがなくはない。不自然なまでにオッパイを隠す(一人で電話している時も隠す)割に時折乳首が見えたりして徹底しないのはどういう方針なのかと思ったが、単にチラ見せが尊いというだけのことか。昭和の女性にしては脚がきれいだと思わせるところはあった。 自分としては何を面白がればいいのかよくわからない映画だったので、とりあえず現時点での平均点をつけておく。 以下余談として、この時代には5万円というのがそれなりの金額だったと思わせる台詞があったが当時の感覚がわからない。消費者物価指数の推移からみて現在の1/3程度の物価水準だったと思えばいいか。歴史的事件としては、昭和28年の鶴田浩二襲撃事件に関連して5万円という金額が出て来るが、その頃と高度成長期でも金銭価値は違うだろうから、劇中で怖い人が5万円掴まされて納得していたのは扱いに差が出ていたと思われる。 [DVD(邦画)] 5点(2020-01-01 09:17:33) |
377. 仮面ライダーアマゾンズ THE MOVIE 最後ノ審判
《ネタバレ》 シーズン1(2016)、シーズン2(2017)に続く総まとめの劇場版で、それぞれの再編集版の劇場公開(2018/5/5、5/12)に続き5/19に公開されている。 今回は畜産計画なるものに関わるエピソードだが、最初に出た食料事情の説明が荒唐無稽な上に、そもそも食料としての優位性がどこにあるのかわからないので現実味は薄い。山中の養護施設のようなものも浮世離れしてスケールが小さいが、ダークファンタジーというか寓話的な物語とはいえる。無垢な少女の肢体を欲する好色ハゲオヤジというのも古色蒼然たる図式だった(芸能界では普通なのか)。 内容的にはこれまで同様激しいアクションで暴力沙汰が多く、こんなに血が出てよく生きているものだと思った。 一方で、以前からのトーキョーグール路線にはここで一定の結末をつけたように見える。人間を食わなくても生きられる、という点は非常に大事なことで、これで例えば現実世界のクマのようなものかと思えるようになった。赤の方はクマとみれば全部殺す執念の男だが、緑の方は人に害をなさない限り生かすべきという立場とすればわかりやすく、それで最後に赤が敗退したのは自然ともいえる。ただしいつ豹変して人を食うかわからないのでは、本来は人を食わないクマより危険だろうが、話が通じる点ではクマよりましであり、ここはクマとの決定的な違いである。 また、食う食われるの関係を善悪の話で終わらせなかったのもまともな態度である。結果としては気色悪いジジイが言っていたように、生態系が常に変化する中で、生きるために生きる生物が生き残る、という普通の見解で終わったようで、あとは人間の立場として人間が生き残れるよう、やるべきことはやらせてもらうということになる。ただ何をどうするにしても冷徹な判断だけでなく、気持ちとか思いとか心も重要だということを言っていたような気はした。 自分としては特に面白いシリーズではなかったが、あまり観客が関心を持たなそうな面でもいろいろ考えながら作っているようではあった。 ほかキャストとしては、武田玲奈さんが最後まで良心的な役柄で、優しいお姉さんの顔を見せていたのはよかったが、ただ劇中事情に即していえば、この人物はそのうち不良少年に食い殺されて終わりと思われる。また東亜優さんはクラゲでもなく慈母のような存在で、こんなところで膝枕もいいかも知れないとは思った。 [インターネット(邦画)] 5点(2019-12-27 23:25:48) |
378. 劇場版 仮面ライダーアマゾンズ Season2 輪廻
《ネタバレ》 シーズン1に続くその2である。前回と同じく2017年4~6月の13話からなるシーズン2を1/5弱に短縮した再編集版で、シーズン1の公開(2018/5/5)一週間後の5/12に劇場公開されている。 単純な続きではなくいきなり5年後になっており、冒頭に少しだけつなぎの部分があるが超ダイジェストのため、かろうじて子ができたことがわかっただけである。その後も何をやっているのか不明な場面が多く、さすがに総集編だけで見るのは厳しい気がした。例えば赤いのが人間を守る方針だった理由は、つなぎの部分でも説明があったようだが、結局Wikipediaの記事を読むまでわからなかった。 物語的には前回に続いて「東京喰種 トーキョーグール」路線に見えるが、登場人物の間で劇中世界への対応姿勢に違いがあることは明瞭になっている。対立する立場のうち、赤いのが「人間は守る」と言っていたのは人類にとっての共通認識であるから、視聴者の立場としてもモグラに死んでもらう必要があったのは間違いない。一方の緑は当事者として自分なりの判断基準を持っていたようで(よくわからなかったが)、目的に応じて赤とも人とも共闘する姿勢だったらしい。 今回少し注目したのは「楽をした分誰かにつけが回る」で終わる一連の会話だった。前回の駆除班がなぜかいつまでも5円玉の御縁にこだわるのは呆れたが、そういう情に流されてどっちつかずの態度を取るのでなく、まずは自分の立場をはっきりさせる(旗色を鮮明にする)ことが大事ということかと思った。劇中でいう「ちゃんと向き合う」というのも、その上でのことだったようである。 キャストについて、武田玲奈さんはやっと前面に出るようになったが、今回はどうもヒロイン役を別人に取られてしまった印象もある。そもそも可愛く見せようという気がないのではと思ったが、しかし劇中人物としては自分の方針をしっかり持っていたのがいい役柄に見えた。また東亜優さんはいきなりお母さんになったあげくにクラゲというのも困った展開だが、上半身裸になって(!) 胸は見せない場面もあったりした(特にエロくはない)。子が父母のそれぞれに似ているというのは泣かせどころだったかも知れない。 そのほか、この手の番組でウニが出て来たのは初めて見たと思ったが、実は昔の仮面ライダーシリーズでも結構出ていたらしい。今回は殻の中身まで見せたようなデザインが秀逸だった。 [インターネット(邦画)] 5点(2019-12-27 23:25:45) |
379. 劇場版 仮面ライダーアマゾンズ Season1 覚醒
《ネタバレ》 仮面ライダーシリーズの劇場版である。今どき「アマゾン」である理由に関して、劇中でも開き直ったような説明は一応あったが、それよりこれ自体がAmazonプライム・ビデオで公開されたオリジナルコンテンツだそうなので、そのこととの関連で捉えた方が素直に納得できる。 この映画は、2016年4~6月の13話からなるシーズン1を1/5以下に短縮した再編集版とのことで、総まとめとなる劇場版の公開(2018/5/19)に先立ち5/5に劇場公開されている。総集編のため細かいところは飛ばしているのだろうが、大まかな話としてはわからなくはない。ちなみにもとの13話も追加料金なしで見られるがそこまでの熱意はない。 まずアクション部分はかなりハードな印象があり、力任せの生体破断など残酷というより豪快で、自己の存続をかけた容赦ない闘争の表現に見える。ただし自称が「ボク」の男が2人もいるのは気色悪く、そんなことで同情を買おうとするなと言いたくなったが、そういう甘ったれも最初のうちだけだったらしい。 一応は子どもを含む広い世代が見る想定のようだが、ただし製作側が意図したように「30~40代の男」にとって「見応えのあるもの」かどうかは何ともいえない。特に、ちょっと恥ずかしいほど「東京喰種 トーキョーグール」と似たようなことを言っている(2017年の映画しか見ていないが)のでまたこの話かと思わされるが、しかし最後になると赤いのがあくまで「人間を守る」と宣言する一方、駆除班までが反対側に味方したりして、それほど単純な図式でもなかったらしい。これを見た限り緑の立場は微妙なようで、そのうちどこかで無理が出るのではという気はしたが、とりあえず今後の動向を見るしかない。 キャストに関しては、個人的に最大の見どころになるはずだった武田玲奈さんが、この再編集版ではほとんど出番がないので落胆させられる。こんなことならかえって変に危ない場所に出て来ないで別のところで可愛く女子高生でもやっていればいいのではと思ったが、キャスト配列順を見るとヒロイン役(緑の方)の位置付けのようで、次回以降は活躍の場があるのかも知れない。また東亜優さんも素性不明の役だが、同じく大人のヒロイン役(赤の方)ということになるので、そういうことも含めて期待感を高めておくことにする。 [インターネット(邦画)] 5点(2019-12-27 23:25:41) |
380. オンネリとアンネリのふゆ
《ネタバレ》 「オンネリとアンネリのおうち」(2014)に続くシリーズ第2作で、前回は夏だったが今回は冬の話である。クリスマス直前なので12月ということになるが、それほど寒そうでもなく日中は明るい。前回の登場人物はレギュラー化しており(ブタに色がついている)、撮影地は引き続きロヴィーサである。 今回は主人公2人が「こびとの一族の家族」を迎える話になっている。そもそも2人の自宅からしてお人形さんハウス仕様だが、その家にある本物のお人形さんハウスに家族が入居して、2人がまたその客人になるという入れ子構造である。ユーモラスで心和む話といっても悪人を登場させなくては済まないようだが、金に目が眩んで見せ物小屋に売り飛ばすといった古風な行動なのがまたファンタジー感を出している。あくまで人の性が善であることを前提にした物語である。 劇中家族は主人公ほか多くの人々に助けられていたが、しかし弱者だからと一方的に守られるべき存在でもなかったらしい。「自立することが大事」(字幕)との言葉は、当初からの主人公2人の思いに、人としての誇りを持って生きようとする意思を重ねてみせたように思われた。 以下雑談として、映画紹介と字幕では一家の名前を「プティッチャネン」と書いているが、これはフランス語のpetitを使った日本版限りの造語と思われる。台詞で実際に言っていたのはVaaksanheimo(ヴァークサ族または一家、Vaaksanheimolainenとも)だったが、vaaksaというのはかつて使われていた長さの単位だそうで、肘から指までの長さを表すkyynäräの1/4に当たり、メートル法では約14.8cmになるらしい。日本でいえば一寸法師のようなネーミングということになる。 ほかにも日本版では、劇中家族の少年の名前がPuttiであることにからめて、この種族独自の単語を「プティ」という言葉で表現していたが、実際に原語で使われていたのはpikku(小さい)である(サンタクロースJoulupukki→サンプティクロースJoulupikku、メリークリスマス"Hyvää joulua."→メリープティクリスマス"Hyvää pikkujoulua.")。なお英語版では来訪者の家族を"McTiny family"という名前にしており、それぞれの言語で“小さい”ことを表現するよう工夫していたようだった。 この一族のクリスマスがなぜか普通より少し早いのは、主人公2人が自分らの家でクリスマスを楽しむための設定だったらしい。森にはこういう家族がほかにも住んでいたようで、見ていた子ども(主に女子?)にとっても夢のある終幕だったはずである。 [インターネット(字幕)] 7点(2019-12-21 09:56:01)(良:1票) |