361. ビール・ストリートの恋人たち
《ネタバレ》 バリー・ジェンキンスならではの文芸的技巧を堪能できる作品。 流麗なカメラワークが切り取る、くすんだ色の街並みの中に差し込まれる感情を表現する色の数々が、 人種差別の現実に抗う血の通った恋人たちと家族を際立たせているよう。 同時に独特のスローテンポと大胆な省略は今作でも健在で、既存のブラックムービーとは一線を画す。 しかし、今回は複雑な心境を台詞で語り過ぎた嫌いがあり、余白をなくしてしまったことで、 登場人物のより深い苦悩が伝わりづらくなったと思う。 現状が好転することなく、男は女と子供のため、司法取引を受け入れる苦みを含んだラスト。 それでもこの世界に負けまいとする夫妻の愛の強さを静かにたたえる。 [DVD(字幕)] 5点(2019-10-06 23:36:46) |
362. クロニクル
《ネタバレ》 YouTubeで投稿された動画が"本物"と言われても誰も信じないだろう。投稿されることを前提にした撮り方であるため、話の繋げ方が強引に感じられたが、特殊能力を持ったことによる承認欲求の暴走が、"いいね"を提供するSNSとマッチする。主人公の恵まれない境遇に初体験の失敗がさらに追い打ちをかけた形で、人と社会からの肯定と無敵の人の誕生は表裏一体だなと思わせる。スパイダーマンで「大いなる力は大いなる責任を伴う」という名言があるように、思わぬ力(権力でもいい)を手にしたとき、どこに"生き甲斐"を見出せるか一度立ち止まる必要がある。 [DVD(字幕)] 7点(2019-10-06 23:01:18) |
363. アベンジャーズ(2012)
アベンジャーズに繋がる派生元の作品をチェックしないと楽しめないかもしれない。しかし一度波に乗ってしまえば冗長な前半を除いて、お祭り感覚で楽しめることは確か。価値観の違うヒーロー同士の対立から共闘へ突き進む熱い展開と、特殊効果をバンバン使った戦闘シーンでお腹いっぱいである。キャッチコピーの「日本よ、これが映画だ!」は落ちぶれていく邦画業界に再び聞かせたいものだ。 [映画館(字幕)] 7点(2019-09-10 20:32:40) |
364. 旅猫リポート
いい加減にしろ。一瞬、TVドラマの特番だと思った。猫をダシにしたよくあるお涙頂戴もので、映画でしか作れないものが見当たらない。人間を描きたいのか、猫を描きたいのかはっきりしないまま、悲劇の押し売りを並べているだけ。下手したら動物を扱う必要すらない。これを感動と履き違えているのだから尚更タチが悪い。一番不快なのは、動物の気持ちが分かっているかのような強引なナレーションが無意味に耳触りで騒がしい。この手のドラマではひたすら作為の塊、製作関係者の自己満足しか感じない。それなら動物中心のファンタジーに振り切るか、ナレーションなしの方がマシだった。ただただ傲慢で中途半端に人間が割り込むからこうなる。 [地上波(邦画)] 1点(2019-09-05 08:18:34) |
365. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
《ネタバレ》 直訳で"むかしむかしのハリウッドで…"と称されるような、タランティーノ流おとぎ話。 界隈から消える恐怖に怯える元人気俳優役のディカプリオと、 トレ―ラ―暮らしでも達観しているスタントマン役のブラッド・ピットの組み合わせは意外にも絶妙で自然体。 20年前に人気の一位二位を争った二人が共演していたら大事件だったくらいに、 双方の魅力を偏りなく惜しみなく注ぎ込む。 一方、ストーリー自体は50年前のハリウッドの日常を業界ネタと併せて淡々と綴ったものでしかないが、 一見無駄と思われるエピソードの積み重ねが例の事件に集約される脚本の巧みさで最後まで引っ張る。 そう、往年の映画ファンならシャロン・テ―トとチャールズ・マンソンを知っていればその陰影がくっきり際立つ。 映画牧場のマンソンファミリーの得体の知れない不気味さと、待ち受ける悲劇を知らない映画館のシャロンの笑顔に、 『この世界の片隅で』を彷彿とする複雑な感情を抱かせる。 そして運命の時が刻一刻と迫り、どんな結末を迎えるか固唾を飲むことになる。 彼の過去作品を知っているものなら、結末は予想できるだろう。 しかし、これが変化球で強引な筋書きになっていないのが良い。 だからこそ現実で叶わなかった切なさでいっぱいになる。 シャロン・テ―トが少しでも呪縛から解き放たれ、"銀幕のスター"として永遠に生き続けること。 タランティーノの切なる祈りだ。 [映画館(字幕)] 8点(2019-09-05 08:16:01)(良:1票) |
366. ひろしま(1953)
《ネタバレ》 本編のドキュメンタリーが放送されていたため、視聴するには良い機会だった。原爆投下からわずか8年で大作を撮った、いや撮らなければならなかった関係者の強い憤りと訴えが、作品の粗に怯まず、執念としてフィルムに焼き付ける。原爆投下後から数年後に浮上した原爆の後遺症が、戦争孤児がその地盤を強固なものにする。現代のCG技術、メイク技術ならより凄惨な描写をカラーで再現できても、被曝して時が経っていないからこその生々しさには迫れないだろう。名も無き多くの人々が原爆によって死んだことを突き付ける、ラストの演出が強烈なインパクトを残す。語り部も少なくなり、核兵器禁止条約に触れないどころか、むしろ国を守るために憲法改正だ、核を持てという意見も散見し、この叫びが無力で虚しいものはない。劇映画の体裁を取った"記録映画"として貴重な作品。 [地上波(邦画)] 8点(2019-08-18 01:39:49)(良:1票) |
367. ブラック・サンデー
《ネタバレ》 レクター博士シリーズの猟奇犯罪もののイメージが強いトマス・ハリスだが、緻密な取材と膨大な資料の数々で積み重ねたリアリティに、ジャーナリスト出身ならではの原作力が光る。その素材を余すことなく活かし、イスラエル諜報員vsテロリストの攻防を公平な目線で緊迫感たっぷりに描写したフランケンハイマーの職人技も負けていない。普通なら盛り込むだろう幼稚なメロドラマを排除し、余計な後日談をバッサリ切り捨てる潔さを買う。30数年経って、まさか911が起きるとは誰もが思わなかっただろう。午前十時の映画館で見たかった。 [ビデオ(字幕)] 7点(2019-08-09 22:37:01) |
368. ペット
他の意見と同様、動物版『トイ・ストーリー』と見て取れるが、ただの劣化コピーだった。人間の気持ち次第で飼われるのも捨てられるのも"愛玩"動物の宿命。そこに一歩踏み込んだ展開がほとんどなく、脇のキャラクターたちの活躍も乏しい。背景同然で何体かは削れる。むしろ必要以上に街にパニックを起こしていて、擬人化するにはリアリティの範囲から外れた設定にがっかり。 [地上波(字幕)] 4点(2019-08-09 22:22:05) |
369. 天気の子
《ネタバレ》 エゴを問う物語。『君の名は。』と違って、想い人を救うために東京が水没する。そこに至るまでのプロセスで帆高に共感出来るか否かで評価が分かれる。当然ながら、帆高が何故家出したのかは全く説明していない、監督ならではの作風で、須田の帆高と過去の自分を重ねる言動や、ひとつひとつのディテールで想像するしかない。一番重要なのは、殴られても、血を流しても、何を言われても、自分を貫いて走り続けるかどうか。一連の逃亡劇で象徴されていたように思える。晴れ女のビジネスで儲けようとするのもエゴ、大事なイベントで晴れてほしいと願望するのもエゴ、帆高が起こした"暴走"と何が違うのか。自分の思うように勝手に改造したのが現代社会であるならば、そのツケがいつか回ってくる。自分が望まない物事に対する不平不満がその社会の代償だからこそ、須田のように折り合いつけて生きているだろう。しかし、そのエゴもまた、一つの希望のように思えるのだ。あるべき姿に戻っただけ。いわゆるスタートラインだ。 [映画館(邦画)] 7点(2019-07-19 23:59:17) |
370. トイ・ストーリー4
《ネタバレ》 まさかの4製作に不安しかなかった。完璧な3を見て、もう描き切った感があったからだ。しかし敢えて描く。3には登場しなかったボー・ピープとの別れと9年ぶりの再会、ゴミから命を与えられた自己卑下するフォーキ―の自我の目覚め、そしておもちゃたちはどう生きるのかを。1・2に回帰した構成だが、アンディのお気に入りだったウッディは、ボニ―からは相手にされず、リーダーとしての立ち位置を失い、仲間を助けることしか居場所がない。そうやって言い聞かせてきた彼の最後の選択は至極当然の流れだったかと。キャラクターが多くなった分、レギュラー陣の活躍が物足りなく、意外性も舌を巻くような活劇も4にはなかった。とは言え、主人の元に戻ることが全てではなく、それぞれの"物語"を紡いでいくおもちゃたちが感慨深い。バズたちと別れたウッディは西部劇の保安官でもなく、アンディのお気に入りでもなく、レアフィギュアでもなく、ウッディ個人として未知の世界に飛び込んでいく。それこそ『トイ・ストーリー』に相応しい所以ではないか。 [映画館(吹替)] 7点(2019-07-16 20:14:54) |
371. 新聞記者
《ネタバレ》 過去の遺産を食い潰す邦画業界の中で出色の出来だろう。真のジャーナリズムとは何か、本当の正義とは何か、それだけ見て見ぬふりの現状に危機感を持っていると言える。本作はフィクションであるがノンフィクションと地続きで、どこが真実かどこが嘘かを自分自身で見極めなければならない。思想に関係なく、無関心であること、思考停止になることは国家の奴隷と同じ。安直に「妄想乙」と決め付けるだけなら誰でもできる。一番重要なのは本やネットの情報を鵜呑みにせず、"自分で考えること"、"行動すること"なのだから。日米韓のアイデンティティを持つ女性記者役がシム・ウンギョン(熱演)というあたりに、下手したら権力に潰されるかもしれない、日本の排他主義的な病理が垣間見える。松坂桃李の絶望とシム・ウンギョンの焦燥で分断されるブラックアウト。バッドエンドか否かを決めるのは他でもない自分たち。「私たち、このままでいいんですか?」。好きでディストピアを選んでいる人などいない。 [映画館(邦画)] 8点(2019-07-16 20:09:11)(良:1票) |
372. スパイダーマン:ホームカミング
《ネタバレ》 今までのスパイダーマンと違い、版権問題をクリアしてアベンジャーズと関わったこと、 そして未熟で無力なりに一人前になろうともがくピーターの青春物語が強化されたことが大きい。 功名心から正義を貫こうとして、結果的に大きな事故を招いてスタークを失望させ、 学校とヒーロー業を両立できず、片思いを失ってしまう苦みと切なさが残る。 家族のために犯罪に手を染めるマイケル・キートンを配役するセルフパロディが心憎く、 貧困と格差の問題をするりと潜り込ませる。 ディズニーに買収されたことが大きいのか、異人種間の恋愛と夫婦が珍しくなく時代の流れを感じた。 スタークからの再スカウトを断り、地に足をついて"親愛なる隣人"として歩み出したのはスパイダーマンらしい。 [地上波(吹替)] 6点(2019-07-08 21:55:56) |
373. ザ・ウォッチャー
公開当時、「『羊たちの沈黙』、『セブン』に並ぶ傑作」みたいな誇大広告を見かけて、映画館で見たいと思ったが、レンタルで正解。キアヌが殺人鬼という話題性はあれど、ハマり具合と演技力で言えば×に近い。映画全体としても悪い意味で荒唐無稽で、よくある二流のサイコサスペンス。「配給会社の過剰宣伝に騙されないようにしよう」と心に誓った意味では記憶に残る作品。 [ビデオ(字幕)] 3点(2019-07-08 21:51:08) |
374. シティ・オブ・ゴッド
《ネタバレ》 命が軽々しく奪われる悲惨な現実を描いているのに、ブラジル特有の陽気さと軽快でスピード感あふれる編集で、重さが後を引かない。実際の"神の街"はこんな感じなのだろう。児童が銃を玩具のように扱って、次々と殺害していく様に戦慄を覚える。その一方、教育の重要さが強調され、識字率の低さが犯罪と貧困の連鎖を生み出し、目を背け私腹を肥やす体制側の腐敗をも炙り出す。カメラマン志望の青年が真実か出世のどちらを選ぶかは言うまでもなかろう。救いなどない。だが、誰もが一日を乗り切るのに必死で絶望している暇はない。「日本に生まれて良かった」と言われればそれまでだが、つまらないマウントの取り合いで、どこか生気も幸せも感じないのは何故だろう。教訓としても反面教師としても本作から学べるものはたくさんある。 [DVD(字幕)] 9点(2019-06-29 19:54:46) |
375. ヒミズ
《ネタバレ》 原作未読。東日本大震災をきっかけに脚本を大幅に書き換え、混乱真っ只中で勢いのあるままに撮影したという。悪い意味で商魂逞しいとも言えるし、絶望の淵に立たされた被災者へのエールにも読み取れるタイムリーな映画とも言える。協力して危機を乗り越えようとする被災者たちがテレビで映っても、裏では映画みたいに自分勝手で醜悪な人たちの暴力もたくさんあったはずだ。過剰に露悪な世界で、「頑張れ」と「世界に一つだけの花」は欺瞞で何の足しにもならない。それでも多くの不条理にぶつかって、一周回る形で肯定する説得力がここにはある。父殺しの少年とささやかな幸せを妄想する少女の未来は決して明るいとは言えない。死にたくなる現実の中、ただ前を向いて走り続けるしかないのだ。 [DVD(邦画)] 7点(2019-06-29 19:44:57) |
376. 紅の豚
宮崎駿最後の娯楽作品と言っても過言ではない。誰に向けて作ったわけでもなく、ほぼ自己満足に近いが、ドックファイトの躍動感と中年男のロマンがほとばしり、観客を楽しませることを忘れていなかった。一見幼稚でバカみたいなんだけども、「カッコいいとはこういうことさ」に感嘆させる説得力が本作品にはあった。品が、風情があった。『もののけ姫』以降、テーマ優先になりすぎて宮崎駿の暴走を補うかのようにジブリのメディア宣伝が過剰になり、"観客も満足させる"ことに視界が入らなくなったように思える。 [地上波(邦画)] 8点(2019-06-29 19:41:06) |
377. 美女と野獣(2017)
元になったアニメ版は遠い昔、小学生なりたてで見たっきり。それでも記憶は飛び飛びでも大体のストーリーは覚えていた。たとえ超綺麗事で超大団円だとしても、それでも押し切ってしまう技量に圧倒してしまう。CG技術が追い付いてきたこともあるが、それに溺れることなく、アニメ版で説明不足なシーンの改善、LGBTを暗喩した多様性の強調を自然に挿入しているあたり、妄執に近いレベルで取り組んだことが伺える。言わば実写の成功作である。ちなみに黒人のキャスティングが目立っていたが、18世紀当時のフランスでは既に黒人差別を禁止しており、貴族として生活していた者もいたとのこと。たとえ違和感を持たれてもそういう設定もあながち間違いではない。 [地上波(字幕)] 8点(2019-06-14 22:38:15) |
378. チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁
《ネタバレ》 (前3部作は未見です)『ナチュラル・ボーン・キラーズ』っぽいシチュエーションに、人形同士のエッチシーン、挙句出産するという、バカ映画の要素を取り入れたバイオレンス・コメディという印象。色んな人が死にまくっても、遠い昔の自分でさえ興奮も不謹慎な笑いも感じず、淡々と見終えて何も残らなかった。頭空っぽにして見ればそれなりに楽しめるか? [ビデオ(字幕)] 4点(2019-06-10 21:35:48) |
379. ルーム
《ネタバレ》 カメラは"部屋"から出ることはない。 "部屋"には常にママがいて、疲れた表情を見せながらも生きる術を教えている。 ときどき男が配給しにやってくる。 5歳になったジャックには"部屋"が世界の全て。 この限定的なシチュエーションでほぼ二人芝居で息苦しくスリリングに見せる監督の演出力が光る。 そこからどうやって脱出するか、そして脱出してからが本当の闘いだった…。 中盤までと比べると物足りなさを感じるが、 犯人との間に生まれた孫に対する祖父母の戸惑いと、 自由になったはずなのに逆に追い詰められていく母親、 全てが刺激的すぎて"部屋"に戻りたいジャックを丹念に見せてくれたおかげで、 "世界"が残酷な現実をもたらす試練にもなりえることを実感させる。 それでも母子は決して優しくないだろうその"世界"に挑み続け、 正反対の感情で"部屋"に別れを告げるラスト、好き。 母子の闘いはこれからも続く。 [地上波(字幕)] 7点(2019-05-31 23:17:10)《更新》 |
380. レッド・ドーン
数年前に見たため記憶がおぼろげ。レビューを見るに脚本流出で北朝鮮に変更されたというが、その超トンデモ設定の面白さが活かされず、残された伏線が未消化のまま、打ち切りで終わってしまったかのよう。つまり、記憶に残らないほどつまらない映画でした。冒頭のニュース映像に完全に頼っている地点で悪い予感はしていたけれど・・・ [DVD(字幕)] 2点(2019-05-27 21:45:21) |