21. 紀子の食卓
《ネタバレ》 後味は悪いです。サスペンスとしてみれば美人の姉妹が不気味なカルトに絡め取られていく様、それを取り戻そうと悪戦苦闘する父親がんばれ!という乗りで続きが気になり、2時間半を超える長丁場を一気に観てしまいましたので面白かったということだと思います。それに女子高生の集団自殺という仕掛けには吐き気をもよおさせるほどの魅力(?)があります。ただ、結局この映画のテーマであろう自分の居場所探し、本当の自分探し、家族という虚構からの脱却といったあたりにはあまり感心できませんでした。問題意識はわかるんですがそれが何だかとってつけたようなどこかで観たようなレベルでしかないようにしか感じられず、最後もだから何なのというレベル。あくまでサスペンスとしてみればなかなかにお奨め、深い部分での感動があるかといえば?。そういう映画でした。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-08-13 15:59:10) |
22. 赤線地帯
溝口映画を観ていると、他人の生活の中に自分がまぎれこんでじっと覗き見しているような気分になります。例えば押入れの中とか箪笥の中にこっそり忍び込み、じっとそこで繰り広げられるドラマを覗き見しているような。徹底した長回しと役者の極限ともいえる演技を引き出す溝口監督の演出力はやはり偉大です。この作品も観ているうちに引き込まれ、もはや映画を観ているとも思えず、自分が吉原の売春宿のあちらこちらに潜んでただただ覗き見しているような錯覚を覚えます。そこには倫理の押し付けも過剰なドラマもなく、ただただリアルな光景が展開され、但しどの光景を切り取るかの選択という編集の力によって、1時間半弱の覗き見体験がただの覗き見ではなく映画鑑賞という娯楽に昇華される。この「赤線地帯」は一般的に代表作とされる時代物ではなくまさに当時の現代劇な為、この覗き見感覚を最も感じさせてくれる作品です。自分の今いる世界とは違う世界にトリップできる最もお手軽な行為が映画鑑賞であるとすれば、溝口作品が最も偉大な映画であるといっていいのではないでしょうか。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-08-13 11:42:05)(良:1票) |
23. どですかでん
特にこれといったストーリーがあるわけではなく、スラムに住む人々の日常の中のそれぞれの小さなドラマが淡々と描写されていく。決して「貧乏だけど心は美しい」とか「貧しい人にこそ美しさがある」といった類の類型的なおしつけがましさではなく、あえていうなら「貧富と人生の幸せ不幸せは関係がない」ということがテーマだろうか。映画にストーリーを求める向きには評判が悪いのもうなづける。ただしその一つ一つの小さなドラマがとてもとても趣が深い。様々なトラブルで傷つき人生の転換期であっただろう黒澤監督の当時の心情と重ね合わせるとその趣も更に深くなる筈。ですからこの映画は黒澤監督の作品をある程度観て、当時の黒澤監督の状況などもある程度知った上で観た方が絶対にいいと思う。映像も総天然色の奥行きの深い綺麗なもので、なるべくならハイビジョン放送か劇場での鑑賞を薦めたい。ストーリーを楽しむのではなく一つ一つのシーンのつながりに身をまかせれば必ず心に届くものがある。その類の傑作。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-08-10 17:38:14)(良:2票) |
24. パッチギ!
人生の切なさ、甘酸っぱさ、辛さ、喜び、悲しみ、誕生と死、といった様々な要素を暴力と歌と恋といったエンタメ要素満載の中にちりばめた映画。2時間があっという間にすぎてしまう。登場人物と一緒にハラハラしたり怒ったり泣いたりして、最後にカタルシスを味合わせてくれる傑作。政治的な部分でいろいろと意見もあるでしょうし、メッセージへの賛否があるのはわかりますが、そういう部分を抜きにして、例えばこれを遠い外国の物語として見れれば(まあそれも難しいですが)非常に完成度の高い娯楽作品じゃないでしょうか。今の日本にこれだけのエンタメが取れる監督なんてそうはいませんよ。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-08-10 11:56:05)(良:1票) |
25. 明日の記憶
原作も読んでいます。原作も相当に傑作ですが、この映画版も原作の面白みを損なうことなく忠実にそのエッセンスを伝えつつ、堤演出のユニークな部分もやりすぎることなくきっちりと見せてくれて、映像としての楽しみもあります。役者さんの演技も素晴らしいもので、まあいわば、物語、テーマ、役者、演出、全てが高評価です。渡辺謙と大滝秀治のくだりは、誰にも訪れうる悲劇を前にしてでさえ生きていることの素晴らしさを映像として伝えてくれる素晴らしいシーンだと思います。 [映画館(邦画)] 8点(2007-08-10 11:00:48) |
26. 日本以外全部沈没
《ネタバレ》 原作は確か短編ですよね。意外な発想の傑作パロディですが、短編ならではとも言えるキワモノアイデアです(日本が沈没するならそこに一定のリアリティがあったのですが日本以外が沈没するというのには全くリアリティがなくキワモノとしか言えない)。それを1時間半近くも低予算で描かれてもしらけるばかり。この程度でいいのなら学生自主映画でもできるのではという感じの安い絵作りです。確かに部分的に面白いシーンはあります。しかしそれも原作の面白さをそのまま伝えているだけ。映画にする意味が全く無い。もしもですが、この原作を映画として成り立たせることができるとしたら、それはそれこそ「日本沈没」のように総製作費数十億円を使って徹底的に大規模にリアリティをもって描くしかないのでは(例えば成田空港に10万人の外国人エキストラを動員するとか、本当のハリウッドスターをキャスティングするとか)。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2007-08-08 17:54:12) |
27. 大奥(2006)
《ネタバレ》 恋愛劇としてみるなら男に狂わされた悲しい女の性を描いたということでこのお話はアリなのかもしれません。が、主役の絵島は大奥総取締という言ってみれば超大物。ただ単に男に狂わされたといってもそこに説得力がない。説得力が描かれていない。自らの職務に忠実なあまり色恋沙汰に無縁であらねばならないという葛藤が充分に描かれていれば、その葛藤からどちらか一方を選び取った(絵島の場合、職務ではなく色恋)というその決断に対して(その決断の是非は別にして)観客は感情移入をして喝采を送るのではないかと思います。絵島の人間像をもう少し丁寧にじっくり描いてこその後半の紅蓮の大火災での逃亡劇が生きてきたのでは、と惜しい作品です。 [映画館(邦画)] 4点(2007-08-08 17:46:41) |
28. 父と暮せば
志も高く良質な作品であることはわかるのですが映画としてはどうかなあと。理由その1、ほぼ全編宮沢りえと原田芳雄の会話劇で展開されるわけで、舞台演劇であれば非常に見ごたえがあるのでしょうが映画としては退屈。理由その2、娯楽性がほとんどない(テーマ・内容という意味だけでなく映像的にも楽しい部分がない)。映画監督黒木和男が晩年に自らの問題意識をたまたま自分が映画監督であるということで映画で表現したに過ぎないものであって、それにつきあわされる観客としてはやはり可もなく不可もなくという評価になってしまいます。 [DVD(邦画)] 5点(2007-08-08 13:38:35) |
29. 監督・ばんざい!
《ネタバレ》 後半の母娘のくだりが意味不明です。意味なんか求めちゃだめっていう意見もあるでしょうが、その代わり映像が素晴らしいとかがあればともかく、テレビのコント以下のおふざけ映像を延々と劇場で見せられた身からすると耐えられない展開でした。最後の大爆発も北野監督にしては凡庸な展開。ああなっちゃうとそう逃げたくなる気持ちは充分わかりますが、観客にそう同情されちゃうような素人展開と批判されてもしょうがないでしょう。北野監督ならその裏を書く間逆な展開(例えば全て劇中劇であったとか...)ではないかと最後まで期待していたのですが。 [映画館(邦画)] 2点(2007-08-07 18:17:11) |
30. せかいのおわり
主役の二人が決して美男美女でないところがリアル(それでも中村麻美は充分かわいいけど)。ホントに存在してそうな不安定な駄目さ加減。トラブルが起こってそれを何とか乗り越えていけ!と観てる我々は主人公に感情移入する訳だが、主人公は我々の期待ほどにはがんばらない。がんばってなんとかなるのは物語の中ではよくあることだが実際にはがんばってみてもそうそう事態は好転なんかしない。それがリアル。うまくいかないことが多いけれどそれでもせかいは終わらない、せかいがおわることでもないかぎり自分の思うとおりになんかならない。地味だけど、都会の片隅に生きる現代人の多くの人にとっては共感できる良い映画。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-08-07 18:09:34) |
31. 七人の侍
ビデオやTVで3回観ていたのですがようやく先日の新宿で劇場で観ることができました。やっぱり満点です。邦画のみならず洋画の「大脱走」と並んで映画の最高峰。シナリオ、役者、演出、音楽、美術など全てが最高。どこが良いのかと一言では言えませんが、とにかくワクワクさせてくれて泣かせてくれて。3時間を超える作品でありながらだれることなく何度観ても楽しめて新たな発見がある映画などそうはありません。未見の方はある意味幸せです。 [映画館(邦画)] 10点(2007-08-07 14:01:18) |
32. さよならみどりちゃん
《ネタバレ》 星野真里の体あたり演技、西島秀俊のはまりっぷりも良いですが、なんといってもラストのカラオケのシーンで見事なカタルシスを(偶然なのかもしれませんが)演出した古厩監督の才能はお見事だと思います。このシーンがなければ印象は全く違ったものになるでしょう。こういう駄目な人たちの映画って好きなんですが、駄目なりに爽快感がないといけないですよね。駄目だなあー、悲しいなあー、自業自得の面もあるよなー、でも見終わった後に何だかさわやかな気持ちになるよなー、ならば傑作といっていいのでは。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-08-07 11:48:34) |
33. 待ち伏せ
前半だけなら8点はつけれる内容。三船敏郎はまんま用心棒だし。裕次郎もかっこいい。ヨロキンはなんだかあんまりなキャラ設定だが勝新も加えてこの四人がそろい踏みというのはやっぱりワクワクする。顔ぶれ優先で脚本的に練りが足りなかったというところで期待せずに見ればそこそこの内容。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2007-08-07 11:38:27) |
34. 佐賀のがばいばあちゃん
単にエピソードを羅列してあるのみ。登場人物も類型的。葛藤も対立も成長もない=ドラマがない。映画にする意味なし。映画として描くなら少年が佐賀についてからの数週間、ばあちゃんや佐賀の人々と出会い、戸惑い、対立し、それを乗り越えるまでをじっくり描くべきでしょう。せっかくクラスメートと喧嘩したもののあっさり握手しちゃうし、線路を歩いて広島へ行こうとするおいしいエピソードもあっさり流しちゃうし。まわりの人もいい人すぎ。原作の知名度に頼って適当に映像化すりゃあそこそこ回収できるだろう、地元からもかなり金を引っ張れたしこんなものでいいのでは、という志の低さが露呈した駄目映画。ただ映像的な美しさはあるので+1点で3点がいいところ。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2007-08-07 11:10:05) |
35. 復讐するは我にあり
いわゆる「面白かったあ」というのとは違いますが映像の前に釘付けにされた2時間ちょっとの密度の高さはやっぱり面白かったということなのでしょう。別にこれで何か心に訴えかけてきたとか感動したとか人間の複雑さを痛感したとかそういう感傷は一切ないのですが、殺人鬼榎津とその周辺の人間像を徹底的にリアリティをもってつきつけられることで確実に鑑賞中は異空間の中に身を置く事ができます。そういう意味で極めて映画らしい映画かなあと。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-08-06 15:23:15) |
36. 雨あがる
これを黒澤監督で見たかったという一言。設定、キャラクター、脚本、それになによりお話全体を転がしていく空気感・リズム感などはまさに黒澤ワールド。武士の強さと誇り、それを支える妻の意地、根底にながれるさわやかな人情味、などなど傑作の要素満点です。が、物足りないのはなぜか?役者の演技もベテラン中心で悪いとも思えず、そうなるとやっぱり監督がいけないのかなあと思ってしまいます。どうにもこうにもメリハリがないような、あっさりと流れていってしまっているような印象で。やはり見せ場の後半の殺陣の前にもっと主人公の葛藤を盛り上げないとこっちにカタルシスが生まれてこないんです。お前がやってみろって言われてもできないんですけどね。小泉監督ってこの歳になるまで監督経験が無かったということで、てことはやっぱりそれだけの人だったってことじゃないのかなあ。「博士の愛した~」の薄っぺら感を思いだします。映画のおける監督の重要性を痛感させてくれる一作。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-08-03 12:54:32) |
37. 戦国自衛隊1549
戦国自衛隊の21世紀版をつくるという発想は悪くないと思います。作り方次第ではもっともっと面白くなった筈で非常に惜しい。前作にあった歴史公証などを無視したハチャメチャ感は魅力といえば魅力でしたが欠点といえば欠点でしたので、史実との整合性をきっちり考えて、タイムスリップによる歴史のifについてもっと掘り下げれば(早い話バックトゥザフューチャーの自衛隊による戦国時代編)みたいな感じになれば結構いい線になったのではないかと思うのですが。。。いかにも富士の自衛隊演習場の中に作りましたという感じの金はかかっているが臨場感のないセット、いつも同じ演技で興ざめの江口洋介と鈴木京香、前作の魅力の一つが破滅の美学だったのですがそのあたりもないわけで、もう鑑賞時間の無駄以外の何者でもないという感じでした。江口さんは憑神でも思いましたがいつも同じ演技で、ちょっと同年代の他の役者さんに比べてもう少し考えないとなあと余計な心配をしてしまいます。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2007-08-03 12:36:18)(良:1票) |
38. 独立愚連隊
怪作っていうんでしょうか、こういうのは。三船に鶴田ときたら期待しちゃうじゃないですか。それが良い意味で見事に期待を裏切ってくれます。物語も謎解きサスペンスあり、西部劇風一騎打ちありで、単なる戦争アクションという枠組みにあっさりおさまるモノでもありません。佐藤允の何と魅力的なことか。にやけた凄みと会話の面白さが話をひっぱります。織田裕二も椿三十郎じゃなくてこっちのリメイク(もしもあったら)だったらもっと生かせたんじゃないかなあ。それと雪村いずみさんって上戸彩みたいでかわいい。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-08-02 10:08:07) |
39. 鬼龍院花子の生涯
冒頭で結末を見せておいてその後過去に遡って物語が始まる構成。一体彼らに何が起こっていくのかという興味がお話を引っ張ります。圧倒的な映像の美しさ。仲代、岩下、夏目の主役三人の映画スターらしい迫力ある役づくりと演技、子役の仙道敦子の魅力。ストーリーとしては10数年の変遷を描いているので少々まとまりにかける点もあるが、上記の絵と役者の魅力で全く飽きさせることなく映画は突き進みます。物語そのものの面白さで勝負するなら小説の方がいい。やはり絵と役者、つまりは演出=監督が映画を決めるのだなあと痛感させられる傑作です。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-07-30 15:31:29) |
40. それでもボクはやってない
冤罪事件の恐ろしさ・問題点というのがこの映画の表テーマなのだと思いますが、もう一つの裏テーマとして、仕事と人生の両方に人間はいかに誠実につきあっていくべきかという普遍的な問題があるように思えました。この映画で号泣したと人に言うと笑われるかびっくりされるのですが、実はラスト30分前くらいの田中哲司演ずる弁護士が瀬戸朝香弁護士に対して語るシーン、ここで号泣してしまいました。誠実で正義でありたいと思う良心と仕事に対して成果を求める職業人としての誠意の矛盾。圧巻でした。これからご覧になる方、再見される方はこのシーンに是非注目してみてください。以来、田中哲司は私のフェイバリット俳優の一人になりました。 [映画館(邦画)] 9点(2007-07-25 18:21:11) |