521. マネー・ショート 華麗なる大逆転
《ネタバレ》 激震級の経済破綻、リーマン・ショックが何故起こったのか、その数年前からの金融界の動きを複数の投資家らの「読み」を交えながら解説してくれる本作、勉強になりました。 住宅市場の健全性を疑う‟先見性”を持った人たちは存在していて、それがすでに賢すぎて凄いんだけど同時に自分の読みを信じて大量の空売りをかける、その度胸の強さにもまた小心者の私は驚嘆した次第です。 恐ろしいのは、破滅が来ることを判っていたのはごく少数の人だけだったこと。大銀行も大手マスコミも彼らの訴えを相手にしない。だって格付けがAAAなんだもの。住宅債権が超優良物件なのは常識なんだから。クリスチャン・ベールが取引成立のあとメガバンクの連中に大笑いされていたように。 経済市場ってなんだか生き物のようで不気味にも感じましたねえ。ビビるのは債務不履行が明らかになったのに債権が値上がりする現象が起きたこと。まるで心臓が止まったのに血流が流れ続けているようではありませんか。なにこの生き物。さすがにクリスチャン・ベールもスティーブ・カレルも意味分かんなくて取り乱してましたね。もちろんその後予想以上の大破綻は発生するのですが。最終的にベールの会社の利益率が+411%だって(!!) 我々が暮らす資本主義社会の暴走した結果が2008年のこの事件。人類の英知をもってして、この繰り返しは是非とも避けたいものです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-06-18 23:18:45) |
522. アンダー・ザ・シルバーレイク
《ネタバレ》 うわあ・・まさかの不条理モノ。正直訳わかんなくて参った。リンチだって得意分野じゃないのに。宣伝でてっきりサスペンスかと思った私は被害者。 巷間評価が真っ二つのようで。謎解きが好きな人には向いてるのかもです。基本私は鑑賞者を置いてきぼりにするタイプの作品は好きじゃないので本作を観ても喜びを感じません。 過去のポップカルチャーが積みあがった上にある現代の空洞ぶりを寓話的に描いているのかね?うーんやっぱりどうでもいいや。 まだD・リンチの作品ならば画が蠱惑的なので心惹かれる部分もあります。しかしこの作品はおっさんの糞便を映したりA・ガーフィールドにマスかかせたり、彼のガールフレンドも住居もそこはかとなく不潔感が漂い、不快です。この監督とはセンス合わないや。今後気を付けよう。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2020-06-17 23:05:27)(良:1票) |
523. アイアン・ジャイアント
《ネタバレ》 「なりたい自分になる」自我の成長物語ですね。人間の子どもじゃなくて巨大ロボットの話なんだなこれが。どこが製造したのかは不明だけど、攻撃能力の高さからして彼(?)は「兵器」として作られたと思われるのですが、本人は「殺戮者」でなく「スーパーマン」になりたい、と思っている。身体はデカくて強いけど心は平和主義。子どもにはそう育ってほしい、とのアメリカ人の希望がストレートに込められたお話でした。 日本のアニメで育った目で見ますと、展開の面白さやストーリーの深みはいいとしても絵柄に抵抗はやっぱりありますね。特に人間の表情はそんな顔する?と感じること多々でした。文化の違いなんでしょうが・・、モーレツに安彦良和氏の画が恋しくなりました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-06-15 22:57:24)(良:1票) |
524. ビリディアナ
《ネタバレ》 つまりこの監督が脚フェチでキリスト教嫌い、ということがよくわかる映画ですね。 敬虔なシスタービリディアナが修道院から一般社会へ出た途端に遭う不条理な暴力の数々。叔父のセクハラに始まり、施しをした乞食らには恩をあだで返される始末。強姦についてはいずれも「未遂」に終わってるのだけど、貞操観念が岩より硬いシスターである彼女にとってはPTSDものの大ショックでありましょう。「なんて日だ!」と叫びたくなったのでは。そしてとうとう彼女は神の教えに拠って立つ世界を捨て、世俗へと降りてくるのでした。 なんかねえ、観ててキツかったですね。乞食らの乱痴気騒ぎは胸が悪くなるほどの嫌悪感が湧きます。人間の汚い部分をこれでもかと晒して神のしもべを凌辱するルイス・ブニュエル。こりゃ教会激怒、上映禁止にもなりますわ。これが神社の巫女さんだと考えてごらんなさいよ。「怒られろ」と思うでしょ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-06-14 23:40:53)(良:1票) |
525. タクシー運転手 約束は海を越えて
《ネタバレ》 韓国映画の印象と言えば(個人的に)サスペンスものなんかはグロがきつくて辟易することも多いです。でも本作のような社会派作品も多々ある裾野の広さとか、しっかり娯楽作品として仕上げる力量の大きさには感嘆します。 光州事件を扱った本作は民衆弾圧への怒りが太い柱となって作品を貫いており、その描写のリアルなことはあまりの凄惨さに言葉を失うほどでした。建物も人々の暮らしぶりもちょっと前の懐かしい日本の風景とそっくりなのに、決定的に我々に経験が無いことは軍が市民に実弾を発砲してくるという恐怖。衝撃でした。 なんたってソン・ガンホが良いですよ。彼の出ない韓国映画を観ることの方が少ないくらいですが、この人の顔は味があるというかホントに良くて、「市井の一市民」を演らせると天下一品。彼の演じるタクシー運転手はソウルのいわゆるノンポリな一般市民。当初は学生デモを見て「高い授業料払ってるんだから勉強しとけや」と苦々しく思っていたのが、事件の只中に巻き込まれることになって自国で起きている事実を知る。中盤で面倒ごとから逃げるか、自分の中の正義に従うかハンドルを握りながら葛藤する数秒間のソン・ガンホの表情に注目です。このシーンがこの作品の訴えたいテーマ全てです。名優というのはそんなわずかな時間でも人の心に訴える仕事ができるものなのですね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-06-13 23:49:31)(良:1票) |
526. フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
《ネタバレ》 フロリダのディズニーワールドの近隣に暮らすムーニーは6才の女の子。パープル色の大きなアパートの一室にママと二人暮らし。いろんな棟に友だちがいる。引っ越していってしまう子も多いけど、また新しい友だちが越してくる。管理人のおじさんはいつも小言が多いけど良い人で好き。毎日友だちと遊びに行くんだ。近所にはイタズラし放題の空き家があったり、本物の牛が放牧されてたり冒険がいっぱい。近くの大人に頼めば、アイスも手に入る。友だちみんなで一個を分けっこだけど。友だちのママが食べ物をくれるし週に一度は赤い車がパンを持ってきてくれる。ママのことは大好き。若くて髪の色がキレイなママ。 。。ムーニーは幸せだ。だってまだ6才だから。6才の目から見るフロリダは陽の降り注ぐ中にパステルカラーの建物の並ぶファンタジックな街。でも私たちは知っている。ムーニーの無邪気な日々、それはぎりぎりの綱渡りの生活の上にあることを。ムーニーたちの家はアパートじゃなくモーテルで、住んではいけないのだけどボビーが黙認してくれているのだということを。住処も、食料も他者の温情で繋いでいるということを。そしてヘイリーもムーニーも教育が足りていないということも。 ムーニーは勘の鋭い子。ついに6才の幸せな時が終わることを大人のうそ笑顔の裏に見抜いて、友と逃げ出す。逃げる先はシンデレラ城。夢の世界の本丸だもの、ここを目指せば幸福の中に居続けることができそうだものね・・。 映画はここでエンディング。しかし我々はまた容易に想像がつく。ムーニー、無理なんだよ。そこはお金のある人にしか夢を見せてくれない。なんてことだろう。欺瞞の夢世界は6才の子の望みを打ち砕く。 そもそも、ヘイリーたちのような生活困窮者らを生んだのが、ディズニーワールドのフロリダ建設計画「フロリダプロジェクト」。土地や賃料が高騰し、まともな住居の保証料を払えなくなった人々が発生したのだとか。 貧困のすぐそばで永遠の夢の国を謳うディズニーランド。このグロテスクなこと。 真正面から問題提起するという形でなく、最弱者である子どもの目線が交じることでこの社会問題の残酷さがよりはっきりあぶり出されています。 ブルックリン・キンバリー・プリンスの天才的な演技、W・デフォーの情感溢れる存在が心に残ります。強烈な一撃のような作品ですが、これがアメリカの「現在」なのですね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-06-09 21:04:07)(良:1票) |
527. K-19
《ネタバレ》 非ロシア人であるハリウッド二大スターを使って旧ソ連海軍を描くとは難しい仕事だったと思います。しかし、言語こそ英語ですけど原潜内部のリアリティ溢れる造りはもとより、乗組員と政治士官との立場の差異など社会主義国ならではの政治事情もストーリーで説明できており、メイド・イン・ハリウッドということを気にさせない立派な作りです。画がちゃんと重くて渋い、ザ・共産圏の香りがします。 原潜内部で起きた異変の原因は、党が強いた突貫工事による整備不良や、正規品も間に合わない現場のとりあえず間に合わせた不完全な仕上がりによることは明らかです。K-19、この艦はドックから出たての処女就役なんですよね。この年1961年。1年目からこんな有様の潜水艦をソ連はその後老朽艦になるまで使い回し、冷戦終結後に明らかになった数字ではのち29年間で23件もの同様の原潜事故が起きていたと書物で読みました。 劇中非業の死を遂げた乗組員や艦長らの慟哭、非人道的な安全対策の不備がこの物語の後30年も繰り返されたとは旧ソ連という国家の非人間的なことに改めて衝撃を覚えます。 この映画の伝える恐怖は身体が震えるほどのリアル描写で、恐慌状態に陥ったP・サースガードが泣き叫ぶほどにこちらの気分も悪くなりました。 序盤まではリーアム・ニーソンとハリソン・フォードという主役クラスをどう両立させるのか、バランスの難しさを危惧しましたが杞憂に終わりました。特にH・フォードの新艦長がどういう立ち位置になるのか、とても興味深い出だしでした。ハリソンといえば、いつでも「正」側にいるイメージがついているスターですから‟無能艦長”の役回りで終わるとも思えなかったですし。 そう、もちろんボストリコフ艦長はこの就航が無理なミッションであることを分かっているのでした。しかしひとたび任に就けば艦内のトップとして職務全うにベストを尽くす。「訓練好きのコネ艦長」などではないのです。 副館長のリーアム・ニーソンはハマリ役で安定感抜群でした。部下に対しては温情型の彼が、しかしクーデターを許さず厳しい態度に出たことで原潜内の秩序維持の必須なことを思い知らされます。危険で特殊な環境下では組織のタガが緩む行為は許されない。たとえ意見は対立してもハリソンは艦長なのです。 ベテラン俳優二人の見事な組織人ぶりがドラマの重厚感をより引き立てました。どっと疲れるけれど、観るべき映画と思います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-06-08 23:31:27) |
528. モリーズ・ゲーム
《ネタバレ》 オリンピック代表候補からカジノの経営者へ転身、てもうそれだけで異色も異色。そりゃ出版業界もハリウッドも飛びつくわけで。運動能力だけでなく、モリー・ブルームは文武両道をモットーとする父親の教育のもと、ハーバードクラスのスコアを有する才媛てのも凄い。そんな賭場の女経営者にマスコミがつけた名称は“ポーカー・プリンセス”。だけどこの作品の話の肝は、モリーが賭け事運営から連想されるような冷酷非情な守銭奴ではなく客が身を持ち崩すのを心配し、かつ彼らのプライバシーを守る為に膨大な利益をも棒に振ってしまうという倫理観の強い人間であるということ。 あっぱれなまでの彼女の資質を、しかし脚本は今一つ上手く描けていないと感じます。最後のほんの数分(それも台詞で)でモリーが自分のアイデンティティを主張するに留めているだけでは、観ているこっちはなんで自ら有罪を主張するのか、すっと理解というわけにはいきません。 ジェシカ・チャステインは健闘していますが、そもそもストーリーが‟起こったこと”を追うのにいっぱいいっぱいな感があり、イメージの重なる「女神の見えざる手」にはだいぶ及ばない印象です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-06-07 23:29:54) |
529. 砂漠の流れ者
《ネタバレ》 まさか「暴力監督」サム・ペキンパーにこんなトボケた一作があるとは思いもしませんでした。なにしろペキンパー作ということで中盤くらいまでずっと、いつケーブル・ホーグが血の雨を降らせるのかと待ってましたよ。あれ、でもこのオッサン復讐だなんだと口にしててもさして怨念の熱量は高くなく、標的の一人にはなんかぐだぐだと情にほだされ(というか復讐が面倒になったみたい)、せっかく築いた自分の事業もくれてやる始末。おい。 惚れた女に再会したと思ったらあっけなく天に召されて、その最期すらどこかへらへらとお気楽で。なんとまあ。好きなことやってぽっくり死ぬ、これもペキンパー流の「漢の美学」なのかも。 ホーグの死の元になったのが次の時代の主役であるクルマだ、というのもね。彼らの時代の終焉を告げる象徴にも見えます。道なき荒野を馬と共に往き、自由に生き方を選べた時代はケーブル・ホーグと共に終わりを迎えました。 生も死も自己責任で、その分生命力も強くスケベ心も隠さず、「おっかなくない」本作のペキンパーの男たちはとりわけ魅力的でした。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-06-03 23:34:42)(良:1票) |
530. レディ・プレイヤー1
《ネタバレ》 世界の大監督と「イヤー、ソレ分かります!」と意気投合するとは思わなんだ。80’sが身体に入っている世代はあの頃のmy favoriteを見つける楽しさがてんこ盛りです。 冒頭からデロリアンの雄姿に息をのみ、デュラン・デュランと聞けば芋づる式にカルチャークラブやデビッド・ボウイも思い出されて懐古趣味が止まりません。 シャイニングに大きく時間を取ってくれてたのにはテンション上がりました。「ああ、ほらエレベーターの前にいては洪水に飲まれるよ!」とか「237号室には絶対入っちゃいけないし」と、こちらの突っ込み待ちのような展開を見せてくれます。 メカゴジラにガンダムに、とジャパニーズ・カルチャーの存在意義の大きさが誇らしかったりと楽しいことは楽しかったのですが、でもこの楽しみ方って映画を見る姿勢としてはどうなの、とも思います。肝心のストーリーは予定調和に収まって驚きもないですしネタの数々を知らない世代が見たらあまり面白くないのかも。なんかやっぱり子供らと観て一緒に盛り上がりたいのですこういう映画は。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-06-02 23:41:29)(良:1票) |
531. ウインド・リバー
《ネタバレ》 まず、未だに先住民居留地なるものが存在するとはびっくり。やせた土地に追いやられ、米国社会の末端に置き去りにされたままのネイティブアメリカンたちがそこにいました。 アメリカらしく道路だけはどこまでも整備されて通っているし、四駆のクルマはデカくスノーモービルも行き渡っているようだけど、カメラが捉える地域の画は見るからに活気が無い。仕事は無いし犯罪は多く、捜査の手もまともに入らない。地元警察署長の台詞「孤立無援には慣れてる」が、背景の全てを言い切っていますよね。まず先立つ諦め。 風土は厳しいし、社会がこんなんでは登場人物らがほぼ全員激渋で重く暗い表情なのも無理ありません。だからFBI捜査官のE・オルセンをフロリダ育ちという南国者に設定したのかも。彼女の、この土地と真反対のさくさくした懸命さが作品のアクセントになりました。 実話ベースゆえ事件に大きなひねりがあるわけではないのだけど、排他的な雰囲気や閉塞感がまとわりつくこの地域のサスペンス風土に心がやられます。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-06-01 23:50:52) |
532. パニック・トレイン
《ネタバレ》 これ、ネットで資金を募っての制作だったんですって。観る前に知っておいて良かった。低予算で若手有志が撮ったのだと分かっていれば、派手な演出やド迫力映像なんて期待はハナからしないで済みますもんね。でもこれお金が無いんだなあと思わせることなく、健闘していると思いますよ。少なくとも「シベ超」では全然ありません。ちゃんと客車動いてますもん。 外からの救出映像など撮れっこないので、車内にいる人間らのドラマ一択。6人全員のキャラもしっかりしているし、お約束の「縮まる心の距離」描写も抜かりありません。 遭遇した不条理な危機をどう乗り切るか。「こうしたらいいんじゃないか」→失敗、が何度か繰り返されるプロットも見ごたえあります。その場にいるつもりで鑑賞するのがコツですね。希望を言うと、全員助かってほしかったなあ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-05-31 23:33:18) |
533. バリー・シール/アメリカをはめた男
《ネタバレ》 実在したトンデモ男のびっくり話。へえ、こんなことが、と多少は驚いたけれど出来事羅列の単調ぶりで引きが弱いです。主人公がやらかしたネタ一つ一つにドラマの肉付けは大変かもだけど、ディカプリオの同種「Catch Me If You Can」なんかは大成功してるのですから、トムに背景を喋らせるばかりでなくて見せ方の工夫がほしいところです。 あとねえ、Catch Me~は天才詐欺師の話だったからコミカルなテイストでいけたけど、バリー・シールはCIAのコントラ作戦絡みでその上麻薬組織にも関わっているのだからかなりシャレにならないブラック案件ですよね。終始軽い空気感の演出に、へらへら気楽なトム・クルーズって、撮り方やっぱり間違ったんじゃないかなあ。実際バリーの顛末は結局ああでしょ。いきなりのスカーフェイスでしょ。国家に使い捨てにされた男の哀れなお話にこの副題も大嘘。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2020-05-26 16:54:47) |
534. Mommy/マミー
《ネタバレ》 ダイアンは行動障害の息子を持つシングル・マザー。子を持つ母としてなら、私はダイアンであり、カイラでもある。息子を想う気持ちも、一人で生計を立てねばならないシビアさも、共感どころか我が事のように感じて途方に暮れる。ダイアンが息子の幸せな将来を夢想する場面は切なすぎた。 つらいこと ・ダイアンの空元気。若作りな恰好や年甲斐の無い反社会的な振る舞いは弱気を見せないための防御壁。ラストの一人号泣には胸を突かれた。 ・共に頑張ってくれたカイラと、決断後は心の距離ができてしまったこと。あの数か月、うまく行っていたときの輝きが眩しいだけに辛かった。 ・「愛だけではどうにもならないことがある」ということ。冒頭、施設の職員に言われた言葉。ダイアンは反発していたけれど、やはりこの言の軍門に下るよりなかった。 ラストシーンは「自由」を求めて走り出すスティーブ。「希望」を捨てない、とダイアンもドラン監督さえも語っていた。彼らがそう言うのなら私もスティーブやダイアンの目の強さにそれを信じるしかないのだろう。正直大変だけれど。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-05-24 23:51:50) |
535. 仮面の男(1998/ランドール・ウォレス監督)
《ネタバレ》 この映画は私にとっては6点中のザ・6点。分かりやすい流れとちょっとした起伏、勧善懲悪なお話、誰もが望む平和なオチ。画も綺麗ですし、実に平均的な水準の娯楽映画なので、山ほどある細かい突っ込み所もスルーして観るのがマナーというもの。 甘々な脚本にはさして感心するところは無いけれど、中年四銃士のメンツがそうそうたる顔ぶれ。ベテランならではの達者な演技で大いに作品を助けています。どうしてもヨーロピアンの雰囲気を纏えないアメリカンな若者臭のディカプリオがルイ14世てのが説得力ゼロなのですが、欧州おじさんらが渋く脇を固めてくれたお陰で辛くもブルボン王朝の体を成しました。 アトス「あいつケツ出して何やってんだ」アラミス「なんか首吊るって言ってたぞ」のとぼけたシーンがお気に入り。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-05-24 00:26:29) |
536. ロング・ライダーズ
あまりピンと来なかったのは私が日本人だからかな。ジェシー・ジェームズ強盗団の、各メンバーのドラマやドロボーしてない時の横顔等をちゃんと描いているし、クライマックスの銃撃戦のスローを多用したドラマチックな撮り方は緊迫感も十分。 だけどジェシー・ジェームズという名前は知っていても、仲間や各事件については詳しくない外国人の私。これが赤穂四十七士とか新選組の話であれば、「なるほど大石っぽい」とか「土方副長にこの役者はどうだ」とか、その国の民としての基礎知識が反応してすっと物語を理解できると思うのです。 J・J強盗団がいろんな兄弟で構成されていたことも初耳でした。誰が誰なのかなかなか一致せず、たぶん米国人の半分も楽しめなかったのだろうと思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-05-22 22:43:57) |
537. ジャック・サマースビー
《ネタバレ》 なぜ元の名前に戻ることをそうまで拒むのか。他の人間が犯した死罪を引き受けてでもその男の人生を生きたい、この理屈を納得させるだけの必然を脚本は用意していないし、ギアの演技にも己の信念を貫きたいという必死さがありません。収穫した煙草が予想より高値がついたと喜ぶギアの呑気ぶりは、まさか首を吊られるその日の男の精神状態だとは誰も腑に落ちますまい。 法廷での主張も裁判長が「見事な弁舌でした」と称賛するほどのものだったとは思えない。なぜそうギアに甘いんだ。 そもそも村人全員が騙されるほどの瓜二つという設定からして無理すぎに感じて、冒頭から居ずまい悪く感じてはいたのです。初めから終わりまでなんだか意味不明な話だったなあ。 [DVD(字幕)] 4点(2020-05-20 17:03:02)(良:1票) |
538. 初恋のきた道
時代と環境とヒロイン、そのいずれもの他の追随を許さぬ朴訥っぷりがこの作品をして一級のピュアテイストラブストーリーに成らしめました。教師と平村民とは身分が違うというあたりの、はなはだしい時代錯誤感も趣を深めますなあ。 ファッショナブルには程遠い半世紀以上前の中国の田舎の女の子たち。綿入れにズボンにお下げ髪。そんな恰好でも輝きを放つのですからチャン・ツィイーは確かに逸材でした。「まるで彼女のPV」という指摘は的確で、多々あるアップはもとより金色の紅葉を背景に置かれたり、白い雪景色に一人佇んだりとチャン・ツィイー名鑑のごとき画のラッシュです。 純朴の猛攻撃に遭い、観てる間は初恋のなんて可憐なことよと呑み込まれていたのですが日を置くと、でもさほど話は起伏も見どころもなかったよなーと我に返るのでした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-05-18 23:29:33) |
539. デーモン・インサイド
《ネタバレ》 怖ー。女のサイコパスてのは男より残酷さを感じるものだなあ。またこの役に扮したハンナ・エミリー・アンダーソンが上手いんですよ。迫真の泣き演技の直後、すっと素に戻るあの怖さ。いやだって現実にいるもの、こういう人。怖。 レズビアンカップルという設定も目新しい。夫が男だったら体力的にハンデが生じてサイコ側が必ずしも優位に立てないから、という脚本家の理由かしら。 展開が早いのでダレずに済みます。妻の本性が現れるのも突然で腰抜かしちゃうほどびっくりしますし、その後隣人という逃げ道が示される→だがしかし道絶たれる→自力で奇跡の逆転→まさかの再闘、の流れに無駄が無い。一つ一つのシークエンスに余計な時間を割かないのです。まあだから細かい部分は説明なしなので、幼なじみの子がどうやって死んでしまったのかは分からないし、ジュールズが「戻る」と決意に至った気持ちの描き方はざっくりです。私はイヤだなー速攻で警察に逃げ込むなあ。 殺しの場面は血しぶき上がったり、ブラックライトに浮かぶ血の跡とかグロい描写もありますけど、そんなのよりジャッキーのつらっとした冷い表情が私は何より怖かった。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-05-13 00:59:48) |
540. ドリーム
《ネタバレ》 まだまだ黒人差別が色濃い60年代にNASAのプロジェクトに貢献した3人の黒人女性のお話。偏差値が超高い人たちの社会であっても道徳的価値観は知性とはまた別なモノなのね、と戦慄すら覚えました。 黒人専用のトイレに毎度800mも走るなんて。「自分たちの」コーヒーサーバーから彼女がカップに注いだ時の白い目。データを黒塗りする同僚。働きづらいことこの上ない環境下でも、彼女らは街中で暴徒と化す同胞らと違い、黙々と自分の成すべき業務をこなすのですね。悔しいったら。でもその分、ついに上司にブチ切れた場面が活きました。「考えてもみなかった」彼女らの被差別環境にようやく気付いて呆然とするケビン・コスナーの表情が良いです。コスナーはこのところ良い仕事をもらえているようで。演技幅の広い人ではないけれど、今作の”リーダーシップのある上司”像は彼にとっては十八番といっていいほどのハマり役ですから、とても説得力のある存在でした。 原題(Hidden Figures)の指す通り、NASAにこんな切れ者の黒人女性技術者がいたとは全く知らずにいて驚きました。でもこの驚きの中身って「黒人の、それも女性が活躍していたとは」に他ならない。キルスティン・ダンスト扮する上司に投げかけられた言葉「貴女が偏見などないと思い込んでいることは知っている」これはそのまま私にも当てはまるのだと気づいて、うっ、となりました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-05-11 23:16:28)(良:1票) |