41. 素晴らしき哉、人生!(1946)
《ネタバレ》 天使たちのようにジョージを覗き見ることから始まり、薬のエピソードを挿み、ジェームズ・スチュワートのひょうきんな表情の静止画とくる…。この時点でジョージに肩入れせざるを得ない状況になってしまう導入部が上手いです。そしてその後も大人になったメアリーとの再会と華やかなダンスシーン…、4年間も待った弟が町に戻った時、その妻に弟の現況を尋ねる前に見せる一瞬の決心の横顔…(個人的にはこの瞬間が一番好きだ!)、メアリーとの繊細な距離を電話を使ってみせるシーン…、あるいは雨が降りしきるハネムーンへの出発に不吉な予感をさせる光りを照り返す傘の群れ…、すぐに取れてしまう階段のボロい装飾…と、いくつか忘れ難い素晴らしきシーンがあります。 ただ、8000ドルを失ってしまってからの過酷なシーンの連続は居心地の悪さを覚えます。様々な場所で怒鳴り散らすスチュワートの姿を見るのは辛く、しかも始めから決して不幸のまま物語が終わるはずがないと確信を持たせるのに、ここの地獄のような暗さは長過ぎると思います。もちろん、だからこそ生に歓びを見出すのであって、つまりは成功していることになるのですが・・・やはり物語に対しての尺がやや冗長だと思います。 [DVD(字幕)] 7点(2011-02-15 18:28:13) |
42. 月下の銃声
《ネタバレ》 人を食ったような表情のロバート・ミッチャムがどこからともなく現われ、問答無用でヒロインに発砲され、折り合いが悪くなった友人と激しく取っ組み合う…と面白いところはありますが、ラストの見せ場でもある立て籠もりシーンに大いに不満が残ります。手傷を負ったミッチャムと女(銃を使える)と老人(ウォルター・ブレナンだ)の3人だけの状況で家を包囲されるのですが、敵も3人で数的優位にも立っていなければ、相手の不利な状況をついて強気に攻撃を仕掛ける様子もなく、挙句にミッチャム一人が家を飛び出して3人とも片付けてしまうというのでは期待外れもいいところです。しかし、このシーンは同時に愛を告白する良い場面もあります。不器用なミッチャムの代わりに老人が愛の存在を告げてやるのですが、それを聞いた時のヒロインの表情の美しさは格別です(しかもこの時まではっきり言って美しく見えない)。〝愛の告白〟は非常に美しいものであり、本作はその瞬間をしっかりと見せてくれます。 [ビデオ(字幕)] 7点(2010-08-31 18:35:07) |
43. 救命艇
《ネタバレ》 本作がどういった経緯で作られたか存じませんが、物語の内容や製作年からして普通ではないと思うのですが、全編を通してカメラをほぼボートから出さずに撮りあげ、ナチを優秀な人物として描いたヒッチコック監督もやはり普通ではないでしょう。 ただ、導入部は素晴らしいのですが、救命艇に人物が出揃いカメラも一緒に乗船し臨場感を出すという試みがなされてからは、この船というシチュエーションが十分には活かされておらず、結局のところ密室劇であり、これなら一人一人の行動が常に把握できる舞台の方が良いではないかと思ってしまいます。・・・しかし、嵐がきてからはあのナチの如く俄然、調子が出てきます。突然、英語をしゃべりだしドイツ語で歌いながら船を悠々と漕ぐ変わり様は鮮やかですし、恋模様にしてもアップで撮られているリボンをほどいてしまう、あるいは足の裏を足で擦るといった仕草が、何ともエロティックです。ですが、一番凄いと思ってしまったのは状況とは対照的なヒッチコックのユーモア溢れるカメオ出演の仕方です。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-05 18:29:32) |
44. 逃走迷路
《ネタバレ》 始まりから手錠を外すまでが非常に良くできていて、例えば、光に反射した水面がユラユラと家屋に映っているトビンの屋敷は怪しさ全開ですし、手錠がらみのシーンは上手く、車のファンで鎖を切る時のカットバックによる緊張感や、痴話喧嘩のようなオチで収めるのもシャレています。・・・ですが、その一方でヒロインの描写がかなりいいかげんじゃないかとも思います。例えばビルに閉じ込められていた彼女の再登場の仕方があまりにも出し抜けで、物語に支障をきたさない程度で省略しているのでしょうがテンポを重視し過ぎているように思え、設定に活かされていない広告のモデルというのは、見境なしに出てくる広告の唐突さを皮肉っているのかとすら思ってしまいます。また、ラストの自由の女神での攻防はなかなか見せてくれますし、自由の女神をこんなに上手く使った作品を他に知りませんが、もう一つ何かが欲しいと思ってしまうのは欲張りでしょうか。 [DVD(字幕)] 7点(2010-02-19 18:25:46) |
45. 荒野の決闘
《ネタバレ》 末弟が殺されている雨のシーンから保安官を引き受け、クラントン一家に宣戦布告し去って行くシーンまでが圧倒的なのに対して、その後の弟のペンダントが見つかるまでの緩い時間が流れるのに違和感があります。そこはシェイクスピアをそらんずるドク・ホリデイの人物的面白さや、クレメンタインとの恋模様でカバーしているわけですが、どうも盛りあがりに欠けています。また最後の決闘シーンは、馬車が走ってきてケムるであるとか、ドク・ホリデイの白いハンケチ?だとかはとても印象的なのですが、互いの位置関係や距離感はあまり巧い事いっていません。ただ、アープとクレメンタインやドクとの日常的シーンの描写は優れていますし、ヘンリー・フォンダが椅子に座る姿は最高にカッコいいと思います。 [ビデオ(字幕)] 7点(2009-03-17 18:24:05) |
46. オーソン・ウェルズINストレンジャー
《ネタバレ》 ウェルズが死体を見つけた奥さんの飼い犬を殺す場面で、異変を感じたように飛び起きるエドワード・G・ロビンソンに切り返されるのですが、この手法というのは今では2時間ドラマでも当たり前で、むしろ下手をすれば安っぽさすら感じさせるのですが、ウェルズがやれば全くもって効果的で強い緊張感を生み出しています。一見のところ良き教師でありながら実はナチであるという人物像も、ウェルズの巨体と神経質そうな雰囲気が説得力を持たせておりサスペンスとして一級の出来栄えなのです。・・・ただ、一つ気になるのは善玉の方を演じたロビンソンで、これは私に「犯罪王リコ」での彼のイメージが強烈に残っているせいかもしれませんが、ロビンソンのアクの強さというものはただの善人にしてはどうも気に障る不自然さがあるのです。例えば父親に娘の危機を伝えながらも冷静に状況を分析し、それを利用しつつも余裕しゃくしゃくの行動でドッカリとした感じを受けるその物腰は、何とも図々しい感じが出過ぎているように思えます。家政婦さんなどは心労でぶっ倒れてしまうのですから、その平然たる態度は鼻についてしまうほどなのです。 [DVD(字幕)] 7点(2008-10-01 18:18:24) |
47. 虎の尾を踏む男達
《ネタバレ》 安宅関と言えば義経をバシバシ叩かなければならない弁慶の痛切な忠義心と、それに感じ入り見逃してやる富樫の厚い人情の現代日本社会ではもはや廃れた?おっも~い想いの詰まったお話ですが、そこにエノケン!?一体全体どういうことかと思ったら最初からエノケン全開。ズンズン進む義経一行にたびたび笑い声で茶々入れてくる。なるほどこれはパロディなのだと思い、おそらくエノケンが下男の知恵や行動で気を利かせ、あるいは知らず知らずのうちに一行を助けてしまうのだなと思っていたのですが…。どうやらエノケンはただの道化だったみたいです。さすがのエノケンで登場すると空気が一変するのですが、どうも対照的な物語と巧い具合には溶け込めておらず明かに遺物混入状態です。弁慶と富樫の対峙シーンの緊張感や構図、義経の顔が初めてはっきり写るところなどは抜群だったのでエノケン抜き、ついでに歌で状況説明抜きの本格派勧進帳も見たかったですね。それから大河内傳次郎を弁慶にするならせめて家来に彼よりのがたいの良い人を配役しないで欲しかったなぁ。 [DVD(邦画)] 7点(2007-11-27 18:11:08) |
48. マルタの鷹(1941)
全体的に緊張感に欠ける演出は少し緩慢だと思いますが、ハードボイルドな世界が確かに存在しスピーディで、太った男やカイロなどの人物造型は面白く何よりボガードが良いです。ストーリー展開にしろ、あのシーンにしろこのシーンにしろ全てがボギーのために用意されていると言っても過言でないほどボギーを見て楽しむ映画だと思います。ただ、相手役の女優さんの存在感が欠如しているように見えます。これは個人的な女優の趣味の問題や見せ場が乏しいという次元の話ではなく、美しく撮ろうという心遣いがなされていないように思え、明らかに魅力に乏しい印象を受けてしまいます。せっかくのボギーの男振り、ファム・ファタールならば観客を魅了してくれないと。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-11-02 18:18:41) |
49. ジェニーの肖像
《ネタバレ》 ジェニーが登場すると空気が一変し、どことなく夢心地で幻想世界へ足を踏み入れた雰囲気が出ていて悠久の時を感じさせます。そして津波のシーンでモノクロから切り替わる緑が映え、いよいよもって時の間に突入した緊張感が高められています。さらに最後の最後にきて色彩の豊かさを見せる〝ジェニーの肖像〟が鮮やかであり何とも素敵です。色褪せないとはこのことで、愛と芸術の永遠という普遍性を見事に融合させ一枚の絵として完成させる素晴らしさ。友人をはじめとする登場人物たちが温かく描かれているのも微笑ましく、ファンタジーとはまさにこの作品。 [DVD(字幕)] 7点(2007-05-17 18:53:48) |
50. 罠(1949)
《ネタバレ》 現在となってはストーリーは単純そのもので展開も読めてしまいますが〝見せ方〟が秀逸です。ストーカーの体を心配するジュリーが試合を見る事が出来ず、かといってじっと待ってもいられなくて上の空で街を徘徊し、二人分の夕飯を買って帰るシーンは彼女の心情を痛いほど表しています。ボクシングシーンも喧嘩のようながら観衆たちの興奮する様子で迫力満点に仕上がっています。ついつい応援したくなってしまう二人に一筋の光がさすラストも清々しいです。控え室を出入りする様々なボクサーたちの光と影が交錯する人生模様も見応え十分。実時間と作中の時間を連動させ緊張感を保ち、それを気付かせる柱時計も嫌味なく品が良いです。単調にしないように緊迫感を損なわないように実に工夫された作品です。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-09-21 18:19:20)(良:1票) |
51. 靴みがき
《ネタバレ》 未来ある真っ直ぐな子どもたちの物語なのに容赦無しにリアリズムに徹し、当時イタリア社会を襲った困窮の惨状を鮮烈に描いています。う~ん、あまりに悲劇的で観ていて辛くなりました。当然子ども社会だけではなく大人との決裂まで描かれているわけでして八方塞がりですよ。それに加えて馬が自由や希望の象徴のように思えるのに、それに手を伸ばしたがために絶望を味わわせるあたりが何とも残酷です。ホントもう最後のシーンは冷酷で遣る瀬無いですよ。本作や同じデ・シーカ監督の「自転車泥棒」や「ウンベルトD」を観ると、こんな状況には二度と陥ってはならないのだという痛烈なメッセージを感じます。個人的にはこれが一番辛いのですけどね。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-07-15 23:36:58) |
52. 黄金(1948)
《ネタバレ》 ラストの呆気なく風に舞い散ってしまう砂金のイメージこそが本作のクライマックスですが、そこへ繋がるためには過酷な発掘作業をもっと見せてほしいと思ってしまいます。しかし、ここで重点が置かれているのは飽くまで欲に目がくらむ人間心理であって、ウォルター・ヒューストンが安宿屋で説明してしまう成行きを実践してみせる内容は過度に心理劇です。その観点から見ても、互いに疑心暗鬼になっていく過程がややあやふやとも思えますが(落盤事故でボギーの命を救うか迷うのが早過ぎる、あるいは救われた恩を感じなくなっていく様が希薄)、三人の共通の敵である来訪者の出現には緊張感が走りますし、ボギーとウォルターの高笑いは耳に残るほど素晴らしいです。それから騙した男を見つけてリンチする暴力場面がなかなか凄く、実はここが一番記憶に残ってたりします。 [DVD(字幕)] 6点(2011-03-25 18:26:08) |
53. 潜行者
《ネタバレ》 登場人物はそれぞれ個性的で強烈ですし、意外な犯人の意外な落下シーンは巧みで〝アッ〟と言わせてくれます。・・・しかし、ボギーは整形後の顔という設定なので始まってしばらくの間は彼の顔を映せず、多くの場面を彼の主観映像で見せるという試みがなされており、画面に彼の腕がにゅっと出てきたりするのですが…この部分がえらく退屈で早いとこボギーを出せよと思ってしまいます。 そして、最後にボギーが逃げ切ってバコールと再会してしまうのも明かに嘘っぽく見えます(夢オチかと思った)。それは逃走劇をもっとしっかり見せてほしいとか、物語的に不自然に見えるとか様々な問題もありますが、何よりバコールとの別れのシーンが問題なのです。というのもあの別れのシーン自体は胸に迫ってくるように素晴らしいのですが、迫り過ぎていて完全に今生の別れに見えてしまい再会はありえないと思わせるものなのです。 [DVD(字幕)] 6点(2009-09-15 18:36:32) |
54. そして誰もいなくなった(1945)
《ネタバレ》 原作との比較はナンセンスだと思いますが、原作と異なるこのハッピーエンドはいただけません。もちろん敢えて同じオチで勝負する必要性など何処にも無いのですが、アメリカ的なオチとしたことで作品の簡潔さが損なわれています。そればかりかそれにより全体のムード自体の変更も余儀なくされ、シリアスさは影を潜めコミカルになり道化役まで登場し、カップルで楽しむような作品となり本作の真の面白さは消え失せてしまっているのです。引っくり返った足先や電気傘で顔を隠すなどの洒落たシーンは随所に見られますが、原作を面白がった読者としては甚だ期待を裏切られた思いなのです。・・・もっとも、原作を読んでいなければストーリーの後追いなどしなかったでしょうから楽しめたような気もするのですがね。 [ビデオ(字幕)] 6点(2007-02-08 18:36:32) |
55. 鉄路の闘い
《ネタバレ》 ドキュメンタリー調で事の成り行きを追い、特定の人物の内面が描かれていないので歴史的背景を理解していないと内容を把握しづらいです。人物描写を避けたのは個人が先だって関わった不特定多数の人々が埋没しないようにするためや、感情的になり過ぎないため、真実味を帯びさせるためかもしれません。それでも鉄道員たちの圧倒的な活躍やラストに取り戻された列車にフランス国旗がはためく場面を見るとレジスタンス運動員の功績を称えているのが良く分ります。当時の実状や世相を知っているわけではないので軽率な物言いは控えたいのですが、仮に無国籍に置き換えて考えてみるとレジスタンス側のやや一方的な印象を受けます。作戦はことごとく成功し、反撃による死者も犠牲者として美化されたように見えます。もちろん鉄道員たちに捧げられた作品でしょうから当然と言えば当然なのですが、その一視点描写の英雄像という内容は今観るとやはり時代を感じます。 [DVD(字幕)] 6点(2006-11-13 18:22:01) |