41. 私の兄さん
《ネタバレ》 いや、後の長谷川一夫の存在感を考えると貴重な作品ですね。ハンサムボーイなんだけど、台詞がかなり軟弱。まだトーキーが普及しきれてない時期もあるのかな。私も河村黎吉の名演に惹かれました。見た目は普通のおっちゃんに見えるんですけど本当に巧いですね。早逝が悔やまれます。「同年に封切られた『或る夜の出来事』(フランク・キャプラ監督)の影響も指摘された」とNFCの解説にあるようにモダンなシーンがいくつか観れた。お坊ちゃんの林長二郎がお嬢さんの田中絹代を乗せてタクシーで甲州街道で八王子までいくんですが、森林ばかりで「ど田舎」でした(笑)二人で定食を食べる時のやり取りが島津演出の特長なんだと思います。 【NFC田中絹代特集】 [映画館(邦画)] 6点(2009-11-06 00:29:43) |
42. 三十三間堂・通し矢物語
《ネタバレ》 終戦近い中製作された作品ということであまり期待していなかったのですが、良く出来ている作品。頼りない少年が大人の献身により成長を果たすという物語で、主人公の仇役に長谷川一夫を持ってくる事で面白味が益していますね。無駄なカットが少ない(戦時で尺が取れないのが功を奏したのか?)、特に8000本超の矢を放つ時間をどう処理するのか興味深く観ていましたが、巧いっすね。仏像好きなので、冒頭での千体千手観音立像を拝めるシーンは特に貴重(セットということはまずないでしょ)。 【NFC田中絹代特集】 [映画館(邦画)] 7点(2009-11-06 00:19:23) |
43. 血とダイヤモンド
DVD化を強く期待する、東宝アクション映画の隠れた傑作です。悪党らの行き詰るダイヤの争奪戦。最後の倉庫内での沈黙と緊張の場面は60年代の作品としては出来過ぎ!福田純監督は「100発100中」のような作品を撮りながら、こういうフィルムノワールをも撮ってしまう。驚きました。「レザボア・ドッグス」の元ネタのようです。また、観たい作品です。 [映画館(邦画)] 9点(2009-11-02 17:55:56) |
44. たそがれ酒場
ひとつの空間で戦後10年の日本の縮図を描いているんだと思います。本物の歌手を配して、様々な歌が披露されているのが印象に残ります。内田監督じゃなかったら、並の監督だったら持たせる事は出来ないのではないかな。 [DVD(邦画)] 7点(2009-11-01 17:21:31) |
45. 沈まぬ太陽
《ネタバレ》 山崎豊子の映画化となると、どうしても、山本薩夫監督を思わずにはいられないのですが、「不毛地帯」「華麗なる一族」、作者は違うとはいえ「金環蝕」などの作品と比較すると、纏まりが悪い。 事故は起きるべくして起きた、国民航空の信じられない企業体質。この追求が大分甘く感じた。原作では主人公の悲壮な境遇・苦悩に加え、墜落事故を事故を招いた驚くべき企業体質、そして(得意の)政治権力の内幕を逃さずに描くことで壮大なドラマとなっていたのだが、映画ではやや企業実態の描写が散漫にみえる。原作の台詞の「主要部分抜粋」のような感じ、典型像の域でとどまっていた。 3時間以上の時間があるのだから、もう少し企業・政治家の癒着を突く事ができるのではないだろうか。 いつの時代もそうだが、国民よりも自分の保身を優先する企業トップ・政治家、その利権に群がる人間達。その告発的な部分を持つ映画も観たい。 渡辺謙の熱演、彼の悲壮な境遇と決意は伝わったが、もっと「大きな作品」に出来たはず。現在、支援問題が話題となっていますが酷いものです。経営陣の責任は重大です。ただ、その末端で安月給で油まみれになって航空機を整備している者ら多くの末端従業員らの存在も忘れてはならないですね。そう思うと、余計に腹がたってしょうがない。 [映画館(邦画)] 7点(2009-11-01 17:02:53)(良:2票) |
46. 女の子ものがたり
《ネタバレ》 原作も監督も全く知らず、たまたま入った映画館で観た映画でしたが、かなり面白かった。単なる青春映画に留まらず、「しあわせとは?」「友達とは?」と観る者に問いかけていたと思う。 極貧乏のために虐められる友達とも三人になれば仲良し、スカッと晴れた天気で自転車で海に向かって飛ばす、純真だ。そして、時が流れ、将来の生活・結婚を意識し始めた三人に価値観のズレが生じてくる(田舎の世界ですね)。 貧乏で辛い現実を(無意識に)受け入れている二人と、そういう二人に疑問を持ち続けるなつみ・・・進行は同じゆったりとしているんですが、徐々に重い現実が浮かんでくる。で、青春映画にありがちな、雰囲気を出しつつも、三人各々の成長・心境のズレをさりげなく演出していた。世代を越えてもブレていない。これを、計算して演出しているとしたら「この監督やるな!」と思いましたね。 最後に涙をしてしまった。 子役たちの演技もみな素晴らしかった。良作です。 [映画館(邦画)] 8点(2009-10-08 22:34:42)(良:1票) |
47. 父と暮せば
《ネタバレ》 宮沢りえと原田芳雄の会話は、生者と死者という狭間ではなく、宮沢りえの願望にも感じられる。ラストシーンの宮沢りえの台詞と笑顔はマイ邦画史上ベスト3に入る名シーンです。あまりにも痛い苦悩を自ら越えて悟りを開いたかのような彼女の表情にドッと涙が溢れました。菩薩といって良いでしょう。 [DVD(邦画)] 10点(2009-09-22 06:03:25) |
48. 真夏のオリオン
久々に映画館で映画を観ました。太平洋戦争末期の潜水艦モノで「ローレライ」と同じ原作者の作品です。かなり原作をアレンジしている印象。やはり、この時世に「戦争モノ」を造る場合、正面から切り込んでも商売にならないのでしょうか?(改めて硫黄島のすごさを実感した次第)前の方のレビューにもあるとおり、「大衆向け」で「訴えやすい普遍的なテーマ===愛」を前面に出ていると感じた。それはそれで良いのですが、全員・アメリカ兵を含め「性善説」に基づいて役作りがされているような感じが気になった。最後のシーンは「ありゃないだろーよ???」と思ったのですが、「ローレライ」同様、これは原作者の持ち味なんでしょう。その「ローレライ」の原作がとても面白かったのですが、この作品を含め、映画になるとどうしても「各々が戦争と対峙する」観念描写が薄れてしまいます。また、人間に主軸を置いた内容と解っていても、戦闘シーンの船の少なさが凄く寂しく映った。 [映画館(邦画)] 6点(2009-06-17 22:10:58) |
49. おくりびと
《ネタバレ》 納棺師という職業に焦点を当てているんですが、この作品には笑いと涙、そして何より、納棺の儀式がもたらす「尊さ」のようなものに惹かれてしまった。 納棺師は遺族の前で、死者の肉体を浄め、顔には化粧を施す、その所作をじっくりと見つめる遺族、その間各々の「死者への想い」も浄化されるのではないだろうか? また、遺族の<旅立っていく者>への優しさも込められている。 この、様式だった美しい所作を観ている者は、死者を扱っているのに、とても温かいものを感じるはず。 この、「納棺の所作がもたらすもの」の描写。 これが、この作品の核であるのは間違いないが、それでも凄い力を持っていた。 ドラマ的要素は、まるで「納棺儀式」の見えざる力に取ってつけたかのように感じる。 私が興味を引いたのは妻・広末涼子の存在。 現代的な妻で、東京にいる時は普通の妻であり、故郷に帰って暮らすことにも抵抗がない。しかし、夫が納棺師と判明した瞬間、はじめて夫に嫌悪感を見せる。 広末の役の必然性の一つとして「納棺職に対する客観的な視線」というものがあると思う。結局、彼女は銭湯の吉行和子の葬儀に立ち合い、自らその尊さを体験し、また<その事を理解している>本木の所作をも感じ、完全に和解をしている。 この辺りの広末涼子の台詞なき視線、変貌が実に素晴らしいし、また、この「客観的な視線」の存在によって観客をも引き込んだ。広末の視線にはこのような力を感じた。 最後、本木が父親と真に再会し得たのも、儀式としての肉体の浄化だけではなく、彼の「過去に対しての憎しみ」が全て浄化されたからであろう。終盤になると、あの儀式が持つ力を感じさせられるのです(勿論、本人の優しさという前提もあるのだが)。 よって、この作品は「納棺所作」に説得力がないと成立しないのですが、非常に丁寧な撮影振りです。 そして、ストーリーを超越した力を持っている映画と思いました。それは、切り口は違えど黄金期の巨匠小津・溝口らの凄みに迫るものを感じたと言ったら大袈裟か。 更に、バランスが非常に良いのです。 儀式の核心にのみ焦点をあてるとくどかったり、硬かくなったりするのですが、山崎努(最高!)、余貴美子らのコミカル&親近感、チェロ伴奏、庄内平野の四季など作品の幅を広くしている。 強く評価すべき作品だと私は感じました。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-26 15:46:31) |
50. 稲妻(1952)
私的に1・2を争う傑作。 もう皆様が書かれているのですが、成瀬真骨頂といえる題材、動いてなさそうでアクション映画より動いているかのようなカットの素晴らしさ(本当に素晴らしい編集ばかり!!!)。 監督の遊び心かのようなシーンが好きで、川島雄三に小沢昭一が居るように、成瀬巳喜男には中北千枝子が居る。三浦光子と高峰秀子が談笑している軒の外に、赤ん坊をおんぶし、軒を行ったり来たりしている中北千枝子が小さく写っています。寅さんの登場シーンのようで笑ってしまいましたし、中北千枝子の家から帰る高峰・三浦の二人が橋の上で会話するのだが、その後方にある家の二階の窓からしっかり中北千枝子が覗き見していた。 その他にも、今では貴重である銀座の「柳」も観れますし、コミカルなカットから深刻なシーンにおいても様々な技を堪能できる作品でもあります。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-23 23:56:02)(良:1票) |
51. 鰯雲
成瀬監督の演出に精彩を欠くといった印象もあるんですが、何より、この題材は素晴らしい。昔ながらの封建的ともいえる掟に従い頑なに守ってきた地主が、戦後の農地改革によって変貌していく、いかざろう得ない。 家長の葛藤、対する各人の意思を尊重すべし子供達との対立がスクリーンから静かに感じられる。脚本・原作がとても素晴らしい。成瀬独特の<背景⇒人⇒台詞>の流れるカットは狭い日本家屋において絶大なる効果を発揮するが、広い民家が舞台ではどうか。 そのせいか、かなり淡々と演出が続く。 それでも、家長である中村鴈治郎の頑固ぶりにはじめは「敵・反体制」のようなイメージを持ってしまうが、次第に、まさに「鰯雲」のような寂しさのようなものを植えつけさせられた(ワイドカラーでの鰯雲はとても素晴らしい)。 そもそも、あまり自分から動かして作るといった印象のない成瀬監督の演出を考えると、やはり巧いんだなあと思った。 この情感は、これまでの成瀬作品では表現でき得なかった物だと思う。 [映画館(邦画)] 7点(2008-09-23 23:08:21) |
52. アキレスと亀
北野監督はまだ1本しか観てなかったので、とても興味を持って鑑賞しました。 絵画に生きる男の一生(絵画に生きるしかなかった?)の物語。少年期・青年期・中年期と三期を演出していて、フィルムの質感がそれぞれ変えていたのが面白い。 少年期に神童のような扱いをされ「僕、画家でやっていける」と思ったが、売れないまま成長し生きていく。親が死のうが、娘が売春しようが「絵画の道一本!」。樋口可南子と取り組む姿は時にユーモラスに時に痛々しくもある。 これは監督の映画監督人生・決意になぞらえていると考えるのは余計だろうか? 少年、青年の主人公が自分の意思で動こうとせず、何か傍観・浮遊しているような姿がそう感じさせるのですが。 その他いくつか感じる点があり、特に人の死をいとも簡単に、「生きている世界」と同等に描いているなあと強く感じ、他の監督にはない演出に思えた。 台詞・場面の省略もかなり特徴がある。前触れもなく、画を「バッ」と見せる手法は監督の持ち味なんでしょうか。 そんな手法でもって描いた少年期・青年期は情感溢れて良い味があったのですが、後半はその波長が大きく乱れた印象です。まったく、別の作品?と思ってしまいました。 「あんたフェリーニか?」と一瞬よぎりましたが、これは私の感覚がズレているのでしょう。でも、主題は一本であれ、一本の作品としての違和感は拭えない。 作品自体を幸福と取るか取らないかは分かれると思う。 [映画館(邦画)] 7点(2008-09-22 21:50:30) |
53. 次郎長三国志(2008)
《ネタバレ》 久しぶりに新作の映画2本も映画館で観ちゃった。「次郎長三国志」はやはり観なけりゃいかん!と。で、面白かったし、泣けた! マキノ雅弘監督9部作のうち、3部の途中あたりから6部まで、特に6話の部分を取り上げています。どうしても尺の問題があるので「子分との出会い」が入らないのはしょうがない。それでも楽しめた。 この物語はRPGのような個性ある仲間が加わっていく楽しさもあるが、一番はやはり「次郎長一家の連帯」にあると思う。堅気の世界からはみ出したどうしようも人間たち。そんな彼らが「義理と人情」に、惚れて恋して必死に生きる姿。そこに、観るものは泣いたり笑ったりする。それは、50年以上経っても色褪せない「普遍的なもの」であるんだなと私は観て実感しました。 キャスティングも好感です。一人一人かくと凄く長くなるので省略しますが、マキノ版で個人的に弱いと思っていた<次郎長&お蝶の弱さ>を中井貴一と鈴木京香になって、良かった。二人がベタベタかなとも思えるが、鈴木京香美しいねえ。 子分達はみな○、女性陣は 久慈あさみのお仲が高岡早紀、越路吹雪のお園が木村佳乃と豪華になっているが、貢献が少なかったのが残念。「投げ節お仲」は「森の石松」と並んでファンが多いと思うので・・・ でも、やはり時間が限られているからしょうがない。 この作品については、映画内での演技も勿論そうですが、キャスト間の結束が大事なのではないかと思う。それも、結束しているなあと感じさせた。お蝶の最後のシーンが素晴らしく、中井貴一が櫛を口で抜くのと同時にカメラを回して全員の表情を撮っているんですが、「次郎長一家の連帯」をしっかりと演出していた。 個々の登場時間が限られている以上、この連帯はポイントなんだと思う。 マキノ節も引き継がれている。中井貴一が口でお蝶の櫛を抜く仕草はあの独特の色気が出ており拍手。不安な点は、50年版の各エピソードを短縮して繋いでいる内容なので、少し物語が飛び飛びに感じるかもしれない。 久々に庶民的で笑って泣ける娯楽作品に出会ったのかも知れません。 [映画館(邦画)] 7点(2008-09-22 21:27:33) |
54. 硝子のジョニー 野獣のように見えて
《ネタバレ》 私はこの作品を芦川いづみの代表作品に挙げたい(すべての作品を観ている訳ではないが)。「白痴」、そのために人に捨てられてきた彼女の人生。稚内の漁村から売られ、脱走した彼女を列車で助けた宍戸錠を「ジョニー」と呼び、彼にくっ付いていく。 この二人の出会いのシーンだけでも、彼女の存在感に圧倒され、宍戸錠の豪快な男とのやり取りに観るものも引かれていく・・・宍戸錠に必死について無邪気に喜び笑う芦川いづみの表情を見よ!もはや演技という事さえも感じさせない純真な姿。 そんな奇妙な二人の関係も、徐々にせつなさが帯びてくる。逃げた彼女を追うアイ・ジョージョの存在、一人の競輪選手にしがみつく宍戸錠。そして、宍戸錠に結局捨てられ「私をすてないでえ」と無垢に叫ぶ彼女の姿。 そこからは、三人の「さすらいの旅」となるが、三人とも人に裏切られる。北海道(函館)を舞台とした切ない物語へと変貌していく。なにか「渡り鳥」のような、人に裏切られそして流れていく寂しさ、荒涼感が良く出ていた。 構成上やや無理も感じられるのですが、それでも、この三人、特に芦川いづみの存在だけでも観るものに強く訴えるものがあった。凄みがあった。 彼女の純真さが、もっとも発揮されていた。 私が思うに、強引かもしれないが、他の作品は作品に対して彼女を充てているためか、表面上の清楚さしか垣間見れないのだが、この作品は、まるで彼女の魅力を引き出すかの如きシナリオ。その違いを凄く感じたし、彼女の「演技にみえない演技」でもって十二分に魅力が発揮されていたと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2008-09-21 21:58:35)(良:1票) |
55. 青べか物語
《ネタバレ》 この作品はNFCで三度(川島特集2度、アンコール上映1度)鑑賞したほど興味を引いた作品です。というのも、これまでの川島雄三には無い要素が多分に詰まっていたから。 まず、叙情性。かなり反映されている。この作品の舞台は今や「ディズニーランド」が建っている浦安です。原作でも表記があるんですが、この作品が製作された年でもかなり街が変わっている。この作品には、なにか「近代化されて無くなりつつ風景」という意図がみえて、かつてない叙情描写がわかりやすく盛り込まれている。 その湿地帯であり「べか」が並ぶ光景などを捉えた岡崎宏三のカメラがとても美しい。こういう自然描写はこれまでにはないです。そして、左ト全の老船長、山茶花究=乙羽の夫婦、母に捨てられた娘、等々の人物描写にもそんな意図がハッキリとみえていた。 そして、群像劇もこれまでには無かったと記憶してます。一つの建物に住む様々な人間模様(幕末太陽伝、しとやかな獣、貸間あり、雁の寺)など、狭い空間を得意とする監督が一つの街しかも異なるエピソードを繋いだ作品は他にはない(日活時代以降は全て観ているがない)。その内容も尺に上手く収めていると思う。あの時間であれ以上は酷であり、森繁=住人=街の光景のバランスが良かった。 で、この作品は作者(森繁久弥)が浦安の街を見聞するという話であり、主役はあくまで町人であり、森繁久弥云々ではないと思う。 以前(女は二度生れる以前)の作品にはない川島雄三のチャレンジ意識が感じられて、監督も必死に格闘している姿が鑑賞しながら私の頭に浮かびました。 [映画館(邦画)] 8点(2008-09-15 23:37:57)(良:1票) |
56. にごりえ
《ネタバレ》 DVDではなんだか良く解らなかったのだが、文芸座で観て「フィルムの方が遥かに画像・音声が良いじゃねえか」と驚いた。私は「映画的」には第一話が素晴らしいと思う(原作は第三話と「たけくらべ」が好き)。 他の二作は写実的な描写であるのに対し、第一話は叙情味に溢れている。『嫁ぎ先の理不尽な扱いにお関は離婚を覚悟して実家へと帰るが、父に諭されて再び嫁ぎ先へと帰る』という話ですが、彼女が実家の門を出たところからの描写に映画の真価が発揮されていた。 上野広小路(鶯谷あたりから)までの暗い夜道、幼馴染(芥川)と出会うが、彼は落ちぶれているわけです。相手はお関の事を「裕福な家に嫁いだ幸せ者」と思っている・・・が、お関は「そうではない、私もとても辛いの・・・」と訴えたいのだが、言葉にできないまま上野広小路へと着く(右手にはセットながら不忍池が!)、二人の別れの先には全く希望は見えない。今井正はこの二人の刹那の時間そして空間に着目した。映画的だと思う。 第二作・三作ともに良い出来なんですが、二作目はドラマチックにカメラを動かしていたのが面白く、久我美子の行為は『是か否』ということが気になった。 三作目は、原作の素晴らしさに監督が映画化に困ったのではないかと思わせる印象を受けた。山村聡と淡島千景よりもとにかく杉村春子が持っていっているような・・・ 三人の女主人公ともにともかく悲惨です。 ただ、第一作の丹阿弥谷津子が、一番の成功者のようにみえて一番残酷なような気がしました。子供・家族の経済的支援のために半ば奴隷になるかのような決心をし、更に幼馴染の落ちぶれを見、暗い夜道で別れていく。希望が本当にみえない。 溝口健二「浪華悲歌」のラストのような暗さです。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-15 23:10:56)(良:1票) |
57. 黒い画集 第二話 寒流
《ネタバレ》 本日スクリーン最前列で鑑賞しました。私も同感でして、隠れた傑作を発見した気持ちです。いくつか、まず、「作家性を感じさせないところに作家性を感じたところ」に驚きがあり、まぶせさんの素晴らしいコメントのとおり、鈴木監督は非常に手堅く演出をしていると思う。 特に無表情の池部良のシーンは極力科白を排しているのですが、その余白にも科白が流れている。やはり(続けてですみません)、三人が湯河原のホテルに滞在するシーンは際立って良い。 雨の旅館内部屋での三人、襖を閉める池部良、そして布団に横になる(左から、平田・新珠・池部)この構図は見事。三人の関係(出会い・関与・遷移・裏切り)が刻々と変わっていくのですが、このシーンでは新珠の移り気、平田の欲、池部の焦燥を台詞なしで完璧に描写していた。 銀行の組織の暗部をも描いている。 所詮、池部良は支店長クラスの人間、平田昭彦は時期頭取の座の地位に近い常務、この縦社会の構図をも淡々と描いているのも面白い。 終盤、池部良が不正融資をあちこちに触れまわるのだが、ことごとく平田に跳ね除けられる。今ではコンプライアンス機能が動いていれば、すぐさま処罰となるのであろうが、当時はこういう女がらみの不正融資というのはよくあったと聞いていた。 しかも、たしかに不正融資とはいえ新珠三千代の事業が仮に軌道に乗っているのであれば、あのような結末は当然といえるのかもしれない。 『支店長クラスの告発でもって、銀行TOPがグラ付くような組織はたかがしれている。』 正義感のある個人(暖流)を容易く呑み込んでしまう組織の闇(寒流)のようなものが、乾いたフィルムの中に息づいていた。 特に、最後の中村伸郎のあの冷酷な視線は傑作! 池部の復讐が成功に終わったら普通の作品になり得たと思う。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-15 22:55:47)(良:2票) |
58. 家光と彦左と一心太助
これは喜劇として傑作に入ると思うので、私も乗っからせてもらいます。神保町で今、「時代劇特集」をやっていて、今週「中村錦之助小特集」として、「関の弥太っぺ」、「沓掛時次郎」「武士道残酷物語」「真田風雲録」「反逆児」「殿さま弥次喜多」と本作を上映していて、未見作品3作品を観たんですが、この作品が一番好きです。 「ズレ」を交換に使った見事な脚本。「小国英雄流石にやっぱ巧いなあ」と序盤感じた。だって、将軍・家光と江戸の魚屋・一心太助を交換するのだから面白くないわけがない。でも、それ以上に錦之助の演技の幅に感心。「将軍の威厳」と「魚屋のキップの良さ」を見事に演じきっていて、とにかく笑いの連続でした。 あと、進藤英太郎・中川怪奇モノの常連・北沢典子、あと、家光を補佐する役目で一緒に魚屋にいった柳生十兵衛・平幹二朗がストイックながらも時折見せるお茶目さが最高だ。 「くるしゅうない!すておけ!!」の錦之助には特に笑ってしまった。あの陽気さに当時天国に居た山中貞雄や伊丹万作が手を叩きながら笑っていたに違いない。 演出も冴え渡り、江戸の城のよりどっしりとした陰湿な官僚的な世界と魚市場のあの活気あふれる(動きの多さ・早さ)の対比が素晴らしい。魚市場での人の多さとスピード感は川島雄三も唸ったはずだ。 と堅い感想はさておき、多くの人が楽しむ「娯楽時代劇」としては最高峰に入るかと思います。 とにかく観てください(笑) [映画館(邦画)] 9点(2008-04-01 17:32:18)(良:1票) |
59. 真田風雲録
《ネタバレ》 私、こういう作品好きです。前にVIDEO鑑賞で気に行って、今回、スクリーンで楽しむことができた。堂々たる絵巻時代劇的な作品でもいいんですが「真田モノ」は、あのキャラクターからも、製作者の創造力が試される格好のネタであると思う。 ミッキーのギターと猿飛佐助が超能力を使えるというコトを早めに出していたのは正解だと思う。序盤から「変調」な作品であると宣言したほうが良い。 結構、ブラックしていて面白く、真田勇士だけではなく、千姫・秀頼・淀君らも面白く描かれていたのが好感。千姫のダンスシーンでの衣裳、秀頼とのあや取り、最後に渡辺美佐子に言う「要は、捨てられちゃったということなのネ」は最高でした。 あと、「七人の侍」以上に輝いていた真田幸村演じた千秋実。彼を筆頭に楽しそうな笑みを浮かべながら街を「人生50年、カッコ良く死にてえな!」と行進するシーンが特に好きです。 また、ただ、キワモノ作品ではなくて、作品全体に虚無の世の中に「生き様」を求める若い者達の青春群像が統一されていたと思います。 [映画館(邦画)] 8点(2008-04-01 17:03:41)(良:2票) |
60. 関の彌太ッぺ(1963)
《ネタバレ》 スジといい、花などの舞台もあわせて日本的な美しさがあふれる映画ですね。10年前の偶然の出会いと別れ、妹の死を盛り込んだ第一部分は満点に近い。あの50両盗みながらも娘を預けてしまう父役はかなり難しい役だと思ったが大坂志郎が巧く演じてくれたと思う。10年後のシーンはちょっと腑に落ちないところがいくつかあって、10年前に50両をネコババせずに返すほどの(小心ながら)善人であった木村功が、ああも変わってしまうのだろうか?十朱幸代にああも惚れて可笑しくなってしまうのか(ごめんなさい)という疑問がどうしても残ってしまいつつ、クライマックスでは泣いてしまった。 ムクゲの花を間に置き、十朱幸代を思い出させたあの名台詞はやはり素晴らしいし、ラストも素晴らしいです。 [映画館(邦画)] 7点(2008-04-01 16:52:54) |