641. 最高の人生の見つけ方(2007)
《ネタバレ》 オーソドックスで深刻なテーマながらも、手軽に手堅くまとめた佳作。この手の話は予定調和で締めるが、冒頭のナレーションで鑑賞者をミスリードしたり、「最高の美女にキスをする」の顛末も粋だったりと、脚本のお手本を魅せてくれる。一番はジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの対照的な二人。映画と現実の人生を交錯させるような、肩の力を抜いた深みのある好演が映画全体の質を向上させている。賛否両論はあれど邦題は好き。 [地上波(吹替)] 7点(2016-12-09 23:18:51) |
642. ブラインドネス
《ネタバレ》 原作既読。 地の文と会話文を区別しない、改行のない独特の文体が、 目の見えない混沌の世界を的確に表現するにはうってつけだろう。 名前のない登場人物がどんな姿形をしているのか、如何に凄惨な描写なのか、 文字だけの小説ではただ想像するしかない。 問題は目の見えない世界を如何に映像にするか。 ノーベル賞作家の偉大さを恐れたのか、メイレレス監督がドSなのかは知らないが、 万人向けに大幅に脚色できず、 かと言って原作を中途半端にトレースすることしかできなかったのがその答え。 例えば、唯一ヒロインだけが見えているのだから、 極限状態とはいえ屈服するくらいなら王を殺すべきだったし、 全員が(一時的に)失明したのが資本主義に驕った人類への天罰だったら何でもありになってしまう。 寓話と言えばそれまでだが、ディテールの甘い観念ドラマにただただフラストレーションが溜まるだけだろう。 R18指定になるにしてもやるなら徹底的にやれ。 カフカや村上春樹といった非現実な小説と同じで、 文字でしか表現できないものがあることを逆説的に知らされる形になった。 つまらなくはないが、陰惨すぎて二度と見る気がしない。 [映画館(字幕)] 5点(2016-11-26 01:05:26) |
643. 海を飛ぶ夢
《ネタバレ》 尊厳死という重いテーマの割に軽快で爽やかな語り口。 スペインの映画とは思えない、ハリウッド的な娯楽性が見易くさせている。 …とは言っても過剰ではない絶妙なバランス。 実話だがプライバシーの事情で大幅な脚色がされているが故に、窓から海へ飛び立つ幻想的なショットが活きてくる。 もう戻れない自由への憧れが切なくも美しい。 よく「生きているだけで素晴らしい」という言葉が感動的に描かれる風潮は、 狭い世界に押し込められている人間にとって生の肯定ではない。 価値観の強要であり、尊厳を剥奪する行為に過ぎない。 介護だってラモンにとっても家族にとっても負担がかかり、本音ではそれぞれ諦めたものもあったはずだ。 揺れる家族の葛藤に、同じく動かない神父が、マスコミが、スクリーンの前にいる我々が口を出して騒ぐ。 それでもマヌエラはこう言うだろう。 「あなたはやかましいわ」と。 死を選んだラモン、病を受け入れ生きることを選んだロサ、そして新しい命。 この三者三様の想いを乗せて海に還っていく。 答えはないけれど、この"着地点"が深い。 [映画館(字幕)] 8点(2016-11-26 00:49:58)(良:1票) |
644. 潜水服は蝶の夢を見る
《ネタバレ》 「ある日僕は自分を憐れむことをやめた」。この台詞に衝撃を受けた。閉じ込め症候群により、左まぶた以外が動かなくなった元ELLE編集長の、極限の絶望的な心境を考えると非常に勇気が要ることだ。似たような状況の映画で『海を飛ぶ夢』があるが、ほとんどの人だったらラモン・サンペドロと同じ選択をするだろう。成功者と自由人の違いなのかもしれない。他の実話ものとは違い、感動的な演出、過剰な演出は極力避け、危険と隣り合わせの美しい蝶が舞う日常のように淡々と綴っていく。なので、いつのまにか本が出版され、彼の死もテロップだけで済まされる。崩れ落ちる氷棚が逆再生される静かなエンドロール。瞬きだけで言葉を発した男の想像力が無常な世界に抗うかのよう。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-26 00:38:47) |
645. ウォーム・ボディーズ
《ネタバレ》 コアなゾンビマニアなら激怒ものの描写と展開の数々だが、製作スタッフもそのことは想定内で、あくまで異種恋愛ものファンタジーに徹している姿勢に好感が持てる。「ここまで上手くいかないだろ」とか「ゾンビに殺された人もいるのに切り替え早いな」とか目くじらを立てず、ロミオとジュリエットみたいな初々しい恋愛模様を愛でるのが正しい観賞法。ラストは清々しいまでのハッピーエンド。ここまで行くともう乾杯(完敗)です。 [DVD(字幕)] 7点(2016-11-26 00:33:34) |
646. DEATH NOTE デスノート the Last name
蛇足感のあった原作の不満を解消し、前後編できちんと決着をつけたことは評価したい。当然ながら、そこに至るまでのラスト以外は月並み。月(ライト)だけに藤原竜也の成り切れないオーバーアクトが浮いていた。 [DVD(邦画)] 6点(2016-11-26 00:31:07) |
647. DEATH NOTE デスノート(2006)
人気漫画の実写化というものには懐疑的である。特に非現実要素の強いものなら尚更。キャストのほとんどは似てない、オリキャラがある程度露出多め、死神のCGが浮きまくり、原作再現という意味ではお世辞にも良いとは思わない。予告を見た時点であまり期待しなかったが、テレビで軽く見るくらいでなら普通に楽しめた。それ以上の感想が見つからないくらい普通。 [地上波(邦画)] 5点(2016-11-26 00:27:52) |
648. ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版
《ネタバレ》 監督からすれば強い思い入れがあったのだろう。その思いが強いほど、説明過多に詰め込まれたエピソードの数々が映画全体のバランスを破壊し、集束しないままラストの感動がぼやけてしまう。ストーリー的にある意味リアルかもしれないが、キスシーンを検閲でカットするように行間があるからこそ、いろんな解釈が生まれて面白いはずなのに。劇場公開版の感動を無に帰してしまうほどの破壊力で、逆に完全版を見ていたらダメージが少なかったかもしれない。良レビューに「大は小を兼ねない」というコメントがあったが、長ければ良いって訳ではないことをこれほど実感したものはない。 [DVD(字幕)] 5点(2016-11-10 22:11:32)(良:1票) |
649. ブラックホーク・ダウン
《ネタバレ》 戦争映画の新たな地平線を切り開いた『プライベート・ライアン』以後、その影響を受けた戦争映画が数多く生まれたが、フォロワーとして成功したのはこの映画のみ。『プライベート~』と明らかに違う点は、製作年から8年前の最近の事件を扱っていることと、物語性を最小限に抑えた無秩序な市街戦が延々と続くことにある。完全にアメリカ寄りのため、ソマリア側の扱いがエイリアンやゾンビだと批判されても仕方ないが、そもそも宗教的死生観が違う上、極貧でほとんど教育を受けてないのも多いのではないか。『硫黄島からの手紙』みたいに精神構造を理解できない描き方だったら逆に違和感がある。ラストの「仲間のために戦う」という台詞がいろんな解釈ができて印象に残った。極限状態で思考が削ぎ落とされ、ああでも言わないと正気を保てない焦燥感が滲み出ていた。いずれにしても、アメリカがソマリアから撤退して平和が訪れたか? 否、監視する体制がなくなり、『ホテル・ルワンダ』で描かれたルワンダ大虐殺を引き起こす遠因にもなってしまった。アフリカを変えてしまった欧米(もしかしたらそれに准ずる日本も)には大きな責任があることを、ポピュリズムが蔓延る世界だからこそ認識しなければならない。 [映画館(字幕)] 8点(2016-11-10 22:03:28)(良:1票) |
650. それでもボクはやってない
《ネタバレ》 法を噛み砕き分かりやすく、上質なエンタメに仕上がりつつも、最高の居心地の悪さを提供する。電車通勤ではない自分にとって対岸の火事であるが、その渦中にいる人にとって毎日が下手なホラーよりも恐ろしい。仮に無実を晴らせてもそれに費やした金銭と時間は帰ってこない。冤罪の男性も被害者の女性も浮かばれない。今作は就職活動中の若者だからこそ2時間半で描けたが、家族持ちの会社員だったら連続テレビドラマにせざるを得ないほど、事の複雑さが、歪みが浮き彫りになっている。痴漢冤罪を劇的に減らしたい気骨ある政治家はいないだろうし(そもそも電車通勤しなさそう)、自分の身は自分で守るしかない諦念が漂う。そういう意味では自動車免許の教習ビデオに近いものを感じた。 [DVD(邦画)] 10点(2016-11-10 21:57:06)(良:1票) |
651. ディーパンの闘い
《ネタバレ》 これがパルムドールか・・・『預言者』に続き、フランスに押し寄せる難民問題に焦点を当てるも切り口が平凡。家族と偽りパリに渡った赤の他人三人が如何にして日々を生き抜いているのか、ニュースでは表面的に描かれているだけに関心はあった。しかし、こうも簡単に順調に生活が上手くいくのか疑わしい。二人の"夫妻"がくっついたり衝突するのは描かれていても、"娘"の描写が希薄でいつのまにか影が薄くなっていく始末。次第に積み重なっていく不穏と鬱屈が爆発するアクションのシークエンスは、主人公のみ見せて他はあまり映さないスタンスで、彼のPTSDを追体験させるつもりでも、直後に取ってつけたハッピーエンドのアンバランスさに違和感。イギリスに着いてめでたしとは限らないのに、主人公の妄想なのかひとときの安堵なのか狙っているの? パリ同時多発テロ、イギリスのEU離脱後では呑気にこんな映画は撮れないだろう。エンタメ寄りのオーディアールにしては詰めの甘さを感じる。 [DVD(字幕)] 4点(2016-10-31 21:48:01) |
652. ミリオンダラー・ベイビー
《ネタバレ》 この映画には三種類の人間が存在する。才能と実力があり一瞬でも輝いたが潰された人、才能も実力もなく有言無実行で終わっていく人、参加せず野次を飛ばすだけの人──ベクトルは違うにせよ、いずれも敗残者であることは共通している。アメリカンドリームに破れて去っていった人を多く見続けてきたイーストウッドだからこその冷徹さで、希望すら持てない閉塞感が現代アメリカに蔓延しているのは周知の通り。公開から10年以上たった今でも通用する答えのなさ。あのときこうしていれば・・・と嘆いていても、誰も未来など見通せない。神も仏もない。ただ、覚悟を背負って何かをしなければチャンスがやってこないのは事実。たとえ何者にもなれなかった何もない人間のまま、生活のためだけにやりたくもない雑務に追われて、困窮の中で孤立死したとしても、生きた証すら誰も知らないまま塵のように消えていくにせよ、その人生を肯定するか否かは当人が決めること。尊厳と自己満足は紙一重。イーストウッドが言いたいのは単純にこういうことじゃないか。 [映画館(字幕)] 9点(2016-10-31 21:29:21) |
653. 君の名は。(2016)
《ネタバレ》 新海誠と言えば、影のある若者が自分の苦悩に酔っている筋書きをセンチメンタルな映像美で被せている、世界観第一で物語は二の次というイメージだった。しかし、今作は表情豊かであっけらかんとした登場人物に、非常に娯楽性が強いあたり、監督の転換点・新境地と言える。だからこそ、手垢のついた入れ替わりものとギャグシーンで占める序盤の印象が強いほど、311が頭によぎる中盤に意表を突かれ、やがて未来改変ものにシフトチェンジしていく構成は巧い、引き込まれる。と同時に欠点も少なくなく、なぜ二人はタイムラグに気付かなかったのか、どうして二人は入れ替わったのか(共に母親不在の設定が気になる)、如何に三葉の父親を説得出来たのか描かれていないために、良くも悪くも世界観第一の監督らしい。未来を改変出来ても、村が消滅して故郷を去らなければならないことには変わらない。それでも新たな出会いがあり、新たな希望も残されている。過去作のようにすれ違いを続けてきて終わる不安もよぎったが、階段での再会、またすれ違い、ふと振り返って、そして『君の名(前)は。』──この演出に鳥肌が立った。これ以上の結末も、この先の物語もいらないくらいに。 [映画館(邦画)] 8点(2016-10-17 22:04:49) |
654. ダラス・バイヤーズクラブ
《ネタバレ》 差別主義者のロクデナシがHIV患者の救世主になるまで。確かに品行方正ではなく、HIVになったのは完全に自業自得。ただ、根は悪くないのだろう、意外にも図書館で猛勉強して問い詰めたり、強がってても死の恐怖を感じたりする。そして差別主義者が差別される立場に回ることによって、人として忘れかけたものを取り戻していく姿は、皮肉にも成長物語として見れなくもない。実際は生きることで手一杯で、気が付いたら体制側との戦いを支えてくれる仲間がいた程度かもしれないが、結果的に多くの人を救うことになり、単純な善悪では片づけられない爽快感があった。マコノヒーとレトの骸骨のような窪んだ目の奥から発する強い眼差しが、痩せこけた肉体に魂を宿し、生への執着をフィルムに焼きつける。かつて傍観者として他者を嘲笑していた男が、今度は参加する側として危険なロデオに身を投じる。精一杯生きた彼を誰が嫌味を言うことができようか。 [映画館(字幕)] 8点(2016-10-17 20:33:02)(良:1票) |
655. 処刑人
《ネタバレ》 兄弟が執行する→現場に刑事が来る→刑事が再現・推理する 最初は新鮮に映えるもこう繰り返されるとテンポが悪く、冗長な印象が否めない。イケメンな兄弟が神の代行人として悪人を殺しまくる過激な設定は面白そうだが、ミスマッチなオープニングといい、スタイリッシュと勘違いしたキレのないアクションの数々にはタランティーノにも及ばない。ロッコがさらにテーマをややこしくさせているように見えた。詰め込み過ぎて贅肉ありすぎだ。エンドロールのインタビューで消化不良が頂点に達した。続編は見ない。 [DVD(字幕)] 2点(2016-10-05 00:37:39) |
656. アトランティスのこころ
《ネタバレ》 『スタンド・バイ・ミー』と『グリーンマイル』が合わさったような小品。派手さはないが、少年の自立と成長を堅実に見せる。それでも両作の劣化セルフコピーに見えて印象が薄かったのも事実。主人公を導くアンソニー・ホプキンスは余裕のある演技。後に『スター・トレック』で飛躍する主役のアントン・イェルチンが事故死するとは誰が想像したことか。ラストの自転車のシーンがその後を暗示をするようで、複雑な気持ちになる。 [DVD(字幕)] 5点(2016-10-05 00:33:28) |
657. 預言者
《ネタバレ》 アラブ系の青年がギャングのボスとして頭角を現すさまを、預言者ムハンマド誕生になぞらえて描いた本作。カンヌが好む社会派要素はあれど、意外と見易い娯楽作品に仕上げている。自身のアイデンティティーに背いてコルシカ系マフィアに組み込まれざるを得ない主人公は、処世術を学び、情けない青年からしたたかな男になっていく。その主演の演技が見事。イスラムの礼拝、飛行機の搭乗シーンといった目の前の世界が広がっていく演出が印象に残る。ただ、結局は刑務所に入れられても更生せずに図太い犯罪者にランクアップするだけ。純フランス人が登場しないのも今のフランス社会そのものの歪みを映し出しているよう。己のアイデンティティーと居場所・・・そこに一つの答えもないから、グローバルなのに閉塞感のある矛盾が刑務所に集約されている。 [DVD(字幕)] 7点(2016-10-05 00:30:27)(良:1票) |
658. EUREKA ユリイカ
《ネタバレ》 偶然とはいえ、製作年に発生した北九州のバスジャック事件を思い起こさせる。そして事件に心に傷を追い、殺人者と化した少年が実在の事件とオーバーラップした。モノクロフィルムをカラーで現像したセピア色の世界が、あやふやに彷徨う当事者の心象風景として映えてくる。同じく重い過去を持つ兄妹の従兄をバスから追い出す運転手の心境は常人には理解できない。どんな人間にも犯罪に手を染めるのには理由や背景がある、と言いたいのだろう。ともすれば、タイトル、映像、演出、全てにおいて娯楽とは対極の本作もまた、観客とは隔絶された世界に向かってしまうわけで。壁ノックが象徴するように、コミュニケーションの不通が本作のテーマだとしたら、寛容か拒絶の二極でしかない現代社会において、それ以外の道を探るこそが【ユリイカ】=【発見】そのものかもしれない。 [DVD(邦画)] 5点(2016-10-05 00:27:55) |
659. 六月の蛇
カラーだったら下品だし、かといってモノクロでは物足りない。 そのどちらでもない青いモノクロが、女の内なる性をエロティシズムあふれる美の世界へと解放させる。 ストーカーの顛末等、分かり辛い個所は少なくない。 それでも青い画面が閉塞感あふれる6月の東京に湿り気をもたらし、追い詰めるようにじんわり濡らしていく。 再び性に目覚めていく女が美しい、ただただ美しい。 [DVD(邦画)] 8点(2016-10-05 00:24:01)(良:1票) |
660. 高慢と偏見とゾンビ
『高慢と偏見とゾンビ』・・・なんてそそられるタイトルなんだろう。 『死霊の盆踊り』並みに絶妙である。 元ネタを知らないと面白さが理解できないとのことで『プライドと偏見』で予習してから観賞に挑んだ。 格調高さとB級感を両立させようとすると普通の映画になってしまって却って難しいなと。 18世紀当時を再現したセットもそれほど豪華絢爛に見えず、低予算ならではの妥協もあったのかもしれない、 真面目さを通り越してのギャグ(=シリアスな笑い)が不完全燃焼だった。 原作が8割方ジェーン・オースティンの原文とのことで、そこを熟知しないとかなり厳しいかと。 それを抜きにしてもアクションとしては普通に面白い。 [映画館(字幕)] 5点(2016-10-05 00:21:38) |