681. マンハッタン無宿
《ネタバレ》 むかしTV放映で観ているはずなのに、ストーリーも何も全然記憶に残っていない、おかげで新鮮な気持ちで観ることができました(笑)。マカロニ映画界隈から復帰したころのイーストウッドですが、当然ながら若いですし何より「こんなにイーストウッドってイケメンだったっっけ」と感嘆するほどの美男子ぶりです。なので、まるでジェームズ・ボンドばりに出会う女性とヤリまくる展開はもっともです(納得するな!)。よく“西部劇の現代版”とか“ダーティハリーの原型”とか本作は評されることが多いですが、私にはどちらも適切な評だとは思えません。だってNYで早々に拳銃を奪われるし、劇中イーストウッドはガンを撃つことはおろかずっと丸腰だったわけで、普通の西部劇や刑事ものの主人公としてはあり得ないでしょう。おまけに格闘してもほぼイーストウッドは全敗、これじゃあ私の記憶から欠落してしまうの無理ないです。私の中では“イーストウッド=ガメラ”という分類なんですが、その心は“どちらも相手と闘うときはけっこうダメージを受けて血を流す”なんですが、本作のイーストウッドはいくら何でも弱すぎでしょ。極めつけはラストの犯人逮捕で、バイク転倒でダメージくらったけど、いったん逃げ切った犯人がパトカーを見て引き返したおかげ(なにも同じところに戻ってこなくても…)じゃないですか。そもそもこの犯人がどんな罪を犯したのかすらスルーしているから、イーストウッドがなんで無茶してまで病院から連行しようとするのか理解しづらいし感情移入もできません。 よく考えると、この映画の中では誰も死んだり殺されたりしませんでした。こんな刑事アクションは非常に珍しく、当時の“Love & Peace”の社会風潮を反映させた脚本だったのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2019-04-09 23:24:16) |
682. かわいい毒草
《ネタバレ》 この映画を要約すると“妄想癖の男とサイコパス女のボーイ・ミーツ・ガール物語”というところでしょうが、アンソニー・パーキンスはどちらかというと統合失調症と見た方がよく、製作者側もパーキンスを“精神病院からでてきたノーマン・ベイツ”と観客に感じてもらうことを期待しているのは見え見えです。ハリウッドを逃げ出して『サイコ』から8年ぶりに復帰したキャラがこれで、完全にハリウッドでの彼の立ち位置が決まってしまったわけで、ちょっと可哀そうともいえます。彼は中盤以降で完全にサイコパスJKであるチューズディ・ウェルドに翻弄されることになるのですけど、主演カップルがどちらもヘンという設定が逆にサスペンスを弱めることになってしまったのは歴然です。サイコパス少女が主人公というと『悪い種子』がどうしても連想されますが、チューズディ・ウェルドは『悪い種子』のパティ・マコーマックの映画史に残る邪悪さには足元にも及びません。もはや完全にあっちの世界に行ってしまったけど、彼女の罪をかぶってムショにぶち込まれることを選択するパーキンスがちょっと哀れすぎます。それでも自分を唯一理解してくれる保護司には、禅問答のような会話で「あの女から目を離すな」というメッセージを伝えるところなんかはパーキンスの上手さが垣間見えました。 チューズディ・ウェルドという女優はローティーンのころに起用された“セブンアップ”のCMで物議をかもして一躍有名になったそうです。取り調べのシーンで刑事からコカ・コーラ(さすがにセブンアップではなかった)をわざとらしい感じで勧められチラッと笑顔を見せます。これは米国人の観客ならだれでも判る楽屋落ちなんでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-04-05 23:43:38) |
683. ロリ・マドンナ戦争
《ネタバレ》 アパラチア山脈のふもとで暮らすフェザー家とガッシャル家はお隣同士(山の中だから土地は隣接していても家自体は数キロ離れている)、農業や牧畜で生計をたてるいわゆるヒルビリーと呼ばれる人たちです。フェザー家の家長はロッド・スタイガーで家族構成は夫婦と五人の息子、同じくガッシャル家はロバート・ライアン夫婦と四人の息子と娘が一人。牧草地の権利をめぐってとくに親父同士は非常に仲が悪いが、子供たちはフェザー家の次男とガッシャル家の娘がつきあってたりしている。ここでガッシャル家がつまらない悪戯をフェザー家に仕掛けます。フェザーの兄弟がガッシャルの郵便を盗んでいることを逆手にとってロリ・マドンナという架空の娘が長男に出した偽ラブレターを盗ませます。この悪戯がたまたまバスの乗り換えのために当地に降りた無関係の娘を巻き込み、事態は血で血を洗うとんでもない事態になってしまいます。 プロット自体は『ロミオとジュリエット』を思わせるところもありますが、どちらかというと国家間の紛争が発生するシステムを暗喩していると考えた方が正解でしょう。公開当時は「この映画はベトナム戦争をあてこすっている」と評されたそうですが、それも正当な観方でしょう。経済力としては廃車寸前のピックアップ・トラックが象徴するようにフェザー家の方が劣勢で(ガッシャル家は時代にあったステーションワゴン)、これにはロッド・スタイガーの個性も原因の一つです。彼はとても偏屈で暴力的なキャラで、ここまでひどくなってしまったわけが物語の後半で明らかになりますが、ここは名優ロッド・スタイガーの演技を堪能してください。フェザー兄弟にはジェフ・ブリッジスやエド・ローター、そしてランディ・クエイドといった有名俳優(今となってはですが)がいますが、やはりジェフ・ブリッジスとエド・ローターは光ってますね。ガッシャル兄妹にはゲイリー・ビューシィがいますが、あのゲイリー・ビューシィが両家の和平交渉役を買って出る登場人物の中でもっとも平和的・理性的なキャラを演じているというのが面白いです。けっきょく男手の差がものを言ったのか、母親まで殺され兄弟全滅で娘は家を飛び出して去るというガッシャル家の敗北という感じですが、フェザー家も父親が長男を殺してついには廃人のようになってしまい、これはもう勝った負けたの問題じゃ済まないところまでエスカレートした空しい、いかにもアメリカン・ニューシネマの時代らしい幕の閉じ方でした。 実は原作小説は実話をもとにしていて、ハットフィールド家vsマッコイ家の10年にわたる抗争としてアメリカ史では有名なんだそうです。2012年にはケヴィン・コスナー主演で“Hatfields & McCoys”としてTVミニシリーズ化されています。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-03-31 22:41:05) |
684. バッジ373
《ネタバレ》 本作も『銃犯罪特捜班/ザ。セブン・アップス』と同じく『フレンチ・コネクション』のスピンアウトとみなしてよろしいんじゃないでしょうか。『フレンチ・コネクション』のドイル刑事のモデルとなったエディ・イーガンが原案を出し準主役級で出演までしています。自身をモデルにした主人公キャラはロバート・デュバルが起用されています。 刑事ものにしては妙に社会派ぶったお話しで、悪役はプエルトリコ人のギャングとプエルトリコで革命を起こそうとたくらむ過激派です。ここら辺の事情は、作家のピート・ハミルが脚本に参加しているのが影響しているのかもしれません。ロバート・デュバルが演じるエディ・ライアン刑事が麻薬捜査の手入れで追い詰めたプエルトリコ人のチンピラが転落死してしまい、この手の映画でお約束の停職になるところからスタートです。停職中に相棒刑事が殺害され、拳銃どころかバッジすら持ってないのにライアン刑事は勝手に捜査し始めます。 この映画は脚本だけじゃなく、そもそもロバート・デュバルを主演に持ってきたことが最大の失敗です。もちろんこの人は名優ですけど、刑事役でアクションする柄ではないってことです。考えるに、カーク・ダグラスやバート・ランカスターが盛りを過ぎた70年代は、ハリウッドでアクションがさまになる大物中年男優がほとんどいなかった時代だったんじゃないかな。しいて言えばそのポジションを守っていたのはバート・レイノルズぐらいかもしれませんが、ちょっと小物(失礼)ですよね。この状況は80年代にブルース・ウィリスがブレイクするまで続いたわけです。デュバル本人にやる気があったのかは疑問ですが、犯人を追っかけたりする最低限のアクションも鈍重なんです。またこの刑事にはいい面でも悪い面でも感情移入できる要素が皆無なのが弱みです。唯一のアクション見せ場であるデュバルが運転する路線バスと追う過激派とのカーチェイスも、彼が勝手に乗り込んできて乗客を乗せたまま逃げ回るんですから、乗っている方としてはたまったもんじゃありません。けっきょくバスから引きずり降ろされてボコボコにされてしまうんですから、観ていてほんと疲れます。 社会派的な要素があるのでラストの結末にはカタルシスはゼロ、でもラストショットだけは『ダーティハリー』のモロパクリ、なんとも志の低い映画でした。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2019-03-29 23:43:40) |
685. ノック・ノック(2015)
《ネタバレ》 これはあのカルト映画『メイク・アップ』の完全なリメイクですね。オリジナルのイカレ女コンビのソンドラ・ロックとコリーン・キャンプがそれぞれ製作陣で参加していますし、コリーン・キャンプはワン・シーンですが出演すらしています。それがまた驚くような変貌ぶり、完璧なメタボ中年おばさんですからねえ。最近はプロデューサー業に進出しているそうですが、『地獄の黙示録』のミス五月がここまで行くとはもう絶句です。あとオリジナルの監督まで製作総指揮ですから、これはまるで同窓会ですよ。それをカルト映画のリメイクが趣味みたいなイーライ・ロスが撮っていますのでその不快感は当社比120%、これは『ファニーゲーム』を超えてるんじゃないかな。 ここまで弱っちくて情けないキアヌ・リーヴスを見せられたら、女性ファンは悲鳴を上げるでしょう。ふつうのハリウッド・セレブならこんな役オファーが来たら即拒否でしょうが、キアヌ・リーヴスは自ら製作総指揮で陣頭に立つぐらいですからやる気満々、この人実はマゾ性癖なんじゃないでしょうか(笑)。こういうキャラは影で悪事を働いていたりして何かしら弱みがある設定がふつうですが、この映画のキアヌくんはあまりに非の打ち所がない善人なので、あまりの理不尽な仕打ちをされるのを見せられると、同情よりも糞女たちへの怒りが倍加させられます。どこかで反撃に移りジョン・ウィック化するはずだと誰もがハラハラしながら観続けると思いますが、イイ線行くかと思わせておいてキアヌくんは肝心なところではドジを踏んでばかり、あの無情なラストはそれこそ『ファニーゲーム』に通じるところがあります。ちょっと疑問だったのはイカレ女たちがキアヌくんの友人を殺しちゃってるところで、もし殺しがなかったらあのラストは超絶ブラックですけどブラック・ユーモアとして閉じることもでき、その方が後味が良かったんじゃないでしょうか。私は未見ですが話によるとオリジナルのラストはちょっとスカッとするそうで、そこを踏襲しなかったのはいかにもイーライ・ロスらしい感じがします。 最近知りましたが、ソンドラ・ロックは昨年11月に亡くなったそうです。でも今年のアカデミー賞授賞式の追悼コーナーでは取り上げられていませんでした。イーストウッドと揉めたので、アカデミー協会に嫌われていたのかな、でもちょっと寂しいですね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-03-27 23:39:49)(良:1票) |
686. 魔界転生(1981)
《ネタバレ》 この映画を製作後40年近く経っても人々の記憶に残っているのは、やはり千葉真一の柳生十兵衛と沢田研二の天草四郎の対決というインパクトがなせる業でしょう。千葉真一の十兵衛はこの映画で四度目のとなる彼の当たり役、でもこの一作しかないんですけど沢田研二の天草四郎も映画スター・ジュリーが演じたもっとも有名なキャラとして日本映画史に君臨しています。本作でのジュリーの存在感は半端なしで、真田広之とのキス・シーンまでありその妖艶な色気はクラクラさせられます。原作を大胆にアレンジしたストーリー(細川ガラシャまで登場させるところなぞ、原作者の山田風太郎は絶賛していたそうです)には、江戸時代初期の有名人や事件がてんこ盛り状態、佐倉惣五郎や刀匠村正まで登場し最後は明暦の大火で江戸城天守閣炎上ですからねえ。この炎上する江戸城内での十兵衛と但馬守の柳生親子対決の迫力といったら壮絶です。若山富三郎といえば殺陣の技は日本映画史上ナンバーワンとの呼び声ですから、千葉真一との対決はまさにドリームマッチです。このシーン、炎上する室内と役者の合成が偉く上手いなと感心してたら、なんとほんとにセットを燃やして撮ったそうで、もうクレイジーとしか言いようがないです。そんな危険な現場で無傷でチャンバラできるのは、そりゃ千葉真一と若山富三郎しかいませんよ、ジュリーに至っては軽く火傷したそうです。 この映画こそ、毀誉褒貶のある角川映画が残した最高傑作だと思います。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2019-03-23 23:32:51)(良:1票) |
687. 水爆と深海の怪物
《ネタバレ》 正体不明の何かに捕まって九死に一生を得る危機にあった原子力潜水艦、つかみはまあOKです。ところがこの原潜艦長が真相究明をほったらかして女性科学者とイチャイチャし始めるから、観てる方とすればもうドン引きです。この女性も、これまた無駄にイケメンの同僚博士ともそれっぽい雰囲気で、開幕10分でもう「なんなん、これはいったい何の映画なの?」と絶叫したくなります。いきなり三角関係を見せられるとは、特撮モンスター映画にしては珍しい展開です。肝心のタコはサンフランシスコ上陸の場面でその全貌が明らかになりますが超巨大タコでしかも六本足、いくら何でもデカすぎだろ。このタコは放射能で巨大化したわけではなく、水爆実験でフィリピン海溝の生活環境が破壊されたので浅海に出現したという不自然な説明(いちおう放射能は帯びた体にはなっている)、「最近はなんでも水爆のせいにしたがる」なんてセリフまであります。これは撮影に協力してくれた軍部というか海軍に忖度した結果だと推測できますが、けっきょく大ダコ退治に活躍したのは海軍だけで陸軍の登場はないも同然という展開には苦笑させられます。ハリーハウゼンは低予算ながらも精一杯頑張った仕事ぶりですが、いっそのこと水爆実験で放射能を浴びて巨大化し六本足に突然変異したという説明の方がすっきりしたと思います。最後は原潜が魚雷を撃ち込んで大爆発というのが大ダコの最期ですが、「JAWS」のサメの最期はスピルバーグのこの映画へのオマージュなのかもしれません。 「タコが主役の怪獣映画は駄作しかない」というのが私の持論ですが、この元祖タコ怪獣映画にも見事にあてはまりました。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2019-03-19 22:38:55) |
688. マッドマックス 怒りのデス・ロード
《ネタバレ》 屈辱の『サンダードーム』から30年、突如としてマックス・ロカタンスキーが我々の前に帰ってきた!老いぼれてしまったメル・ギブソンは当然使えないとして、二代目マックスを拝命したのがトム・ハーディ、まるでこの人はマックスを演じるために俳優を職業にしていたかのような馴染み具合です。冒頭でいきなり愛車を分捕られて泣き別れ、鉄格子のマスクをつけられて人間輸血袋にされるなどはけっこう今までのマックス像を塗り替えるような展開でした。そしてシリーズの特色だった女気のなさもシャリーズ・セロンや美形アマゾネス(?)を活躍させることでついに汚名返上となったわけです。でもそんな俳優たちの演技に目を向ける余裕がないほどの驚異的なカット数、映像の放つ情報量はすさまじいレベルに達しています。もちろんCGのヘルプもありますが異形のバギー&タンクローリー&バイクの実車を使った迫力は息をのむほどで、そもそもこの映画の三分の二は疾走シーンなんじゃないかな。マックスにフラッシュバックする過去やフュリオサが片腕を喪失した事情など、細かいことは敢えて語らないストーリーテリングも好きです。 ほんとに「行って帰ってくる」だけの単純なお話しなんですがこれは『2』以降に共通したコンセプトで、それを35年かけてここまで昇華させたジョージ・ミラーは大した奴です。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2019-03-18 21:48:39)(良:1票) |
689. アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場
《ネタバレ》 邪道だと判ってますけど、100分程度の映画なのにあまりの緊張感に圧倒され時間をかけて三回にわけて観ることになってしまいました。これを映画館で観ていたら、最後まで席に座っていられる自信は私にはありません。ここまで緊張感で圧倒された映画は今まで『未知への飛行』しかありませんでしたが、よく考えるとこの映画は『未知への飛行』とストーリーテリングに共通しているところがあります。第三次世界大戦勃発の危機を会議室と作戦室だけを舞台にして描いているのが『未知への飛行』ですから、誰からも攻撃を受ける危険のない英米の三か所から軍事作戦を遂行する本作の製作意図が影響を受けていることは間違いないでしょう。さらにこの映画ではハラハラドキドキ要素が強烈なので、緊迫感が半端ない水準にまで強くなっています。そのハラハラ要因は言うまでもなくパン売りの少女の運命ですが、あの結末はハリウッド映画では絶対にありえないでしょう。 「誰もが真面目に職務遂行しているのに、その結果はとてつもなく後味が悪い」というのが両作のエッセンスですが、本作の場合はそこに官僚的な責任転嫁という人間的な弱さも登場キャラの言動に加味されているので、よりリアルです。ここにはヘンリー・フォンダが演じる大統領の様に、途轍もなく過酷な決断を下してその責任を背負い込むような人物は存在しないのですけど、それこそが現実というものでしょう。 現代のハイテク戦争の一端がうかがえるのは興味深かったです。中でも“偵察用ロボ昆虫”には驚きました、本当にこんなメカが存在するんでしょうかね。そして考えさせられたのは、また昔に戻るかもしれないけれど、現在進行中の対テロ戦争はもはや古い戦争という概念が通用しない警察活動に近い代物なんだということです。“非対称戦争”という概念がありますが、敵には殺意いがいは大した武器を持たず低速で飛ぶドローンを撃墜することすらできない。地上兵力を投入して徹底的にやれば必勝ですが、大国は人的損害というリスクがとれないので指揮官だけじゃなく兵士までもが安全な職場から攻撃するわけです。これでは人命になんの価値も持っていない集団と戦っても勝利できるのか疑問です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2019-03-14 23:20:00)(良:1票) |
690. カメラを止めるな!
《ネタバレ》 製作費が300万円ということですが、ほとんど映画らしい手間をかけていないPOV映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の6万ドルや『パラノーマル・アクティビティ』の1万5000ドルと比較すれば予算の割には登場人物も多くて普通の映画だと思います。逆に言うと、300万円でこれだけの映画が撮れちゃう日本の映画製作状況が心配になります。俳優さんたちはギャラなんてほとんどもらってないんじゃないかな。 冒頭の長回しの他はとくに目新しいアイデアは使われていないけど、映画として普通に面白い。「ネットで話題沸騰!」ということで大ヒットしたわけですが、若いネット民やマスコミには長回しというスタイルがよほど新鮮に感じたみたい、ヒッチコックなんか70年も前に全編ワンカットという手法(厳密にはワンカット風)で『ロープ』を撮っているのを知らないみたいです。私はそれよりも、全編に映画愛が濃厚にあふれているところが気に入りました。トリュフォーの『映画に愛をこめて/アメリカの夜』の日本版がついに誕生したとさえ私は感じています。ラストで人間ピラミッドが崩れた後に俳優たちが見せるさわやかな笑顔には、胸がキュンとしてしまいました。 最近の地上波では血が画面に映るのはご法度で放映できない映画がたくさんあると聞いていたので、劇中劇のフェイク・ブラッドとは言えこれだけ流血シーンや首チョンパまである本作が放映されたことには驚きです。数字が稼げてスポンサーがつくなら原理原則なんて糞くらえというというのはいかにもTVらしいところですが、そんならもっとゾンビ系やスプラッター系を放映しろよと言っておきます。もっとも自分としては、地上波で映画を観ることは滅多になくなってますけどね。 [地上波(邦画)] 8点(2019-03-10 21:41:01) |
691. 太平洋戦争 謎の戦艦陸奥
《ネタバレ》 戦艦陸奥は、ワシントン条約が有効だった1930年代まではビッグ・セブンと呼ばれた世界に7隻しか存在しなかった40センチ砲を装備した最強戦艦の一隻、大和・武蔵が国民には秘密にされていたので、長門と陸奥は戦前では日本人なら誰でも知っていた海軍のシンボル的存在です。そんな陸奥ですが昭和18年に瀬戸内海に停泊中に大爆発を起こして沈没、1000人以上の犠牲者を出しました。実は旧海軍では明治時代から爆沈事故が定期的に起きていて(三笠も実は爆沈事故で一度沈んでいる)戦艦クラスでは陸奥が5隻目、これは他国の海軍では見られない旧帝国海軍の最大の恥部だと言われています。けっきょく海軍の秘密主義もあり徹底的な調査はされず陸奥の爆沈は原因不明となりましたが、他の4隻と同じく人為的な要素が原因(つまり放火ですね)じゃないかとも言われているけど真相は不明です。 その陸奥の爆沈事故を唖然とするようなミステリー仕立ての大胆な脚色で映像化したのが本作、これは日本戦争映画史に残る怪作です。よく「虚実織り交ぜて」といわれる手法がありますが、この映画の場合「虚」だけでなく「実」の部分までいい加減な脚本なので疲れます。まずミッドウェー海戦のところから話が始まりますが、セリフで何度も「空母が6隻沈められた」と出てくるので唖然、ナレーションの方では正しく4隻としているので、この映画の雑さが判るというもんです。その後陸奥は内地に還って出撃しないわけですけど、それは史実とはかけ離れています(実際には戦闘に参加こそしていないが、南洋と内地を数往復していた)。その間の戦争進行の状況がまるでフィクション、なんか仮想戦記を見ている感じすらします。特撮もかなりの低レベル、冒頭では53年の『戦艦大和』の特撮戦闘シーンが流用されてますが、なんでここに大和が出てくるの?おまけに7年前の映画よりどう見ても特撮技術が退化している。そんなことはまあ可愛いもんで、ぶっ飛ばされるのが肝心の「虚」のパートで、陸奥を爆沈させたのは「海外」のスパイ団という驚きの展開。なんで「海外」なのかというと首領がドイツの大使館付き武官、そいつがなぜか日本への破壊工作を組織する、アメリカの二重スパイ?かと首をひねるが結局そこら辺の説明はないのでわけが判らん。こいつが日本人グループを使って悪事の限りを尽くして陸奥に時限爆弾を仕掛けることに成功しますが、土壇場で海軍に感づかれてスパイ団は全滅、でも最後は史実通り陸奥は爆沈してしまい何のカタストロフィも得られなく閉幕、ほんとにため息がでるばかりです。 当然と言えば当然ですけど、艦長や副長など陸奥の乗組員は架空です。でも天知茂が演じる副長が日本人スパイの女性にあわや篭絡されそうになる描写などもあり、実際の艦長や副長の遺族などから猛抗議を受けたそうです。新東宝が倒産間際にすかした最後っ屁みたいなものかもしれませんが、ほんとにこの映画誰得だったんでしょうかね。 [インターネット(邦画)] 2点(2019-03-06 23:50:55)(良:1票) |
692. タイム・マシン/80万年後の世界へ
《ネタバレ》 偉大なるH・G・ウェルズの有名な『タイム・マシン』の初めての映画化ですが、実はこの小説は本作の他にはガイ・ピアースが主演した2002年版の二作しかないというのはちょっとしたサプライズです。 ストーリーテリング自体は原作とほぼ一緒ですが、原作が発表されたのは1895年ですから近未来のエピソードについては当然ウェルズが知る由もないことが追加されています。1966年に核戦争が起きていったん文明が滅びることになりますが、もちろんこんなことはウェルズの原作にはありません。原作では社会階級制度の極端化によって知識階級のイーロイと労働者階級のモーロックに人類が分化したとあり、イーロイは見た目も現生人類とはちょっと違い言語も当然英語ではない。見せ場優先の映画化ですからそこら辺は改変されて当然ですけど、さすがにイーロイが英語を話して「政府」とか「法律」なんて言葉を認識しているというところは違和感が半端ないです。タイムトラベルを科学者たちが議論する冒頭のシーンで「四次元は時間だ」という理論でタイムトラベルを説明してますが、まあこれはアインシュタインの相対性理論が発表する前の小説ですから致し方ありません。でも「過去は変えることができるかもしれないが、未来はもはや変更することはできない」というセリフは、単純ですが自分には目から鱗でした。もちろん特撮はオスカー受賞したといっても時代掛かった代物ですけど、センス・オブ・ワンダーを今の眼で観ても刺激してくれるのはさすがです。 話はそれますが、「1900年が20世紀の最初の年」というセリフがありましたが、これって字幕の誤りでしょうか?「新しい千年紀の始まりの年」なら判りますけど… [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-03-02 22:18:05) |
693. パージ
《ネタバレ》 プロットは完全にケータイ小説レベル、イーサン・ホークやレナ・ヘディといったそこそこ名の知れた俳優を起用していますが、B級感は隠しようがない。まあこのプロットは詰めて考察すれば穴だらけなんで無視することにして、やはり『わらの犬』的な映画として観るしかないですね。でも緊迫感は『わらの犬』に遠く及ばず、というよりも比べること自体がペキンパーに失礼極まりないといったほうが正解。イーサン・ホークはいつものイーサンで、今回こそは今までのヘタレキャラを返上するかと思えば最後まで生き残れないし、奥さんのレナ・ヘディにしてもお前の中途半端な態度も事態を悪化させた要因の一つでしょ。パージの日だから交際の邪魔をする父親を始末しよう、いくらバカ娘の恋人だからといってこんなアホな奴いるわけねーじゃん。そして匿われた黒人ホームレスを執拗に狙うヤッピー軍団、あの黒人にそこまで執着する理由がさっぱり判らん、狩りの獲物なら他にいくらでもいるでしょ。そして本当に怖いのは成功を妬む隣人軍団で、もしパージ制度が実際に存在したら、パージの対象は見知らぬ他人じゃなくて人間関係がある者になるに決まってるじゃないですか。そこがこの映画のプロットのおかしい根本理由です。 「1年で12時間だけだれを殺してもイイですよ」こんな制度があるおかげでアメリカが平和な国になった、これは考えようによってはアメリカ人をずいぶん馬鹿にした設定だとも言えますが、トランプを選挙で大統領に選ぶ人たちだからあながち間違っていないのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2019-02-28 23:55:29)(良:1票) |
694. 黒い十人の女
《ネタバレ》 船越英二が演じる風松吉のキャラは、実はいろんな女優たちと浮名を流していた市川崑がモデルなんじゃないかな。それを奥さんの和田夏十が脚色しているところが、ある意味この映画で一番恐ろしいところかもしれません。とはいえ市川崑の死後雑誌に載った有馬稲子の赤裸々な手記などからすると、市川崑自身は風松吉みたいな優しさを武器にするタイプのプレイボーイではなかったようです。 物語自体はかなりブラックでちょっとシュール、冒頭から普通に演技している宮城まり子が実は幽霊だなんてこの時代の邦画にしてはかなり洒落た演出です。実質的にストーリーに絡むのは五人の女というわけですが、どの女優も芸達者なのが素晴らしい。とくに山本富士子と岸恵子の、決して荒々しいセリフを使っていないけどバチバチ火花が散るような演技対決は見ものです。船越英二のいかにも業界人らしい無責任な世渡りは秀逸、「彼は誰にでも優しくするけど、実は誰にも優しくないのよ」というセリフもありましたが、これはこの男の本質を鋭く突いています。ただ忙しくしているだけで決して仕事に情熱があるようには見えない船越英二が、会社を退職させられて岸恵子に軟禁されると急に「男の対面がつぶされた」と泣くわけでここにはなんか「お前キャラ変したのか」と突っ込みたくなりますが、実はここに高度成長期のサラリーマンの心理が良く出ています。実際は大して重要な仕事をしていないのに、脚光を浴びる業界にいるとそのこと自体に自分のアイデンティティを見出す、現代のサラリーマンにもあてはまるんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2019-02-28 00:11:28) |
695. バタフライ・エフェクト/劇場公開版
《ネタバレ》 古より “アイデア一発勝負”映画は数多く存在してますが、本作はその中でもかなり出来が良い部類でしょう。日記帳がタイムマシンの機能を持っているというのも、低予算をカヴァーする安上がりなアイデアだけど悪くないです。この映画でエヴァンはタイムリープする能力を持っているわけですが、やはり一番引っかかるのはその能力を発揮するために必要な日記帳(それも最初の人生で書き綴った13年分)が一緒にくっついてくる(としか思えない)ところでしょう。これは脚本家も判っているけどどうしようもなかったように見受けられ、ラストでは苦し紛れかホーム・ムーヴィーを持ち出してくるところなんか苦心の跡が感じられます。このターンのタイムリープでは「日記帳なんて存在しない、それは君の妄想だ」という医者の言葉まであり(かつてのレニーの様にケイリーを爆死させてからずっと病院で拘束されていれば日記なんて書けるはずないですけど)、何とか辻褄を合わせた感があります。 でも、最初に観た時にはそんな矛盾には頓着せず、素直に感動したのはたしかでした。たしかにどのタイムリープでも誰かが命を亡くしたり不幸のどん底に落ちたりで、凡人の私なんか自分がいちばん順調なキャリアを積んでいる最初の人生をそのまま続けていくのを選択します。そういう普通の結論を選ばず、ケイリーが自分に恋心を抱いたのが実は全員の不幸の大本だったと気づいてしまうラストは、この映画の宣伝コピーじゃないけど最高に切ないところです。映画のストーリーには、観客の心をつかむ騙しのテクニックみたいなものがやはり必要なんです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-02-24 23:16:16) |
696. 栄光のル・マン
《ネタバレ》 『栄光のル・マン』といえば今は無きテアトル東京、この映画はやはりシネラマで堪能しないといけません、なんで観に行かなかったんだろうか、悔いが残ります。テアトル東京で観た友人の話では、「映像以上に音響が凄まじかった」とのことでした。この映画とうぜん世界中で大当たりしたと思い込んでいたら実はヒットしたのは日本だけ、あまりに無残な全米の興行成績でマックイーンの製作プロダクションは潰れてしまったそうです。この映画の監督を途中降板したジョン・スタージェスは「マックイーンの壮大なホーム・ムーヴィー」と酷評したそうですが、確かにドラマ性がほとんどないセミ・ドキュメンタリーとしか言いようがない映画ですから、スタージェスの言い分は妥当だと思います。 でもレース映像の迫力はさることながら、天下の大スターであるマックイーンがカッコいいけどまるで地味な役柄に甘んじてもひたすら好きなカーレース賛美に徹したところは、いかにもストイックなマックイーンらしいじゃありませんか。彼の演じたキャラは途中の事故でリタイアするし、終盤残り時間8分で再び起用されるがトップ争いじゃなく2・3位をフェラーリと競ってチームメイトの優勝をアシストしただけなんだから、彼を目当てに観に行った人は肩透かしをくらったでしょう。でも名だたるハリウッド・スターの中でもマックイーンほど敗北や挫折した男の哀愁を情感豊かに表現できる人はいないといっても過言ではありません。これこそ男のカッコよさの到達点ではないでしょうか。 あとちょっと気になるのは、もちろん女性の登場人物はいますけど、これは徹底的に男の世界の映画であることで、虚飾を取り除いて言うと「男のやることに女が口出しすんじゃねーよ!」が隠れテーマなんです。こんな価値観を前面に出す映画を現在撮ったら、各方面から袋叩きにされることは必定です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-02-21 23:15:49)(良:1票) |
697. 逆噴射家族
《ネタバレ》 内容だけじゃなくセリフの面からこれはもう地上波じゃ絶対に放送できないし、昨今ではBSやCSでもお目にかかることがないですね。小林克也はこれが映画初主演で、もしこの映画をリメイクするならお父さんは本田博太郎というイメージですが、本田と違って小林には狂気を微塵も感じさせない平凡さが濃厚で、かえってこの方が面白いキャスティングだと思います。低予算を逆手にとって登場人物はほぼ5人だけ、また浦安の新興住宅街にセットを組んで撮影してますが、この住宅街が映るカットには他の住人や車がまったく存在せず、製作者が意図する疎外感が肌で感じられるような仕組みになっています。中盤以降は本当に家族で殺しあうんじゃないかとハラハラするような展開、もしそうしていたらスプラッター・ホラーという全然別のジャンルになっちゃうんで観ていてそれはないだろうと察しは付きますが、そういう感じのホラーは最近のフランス・スプラッターにはありそうですね。もしそうするなら、倍賞美津子ほかの家族が精神病を患っていると思い込んでいた小林克也だけが本当に狂っていたとする脚本が王道ですが、どう見ても女房子供もやはりおかしいというのがこの映画の独特のテイストなんでしょう。ラストの平穏もハッピーエンドというよりも悪夢ファンタジーと呼ぶほうがふさわしいのでは。 こんな超オフビートなお話し、原作が小林よしりんだったとは驚くところでしょう。いまや政治の世界に中途半端に首を突っ込んでいる人ですが、かつては『東大一直線』とか『おぼっちゃまくん』といったシュールでパンクな作品の人だったことが懐かしい。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2019-02-19 23:56:55) |
698. ファンシイダンス
《ネタバレ》 先日、親の法要で故郷の菩提寺へ行きました。そのお寺は我が家には不釣り合いな開山1000年を超える古刹で、住職はローカルTVニュースには良く登場する名士。長男次男ともその寺で僧職を務めていますが、その日は次男さんとお話ししました。その明るいイケメン坊主は、なんと地元では有名なミッション系の中・高・大で学生生活を過ごしたとのこと、思わず心の中で「ファンシィダンス!」と叫んでしまいました。 その5年前にピンク映画を一本監督した経験しかなかった周防正行の実質的な商業映画監督デビュー作、初期の周防映画のパターンがこの一本で固まったと言えるでしょう。私は本作に続いた『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』を初期周防三部作と捉えていますが、もっとも肩の力を抜いたような撮り方の本作が実は一番の好みです。これが映画初主演である本木雅弘の棒読み調のセリフ回しはもちろん演出のうちですが、やはり棒読みの鈴木保奈美(こっちは天然の大根演技)とシンクロして独特のオフビート感が出ています。竹中直人も後年のウザい演技じゃなく、ほんとこれぐらいテンションで見せる演技は彼が芸達者であることを再認識させてくれます。そして驚くのは同僚雲水の彦摩呂、こんなイイ男が30年も経たずして巨漢の食レポ・タレントに変貌してしまうとは、誰が想像できたでしょうか… ともかくとして、本作は周防正行映画のエッセンスが詰まった秀作だと思います。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2019-02-15 23:29:32) |
699. ヘルレイザー2
《ネタバレ》 監督が『北斗の拳』で監督生命を散らせたトニー・ランデルの割には観れる作品です。前作のラストと完全に続きになっていて、今回の実質的主役はあの継母ジュリア、マットに染みついた血からのお約束の復活でございます。こいつが道を踏み外した精神病院長を取り込んでゆく過程が見ものというわけですが、院長が首だけ化け物になってからのビジュアルが笑わせてくれます。まるで自主製作映画みたいなレベルのストップモーション・アニメは本来笑うところなんですが、現在の眼で観るとかえってシュールで不気味ささえ感じるのはどうしてなんでしょうか。この映画の惜しいところは、地獄の奥の奥まで見せちゃったことでしょう。でもまるでカフカの世界みたいなチープな書き割りの迷宮は、個人的には好きな世界観ではあります。魔道士たちは前作以上にわき役に押しやられ、ラストではヒロインを助けて化け物と戦い全員あわれな最期を迎えるとは、「ふざけんな!」と暴れたくなりました。そしてこれも前作に続いてヒロインの恋人(というか好意を寄せるイケメン)が全く活躍せずあっさり途中退場となってしまうパターン、これも“80・90年代のホラー映画あるある”の一つです。ラストでヒロインが“ジュリアの皮かぶり作戦”で化け物に勝利を収めるところは、前作でやはりフランクがラリーの皮膚を被ったのとまるで同じ、でもまさかこれをヒロインにやらせるとは… クライヴ・バーカーがメガホンをとらなかった割には、なんとかギリギリにポテンシャルは保てたかなってのが、正直な感想でした。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-02-13 21:09:05) |
700. ヘル・レイザー
《ネタバレ》 魔道士はキョンシーの一味だと長いこと勘違いしていた自分です。クライヴ・バーカーの世界観は何となく判りますが、魔道士は悪魔なのか妖怪なのかイマイチ判りづらいのが難点で、要は地獄の番人でSMプレイのプロデューサーという感じみたいです。ビジュアル的にはサブカルにも多大な影響を及ぼした魔道士ですけど、本編ではほんと単なるわき役に過ぎなかったというのはある意味で衝撃。主役はあくまでフランク・コットンで、そこにジュリアとのドロドロな愛欲劇が絡むというのがメインストーリーなわけです。でも番人のくせにフランクが蘇って地獄を逃げ出したことに気づかないし、ヒロインと「嘘ついたら針千本の~ます」みたいなレベルの取り引きを交わすとか、魔道士ピンヘッドのわきの甘さはなんか微笑ましくなるぐらいです。まだCGがはびこる前の時代ですから、合成にしてもSFXにしても低予算が透けて見えるような手作り感が濃厚、蛆虫やゴキブリは生きた実物を使っていて、クライヴ・バーカーらしくヘンなところに拘りを見せてくれます。でも俳優さんたちには、あの皮膚なしベタベタ状態のフランクと絡んで接触しなけりゃいけなかった事の方が苦労だったでしょう。それでもこの妙な安っぽさというかB級感がまた独特のテイストを生んでいて好きです。ヒロインのパパがアンディ・ロビンソン(『ダーティハリー』のあの殺人鬼スコルピオで有名なお方)で、ついに彼も善人役を射止めたかと思いきや、フランクに殺されて皮をはがれ、その皮を被ったフランクが残忍の限りを尽くすのでけっきょくスコルピオと大して変わらないことになってしまいました(笑)。 余談ですが最後にアンディ・ロビンソンが魔道士に仕留められるときに“Jesus Wept!”という捨て台詞を吐くのですが、字幕では“イエスが泣いた”となっていました。“Jesus Wept!”は新約聖書で最短のフレーズでアンディ・ロビンソンがアドリブで発したセリフなんだそうですが、「くそっ!」とか「畜生!」とかが近いニュアンスのスラングで辞書にも用例が載っています。プロの翻訳者ならそれぐらい見落とさないで欲しいものです(ひょっとして翻訳者は戸田奈津子だったのかな?)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-02-09 23:37:37) |