681. そして父になる
《ネタバレ》 そして父になる。この表題が家族という概念を問う。出産の苦しみを知らない男性にその実感がないから尚更だ。エリートの主人公に訪れた暗転。お金や身分といった面子を剥がされ、過去のトラウマからか素の自分を受け入れないでいる。もし、意図的な取り違えがなかったら、二つの家族は幸せになれたのか? 主人公は本当の父親になれたのか? 夫の連れ子と二人暮らしの女性看護師や電気屋の親父の方がずっと親としての役割を全うしている。この映画には答えはなく、結論は二つの家族で決めることだ。下手したら家庭環境等で人生が狂ってしまう。それでも、起こってしまったことに地団駄を踏まず、時間をかけて前を進むしかない。高級セダンが停まった古い家屋に、誰の声が分からない子供たちのはしゃぎ声が新しい可能性を提示する。 [映画館(邦画)] 7点(2016-06-16 21:41:27) |
682. 歩いても 歩いても
《ネタバレ》 帰省するだけの話だが、長男の死が大きく影を落としている。 それが説明的にならず、自然な台詞だけで一枚の地図が出来上がっていく。 生き残った長男の友人に対する僻み、 長男の魂を象徴する蝶を追う母親、 歌謡曲「ブルーライトヨコハマ」の一節、 歩いても、歩いても── 如何なる過去や問題があろうが、距離と瞬間のズレがあろうが、 そうやって日々を積み重ねていくしかない。 お盆が来るたびにこの映画を思いだす。 エンドロールを含め、ゴンチチのスコアが本作と完璧に符合し、印象に残った。 [DVD(邦画)] 8点(2016-06-16 21:34:40) |
683. 誰も知らない(2004)
《ネタバレ》 実在の事件の再現映画ではない。でなければ、携帯電話も最新型マーチ(当時)もワンピの食玩も画面に写さないだろう。現在でも都会のジャングルで"誰も知らない"無戸籍児が存在する、その生存証明を描いているに過ぎない。電気も水道も止まる、髪は伸び、服も汚れてみずぼらしくなる、末っ子の娘が死んでも彼らを捨てた母親が知ることもない。誰かに知られたら、児童保護施設関係者によって引き離される。それでも今日生きなければ明日がない。そんな心情を挿入歌が代弁していた。"宝石"という生存証明は誰によってもたらされるのか? 孤立死が当たり前になっていく現在、過去の無名の個人に関心を持たないように、無責任に叩くだけで何もしないように、誰も自分のことで手一杯でいつの世も無常だ。 [DVD(邦画)] 9点(2016-06-16 21:29:27) |
684. ブリッジ
アメリカの自殺事情には興味はあった。年間約3万人と日本と同規模だが、人口で見れば割合は少ない。自殺に良い印象のないキリスト教国という理由もあるが、遺族の吐露出来ない辛さはどこも同じ。インタビューがほとんどの単調な作りで眠くなる。そして焦点が定まってないのは、自殺というものが日本と比べてオープンではなくその覚悟に時間を要したのかも。どんな手を使っても救えない人がいて、かと言って直前に思い止まる人もいて、結局は当事者にしか分からない。自殺シーンがまるで劇映画のワンシーンみたいで実感が湧かなかった。水面というのもあるが、これが地面やコンクリートだったら、現実だと認識できるのか? 作り手はもちろん、興味本位で見る視聴者の倫理観も問われているような気がした。 [DVD(字幕)] 5点(2016-05-16 21:19:16) |
685. ダークナイト ライジング
《ネタバレ》 前作のようにヒース・レジャーには頼れないし、完結作というプレッシャーの中で、綺麗にまとめられた数少ないシリーズではないだろうか。160分を超える上映時間を感じさせない編集技術に、かつて下手だったノーラン監督のアクション演出は堅実で、してきたことは無駄ではなかったと感嘆させられる。ヒースほどではないにしろ、後釜のトム・ハーディの熱演は素晴らしかった。ジョーカーの野望をベインが完遂し、ラーズ・アル・グールの娘も交わり、3部作がモザイクのように絡まっていく。バッドマンの冠が外れてダークナイトとしたことで、アメコミヒーローの域を超え、一本の映画として記憶に残るだろう。悪は絶えないが、マスクを被れば誰もが守護神になれる。希望は誰の心にもあるということを提示してくれる。8点は3部作として採点。 [映画館(字幕)] 8点(2016-05-16 20:52:34) |
686. ダークナイト(2008)
《ネタバレ》 ヒース・レジャーの歴史に残る怪演は彼の死というフィルターなしでは語れない。それだけ複雑な気持ちにさせられる。如何なる善人も悪に身を堕とすことを実証させようとするジョーカーは性悪説で厭世主義の権化だ。戦争や凶悪犯罪は一向になくならない、むしろ「人間とはそんなものだ」と彼のようになれたらどれだけ人生が楽か。しかし、如何に下らなくても勝負に負けても信念を貫くバッドマンの姿に今のアメリカと重なる。そう言い繕わなければ国家も尊厳も人生の意味がなくなり永続できなくなる。だからこそ理性で自制して、我々は不条理な社会と戦っている。屈服すればトゥーフェイスのようになってしまうだろう。とにかく期待値が高すぎた。緊張感のないかったるいアクションシーンに、リアリティを求めるほどリアルでなくなる矛盾。重厚なテーマも完全にヒース・レジャーがいたからこそ成り立つもので、全て彼に喰われてしまっているから、それを除くと秀作以上の点数は付けられない。エポックメイキング的な存在であることには否定しないが。 [映画館(字幕)] 7点(2016-05-16 20:47:37) |
687. インソムニア
雄大なアラスカの映像美は良いにしても、不眠症の恐ろしさや焦燥感が伝わってこないのは致命的。三人の演技派を揃えてもこれかって感じで、初メジャー作品のプレッシャーで自分の持ち味を活かせなかったのか。リアルタイムで少し失望したが、『ダークナイト』で持ち直すとは思わなかった。ジャンルは違えど、フィルムノワールとしての作家性と美学を崩していないことに今更気付いた。 [映画館(字幕)] 5点(2016-05-16 20:44:35) |
688. メメント
《ネタバレ》 カラーのエピソードが逆の順番に描かれるのは分かるが、交互に差し込まれるモノクロのエピソードが順番に描かれているとは気付かなかった。そういう意味で記憶障害の追体験は出来たかと思う。あの編集がなければ平凡なノワール映画だろうが、アイディアの勝利。復讐を果たせてもすぐに忘れてしまうから、永遠に仇を追っていくかと思うと切ない。無間地獄だ。 [DVD(字幕)] 5点(2016-05-16 20:41:55) |
689. ブリッジ・オブ・スパイ
《ネタバレ》 スピルバーグは大人の映画監督になった。台詞を排除した静かな追跡劇から引き込まれ、派手さはないが少しずつ緊張感を高めていく。物語に差し障りのない程度に抑えたトーマス・ニューマンのスコアが新鮮に感じられる。敵国ソ連のスパイを弁護するという、反感を買うような仕事を実直にこなしていくドノヴァンも、ソ連に忠誠を誓い情報を漏らさなかったアヴェルも、互いに仕事人としての誇りと信念から魅かれるものがあったのだろう。山場の捕虜交換は史実で分かっていても、罪もない米国大学生をも救おうとする無謀な賭けには固唾を飲む。だからこそ、ドノヴァンの行動を尊重して待つことを決めたアヴェルにグッとくるものがある。別れ方もさりげなく淡々としたスマートなもので、『シンドラーのリスト』と同じ映画監督とは思えない。一見ハッピーエンドだが、これから長い冷戦が続き、柵を越える人たちやアヴェルの待遇を考えると、今日の資本主義と共産主義の不寛容さを改めて突き付けられた形だ。出番は少ないが、空気に溶け込み、自然に染み入るようなマーク・ライアンスの存在感がこの映画をよりワンランクアップさせている。今後の活躍に期待。 [DVD(字幕)] 7点(2016-05-16 20:38:25) |
690. ズートピア
《ネタバレ》 ディズニーにしてはかなり踏み込んだ内容で、夢を叶えるための厳しさ、頑張っても報われるとは限らない残酷さ、人間以上の体格差と第一印象で形作られた偏見と差別が、オブラートに包まれながらもエグみを効かせている。それでも、現実世界そのもののズートピアを変えていこうとする主人公の信念が、嫌な奴だった詐欺師や署長の心境を変化させていく。黒幕の正体ないしその填末について、終盤で分かってしまったが、自分自身の身の丈をよく知り、己を信じることが出来なければダークサイドに堕ちてしまう危うさが現実世界以上というのはあまりに皮肉だ。社会を変えていくのは我々そのもので、その手段が正しいか間違っているかの違いに過ぎない。ウサギとキツネの凸凹コンビの掛け合いが、シビアな世界観において清涼剤になっていた。 [映画館(吹替)] 8点(2016-05-16 20:36:51) |
691. モンスターズ・ユニバーシティ
《ネタバレ》 知識で補う努力家のマイクも、名門で天才肌のサリーも自意識過剰で見下している印象があり、二人より遥かに下の落ちこぼれと同じ立場になったとき、初めてスタートに立てたのだろう。あらゆる奇策で最底辺から下剋上で優勝する様は痛快で、だからと言ってハッピーエンドではなく、そこから更に二人を奈落に突き落とす。あまりに辛辣で残酷な事実を臆せずに描き切る。ウォルト・ディズニーの「夢はかならず叶う」の格言をここでは少し否定し、失うものがない二人が互いに足りない部分を補って叩き上げで現在に至るまでを、既存のスクールカースト・学歴社会への風刺を交えて説得力のあるものにしたのは、数々のイノベーションを生み出したアメリカの開拓精神によるものか。前作には劣るけれど、それでも一定のクオリティを輩出するのは流石ピクサー。 [地上波(吹替)] 7点(2016-04-27 22:25:45) |
692. 雪の轍
《ネタバレ》 全員が悪人ではないのに、ふとした擦れ違いとプライドが話を拗らせ、何も解決しないまま現状維持で終わる。 アスガー・ファルハディ監督の愛憎劇を彷彿とさせるが、グイグイと引き込むような話術も詩情もなく、3時間強のほとんどを室内の鬱屈した対話で占めるため、淡々を通り越して睡魔で幾度か分けて観るはめに。3時間以上描くほどの密度もなく、理屈を捏ね繰り回す議論はただただ空疎でしかない。理想主義の妻と現実主義の夫がエゴとエゴの衝突を機に、互いに見えなかったものに気付くエピソードに答えがあるのだろう。カッパドキアの雄大な雪景色がつまらないことで諍いを起こす人間の小ささを際立たせているようだ。そんな深刻な事情も汲み取れない日本人観光客が愚かに見えた。それは、この映画の良さが分からない自分そのものか。 [DVD(字幕)] 3点(2016-04-19 20:59:11) |
693. 100歳の華麗なる冒険
《ネタバレ》 マイペースな100歳の老人とは裏腹に、金銭と名誉に目がくらみ、せっかちに死に急ぐ権力者たち。 マフィアとどう決着を付けるかと思いきや、意外とあっさりとした形で終わってしまう。 彼の後ろには死体の山。 ちょっとした偶然が歴史に残る大事件になったりするが、 歴史の中枢にいても彼は「なるようになるしかない」と生きているにすぎないのだから。 もしかしたら、一人一人の凡人もまた、 ちょっとした偶然で見知らぬ土地で死体を生む遠因になっているかもしれない。 普通に元気に生きていること自体ありがたいとしながらも、 それもまた人の業であり、人生そんなものだと達観しているようである。 [映画館(字幕)] 7点(2016-04-19 20:56:13) |
694. スポットライト 世紀のスクープ
《ネタバレ》 流石オスカー好みの内容。でも、作品賞受賞は消去法的。堅実な演出に、的確なキャスティング、多くの情報量を2時間強でまとめた脚本。優れた映画には違いないが、非キリスト教圏の日本では馴染みの浅い実話であり、知っていることを前提に作っているわけだから、ショッキングな題材の割に台詞と情報だけで交わされる展開についていくのがやっと。直接的な性的虐待を描写しなかったのは良いとしても、あまりの淡白さにすぐ忘れてしまうだろう。記者及び被害者が報われるカタルシスに欠けているというか、かと言って盛りすぎても不自然なので難しいところ。地道に取材を重ねるジャーナリストの執念に、ロールシャッハ(ウォッチメン)の「真実こそが正義」が頭に浮かんだ。 [映画館(字幕)] 5点(2016-04-17 23:04:44)(良:2票) |
695. ストリートファイター(1994)
《ネタバレ》 「何でガイルが主役?」 「何でサガット以外の四天王の名前がシャッフル?」 原作ゲーム経験者の自分には違和感が湧いたが、 前者はアメリカではガイルが大人気であり、戦友の仇討ちというバックストーリーがあるから。 後者は登場キャラクターにマイク・バイソンというボクサーが存在し、 肖像権侵害でマイク・タイソンからの訴訟を避けたいという大人の事情があるから。 なお、サガットは初代の原作ゲームに登場し、既に商標登録済み。 そういう部分を抜きにしても、「スタッフは本当にゲームをしたことがないんだな」と言わんばかりの原作破壊と キレのない再現度低しのアクションばかりで『ストリートファイター』と名乗って欲しくない。 ヴァンダミングアクションとして見れば、2点スレスレだろう。 これがラウル・ジュリアの遺作で続編を匂わせるラストカットが皮肉すぎる。 [地上波(吹替)] 2点(2016-04-15 22:20:18) |
696. アダムス・ファミリー2
《ネタバレ》 これの面白いところは、ギロチン白刃取りや空まで跳んでしまうピューバートのハイスペックぶりと、当時子供の自分でも気持ち悪いと言わしめたサマーキャンプの偽善的な連中を叩きのめす姉弟に尽きる。今だったら絶対テレビで放送できない。デフォルメされた大多数の人間の偽善を炙り出すほど、アダムス家の純粋な家族愛が際立つ。「普通とは何だろうか?」と思わずにはいられない。数年経っても3が来ないと思ったら、ラウル・ジュリアが既に亡くなっていて残念だった。 [ビデオ(吹替)] 6点(2016-04-15 22:15:47)(良:1票) |
697. アダムス・ファミリー(1991)
《ネタバレ》 2→1と遡って観賞したためか、ブラック度は1の方が上で癖が強いかも。忍者屋敷のような仕掛けの数々は楽しく、血みどろ学芸会のリアクションの面白さにしろ、次第に彼らが正常に見えてくるのだから不思議。純粋に笑うなら2の方に軍配が上がるが、ホームドラマにしては結構良い線を行っていた。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-15 22:12:40) |
698. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 リアリティ皆無であるにも関わらず、現在の世界情勢を見ると現実になりそうだから笑っていられない。昔の白黒映画なのか眠くなることもあるが、「また逢いましょう」をバックにした核戦争ENDは今見ても鮮烈な記憶を残し、爽快感すら覚える。アメリカの大衆はトランプに核兵器を持たせたいのか? 大衆がそれを望むなら仕方ないけどさ。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-15 22:09:30) |
699. おとなのけんか
《ネタバレ》 原題の『Carnage』(大虐殺)も邦題の『おとなのけんか』も的を得たタイトルだなぁ。息子たちの喧嘩が原因なのに、論点がずれて次第に大層で大人気ない喧嘩になっていく・・・夫婦vs夫婦から男vs女に変わっていく展開にセンスあり。キャスティングもバッチリ。ただ、80分の割に長く感じ、笑えるかどうかは別として。しかし、大女優ウィンスレットにゲロを吐かせたポランスキーは凄い。それにニューヨークのアパートが舞台なのにパリのセットで撮影とのことで、アメリカに入国できない彼に国境線は関係ないのか。そこばかりに目が行ってしまった。結局、息子たちは既に仲直りで脱走したハムスターも健在ってところが皮肉に感じる。 [DVD(字幕)] 4点(2016-04-15 22:06:08) |
700. ゴーストライター
《ネタバレ》 作りは古風なミステリー、中身は現代の政情を反映した社会派で銀熊賞受賞は頷ける。カーナビや携帯電話といった最新機器を上手く使い、急がずじっくり焦らして陰謀に迫っていく。円熟したポランスキーの演出は言うまでもないが、英首相の妻の不敵な佇まいも忘れるわけにはいかない。しかし、あのラストの演出のために主人公を消させた脚本は如何なものかね。義憤なら目の前でこんなことするのはアホとしか言いようがないのだが。 [映画館(字幕)] 6点(2016-04-15 22:03:15) |