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鉄腕麗人さんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2593
性別 男性
ホームページ https://tkl21.com
年齢 43歳
メールアドレス tkl1121@gj8.so-net.ne.jp
自己紹介 「自分が好きな映画が、良い映画」だと思います。
映画の評価はあくまで主観的なもので、それ以上でもそれ以下でもないと思います。

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701.  シングルマン 《ネタバレ》 
この映画は、一人の男が、「死」に向かう“一日”という道中を描いた“ロード・ムービー”だと思う。  孤独に苛まれた男が、何処か遠くに行くわけではない。普段と変わらない一日をある「決意」を込めて生きるだけの話である。 だけれど、そこには起伏に富んだ出来事と出会いが繰り返される。  “孤独感”に埋め尽くされて色彩の無かった世界が、ふとしたことで色味を帯びていく。 それは、世界中のすべての人間の何気ない日常の中に、「生きる」ということの意味と価値が溢れているということを物語っている。  それと同時に、世界が色を帯びていく過程には、「死」を決意した男自身が、「生きたい」という本能に気付いていく様を感じた。それは、「明快」という言葉を隠れ蓑にして現実から目を伏せてきた男が、自分が在る世界を直視したということだったと思う。  結果的に、一日の最後に主人公の男が得た結末は、目覚めたときに決意したままのものだったかもしれない。 しかし、そこには明確な違いがある。  “死ぬために生きる”のか“死ぬまで生きる”のか。  同じように聞こえる言葉の価値の違いを強く感じる映画だった。   世界的デザイナーのトム・フォードという人が初監督をした映画だけに、作品全体に強い「美意識」が溢れている。 そういうタイプの映画は多いけれど、この映画の美意識は決してビジュアルの表面的な部分だけではなく、人間のインサイドに至るまで徹底的に反映されている。  素晴らしい才能だと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2011-04-05 14:17:29)(良:1票)
702.  ベスト・キッド(2010)
この映画、過去のヒットシリーズのリメイクであることはもちろん間違いないけれど、ただリメイク映画と言ってしまうことは「失礼」だと思える程、“良い映画”だと思う。  かつてのヒット映画では、当時ほぼ無名の日系人俳優が演じた役柄を、あのジャッキー・チェンが演じているというだけで、あらゆる面で映画としてのインパクトが高いことは明らかである。 しかし、もっともこの映画を確固たるものに足らしめている要因は、ウィル・スミスの息子ジェイデン・スミスの存在感だ。  この子役、その才能が間違いないと思うからこそ、敢えて“ウィル・スミスの息子”という冠を付けたくなる。 その“芸達者”ぶりは、父親のそれそのもので、この子供が本当に小さい頃から父親のパフォーマンスをしっかりと見続けて成長してきたのだろうなということを想像させる。 彼の身体能力、存在感、そして演技者としての表現力の高さが備わったからこそ、この映画は想定よりも一つ上のレベルに達したと思う。  子役の成熟には様々な弊害がつきものだが、父親共々ハリウッドを代表する良い俳優に育っていってほしいなあと思う。  現代のハリウッドを代表する表現者のDNAとカンフー映画の世界的スーパースターが、北京の街並の中で絶妙なバランスで合致した幸福な映画だと思う。  ただし、このテンションで締めるのであれば、やはりエンドロールにはNG集を用意してほしかったなあ……。
[DVD(字幕)] 8点(2011-01-16 10:39:25)(良:2票)
703.  SPACE BATTLESHIP ヤマト
映画、特に娯楽映画においてはっきりと言えることが一つある。 それは、観る者のそれぞれの感受性と価値観によって、一つでも「印象」に残る要素があれば、その映画の価値は揺るがないということだ。  この映画には確実に“それ”がある。それがある以上この映画を否定することなんて出来ない。  それは、日本映画界で考えられる最大限のレベルで実現させた宇宙戦艦の発進シーンでも、 良い意味でも悪い意味でも“木村拓哉らしい”ヒーロー像ぶりでもなく、 ずばり“ヒロイン”の魅力に他ならない。  そう、“森雪”を演じた黒木メイサが素晴らしかった。  映画や漫画において時折、堪らなく魅力的なヒロインにめぐり会う。 そういうときは、その作品を観終わった後もしばらくの間、“彼女”のことばかり考えてしまう。 それはまさに、現実と創造の狭間に生まれるささやかな“恋”だと思う。  必ずしも黒木メイサの演技力が高いとは思わないし、原作を知らないので“森雪”というキャラクターに彼女が合致していたのかどうかも定かではない(おそらく随分違うんじゃないかと思う)。 ただそんなこと「どうでもいい」と思わせるほど、“黒木メイサの森雪”は魅力的で、木村拓哉の古代進と同様に彼女に恋し、守りたいと思ってしまった。  繰り返しになるが、世代が随分違うので、原作のアニメは見たことが無い。 原作を知らないからこそ楽しめた要素は多くあるのかもしれない。  基本設定は「スタートレック」にも似たこのSFエンターテイメントを、もしハリウッドが映画化したならそりゃあ大迫力のブロックバスター映画になったことだろう。  だが、この「宇宙戦艦ヤマト」の精神的な荒涼感や孤独感、奥ゆかしい情緒感は、やはり日本人が描くべき世界観だと思った。 映画としての粗や突っ込みどころは非常に多い。 ただそれでも、この映画を、日本人が一生懸命に挑戦してつくりきったことが、非常に重要なことだと思う。   まあそんなことより何よりも、僕にとっての“森雪”がとびきり可愛くイーッとして古代進を見送る。そのシーンがすべてだと言いたい。  ヒロインの漆黒の瞳から始まり、「未来」を見つめる彼女の姿を映し出して終わるこの映画において、その価値観は決して間違っていないと確信する。   余談になるが、某スキャンダル女優が降板したことが、今となっては「運命」だったとすら思う。
[映画館(邦画)] 8点(2010-12-05 22:55:18)(良:3票)
704.  ルパンの消息(TVM)
「三億円事件」時効成立の夜に死んだ一人の女教師。“自殺”として過去に葬られていた出来事が、“殺人事件”として蘇る。時効まで24時間、三億円事件の無念を抱える刑事が、再び時効成立のリミットに挑む。  面白い。こういう過去と人間が絡み合うストーリー展開は堪らない。  某衛星放送で放映されたテレビ映画ではあるが、横山秀夫のミステリーを見事に映像化した中身の濃い作品だったと思う。  過ぎ去った時間の中に埋もれていた幾重にも絡み合った人間模様を軸にして、隠された真相が取調室の密室で明らかになっていく様は、決して派手さはないけれど、娯楽性に溢れた説得力とドラマ性に溢れていた。  様々な人間の思惑の狭間で、徐々に表われてくる隠された心情、そして突如明らかになる悪意。 女教師はなぜ三億円事件の時効成立の夜に死んだのか。 「偶然」が「必然」に転じた瞬間、ミステリーは極上のピークに達する。  上川隆也を主演に配し、パッと見は地味だがよくよく見ると味わい深い豪華なキャスト陣が示すように、じわりじわりと面白味が深まってくる秀作だ。  原作は未読。以前、本屋で手に取って結局買わなかったことが、今更ながら悔やまれる。
[DVD(字幕)] 8点(2010-12-04 14:51:23)
705.  蛇のひと 《ネタバレ》 
自分のまわりの人間は、良い人か、悪い人か。 その判別を一体どれくらいの人が“正確”に行えているのか。 果たして、「自分自身」はどうなのか?  一人の人間のインサイドに潜む「迷宮」のような闇を、類い稀な人間描写で捉えた秀作だ。 と、永作博美が口笛を吹きながら夜の街を歩くラストシーンを見ながら、思った。  突然自殺した部長。日を同じくして行方不明になった一人の男。 彼の「存在」を追っていくうちに、彼に関わった人間の様々な「不幸」を知る。が、彼のことを心底悪く言う人は一人も居ない……。  人間は一人では不幸にも幸福にもならない。人間は、人間により不幸なり、幸福にもなるのだと思う。 一人の人間の“口車”によって人生が転落してしまうという静かな恐ろしさを、絶妙な人間描写で表している。  某シナリオ大賞の受賞作らしく、人間を描く着眼力と描写力の反面、舞台設定のディティールにはチープさや古臭さも感じた。 あまりに今風でない職場環境や、会社の人間模様、「1億円の横領」なんて設定には、素人臭さも見え隠れすることは否めない。  が、ストーリーが忍ぶように“ひたひた”と展開し、西島秀俊の関西弁の違和感を受け入れ始める頃には、すっかりと一人の人間の「迷宮」に引きずり込まれており、永作博美と共に“出口”を追い求めていた。  ラスト、主人公は自ら“出口”を見誤ろうとする。迷宮の闇の中にそのまま呑み込まれるのか否か…。 最後の最後に絡み合う人間同士の心理の様には、「正論」だけでは説明がつかない本質的な“あやうさ”が含まれていて、とても深淵だった。  浦沢直樹の「MONSTER」の語り口も彷彿とさせる、人間の内面に渦巻く闇にまつわるサスペンスと人間模様を堪能できた。
[DVD(邦画)] 8点(2010-11-30 22:31:18)
706.  渚にて 《ネタバレ》 
終末戦争の果て、確実に「滅亡」に突き進む顛末を描きながら、この映画では、爆弾が爆発するシーンも無ければ、人が絶命するシーンすら無い。 残された人間たちの、“最後の時”を迎えるまでの僅かな日々を、淡々と描き連ねる。 「悲劇」に対する悲壮感も、感動も努めて排除されているように思う。  だからこそ、異様とも言える「恐怖」をひしひしと感じる。  この映画に“救い”は無い。 核戦争により滅亡を決定づけられた人類。かろうじて直接的な被害を逃れたオーストラリアにて、残された日々を生きている。 すがるように追い求める幾つかの「希望」は、次々と儚く崩れさっていき、全世界を覆い尽くそうとしている放射能汚染により、着実に滅亡に突き進んでいる。  「希望」を失った人類たちに残された道は、ただただ淡々と“その時”まで生きること。 その人間模様をそのまま淡々と描き、ラスト、無人となった街のカットで締める潔さに、映画としての多大な説得力と、テーマに対する真摯さを感じた。  冷戦の最中、核の脅威を描いた幾つかの名作に共通することは、決して安直なハッピーエンドを描かないことだ。 人類が直面する「危機」に対して、極めて真剣に問題提起を試みている結果だと思う。  今、そういう映画はほとんど無い。 冷戦という時代背景はもちろん過去のものだが、だからと言って、“脅威”が消え去ったわけでは決してない。 今日のニュースでも“となり”の国の半島で起こった「愚行」を延々と伝えている。  “脅威”に対する危機感の薄れ。 そのことこそが、今の時代に最も恐怖すべきことのような気がしてならない。
[DVD(字幕)] 8点(2010-11-23 23:03:38)(良:2票)
707.  チャーリー
”チャーリー・チャップリン”、この固有名詞はもはや全世界の映画史に残る一つのアイコンであろう。 「波瀾万丈」という言葉がふさわしい彼の喜劇人、そして映画人としての長い人生を、ひとつの「映画」として表現する試みは、「必然」であったと同時に、物凄く高いハードルだったと思う。 145分間のこの映画で、チャップリンという男の人生の本質をくまなく描き切れているとは思わないし、それは到底無理な話だ。  ただ、想像以上に「面白い」映画だった。深夜0時過ぎに鑑賞を始めたが、まったく眠気を覚えなかったほどに。  その“面白味”の大部分は、ロバート・ダウニー・Jr.のパフォーマンスに尽きる。 チャップリンの人生を映画化するハードルの高さは、即ちチャップリンを演じる俳優に与えられる試練の大きさだろう。まともな俳優であれば、その仕事の困難さに尻込みしてしまうはずだと思う。  が、ロバート・ダウニー・Jr.という俳優は、イロイロな意味で、まともではない。  舞台コメディアンとして仕事を始めた10代から、スイスで晩年を迎えた80代まで、チャーリー・チャップリンという男の人生の様を見事に“体現”していた。  冒頭、白塗りのメイクを落としていくチャップリン、その瞳には吸い込まれるような闇が垣間見える。 そこには、世界一有名な喜劇王が抱え続けた“孤独”と“虚無”が描きつけられている。  伝記映画としてその展開にはやや野暮ったい部分もある。アンソニー・ホプキンスが、珍しくあまり個性の無い編集者役で登場するチャップリンの晩年シーンなどは、何度も挟み込む必要は無かったように思う。 それでも、ダン・エイクロイド、ケヴィン・クライン、ダイアン・レインら実力俳優に加え、若く瑞々しいミラ・ジョヴォヴィッチも脇に配し、キャスティング的にも映画ファンとして非常に楽しめる。  チャーリー・チャップリンの人生を描くということは、即ち往年のハリウッドの舞台裏と、当時のアメリカ社会の“闇”描くということでもあった。そういう意味で、この映画はとても多面的な面白さを備えている。  そして何よりも、この映画を観ると、本物の“チャップリン”が観たくなる。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2010-11-07 11:26:05)(良:1票)
708.  地球爆破作戦 《ネタバレ》 
往年の外国映画、特に娯楽映画においては、その「邦題」に惑わされることが多い。  「地球爆破作戦」とタイトルを掲げ、粗筋に「コンピューターの暴走に対峙する人類の姿を描く」なんてあれば、当然、地球滅亡に向けて暴走し始めたコンピューターを人類が必死に防ぎ切る話なのだろうと思ってしまう。  が、この邦題はまず無視しなければならない。 実際は、「平和」を大義名分とした“国防”のために構築されたコンピューターが想定外に進化し、「平和」を純粋に実現するために、全人類を己の完全支配下に従えようとプログラミングが暴走するというストーリー展開だ。 根本となるその発想が、数多の映画でよくある“コンピューターの反乱”とは明らかに異なっていて、面白い。  冒頭、超巨大なコンピュータールームにて、主人公がシステムを起動させる。 CGなんて普及していない時代の映画である。レトロな美術セットによるコンピューター機器のビジュアルには、チープさを感じる反面、逆に独特の雰囲気があり、“マシーン”の恐ろしさを感じさせる。  もちろんSF映画なので、すべてが現実的なわけではなく、そもそもの設定が突飛である。  ただし、支配力を強めるコンピューターに抗う人類の無力さ、そして娯楽映画の定番を覆すブラックな顛末には、ゾッとするようなリアリティがあり、それがこの映画自体の面白味に直結している。  今日現在に至るまで、人類の進歩は、そのまま科学技術の浸食であると言える。 生活は日々便利になっていくが、いつの時代もそこには、“転覆”の恐怖が表裏一体で存在する。  そして、コンピューターに支配されていない「現実」が、決して「平和」な世界になっていないことも事実。  映画のラスト、人類の支配を成したコンピューターは、主人公らの絶望感をよそに「これで平和な世界となる」と高らかに宣言する。 その宣言に対して、主人公は最後の最後まで必死に抵抗し、「否定」をする。 が、その「否定」が必ずしも正しくないことを、主人公自身が心理の奥底で感じている。  その矛盾こそが、人類の存在価値そのものを脅かす恐怖であろう。  このクラッシックなSF映画は、そういう恐ろしさを40年経った今も雄弁に語っている。
[DVD(字幕)] 8点(2010-11-04 12:29:53)(良:1票)
709.  恋はデジャ・ブ
十数年に渡って、この映画のジャケットをレンタルショップで幾度となく見続けてきた。 そしてその度に、「若いビル・マーレイが出ているチープなラブコメなんだろうな」と思い続けてきた。 何より、「恋はデジャ・ブ」という邦題がださ過ぎる。恐らく、多くの映画好きの日本人が同じような印象を持っているんじゃないかと思う。  ところがこの映画が、アメリカの歴代映画ランキングの「ファンタジー」部門で8位にランキングされており、驚いてしまった。 そして追い打ちをかけるように、TSUTAYAの“発掘良品”の企画棚に並んでいるのを観て、この映画の存在を知って十数年目、初めて手に取った。  いやあ、良い映画だった。まさに“8位”、まさに“発掘良品”に違わない。  自尊心ばかりが強い意地の悪い主人公が、嫌々訪れた田舎町で、“或る一日”を抜け出せず、繰り返し繰り返し同じ一日を生きなければならなくなる。 良いことも悪いこともすべてが繰り返され、主人公は時に楽観し、時に悲観し、心情の浮き沈みさえも繰り返す。  人は誰しも、とても良いことがあっても、とても悪いことがあっても、「また同じ一日をやり直したい」と思う。 では、実際にそういう状況に陥ったとき、果たして何が出来るのか?ということをこの映画はひたすらに描き出す。  永遠に繰り返される一日。それはやはり“悲劇”であり、“恐怖”だと思う。 何を成功しても、何を失敗しても、目が覚めると”ゼロ”に逆戻り。 その儚さは、「一日」に“始まり”と“終わり”があることの「価値」を雄弁に語る。  ラブコメであるこの映画は、恋の成就とともに一応ハッピーエンドを迎える。 ただそのハッピーエンドには、また繰り返される一日が表裏一体で存在しているようで、何だか怖い。  ビル・マーレイが演じる主人公は、繰り返される一日に苦悩しながら、人生における様々な発見と経験を得ていく。 この映画は、“同じ一日”を繰り返して描くことで、人生にまったく“同じ一日”なんてものは無いということを、ファンタジックな辛辣さの中で物語っている。  最後に……やはりこの邦題だけは最悪だ。
[DVD(字幕)] 8点(2010-10-31 19:06:14)(良:3票)
710.  フィリップ、きみを愛してる!
この映画が実話だとは到底信じられない。大部分において大袈裟な脚色はあるのだろう。 ただよくよく考えれば、“フィクション”を「この話は真実だ」ということは自由だと思うし、この光り輝く映画に対して、それが真実かどうかなんてもう関係ないと思わせる。  何を置いても、2人のハリウッド・スターのその演技者としてのバラエティーの豊富さが凄い。  まずは、ジム・キャリー。“嘘つき”でゲイの天才詐欺師という役どころの時点で、彼以上にふさわしいキャスティングはないだろう。 彼自身が切望してこの役を演じたらしく、そのキャリアで培ってきたパフォーマンスの総てを余すことなくぶつけている。 飄々と嘘をつき続け、脱獄を繰り返し、ひたすらに愛する恋人に「愛」を伝え続ける様は、どうしようもなく滑稽で、だからこそ人間そのものの愛くるしさに溢れている。  そもそも人間というものは愚かで、滑稽である。その悲哀を投影することにおいて、今ジム・キャリーより秀でた俳優は居ないように思う。  そして、そのジム・キャリーの暴走的な愛を一身に受け止める“恋人”を演じたユアン・マクレガーも凄い。 風貌はいつものユマン・マクレガーなのに、その目つきと物腰のみで、一途な愛に振り回される“少女”を体現している。 伝説のジェダイ騎士役を経てもなお、イメージに固執されることなく、主人公から悪役、あらゆる脇役までこなす彼のスター俳優としての立ち位置は、ある意味“斬新”だとすら思えてくる。   ストーリー自体は、真実とフィクションの境界線を突っ走るようなキワドさを伴い、不安定さを感じなくはない。 ただし、その危ういストーリーの道程を2人のスター俳優が、堂々と、飄々と走り抜けていく。  すべてがハッピーな映画では決してないけれど、不思議な爽快感と幸福感に溢れた良い映画だと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2010-10-28 14:53:18)
711.  お熱いのがお好き
アンジェリーナ・ジョリー、スカーレット・ヨハンソン……、今現在もハリウッドを彩るセクシーな女優たちは沢山いるけれど、“セックスシンボル”という呼称を聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、今尚「マリリン・モンロー」だと思う。 彼女の映画をまともに観たことが無かった僕の世代(1981年生)でもそうなのだから、その「存在」自体が”伝説”と呼ぶにふさわしい女優なのだろう。  ただ、“セックスシンボル”というイメージが余りに強く、「女優」としてはいささか“軽薄”な存在として捉えていたことも事実。なので、これまで彼女の出演映画を観ようなんて思ったことは一度も無かった。 今年、「アパートの鍵貸します」「情婦」と、ビリー・ワイルダーの監督作品を立て続けに観ていなければ、この「お熱いのがお好き」という映画も観ることはなかっただろう。  マリリン・モンローという女優名も、「お熱いのがお好き」というタイトル名も、これまで散々耳に入れてきた名称だ。そして、名前だけ知っていて、大体“知ったつもり”になっていた。 非常に、愚かなことだと思う。  ビリー・ワイルダーの映画術と脚本力は流石に卓越している。トニー・カーチスとジャック・レモンのパフォーマンスも素晴らしい。 が、それらを明らかに”二の次”に押しのけてしまう程、マリリン・モンローという女優の圧倒的な存在感に惹き付けられる。  前述の呼称が示すように、確かにセクシーなことはこの上ない。ただそれと同時に、抜群の愛くるしさに溢れている。 彼女はその短い人生の中で、銀幕で、プライベートで、数多くの男を虜にしてきた。 それは“欲情”によるものだとずっと思っていたが、決してそうではないとこの映画を観て思った。 彼女は、男が女を好きになるという「本質」の様々な要素を集約した存在だったのだと思う。  理屈ではなく、“本能的”に好きにならずにはいられない。その「存在」は、間違いなく映画史に残る奇跡だと思わずにはいられない。  と、マリリン・モンローという“シンボル”の存在感に打ちのめされた深まる秋の夜。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2010-10-24 01:40:34)(良:2票)
712.  ボーイズ・オン・ザ・ラン
無様な男と、無様な女、そのありのままの「無様さ」を“綺麗ごと”なんて完全無視して描きつけた“ヘン”な青春映画だった。  主人公は玩具メーカーのうだつが上がらない29歳の営業マン。援交相手の醜女に逆切れされ、憧れの同僚とはいい感じになりつつも、肝心なところで大失態を繰り返し、挙げ句ライバル営業マンに寝取られる始末……。 最初から最後まで汚れまくりで、良いことなんてほとんどない。  実は、自分自身29歳の営業マン。仕事の合間にネクタイを締めたままこの映画を観ていた。 “イタイ”主人公の姿に笑いつつ、キワドいリアリティが突き刺さってきた。  自分がものに出来なかった女の仇を討つため、軟弱な主人公は“ブチ切れ”、鍛え上げ、「タクシードライバー」のトラヴィスと化す。  普通の青春映画であれば、主人公の「達成」をもって爽快感を導き出すのだろうけれど、普通の青春映画ではない今作は、それすらも許さない。 主人公が終始「無様」なまま、この映画は終焉する。  映画を観終わり、再び仕事に戻るため、土砂降りの中を営業車で走った。 けれど、僕の心は何故か晴れ晴れとしていた。 それは、この映画が無様で阿呆でしょうもないけれど、確かな「勇気」に溢れているからだと思う。  主人公は何も達成しない。ただただ己の小さな自分の人生を走る。その様は決して格好良くないし、転びまくる。でもその目を背けたくなる程に痛々しい等身大の姿は、問答無用に胸に迫る。
[DVD(邦画)] 8点(2010-10-10 02:03:50)(良:3票)
713.  パンドラの匣
月末の多忙さから逃避するかの如く、平日の深夜、偏頭痛を片手で押さえながら、この映画を観始めた。  この映画は、「違和感」に埋め尽くされている。 まず、明らかに作為的なアフレコの演出に大いなる違和感を感じ、戸惑った。 主人公のモノローグと映像と微妙にズレた台詞が交じり合い、違和感は更に深まり、冒頭からどこか奇妙な世界に放り込まれたような感覚に陥る。  そして、「やっとるか」「やっとるぞ」「がんばれよ」「よーしきた」と、まるで“記号”か“暗号”のように繰り返される言葉に対して、軽薄さを感じる反面、妙な居心地の良さを感じ始めた時、鑑賞前の偏頭痛はどこかに消え失せた。  太宰治の原作は未読だが、独特の繊細な心理描写を根底に敷き、彼ならではの“根暗”で、だけれども不思議な“陽気”さを携えた青春小説を、見事に映像化しているのではないかと感じた。  そもそもは、仲里依紗目当てで食指が動いた映画だった。ただ、拭いされない大いなる危惧もあった。 それは、監督が冨永昌敬という人だったからだ。彼は「パビリオン山椒魚」という映画で、結婚前のオダギリージョー&香椎由宇を主演に配し、あまりに倒錯的な酷い映画世界を見せつけてくれた監督である。  今作も、ある部分では倒錯的で、間違いなく“変てこ”な映画である。 ただし、今回はその倒錯ぶりが、太宰治の文体と絶妙に交じり合って印象的な世界観が生まれていると思う。非凡な映像センスと、独特の編集力が、純文学という創造性の中で見事に融合している。  明日はまた朝から仕事だけれど、深まる秋の夜長、こんな夜更かしも悪くはない。 そう思わせてくれる意外な秀作だと思う。
[DVD(邦画)] 8点(2010-10-01 01:33:14)
714.  ハート・ロッカー
イラクの戦場、日々尽きることの無い爆弾処理の最前線を描いた今作が、アカデミー賞を勝ち取ったことに対して、個人的には若干穿った見方をしていた。 果たして、本当にアカデミー賞にふさわしい映画なのかどうかと。  その理由は、この数年のアカデミー賞作品賞受賞作品には、手放しで賞賛を贈れる映画があまりに少ないということ。そして、9.11以降、アメリカという国の価値観は、人間の混迷や混沌を描いた映画を安直に崇拝する傾向が強すぎる気がしてならないからだ。  もちろん、世の中の数多の「不安」に対して、それを批判したり、影響を受けた映画が作られることは必要だろう。が、それがイコール「良い映画」であるかどうかは、当然別問題だ。  なので、元夫婦対決を制し、「アバター」をかわして、キャスリン・ビグローが女性監督として史上初のアカデミー賞受賞を果たしたこの戦争映画にも、素直に期待出来ないものがあった。  映画は、最前線の爆弾処理チームの3人を中心に、仰々しい展開を廃し、ドキュメンタリータッチに淡々と展開していく。端役でレイフ・ファインズやガイ・ピアースが登場するものの、主要キャストは無名俳優ばかりで安易な盛り上がりは一切無い。  少々疲れ気味の休前日の深夜の鑑賞で、さて眠気が耐えられるかどうか。という危惧は一瞬生まれた。が、そんな危惧は即座に消え失せた。  盛り上がりも、娯楽性もほとんど無い。あるのは、あくまで淡々と過ぎていく戦場の気持ちが悪くなるほどの緊張感だった。  その緊張感は、単に“いつ死ぬか分からない”というものだけではなく、「戦争」という日常に身を置く兵士たちが、静かに静かに精神が蝕まれていくことに対する“あやうさ”のように思えた。  決して、面白味に溢れた映画ではないと思うし、観る人によっては誤解を受けやすい映画であるようにも思う。 それはこの映画が、今この瞬間の「戦争」の表面的な狂気や悲劇を描いているのではなく、まだその実態さえも検証されていないリアルタイムの“混沌”を表現しているからに他ならない。  観終わってみて、「映画」として面白かったのは断然「アバター」なので、アカデミー賞の受賞はやっぱりジェームズ・キャメロンがふさわしかったと思わなくはない。 ただし、この濃厚すぎる程の戦争映画を撮り切った女性監督の“力量”は、間違いなく半端ない。
[DVD(字幕)] 8点(2010-09-23 02:03:14)(良:1票)
715.  母なる証明 《ネタバレ》 
 休日の深夜、この映画を観て就寝した。 すると、この映画に満ち溢れる「不安」を如実に反映した夢を見て、非常に目覚めの悪いウィークデーの始まりの朝を迎えてしまった。今も、どこか気怠く、眠い。  韓国映画には、その善し悪しは別として、ねっとりとまとわりつくような「不安」に溢れた作品が多い。それは映画のジャンルに関わらず、ドラマ、アクション、サスペンス、ラブストーリー、更にはコメディにまで至り、映画を生み出すそもそもの“根底”に備わっている要素のように思える。 何本もの韓国映画を観ていると、時にその“厭な雰囲気”に対して、嫌悪感を抱いてしまうことも多々ある。 しかし、もはやそれは韓国という国が発する文化性であり、外国の映画を鑑賞する以上、否定できないことだとも思う。 そして、その“厭な雰囲気”を包み隠さずぶつけてくるエネルギーがこの国の映画にはあり、それこそが韓国映画の魅力だと思う。  そのエネルギッシュな韓国映画界において、トップランナーであり続けているのが、今作のポン・ジュノ監督だろう。 力強く、美しい映像世界の中に、人間の滑稽さと愚かさを上質な情感をもって表現する術に秀でた彼の最新作は、“母親”が息子を愛する揺るぎない「本質」を生々しく、辛辣に描いた問題作だった。  殺人の容疑がかけられた息子を救い出すために、母親は雨の中昼夜を問わず奔走する。 そうして辿り着く真相、真相に対する母親と息子の言動……。  泥々としたミステリアスな展開の中で、ストーリーは二転三転する。 意外な展開に対してその都度息を呑むが、これがポン・ジュノの映画である以上、安直なカタルシスは得られない。  映画は、母親が無表情で踊り狂う様で、始まり終わる。  その様を、どういう心境で見られるか?この映画は、“厭な雰囲気”の中で、問答無用に問いかけてくる。
[DVD(字幕)] 8点(2010-09-21 11:08:50)
716.  仁義なき戦い 広島死闘篇
シリーズの順番を違えて、第三弾「代理戦争」を観た直後に、第二弾である今作を観た分、余計に特徴的な個々人の人間描写が鮮烈に印象に残った。  何と言っても配役が凄い。 シリーズの主人公である菅原文太演じる広能昌三を脇に配し、北大路欣也、梶芽衣子、千葉真一がそれぞれ濃すぎるほどの芝居を見せつけてくれる。 それぞれが決して魅力的なキャラクターというわけではないのだけれど、台詞を発する一つ一つの息づかいや、ぎらつくような目つきに、目が離せなくなる。 特に千葉真一演じる暴徒のキレっぷりは圧倒的だった。文字通り男の血と汗がたぎる映画世界の中にあって、梶芽衣子の色香も極上。  それにしても、深作欣二が生み出した同シリーズは、オリジナル全5作品がたった2年間の間に立て続けに公開されたことに驚く。 これほどまでに濃い映画を、これほどまでに濃いキャストをもってして連発した当時の日本映画界のエネルギーは、とても今の映画界の裁量でははかれないだろう。  つくづくあらゆる面において、「圧巻」の一言に尽きる映画だと思う。
[DVD(邦画)] 8点(2010-09-12 19:52:01)
717.  月に囚われた男
月世界の静寂の中で響く繊細な旋律が印象的な映画だった。 美しく響き渡る音色が、殊更に映画世界に満ちる“孤独感”を際立たせた。  月の裏側で唯一人、貴重な地下資源の採掘業務に従事する男。 孤独と望郷の念に耐え続け、3年間の任期終了まであと2週間に迫った時からストーリーは始まる。  主要キャストは、主演のサム・ロックウェル“一人だけ”だということは認知していたので、果たしてこの性格俳優の「一人芝居」でどのように映画を転じさせていくのか。 もしかすると、物凄く地味で独りよがりな映画なのではなかろうか、という疑念も持ちつつ、映画の「試み」に対して非常に興味深かった。  しかし、その想定は数奇なSFスリラーの展開により、良い意味で裏切られた。  アイデア自体は「奇抜」という程では無いのかもしれないが、“驚き”への導き方と見せ方がとても巧い。 一人の男の淡々とした描写から、突如スリラーの渦に放り込まれる感覚。そのストーリーの転換を、決して映像や音響の急激な変化に頼るのではなく、一つの「視点」の変化のみでさらりと、だが劇的に成している。  そして、このSF映画が素晴らしいのは、ストーリーにおける“驚き”が映画のハイライトではないということだ。 “驚き”はスパイス的な一要素に過ぎず、そこから始まる悲哀に溢れたドラマこそが、この物語の核心となる。  主人公に課せられたあまりに残酷な運命。 それを受け入れる様、それに抗う様、相反する“二つの姿”の在り様こそが、この挑戦的なSF映画の深さであり、面白味だと思う。  SFとは科学的空想であり、だからこそ、そこには人間の心理描写が不可欠だと思う。 人の精神と科学が結びつき交じり合い、無限なる世界が創造される。  手塚治虫の「火の鳥」や、藤子・F・不二雄のSF短編漫画を彷彿させる、広大な奥行きを備えたSF映画だ。
[ブルーレイ(字幕)] 8点(2010-08-30 00:05:23)(良:2票)
718.  ナイト・オン・ザ・プラネット
自分自身もすっかり大人になってしまい、深夜のタクシーに乗る機会も度々あるようになった。  大概の場合酔っ払っていて、繁華街から自宅までのせいぜい20分間程度の道のりなので、特に何があるということはないけれど、タクシーの中というものには独特の雰囲気があると思う。  その雰囲気は、全く見ず知らずの運転手と客との間に生じるその場限りの「空気感」によるものだと思う。  地球という惑星のあちこちで、全く同時刻にひっそりと織りなされたタクシー運転手と客らによる5つのショートストーリー。 ジム・ジャームッシュらしい淡々とした語り口で繰り広げられるこのオムニバス作品には、本当に何気ない人間同士の関わり合いにおける素晴らしさが溢れている。  それぞれのストーリーの登場人物たちが、その束の間の出会いによって、何かが変わったということは決してない。 ただそれでも、その一つ一つの出会いが、次の瞬間の人生を築いていくということを、この映画は、深夜の静寂の中でしっとりと伝えてくる。  とても良い映画だと思った。
[DVD(字幕)] 8点(2010-08-13 13:02:33)
719.  オリエント急行殺人事件(1974)
アガサ・クリスティ原作の「名作」というこの映画に対する評は随分と前から認知していて、10年以上前にレンタル落ちのビデオテープも購入していたのだけれど、なかなか食指が動かず、観る機会がなく、ビデオもどこかにいってしまっていた。  食指が動かなかった最大の理由は、“ストーリーのオチ”を知ってしまったからに他ならない。 原作も映画もあまりに有名な作品なので、どこかしらからミステリーの顛末が耳に入ってしまったのだ。 オチを知ってしまったミステリーほど魅力減のものはないわけで。  満を持して鑑賞に至ったわけだが、なるほど面白い。  何たってアガサ・クリスティのミステリーなので、そのストーリー展開はもはやミステリーの「定番」といったもので目新しさはない。 しかし、描き出される映画世界にはもちろん時代は感じるが、往年の娯楽映画によくある“古臭さ”は全くなかった。 それは名匠シドニー・ルメットの卓越した映画創りによるものだろうと思う。  前述の通り顛末は知ってしまっていたので、ミステリーに対する“驚き”は少なかったが、それでも思わず唸りたくなるような「真相解明」は、流石に上質だった。 
[DVD(字幕)] 8点(2010-08-08 10:53:47)
720.  ウルフマン(2010) 《ネタバレ》 
「狼男?今更?」 という第一印象を持ち、その今更感たっぷりの作品に、ベニ・チオ・デルトロとアンソニー・ホプキンスの濃ゆ過ぎるキャスティングの意味と価値は何なのか?という疑問を持った。  そんな疑問符だらけの印象だったので、映画館で観るつもりはなかった。 しかし、所用で早起きした日曜日の午前中、ぽっかりと空いた時間に映画館に行くと、観たかったアカデミー賞絡みの作品はことごとく午後からの上映スケジュールとなっていて、唯一時間が合ったのが今作だった。  「まあ、これも巡り合わせか」と思い、諦めて鑑賞に至った。 (ただし、その反面「もしかすると……」という淡い期待が無かったわけではない)  映画は、予定調和に終始した。 薄暗いオールドイングランド、妖しく荒れ果てた大屋敷、尊大で謎を秘めた領主、満月の夜の惨劇、闇夜を疾走する怪物、主人公に訪れる悲劇…………。  ベニ・チオ・デルトロの疑心暗鬼な表情から、アンソニー・ホプキンスの溢れる異常性まで、すべてがいわゆる”お約束”の中で展開される。 そのベタベタな展開に対して冒頭は呆れる。しかし、次第にその展開の性質は、突き詰められた「王道」に対する美学へと転じていく。  用意されたストーリーに衝撃性はまったく無いと言っていい。ただ恐怖シーンでは約束通りに恐怖感が煽り立てられ、感情が揺さぶられる。  つまりは、観ている者の恐怖感や驚きまでもが、予定調和の中にしっかりと組み込まれているということだと思う。  「狼男」の映画として、「良い意味で裏切られた」なんて思う部分は一切無い。「まさに狼男の映画だ」と言うべき映画だ。 よくよく考えてみれば、「今更狼男?」と思う反面、実際はまともに「狼男映画」なんて観たことがないということに気づいた。  この映画は、「狼男」という大定番のモンスターの本質をしっかりと描き、“ゴシック・ホラー”を見事に蘇らせた意外な程に堅実な良作だと思う。   P.S.見所はやっぱり“変身”シーン。 単に毛深くなったり、爪や牙が伸びるといった安直なものではなく、「骨格」が生々しく転じていく様がインパクトがあって良い。 タダでさえ濃いデルトロやホプキンスがそうなるので、衝撃は殊更。  ストーリーに驚きがない分、逆に何度も観たくなる。そういう面白味に溢れた作品だ。
[映画館(字幕)] 8点(2010-04-26 23:55:26)(良:2票)
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