701. 処刑人
ネタバレ 兄弟が執行する→現場に刑事が来る→刑事が再現・推理する 最初は新鮮に映えるもこう繰り返されるとテンポが悪く、冗長な印象が否めない。イケメンな兄弟が神の代行人として悪人を殺しまくる過激な設定は面白そうだが、ミスマッチなオープニングといい、スタイリッシュと勘違いしたキレのないアクションの数々にはタランティーノにも及ばない。ロッコがさらにテーマをややこしくさせているように見えた。詰め込み過ぎて贅肉ありすぎだ。エンドロールのインタビューで消化不良が頂点に達した。続編は見ない。 [DVD(字幕)] 2点(2016-10-05 00:37:39) |
702. アトランティスのこころ
ネタバレ 『スタンド・バイ・ミー』と『グリーンマイル』が合わさったような小品。派手さはないが、少年の自立と成長を堅実に見せる。それでも両作の劣化セルフコピーに見えて印象が薄かったのも事実。主人公を導くアンソニー・ホプキンスは余裕のある演技。後に『スター・トレック』で飛躍する主役のアントン・イェルチンが事故死するとは誰が想像したことか。ラストの自転車のシーンがその後を暗示をするようで、複雑な気持ちになる。 [DVD(字幕)] 5点(2016-10-05 00:33:28) |
703. 預言者
ネタバレ アラブ系の青年がギャングのボスとして頭角を現すさまを、預言者ムハンマド誕生になぞらえて描いた本作。 カンヌが好む社会派要素はあれど娯楽作品としても両立している。 自身のアイデンティティーに背いてコルシカ系マフィアに組み込まれざるを得ない主人公は、 処世術を学び、情けない青年からしたたかな男になっていく。 その主演の演技が見事。 同胞のイスラム教信者の礼拝、飛行機の搭乗シーンといった目の前の世界が広がっていく演出が印象に残る。 ただ、結局は刑務所に入れられても更生せずに図太い犯罪者にランクアップするだけ。 純フランス人が登場しないのも今のフランス社会そのものの歪みを映し出しているよう。 己のアイデンティティーと居場所……そこに一つの答えもないから、 グローバルなのに閉塞感のある矛盾が刑務所に集約されている。 [DVD(字幕)] 7点(2016-10-05 00:30:27)(良:1票) |
704. EUREKA ユリイカ
ネタバレ 偶然とはいえ、製作年に発生した北九州のバスジャック事件を思い起こさせる。そして事件に心に傷を追い、殺人者と化した少年が実在の事件とオーバーラップした。モノクロフィルムをカラーで現像したセピア色の世界が、あやふやに彷徨う当事者の心象風景として映えてくる。同じく重い過去を持つ兄妹の従兄をバスから追い出す運転手の心境は常人には理解できない。どんな人間にも犯罪に手を染めるのには理由や背景がある、と言いたいのだろう。ともすれば、タイトル、映像、演出、全てにおいて娯楽とは対極の本作もまた、観客とは隔絶された世界に向かってしまうわけで。壁ノックが象徴するように、コミュニケーションの不通が本作のテーマだとしたら、寛容か拒絶の二極でしかない現代社会において、それ以外の道を探るこそが【ユリイカ】=【発見】そのものかもしれない。 [DVD(邦画)] 5点(2016-10-05 00:27:55) |
705. 六月の蛇
カラーだったら下品だし、かといってモノクロでは物足りない。 そのどちらでもない青いモノクロが、女の内なる性をエロティシズムあふれる美の世界へと解放させる。 ストーカーの顛末等、分かり辛い個所は少なくない。 それでも青い画面が閉塞感あふれる6月の東京に湿り気をもたらし、追い詰めるようにじんわり濡らしていく。 再び性に目覚めていく女が美しい、ただただ美しい。 [DVD(邦画)] 8点(2016-10-05 00:24:01)(良:1票) |
706. 高慢と偏見とゾンビ
『高慢と偏見とゾンビ』・・・なんてそそられるタイトルなんだろう。 『死霊の盆踊り』並みに絶妙である。 元ネタを知らないと面白さが理解できないとのことで『プライドと偏見』で予習してから観賞に挑んだ。 格調高さとB級感を両立させようとすると普通の映画になってしまって却って難しいなと。 18世紀当時を再現したセットもそれほど豪華絢爛に見えず、低予算ならではの妥協もあったのかもしれない、 真面目さを通り越してのギャグ(=シリアスな笑い)が不完全燃焼だった。 原作が8割方ジェーン・オースティンの原文とのことで、そこを熟知しないとかなり厳しいかと。 それを抜きにしてもアクションとしては普通に面白い。 [映画館(字幕)] 5点(2016-10-05 00:21:38) |
707. 超高速!参勤交代
ネタバレ テレビ版編集のためか、本編が10分弱短いせいもあり、意外とサクサク見れた。軽快な娯楽時代劇と言いたいが、弱小藩が如何にして危機を切り抜けるのかというワクワク感、幕府側をあっと言わせる痛快さが予想範囲内。コミカルとシリアスが水と油のように混ぜ合わず、場面場面によっては重い口当たりが残ることも。女郎のエピソードとクライマックスのチャンバラは贅肉感があり不要。アイデア勝負の90分で描いてくれたら良作だったかもしれない。参勤交代に絞った題材が勿体ない。 [地上波(邦画)] 5点(2016-09-23 08:02:13) |
708. レクイエム・フォー・ドリーム
ネタバレ 分割画面、コマ送り、ヒップホップ・モンタージュ、スローリーカム撮影といったMTV演出が新鮮さと軽快さを生み出すが、それが却って終盤に向かうほど薬に慣れていく感覚に似ていて戦慄した。甘美な快感がやがて地獄へ真っ逆さまになるドラッグと同じだ。心の弱さ・寂しさを埋めるために尊厳すら捨て去り、ドラッグに全てを捧げた四人は、手を染めなければ別の結末もあったかもしれない。特につまらない日常を送る未亡人のサラは自分自身には何もなく、テレビ番組に参加する夢を持つことで生きている実感を浴びたかったのだろう(ただし、イタズラ電話ならともかく、痩せようと本気で努力しようとしない)。息子ハリーがドラッグについて言い返せなかったのも、何もない自分から逃げた同じ中毒者としてブーメランを突き付けられたからだ。ドラッグだけでなく、熾烈な現実を紛らわすためにテレビ、オンラインゲーム、過食、爆買い・・・何が何でも身に縋る夢のコンテンツは身近に存在している。一部の成功者を除けば、その他大勢はどこにでも転がっているコンクリの欠片だ。そんなもの誰も見やしない。自覚しなければ身を滅ぼしてしまう。足元の幸せに気付かず、目先の夢に簡単に飛びついて砕け散った四人に春は訪れることはない。叶わない夢をいつまでも見続ける。 [DVD(字幕)] 8点(2016-09-06 19:42:58) |
709. シン・ゴジラ
ネタバレ 冒頭の配給クレジットの演出からしても原点回帰であることを宣言する。従来の守護神としてではなく、破壊神として跋扈する様を描くにしても、あくまでメインはその脅威に立ち向かう"日本人"の葛藤と決断に至るまでの会話劇である。序盤まではただの水蒸気爆発だろうと、どこか呆けてとぼけた調子が、次第に巨大生物ゴジラの確認、大惨事を引き起こすに連れて、圧倒的な無力感が広がっていく様は短編『巨神兵東京に現る』を思い出す。BGMにしてもテロップのフォントにしてもエヴァンゲリオンを彷彿とさせるもので庵野イズム満載。とは言え難解さはほとんどなく、ある種のやり投げ感もプラスに働いている。ゴジラを凍結させたとしても、いずれは対峙しなければならない現実。欧米のように核で済ませるほど単純で明瞭ではなく、後回しさせるところが日本人的。それでもこの映画は、現在でも混沌から抜け出せない日本人に対して、希望に満ちた「イエス」と答える。そういう意味では、特撮もとい邦画史の転換点になるきっかけを生むのかもしれない。 [映画館(邦画)] 7点(2016-09-06 19:34:46)(良:1票) |
710. GODZILLA ゴジラ(2014)
ネタバレ エメリッヒ版は未見だが、それと比べればオマージュは感じられる。 が、構成はやっぱり地球の守護神ゴジラが敵の怪獣を倒しに行くという、往年のシリーズらしい範囲内で終わっていく。 そこに至るまでがちょっと退屈で、溜めに溜めてこれではどうしても物足りなさを感じてしまう。 核の向き合い方にしても、もう少し踏み込んで欲しかったと思わざるを得ない。 [映画館(字幕)] 5点(2016-09-06 19:28:07) |
711. ノア 約束の舟
ネタバレ 旧約聖書のノアの箱舟は聞いたことはあれど、興味を持てないとどうでもいい話。たった数行のエピソードを誇大に膨らませるにはあまりに違和感のあるイマジネーションの数々。マッドマックス風の近未来、指輪物語風の中世ファンタジーが闇鍋のようにぶっこまれ、旧約聖書の世界観と上手くマッチしていないのが痛い。家族ドラマとしても現代風でどうでも良くなってしまった感があり(監督ならではの辛辣さがこれまたマッチしていない)、洪水以降の展開がこれまた冗長である。いずれにしても、戒めとして宗教を誕生させながらも都合良く解釈して、人類の過ちが現在でも繰り返されていく。宗教と狂気は紙一重、付き合いは程々に、ってところかな。 [DVD(吹替)] 4点(2016-08-29 19:59:09) |
712. ブラック・スワン
ネタバレ 方向性は違えど、監督の前作『レスラー』と共通するものは、強烈な渇望=承認欲求そのものだろう。毒親から受動的に狭い世界で生きてきたバレリーナにはそれしか心の拠り所がない。過度の重圧と葛藤から己を解き放ち、一線を超えるのはバレエのみならず、アスリートにしても俳優業にしてもほんの一握りのみ。頂点に立つことは孤高になるということ。リアリティを考えれば、リフトで失敗、鏡の破片が刺さったまま踊るなんてありえないため、無理して初演に向かうシーンから彼女の妄想だと思えば全て納得がいく。彼女は初演だけで満足し燃え尽きてしまった。そういう残酷で儚い夢物語。前作と違って遠い世界のように感じられてしまって、あまり鳥肌が立たないので6点とさせて頂く。 [映画館(字幕)] 6点(2016-08-29 19:23:14) |
713. レスラー
ネタバレ プロレスに限らず、どのフリーランスにも当て嵌まるため他人事ではない。肉体の衰え(作家業なら創造性)は誰にも訪れ、特に過去の栄光に縋り続け、プライドが高いのなら尚更。特に娘の約束を忘れて破ってしまう件は血まみれハードコアデスマッチよりも痛々しい。主人公に共感できない人がいるのも当然だろう。それでも仕事と私生活を両立できない不器用な彼に対してある種の羨望を持っているのは事実で、ドサ回りでも彼に声援を送るファンを裏切ることが出来なかった。そういう世界でしか生きられない男のスピーチが胸を打つ。理解者のストリッパーにも去られ、失うものもない彼が死を覚悟したラム・ジャムは、他方からすれば愚かな破滅だが、本人からすれば最期までやり切った生存証明とも言える。それは非現実な世界を生きているか否か、何かを持っているか否かの違いか。落ち目のミッキー・ロークのためにスタジオと闘い続け、プロレスから辛辣な人間ドラマへと昇華させたアロノフスキー監督の着眼点と手腕を称賛したい。 [映画館(字幕)] 9点(2016-08-29 19:14:03) |
714. オマールの壁
ネタバレ パレスチナを囲む壁がまるで戦前のユダヤ人を押し込めるゲットーを想起させる。かつてナチスがしてきたことを自分達も進んでしていることが皮肉だ。狡猾に嘘で扇動し、誠実な若者の運命を狂わせて・・・。オマールらがイスラエル兵士を撃たなければこんなことにはならなかったのか? もし日本も壁で囲まれる側だったら、その鬱屈はいつか爆発するだろう。解放される希望も未来もなく、めそめそと民族浄化されるくらいなら尊厳を持って抵抗する気持ちは伝わる。しかし、将来の結婚相手を幼馴染に奪われ、友人も不慮の事故で死に、生き甲斐を失ったオマールは心が折れて壁すら登れなくなってしまった。その遠因を作ったのは一見人間的なイスラエル人捜査官で、失うものもない彼が破滅覚悟で射殺する顛末が苦しい。スパイ映画としても青春映画としても秀逸な出来で、『パラダイス・ナウ』に続き、米アカデミー賞の候補に挙がった意義は大きい。どちらかが滅ぶまで負の連鎖と憎しみは絶えず続く・・・ [映画館(字幕)] 7点(2016-08-20 19:25:35) |
715. 恋する惑星
カンフーやマフィアものとは真逆の、浮遊感あふれるスタイリッシュな映像と中二病なストーリーテリングは新鮮で、初めは目を引くがどうしても飽きてしまう。二つのエピソードにあまり繋がりはなく、せめて交互に同時展開してくれないと退屈極まりない。象徴的に流れる"California Dreamin'"と"夢中人"はどうしても耳に残る。感覚的に嫌いではないが、なんだかな・・・ [DVD(吹替)] 5点(2016-08-20 00:10:11) |
716. 鬼が来た!
ネタバレ これは反日映画ではない。誰の心にも棲んでいる"鬼"を描いた普遍的なテーマだろう。もし自分が旧日本軍の兵士だったら、軍艦マーチで否応無しに気分が高揚するし、上層部の同調圧力に耐え切れず、同じことを絶対にしている。現代に移し替えてもその本質はこの先も全然変わることがない。共存しようと尽力するが、どこか馴れ馴れしい中国の村人もそうだろう。チアン・ウェン監督は日中のメンタリズムを非常に理解している。どこかとぼけて牧歌的ながら狂気とユーモアが一体になったハイテンションな展開が戦慄のパートカラーまで続く。主人公マーは殺された同胞の復讐をしたのに、国民党主導の処刑を同じ中国人に喜ばれるなんて皮肉すぎる。ちょっと黒澤映画に似たような熱量と空気を思い出してしまったが、一番の"鬼"は一度スイッチが入ったら暴走する権力そのもの(=中国共産党)かもしれない。カンヌ初公開のみにしか見れなかった文化大革命のエピソードは今後世に出ることはあるだろうか? [DVD(字幕)] 10点(2016-08-19 23:43:01) |
717. プライドと偏見
原作未読。堅苦しい映画かな?と思っていたけど、美しい英国の田園風景に引き込まれた。18世紀当時の風俗を再現したセットや衣装はもちろん、綿密な長回しと意外と挑戦的なこともやってみせる。ストーリー自体はタイトルそのまんまで特に際立ったものはないけど、ユーモラスな台詞を効果的に用いて飽きさせないようにはしている。ただ、いろいろ詰め込み過ぎな感じが否めず、表層的な印象を受けた。大女優ジュディ・デンチを相手に、凛とした強さで互角に渡り合うキーラ・ナイトレイが良い。ダーシー役はちょっと微妙。 [DVD(字幕)] 6点(2016-08-19 23:08:24) |
718. チーム★アメリカ ワールドポリス
ネタバレ ブラッカイマー製作のブロックバスター映画をそのままパロディにしたような、痛烈なアメリカ風刺がバシバシ飛び込んでくる。実在のスター俳優を人形に見立てた虐殺や露骨なセックスシーンの数々は絶対思いつかないし、よくここまで描けたと感心させられる。日本では大問題だ。ただ、笑えるかどうかは別物で自分は外しまくっていた。アメリカのブラックジョークが肌に合わなかったので厳しくさせて頂く。「パールハーバーは糞だ」は元ネタの曲をよく聴いていたらウケていたかもしれない。 [DVD(字幕)] 4点(2016-08-02 20:46:09) |
719. マジカル・ガール
ネタバレ まどマギとエヴァと黒蜥蜴にインスパイアされた結果がフィルムノワールという着眼点が面白い。ねっとり絡みつくように冷たいシュールな空気に、どうとでも解釈できる"行間"(悪く言えば勿体ぶった)が肌に合えば、この摩訶不思議な世界観に酔えるだろう。それくらい好みが分かれる。もしルイスが娘アリシアのラジオを聞いていれば、もしルイスが病んだ人妻バルバラの誘惑を断っていれば、もし元教師ダミアンがバルバラの嘘を信じなければ・・・・・・愛を求め、擦れ違いと嘘と勘違いをスペインの経済不況と精神分析で包み込み、希望から絶望へと転移していく。願いを叶えた魔法少女アリシアとそのなれの果ての魔女バルバラが表裏一体であるかのように。使い魔ダミアンはアリシアを本当に撃ったのか? 携帯電話を消したのは自分を狂わせたバルバラへの仕返しか、それとも再び悪魔へと覚醒した彼の支配か? かつての某大統領が言った。「この世で一番貧しい者とは、もっと、もっとを求める人のことである」。この"もっと"が今の文明社会を築いたが誰もが幸せになれるとは限らない。現代社会に蔓延する"病"に気付けない限り、金とモノに支配された現代人もこの悲劇と常に隣り合わせだ。 [映画館(字幕)] 7点(2016-08-02 20:16:42) |
720. キャロル(2015)
ネタバレ 『リプリー』で引っ掛かりを覚えてはいたけれど、原作者がレズビアンだったということに納得。実名で出版できなかった彼女の実体験に基づいた願望を、美しくクラシカルに紡いでいく語り口に引き込まれる。サスペンスを違和感なく挟み込むあたりも作者らしい。他の方が言っている通り、同性愛と決めつけれられない何かがあるのは事実で、そこは強調せず、二人の心の動きを機敏に捉えていた(逆に男性は女性に支配的で愚かに映る)。優雅で儚いが"男性"的でもあるキャロルと、彼女によって大人の"女性"に変貌していくテレーズ。対等の立場になって初めてお互いに見つめ合うアップカットに胸が高まる。その切り上げ方がお見事。同性愛というのは生きるための手段にすぎず、あくまで純粋なラブストーリーであり、腕っ節の強い男からの自立を描いた現代に通じるテーマとも言えよう。 [映画館(字幕)] 8点(2016-07-26 20:48:55) |