1001. パッチギ! LOVE&PEACE
鑑賞中どのシーンでも井筒監督の顔がちらつく。劇中の人物の叫びはそのまま井筒監督の叫びとして飛び込んでくる。ここまで監督の気持ちが乗り移った映画も珍しい。ここまで作り手の顔が画面を支配してしまうと普通はしらけるものなのだが、監督の本気度がびんびん伝わってきて、それこそちょっとでも目を逸らそうものなら「こらこらそこー!人がしゃべっとんねん!こっち向かんかい!」と画面に監督が登場して怒鳴られそうで凝視するしかない、そんな力強い映画でした。この力強さはそれだけをもって傑作といえるのかもしれない。ただ、作品単体は必ずしも私の嗜好に一致しない。前作が在日問題をからめた青春映画だったのに対し、今回は在日問題をからめた親子の物語。この親子の物語が3つあるのだが、その3つが全て『ゲロッパ』で見せた親子の物語以上に重い。「子捨て」「難病」「戦争」とどれもが重い。もともと重い題材である在日の問題を前作は、監督お得意の愛すべき不良どもがスピード感と爆発力をもってアホらしいと投げ捨ててしまう潔さとそれでも根は深いというものを、さらにもうそれしかない!という「愛」を見せていた。しかし今回は重い問題に重いドラマが重なり、作り手の熱さだけが持続し全体のリズムが非常に悪い。なおかつ最初と最後に見せる暴力シーンも前作とは違い大人となっているので痛快さよりも暴力の重さだけが残ってしまう。重い重い重い。それはもちろんこの作品に力が入っていたからなのは承知しているのですが。この映画を観て井筒和幸を好きになる人はいっぱいいると思う。私もますます好きになった。でも作品の評価は別もんです。 /すぐ追記 私は病院での号泣シーンにうるうるとしてしまったのだが、同時に監督の打算も感じてしまった気がする。前作で某賞を持っていかれた某作品に対して「俺かて感動するやつくらいできるんじゃ」みたいな。考えすぎかもしれんが重い話の必然性がそれ以外にない。 [映画館(邦画)] 5点(2007-05-25 12:40:13) |
1002. TRICK トリック 劇場版2
ヨメさんと一緒に観ていたのだが、「よろしくネ!」でクスッと笑うと「何か面白いこと言った?」とヨメさん。「ゆーとぴあ」を知っている者と知らない者の差が明白となった瞬間。『下妻物語』のジャスコネタや晴郎登場のような極めて間口の限られた笑い(『下妻物語』には映画的笑いもあった)。仲間由紀恵の貞子のような寝姿も笑えるがテレビ版で何度か見ているものにはさらに笑えるもの。片平なぎさの手袋は「スチュワーデス物語」を知らない者にはなんの意味もない。しかしこれらは単なるネタではなく「パロディ」という確固たる手法の一つでもある。ゴダールの映画なんてこの「パロディ」で埋め尽くされている。ただ引用元が誰も知らないようなものばかりなのでただ困惑してしまうだけで。だからというわけではないがこの「パロディ」だらけのこの作品は捨てきれない。テレビドラマの魅力をそのまま映画館に持っていけばテレビドラマの映画化はヒットするという法則が「踊る大走査線」で確立して以来、そこは逸脱できない。その中で苦心したかどうかは知らないが、「パロディ」のてんこ盛りという手の込んだお遊びが必死でテレビとの差異を叫んでいるかのように思えた。 [DVD(邦画)] 5点(2007-05-24 18:18:33) |
1003. 新・仁義なき戦い 組長の首
新シリーズ第二段。大ヒットの『仁義なき戦い』とは全く異なるカラーを出そうとしているのはいいのだが、例えばカーアクションはまさに前シリーズにはないアクション映画への変貌がよく表れているわけですが、その挿入が無理やりなんだなあ。そんなバカな罠に誰が引っかかるの?というお粗末な罠に「罠かもしれないぞ」と言っておきながら罠にかかって大騒ぎしてる文太がとにかく頭悪そう。ぶれまくるカメラの躍動感は深作監督の味が出ているけど、バヒュンバヒュンと撃ちまくるだけの車の追いかけっこもなんだか滑稽。策士・成田三樹夫も終盤は怯えまくって滑稽。梶芽衣子が絡むエピソードの中途半端さは深作っぽくていいんだけどファム・ファタールの匂いをプンプンさせて登場するひし美ゆり子の後半の存在の薄さはかなりもったいない。それでも許せてしまうのは、無理やりだけど勢いがある、ということに尽きる。 [映画館(邦画)] 5点(2007-05-23 11:07:28) |
1004. バトル・ロワイアルⅡ 【鎮魂歌】レクイエム
テロを擁護してるとか戦争賛美だとか全く思わなかったし、前作と異なり仲間内で殺しあわないから面白くないとか全然思わなかったけど、それでもコレは全然ダメ。そもそも前作も私はダメで、そのダメの根源である「そんなこといちいち言わんやろ」的なわざとらしいセリフがこの続編でもきっちりと継承されているのがまずひとつ。そして前作の最大の見所であったバイオレンスシーンの見事な構図だったり恐怖と緊張と興奮が入り混じった個性のぶつかり合いといったものがこの作品には無いというのが致命的。竹内力が「死に方に個性がない」と言ったことから個性の排除は確信犯ということになるのだろう(そのわりに死に際にくさいセリフを吐かす)。しかし「ワイルドセブン」合流後に個性が発揮されなければそれも意味が無い。戦闘シーンはもろに『プライベート・ライアン』のパクリで演出にも個性が無い。メッセージ色も前作よりも濃くなり、いや、濃くなったというレベルではなくそのまま言ってるし、しかも大国批判というあまりにも稚拙なものを。唯一良かったのが竹内力の顔だ。この顔だけが深作欣二だった。そしてその竹内の突然のラガーマン変身も悪くはない。竹内力に1点。 [DVD(邦画)] 1点(2007-05-22 11:54:17) |
1005. DEATH NOTE デスノート the Last name
いきなり葬儀の受付が、まんまとライトの思惑通りの悲劇の主人公像を思いっきり不自然な会話で我々に提示してくれるが、「前編」で免疫を持ってしまった私にとっては予想の範ちゅうであって、この作品を楽しむためには作品に集中せずにテレビのコマーシャルでも見ているかのようにしてただボーっと見るのが一番だと解かってしまった私の勝ちだといえる。そうなるとこの作品にとって最も大切なストーリー、そしてそのストーリーで最も大切なオチはけっこう楽しめた。ただそれだけだ。ほかに何があるという? もっと怖く?もっとスリリングに?そんなのこの作品ははなから狙ってない。複雑な頭脳戦とやらをバカな私にも解かるようにすることに注力した親切な作品でした。(イヤミのように聞こえるだろうが半分くらいは褒めているつもりです。) [DVD(邦画)] 3点(2007-05-21 11:40:17) |
1006. DEATH NOTE デスノート(2006)
エルがキラのことを幼稚だと言う。私も同感。一方エルの捜査方法が天才的なのかというとただ統計学に沿って捜査しているだけで、どちらも天才的な側面をまだ見せていない。天才VS天才という触れ込みは後編にとっているということで、、。そもそもデスノートの存在自体が幼稚で、当然お話も幼稚なのだが、でも幼稚であることは全然問題ではなく、むしろ幼稚だからこそ楽しめるわけでもある。この設定だととんでもなく怖い映画も作れそうだし、シュールな人間ドラマにもスタイリッシュなサスペンスにも成り得ていろいろな可能性を含んだ題材なんですけど。映画自体が幼稚なんだな。残念。 [DVD(邦画)] 2点(2007-05-18 16:18:08) |
1007. ラフ ROUGH
初めて会ったはずの可愛い女からいきなり「人殺し!」と罵られるという原作同様にサスペンスチックな序章はいいのだが、コミックスにして12巻の話の中で様々なエピソードを通過してゆくことで二人の関係が本当に少しずつ変わってゆくからこの衝撃の出会いが常に活きているわけなのだが、106分という時間内でその様々なエピソードが描けるわけがないのに、なんの工夫もなしに原作をなぞっているこの作品は当然その衝撃の出会いが浮いたままになり、和菓子屋のエピソードすら付け足しとしてしか描けず、メリハリのない退屈なものとなってしまっている。作品の性質上、主演二人のクローズアップの多用は止むを得ないのだろうが、このクローズアップで映される顔が二人の俳優の資質なのか照明のせいなのか、ただ撮るのがヘタクソなのかは知らないがあまり美しくない。むしろ全身を捉えられた長澤まさみはアップよりも断然可愛かったし、全身を捉えられた速水もこみちはアップよりも断然かっこよかったのでよけいにもったいない。 [DVD(邦画)] 4点(2007-05-17 12:04:55) |
1008. バタアシ金魚
すべての行動規範が「一目惚れした女」にあるというあまりに真っ直ぐな男は、女にとっても、傍から見ても鬱陶しい奴。実際にいればかなり気持ち悪い奴。そのうえバカで身勝手で自惚れ屋ときた。それでもこれが青春なのだ!と思わせる説得力があるから不思議。筒井道隆の中にある主人公カオル的な部分を見事に映し出しているからなのか、風景が見事なまでに「ニッポンの夏休み」を再現しているからなのか。物足りないのは高岡早紀の存在感の乏しさ。たしかに可愛い。とくに出会いのシーンのプールサイドに佇む水着姿の彼女は。でも筒井道隆と比べて魅力的じゃない。この監督は男を撮ることに比べて女を撮ることには長けていないように感じる。シチュエーションがちょっと似ている塩田明彦の『月光の囁き』がいいのは女が魅力的に撮られているからなのだとあらためて思う。 [ビデオ(邦画)] 6点(2007-05-16 11:47:02)(良:1票) |
1009. ゲゲゲの鬼太郎(2007)
キャスティングが見所!なんていうと大抵があんな人がこんな役で出てるというただそれだけでしかないことが常で、この作品の西田敏行やYOUや中村獅童や小雪なんかはまさにあんな人がこんな役で出てるという典型で、別に他の俳優がやったって問題ないものだと思う。でも意外や意外、メインの妖怪たちのキャスティングは見てびっくり、ぴったりはまってます。中でも田中麗奈の猫娘にやられた。25年前の「スリラー」をパクッたような思わず「古っ!」と絶句しそうなダンスを踊らされたり、バトルシーンでは子供向けヒーローもののようなキメのポーズをさせられたり、そもそもスラッと長い足を惜しげもなくさらけ出すあのコスチューム!!可愛かった~。一番重要な役どころの「少年」のキャラが弱かったのが残念。映画としてどうなのかという以前に映画を映画館で観るという醍醐味のひとつである「いっしょに笑う」ことの心地よさを久々に味わいました。オナラというのは子供から大人まで笑える。そのオナラを何度もネズミ男がする。そのたびに子供たちが笑う。こういうのもたまにはいい。 [映画館(邦画)] 6点(2007-05-15 11:39:57)(良:1票) |
1010. どろろ
原作漫画の大ファンです。それゆえに不安を抱いて鑑賞したせいかまずまず満足しました。手塚治虫の漫画は「ブラック・ジャック」然り「三つ目がとおる」然り「アラバスター」然り、実写だとかなりグロテスクになるものを絵にすることでグロテスクさを緩和しキャラクターの持つ内面を「顔」に、とくに「目」に見て取れるようにしている。「どろろ」もピノコの原型である百鬼丸は漫画の世界だからこそかっこよかったわけだが、この映画は実写であることがリアルでなければいけないという勘違いを犯さず見事に妻夫木聡という男前をさらに美しく、そして優しく強くかっこよく描くことで原作の魅力的なキャラを継承している。そして原作「どろろ」を下敷きに「人は人を許せるのか」という直球テーマを奇をてらわずに見せる、そのシンプルさも娯楽映画として好感が持ててたいへん満足している。ただし魔物たちの幼稚な造形はかなり幻滅したし、何よりもこの監督は『害虫』で説明しないことを実践しているにもかかわらず『黄泉がえり』など観客動員必須の作品では過剰に説明するという客をバカにしたスタンスが気に入らないのだが、まあ後者に関しては我々観客にも責任の一端があるわけで、今後こういった過剰な説明がいかにしらけるかということを声を大にして言い続けなければいけないと感じた次第。「殺気!!」っていちいち声に出すなよ。 [映画館(邦画)] 5点(2007-05-14 13:50:51) |
1011. しとやかな獣
《ネタバレ》 ほとんどのシーンが団地の一室という舞台劇風な作りでありながら、カメラは部屋から部屋へ所狭しとアングルを変え、メインの画では高度成長期の日本の風景が常に窓の外に、画面の奥に映され続けることで映画たらんとしている。会話が多いが全く飽きがこない。それどころか面白さが途切れずに持続する。強烈に赤い夕日を浴びて延々と踊り狂うシーンはインパクトありすぎ!自分たちでは止められない狂った世界の象徴。そして破綻を予告する雨。破綻を知る山岡久乃の視線。一人勝ち逃げを予言していた若尾文子の良心の呵責。それでもやはり勝ち逃げするのだろうその冷静な妖艶ぶり。うーん、たまらん。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-05-11 12:02:22) |
1012. ヘカテ
シャンパンの泡と共に蘇る情熱の恋物語。どこにでもありそうなお話だが、どれにも似ていない映画。ローレン・ハットンの髪が夜の風に舞う衝撃の出会い。乾いた風土が一変する幻想的な夜。異国感を煽る音楽。室内に差し込むオレンジの光、あるいはブルーの光。そして光が芸術的な影を作る。カメラマンはレナート・ベルタ。納得。 [映画館(字幕)] 8点(2007-05-10 15:37:58) |
1013. エヴァの匂い
ただ発される匂いだけで男を虜にし惑わせ腑抜けにする。としか説明しようがない。というのもこの魔性の女の性格が最悪だから。横柄だし高飛車だしわがままだし可愛くないし年くってるし。だから翻弄される男がよけいに哀れでしょうがない。どこに惚れるのか不明なのだが、この作品はあえてそこに触れない。女の素性をくどくど説明しないし、実はこんな可愛いところがあるのだとも言わないし、男の情愛にほだされて心変わりするなんてこともない。その堂々とした悪女ぶりが、嘘や虚栄心や後悔で塗り固められた男には魅力的なのだろう。モノクロで映される寒空の屋外風景が、そして流れるジャズが大人の、しかもかなりおしゃれな雰囲気を出している。室内の画はひたすら美しい。 [DVD(字幕)] 7点(2007-05-09 10:39:52) |
1014. 深夜の告白(1944)
結末を最初に見せて回想録で綴ってゆくという手法はこの後ワイルダー自身の『サンセット大通り』を含めて多くのフィルム・ノワールに有効な手法として取り入れられることになる。さらに夢のハリウッドにおいての冷酷な女の登場は当時としては驚愕に値しただろう。そんなパイオニア的価値も評価しつつ、でもこの作品の面白さはやはりエドワード・G・ロビンソンの絡ませ方だろう。この人物が登場するたびにサスペンスは盛り上がり、しゃべることで暗いムードを一掃しテンポをつくる。マッチというアイテムを使って作品にユーモアを与え、最後にはそのユーモアのアイテムを哀愁漂うものに変えてみせる。と、脚本の巧さが際立っていますが、当時としては珍しい屋外ロケ、しかも夜!というのも犯罪映画の雰囲気を盛り上げている。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-05-08 11:06:06) |
1015. ファム・ファタール(2002)
《ネタバレ》 バカの一つ覚えのような監視モニターで見せるサスペンスと無邪気な分割映像になぜか嬉しくなりながらデ・パルマを堪能する。思い返せばこういったデ・パルマ印は現実のシーンだけに用いられたような気がするのだが、もしそうならそんな拘りもまた愛おしいではないか。まだやるか!なヒッチマニアぶりも今回はかなりの手の込みよう。カツラをかぶり容姿を変えて別の人間に成り代わるという『めまい』とは逆パターンのプロットを用意し、しかもそれは現実ではなく、現実は容姿ではなく中身の変身というすっきりさわやかなオチ。この変身の決断への伏線が冒頭のファム・ファタール映画をラリぎみで観る主人公。薬でラリっている状態というのがミソ。悪女の悲しき結末を暗示にかけられた女の決断が自らの運命を変える。ファム・ファタール(運命の女)の運命の変化によってまわりの全ての運命が変わる。どこもかしこも愛おしい陳腐さで満ちている。こういうの、けっこう好き。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-05-07 11:18:20) |
1016. 美女と野獣(1946)
《ネタバレ》 詩人コクトーは詩では表現できない視覚的美の最たるものを見せてくれる。小説家コクトーは小説では表現できないジャン・マレーへの愛を見せてくれる。演劇家コクトーは演劇では表現できない幻想的な世界を見せてくれる。豪華なセットが、特殊メイクが、ジャン・マレーの相対する二役が、カーテンのゆらめきが映画の極致を見せてくれる。そのうえ、シュワッチ(とは言わないが)と空を飛んでいっちゃうんだから、拍手するしかない。 [DVD(字幕)] 8点(2007-05-02 11:46:58) |
1017. オルフェ
詩人が集うカフェという現実感漂う世界に突如現れる異世界の女。女の屋敷での不可思議な出来事。この現実世界の中に非現実世界を見せる独特の世界観。子供の頃大好きだった「ウルトラセブン」の世界観にそっくりだと思った。黒いライダーを代表とする全く人格の無い死の世界の住人たちと感情を露にする人間たちの対照的な描き方が、後に人間に恋をする死の国の女を誰よりも人間らしく見せてゆく。映画を映画以外の視点から見る事が出来たからなのだろうか、まるで映画の魅力と限界を知り尽くしたかのように前衛手法が冴え渡る逸品。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-05-01 14:57:57) |
1018. 鶴八鶴次郎(1938)
《ネタバレ》 成瀬作品はついつい女の顔を凝視してしまう。微妙な心情が顔に表れるのをカメラは逃さない、てか微妙な心情を目で語るような演技をさせている。長谷川一夫に告白されるシーンの顔がいい! 最後はてっきり飲み屋の外で山田五十鈴が話の一部始終を聞いて泣いている画が飛び込んでくるもんだと思った。で、また喧嘩が始まって結局二人で芸の道をゆく、てなエンディングに。そうならなかったことをふまえるとやっぱり最後の説明は蛇足かなと私も思う。繰り返される喧嘩シーンが作品に笑いをもたらし、キャラクターに親しみやすさと深みを与え、なおかつラストの伏線にまでなるという素晴らしい構成なんですけどね。でもそれを差し引いてもじゅうぶん面白かった。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-04-27 14:24:02) |
1019. 三十三間堂・通し矢物語
時代劇だからなのかスポコン男性映画だからなのか、本当にこれが成瀬監督作品なのかと疑ってしまうほどの異質な作品。女が映されるとたちまち成瀬っぽくなってる気もするんだけど、男は比較的遠めから撮っていることもあってか、もちろんそれはそれでいいんだけども、なんか違うなあという感じ。通し矢の休憩を挟んだあとのわかりやす過ぎる失態に対しての長谷川一夫の田中絹代への説明もくどい。まあでも普通に面白いのは間違いないです。通し矢の間に時間が過ぎてゆく様を当たり前のように光で表現しているのは流石。そしてその光の差し込ませ方が並みの監督ではないことを見せ付けている。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-04-26 11:49:58) |
1020. 浮雲(1955)
成瀬巳喜男の最高傑作らしいという前知識をもって鑑賞したのですが、その最高傑作という言葉にかなりの違和感を持ったことをよく覚えています。これ観たとき、『夫婦』とか『妻』、その他いろいろをいっしょに観たのですが、この『浮雲』よりもその他の映画のほうが良かったと思ったし、他の作品に感じた成瀬的なものをこの作品に見出すことが出来なかった。私が当時思っていた成瀬映画(現代劇)の世界観というのはもっと些細な出来事を、あるいは物語とは別のところで見せる小さなやりとりをこそ映し出す、その繊細な感覚というのがまずひとつあるのですが、『浮雲』は「出来事」が作品を支配し、男女の大河ドラマ風になっている。でもね、時がたつとともにおかしな現象が私を襲いました。成瀬映画を思い出そうとすると、まず一番に出てくるのがこの作品の高峰秀子のアンニュイで愚痴っぽい語り口。そして旅先での歩き姿だったり、男の部屋に立っている姿だったり、病床に伏せっている姿だったり、、。他の作品を押しのけて頭に浮かぶのはこの作品の風景ばかり。実のところまだ一回しか観ていないのですが、頭の中では何十回と上映されております。そしていつのまにか傑作だと思うに至ってしまったという稀な映画となりました。 [映画館(邦画)] 8点(2007-04-25 13:08:03)(良:1票) |