1101. 天使の卵(2006)
《ネタバレ》 まずは女優二人の姿に心を奪われる映画である。序盤では沢尻エリカが圧倒的に可愛いので、何で主人公が小西真奈美の方に惚れるのかがわからず、その行動が完全に意味不明になっている。しかし、だからといって小西真奈美が劣るかというとそうでもなく、主人公に告白されて目を丸くする表情などは切なくなるほど愛らしい。また終盤で毛糸を選んでいる姿も優しく美しいのだが、ただしこのあたりになると見ている側がストーリーに乗り切れず、冷ややかな気分になってしまっているのが残念である。 一方で、普通に考えれば困難なはずの選択を迷いなくやっている主人公は馬鹿で常軌を逸したように見えており、何でそこまで一途になれるのか気が知れず、それも芸術家気質のせいだと言い訳されているとすれば腹立たしい。また突然大声になるのがやかましく、うるせー怒鳴るなこの馬鹿と何回口に出したことかと思うが、そのうちこの男の発声自体が問題なのではないかと苛立たしく思われて来る。 ところでストーリーは原作(及び続編)と必ずしも同じでないわけだが、ラストが結局どうなったのかは見ていてよくわからない。残った二人がしあわせの道を歩み始める予感を残したようにも見えるものの、妹の方は単に姉の存在を絵の中に押し込めて安心したかっただけのようであり、また主人公としては絵を描くこと自体が最終目的であって、死人の方は既にどうでもよくなっていたのではないかとも見える。最後はどうせもう他人事だから勝手にしてくれという気分だった(絵も美しくない)。 そういうことでとても共感できるお話ではないのだが、それでも映画としての印象がそれほど極端に悪くならないのは結局、小西真奈美と沢尻エリカが極めて魅力的に見えていたこと自体によるものと思われる。主人公の男がいなければさらによかったが。 なおラスト近くで、妹がお下がりを着ると姉を思い出す、というような台詞があったが、この姉妹ではサイズが合わないのではないかと思われる。この映画を見ていても、小西真奈美は細身の上に小顔で、実際より高身長かつ可憐に見えるのが印象的だった。 [DVD(邦画)] 4点(2014-02-17 22:53:10) |
1102. パッチギ!
《ネタバレ》 沢尻エリカ鑑賞が目的で見た。序盤は単に愛くるしい感じを出しているだけだったが、後になって主人公とのやり取りが出ると登場人物の人柄も加えた魅力が見えて来る(終盤の「あほ!」がいい)。外見的には首から下に行くほど肉付きがいいのは目に余るものがあるが、それはまあご愛嬌というところである。この映画には続編があるようだが、沢尻エリカが出ていないので絶対見ない。 なお主人公がヒロインに電話した場面では、いきなり日本語で「キョンジャですけど」と答えたところで変に気分が高揚してしまったが、これは個人的な事情(気恥かしい記憶)によるものである。 ところで(1)死んだ若者の伯父は、役者の実年齢から推定すると日韓併合の頃の生まれであり、その後に何らかの法的手続(紙きれ)に基づいて徴発されて来たというのが本人の体験として語られている(戦後に帰らなかった理由は不明)。また(2)ヒロインの家族は、下関-徳山-大阪-京都と移動して現在に至ったことをヒロイン本人が記憶していることから、1950年代に南側から日本に渡航したと想像される(朝鮮戦争との関係か)。さらに劇中では(3)釜山から密航して来た若者も出ており、これは単に本人の意志による密入国だろう。これだけでも3パターンが出ており、つまり今いる人々が実は様々な経緯で日本に来ていることをこの映画自体が認めているわけである。 これに加えて“言語は必ずしも客観的事実を伝えるためだけにあるのではない”ということだけ押さえれば、この映画に出る日本側の責任論は、実は観客がそれ自体として真に受ける必然性のないものであり、単に劇中の若者らを隔てる障害として機能しているに過ぎないと理解することも十分可能と考えられる。 その上で自分としてはこの映画を、特殊な条件のもとでの真直ぐな青春物語として素直に受け入れることができる。兄妹それぞれの結末にも安堵して、今後を祝福したい気になった(続編は絶対見ない)。また兄妹の母親の人物像も安心感を与えてくれる。 それで評点としては、映画外の事情によりこの監督の映画を絶賛する気には全くならないので、わりと好意的である旨を示す程度の点数にとどめておく。ただ、こんないい点を付けることになると事前には全く思っていなかったので、やはり実際に見てから判断すべきだというのが実感である。 [DVD(邦画)] 6点(2014-02-17 22:53:05) |
1103. GIRL ガール(2012)
《ネタバレ》 映画の趣旨としては、要は女性としての特性を維持したまま堂々と生きていけばいい、ということかと思われる。 その具体的な中身が何かということについては、まず序盤で母から娘に受け継がれた認識自体を否定するつもりはなく、それが人生を活性化するのであれば自分の裁量の範囲でいくらでもやればいいだろうと思う。ただその際は、自己表現と同時に外部からの視点で自己検証しようとする気持ちだけは持ってもらいたいと切に願うばかりである。 また感性を売りにするのはわかるとしても、感性的に相手を取り込もうとする態度までが常に通用するとは限らない。広告代理店社員とデパート社員のエピソードでは、最後のトラブルの際に理性的な説得を試みたのがかろうじて成功し、その結果として感性面でも共感できた、というのが原作由来のオチだろうが、それがわかるようにできていたかどうか。 そもそもこの映画では女性向けに閉じられた世界を作っているようなので部外者が突っ込むのも野暮だろうが、実際のところ働く女性を現実的に励ますというよりも、観客をいい気分にさせる方が優先のように見えており、特に劇中の男連中がみなストーリーにとって都合のいい人ばかりなのはかなりファンタジックに感じられる。素直にいい話と思うのは一児の母くらいのもので、新任課長についても言いたいことは少し(かなり)ある。また原作との違いを並べ立てるのも野暮だろうが、新人社員の指導係に関してだけは、いい人そうに見えた山本さんがその後どうなったのか聞きたいところである。原作短編集ではこの話が一番笑って泣けるのだが。 そういうことで自分としては全面的に肯定するような内容では全くないが、しかし見た後の印象はそれほど悪くない。娯楽映画として単純に可笑しい場面も結構あり、また主要人物の4人以外にもいろんな女優が登場して映像的にも華やかさがある。さらにラストのナレーションで「おとぎ話は嘘じゃなくて心のギフト」とまで念を押されてしまうと、まああえて騙されるのも仕方ないかと苦笑する気分になるので、これはこれでうまく作ってあるのかも知れない。 [DVD(邦画)] 4点(2014-02-03 19:50:43) |
1104. 洋菓子店コアンドル
《ネタバレ》 色彩豊かなスイーツの映像だけでも心なごむ映画と予想するわけだが、実際見ると主人公があまりに破壊的な人物のため事前のイメージが砕かれてしまう。 とにかく感情制御に問題があって、自分の心の安定を保つためには客観性も常識も思いやりもなくなるらしいのが大変なところである。特に怒りの抑制が困難らしく、些細なことでも心に収められずにその場でバランスを取ろうとするので大ごとになってしまう。元彼が本気でものを言っているのに笑い飛ばそうとした態度には、さすがに自分としても(実在の人物を思い出してしまって)腹が立った。これまでずっとこんなのを相手にしていた海くんが哀れでならない。 これでその他の条件(主に見た目)がどうかによっては見るのも考えるのも嫌な奴ということになるだろうが、幸い主演女優のおかげでまだしも愛嬌があるのが救われる。劇中ではこの人と元彼・店のシェフ・嫌味な先輩・伝説の男とのやり取りがそれぞれ見所になっていて、専らこのキャラクターの存在が映画全体の価値を決していたように思われた。初回はともかく2回目に見ると彼女の言動には笑いっぱなしで、次第にこの主演女優も好きになって来た気がする。 一方でストーリーとしては緩い感じになっており、娘にケーキの作り方を教えたいと思ったことが何で復帰の動機になるのかとか、要は復帰すればいいのであって元妻とよりを戻すことまで考える必要がどこにあったのかとか細かいことはいろいろあるが、まあ大体のところでいいお話だったのではないかと思われる。 なお常連さん宅にケーキを届ける場面では、常連役の女優の普段のイメージとの関係もあって“この人がこんなことを言ってくれた”と少し感激する思いだった。ただこのケーキを作ったのは主人公ではなかったはずなので、ここは彼女に奮起を促したエピソードだったということだろう。 [DVD(邦画)] 7点(2014-02-03 19:50:39)(良:2票) |
1105. 陽気なギャングが地球を回す
《ネタバレ》 見栄えがいいのはわかるが面白くはない。外見が派手なばかりで中身はダイジェスト感が強く、登場人物に肩入れしたくなる前に映画が終わってしまう。その割に何度も出る偽?警官とか上司のコントとかTVレポーターのコメントとかどうでもいいのがうるさく感じられ、またラストの種明かしなどはバカ丸出しのように見えている。唐突な海外ロケは必要性が不明だが、もしかするとこれで地球が回っているのを表現したかったということか。エンドロールを見て、"U.S.Unit"を含めこれだけ多くの人間が動いているのだと思うと映画制作というものが空しく感じられる。 なお原作を読んでみると面白かったので、映画の方をさらに△1点とする。原作にないエピソードまでがダイジェストのように見えているのはどういうことか。 [DVD(邦画)] 1点(2014-02-03 19:50:27) |
1106. ロックンロールミシン
《ネタバレ》 自分にはまるきり縁のない世界なので興味深い。仲間同士の妙な寛容さも心地いい。 劇中の勤め人は、自ら好んで現場に入り浸っていながら最初は何の役に立とうとしているのかわからず、前半は見ていて非常に不安定な印象だった。そのため本人としても自分のできることから貢献しようと思い立ったのだろうが、それがかえってサークル解体のきっかけを作ってしまったらしいのは皮肉である。しかし同時に真のクリエーターに道を開くことにもつながったわけで、いわば創造的な破壊だったということだろう。 その後の勤め人は、また同じ職場に戻ってほとんど変わったようにも見えず、実はここにもちゃんと居場所がありました、というような結末になっていたのは情けない。しかし現実問題として簡単にゼロからやり直せばいいと言えるご時世ではなくなっており、完全リセットというより都合のよいリフレッシュ程度に終わったのはかえってよかったとも思われる。結局はひと夏の思い出のようなものにしかならなかったわけだが、ただしラストでTシャツを着た外国人がなぜかみな笑顔だったのは少し感動的だった。全てが夢だったわけではなかったらしい。 そのようなことで、全体としては一時の夢のはかなさが前面に出た映画になっており、原作とは違っているが、これはこれでいいのではと思われた。登場人物としては眼鏡っ子の椿さんが魅力的だったが、主人公の彼女はどういう役割だったのか最後までよくわからなかった。 なおどうでもいいことだが劇中劇はくだらない。「生きていた信長」のように完全版でも作れば、このサイトでも1項目起きていたかも知れない。 [DVD(邦画)] 6点(2014-02-03 19:50:21) |
1107. ザ・フライ2/二世誕生
《ネタバレ》 前作までは移動のための機械を開発していたのに対し、今回は生物工学的に使うことになっていたのは新しいアイデアである。前作の ”FUSION” からの発展だろうが、あるいは以前からずっと化物製造機でしかなかったのをやっと開き直って認めたかのようにも見える。 問題のハエ男に関しては、前作もそうだがそれ以上にハエには見えない。制作側が好き勝手なイメージを膨らませて作ったとしか思われず、これなら旧作のハエそのままの頭の方がまだましである。また人間の時に多少の人情味があったとしても、ハエ男になったとたんに主人公自身が残虐行為をするのでは全く共感できず、イヌ(黒い方)の頭をなでて見せるくらいでは説得力が皆無である。特に今回は、主人公がめでたくただの人間に戻って恋人と結ばれるはずなのだろうが、女にとってはPTSDになりそうな場面が連続し、それでも元の関係に戻れるほど人間の愛情など強くないだろう。 ただこの映画で唯一ほめられるのは、第1作の ”The Fly” (1958)からこの映画に至るハエ男シリーズ5作の中で、ヒロイン(妻を含む)の外見が個人的に最も好みだったことである。 [DVD(字幕)] 4点(2014-01-27 20:49:09) |
1108. ザ・フライ
《ネタバレ》 初見はTV放送で、20年以上前だろうが強烈な印象を残しており、”BRUNDLE, SETH”という電話帳のような言い方や”BRUNDLEFLY”という単語など、些細なことをはっきり憶えていた。その割に残酷描写の具体的内容は忘れていたが、これはあまりにグロいので記憶を封印していたのだろうと思われる。 今回あらためて見てみると、初見時とほとんど同じ感想である。まず序盤で悪役と思わせた男が最後に献身的な働きをするのが不自然に思われるほか、特にヒロインがなんで自ら好んでハエ男に関わろうとするのかがわからない。たとえ記憶が残っていても容貌と性格が違えば別人にしか思えないだろうし、それでも強い思い入れが残るほど長年連れ添ったというわけでもない。最近出来たばかりの男女関係でこの話を作るのは少々無理があるのではないか。遅くとも悪夢を見た時点で決別すれば何の問題もなかったものを、わざわざ妊娠したと告げに行き、その帰りにハエ男に話を聞かれてしまうという展開が極めて作為的である。残念ながらこの二人のラブストーリーに関しては全く納得できない。 ただ一方で、主人公の男がもともと愛すべき人物であり、その境遇が哀れに感じられたこと自体は間違いなく、これも初見時と同じ印象だった。全体としては好きになれない映画だが、この点だけは評価したい。 なお終盤の蛮行では被害者の顔を狙わないで済ませたことからすると、これでまだしも穏健な映画だったとも思われる。 [DVD(字幕)] 5点(2014-01-27 20:49:04) |
1109. 蝿男の呪い
《ネタバレ》 ハエ男シリーズの3作目である。1965年にもなってまだ白黒かと思うが、同年の「大怪獣ガメラ」も白黒だったので他人のことは言えない。 場所がケベック州モントリオール(の周辺)というのはこれまでと同じであり、Delambreというフランス風の名字も引き継がれている。今回は基本設定との関係もあって第1、2作の経過が忠実に踏襲されているわけではなく、家族の個人名も違っているが、しかし基本的には第1作を祖父の世代として今回は孫世代までが出ており、1作ごとに世代交代しているのが律儀である。その間次第に研究が進展している印象はあるが、さすがに3世代にわたってもまだ完成せず、依然として化物製造機にとどまっているとなると家系そのものが呪われた雰囲気も出て来る。加えて遺伝的性質が世代を超えて受け継がれていくという設定は、リメイク版の ”FUSION” を先取りしたもののように感じられる。 一方で転送機に関して特に新しいアイデアはないが、機械そのものが不備なこと(それでも人間で実験しないと気が済まない)、及び当初からのネタである物体の融合とか統合の失敗とかが材料として豊富に使われており、映像面はともかく内容の禍々しさはリメイク版にも匹敵している。またドラマ部分についても、新婚の夫婦それぞれに秘密があり、最初は妻の方が変かと見せておいて実はどっちが変だかわかったものでない、という展開は少し工夫が感じられる。 劇中ではハエ男はもちろん(第2作の写真のみ)ハエさえも出ず、新旧各2作の間に挟まって番外編的な印象もあるが、これはこれでハエ男シリーズのまともな一作として数えていい気がする(個人的利害に関係ないのでどうでもいいが)。 なおラストでは続編を匂わせるキャプションが出るが、呪いの家系は断たれてしまったので、これがどうすれば次回に続くのか想像もできず、さすがにこれはもう終わりだろうとしか思えない。 [DVD(字幕)] 4点(2014-01-27 20:49:00) |
1110. 蝿男の逆襲
《ネタバレ》 むかし怪獣図鑑などで慣れ親しんだハエ男の写真(ヴィンセント・プライスと一緒に映っている)は、前作ではなくこの続編の方だということがわかった。より本物に近いようだが頭がでかすぎて、中の人が大変そうな感じに見えている。 内容に関しては、古い映画のためか浮ついたところがなく真面目に見える。当初は陰謀含みのサスペンス調かと思ったが、結果的にはそれほど大した話に発展するわけでもなく、要はモンスターに殺される悪人を準備するための設定だったと思われる。 また物質転送機については前回と同じ構造だろうが、今回は転送の過程を分解と再生の二段階に分けて説明しており、これは原作に出ていたような、時間差をつけての融合をやってみせるためのことだと思われる。しかし基本的には“前回やり残したことをやってみました”というだけの内容であり、それも何の工夫もなしに同じ過程を再度行うのではさすがに考えが足りない。さらに本来は人類史に残るはずの偉大な発明の成果が、今回はただの化物製造機にしかなっていないのは情けない。 ところでハエ男が生成してしまった後の、人間としての意識の所在が前回と異なっているのは新しい趣向である。今回はハエ男が明らかにモンスター扱いになっており、相手が悪人とはいえ劇中で二人も惨殺しているが、頭が完全にハエだったのなら主人公が道義的な負い目を感じなくて済むことになり、これはハッピーエンドのためには都合がいい。この点はリメイク版より配慮が行き届いていると感じられる。 一方で、ハエにならなかった右手だけが人間としての情を示していたりするのは微妙な表現である。今回はヒロイン役が若い独身女性のため美女と野獣的な人員配置になり、美女の寝室にハエ男が忍んでいくなどという場面もあったりするが、これほど衝撃的な事件をものともせずに最後は若い男女がめでたく結ばれるという能天気な結末は、後のリメイク版の先駆けかとも思われる。 なお劇中の悪人(悪徳業者)の本業が葬儀屋だったのを見ると、北米にも「おくりびと」的な偏見があったのではないかと疑われる。 [DVD(字幕)] 4点(2014-01-27 20:48:57) |
1111. 蝿男の恐怖
《ネタバレ》 物質転送機という発想はいかにも荒唐無稽である。音や映像が遠くに送れるなら物体も可能というつもりだろうが、“原子が空中を光速?移動”するというなら電話やテレビなどとは原理が根本的に違うだろうし、それよりなら「どこでもドア」方式の方がまだしも現実的に思われる。ただしわが国の「電送人間」(1960)をはじめ、その後の各種特撮の小道具として使われるようになったことからすれば、その独創性だけは評価しなければならない(映画でなく原作の方だが)。USSエンタープライズの転送装置も、このような事故を繰り返しながら改良されていったと考えると恐ろしい。 それで内容に関しては、昔の映画らしくきっちりまとまった印象を受ける。基本的には屋内中心の静的な環境の中で話が展開し、リメイク版のバイオホラーと違うのはもちろん、昔の特撮映画のイメージからもかけ離れている。そのため初見時(10数年前)にはとにかく地味な映画としか思えなかったが、改めて見ればそれなりに見所はあると感じられる。 劇中で一応の問題提起と思われたのは、人間とそれ以外とをどこで区別するのかということである。当初、妻は「理性」「知性」「心」を重視しており、またこういったものが失われかけたことで夫も死を決意していたことから、精神面が重要だということは夫婦間でも一致していたらしい。しかし一方、妻が内心で葛藤しながらも冷徹な表情で夫の殺害に協力し、事件後「あれは死んでよかったんです(I'm glad the thing is dead.)」とまで言っていたのは、要は夫の顔を見てしまった嫌悪感の方が主な動機ではないか。自分としても、夫がハエ面のままで妻にキスをしようとした場面には非常な違和感を覚え、たとえ人間の心があったにしてもハエ男が人間の女性を愛することは許容できなかった。劇中人物は妻を含めてみな理性的な人々だったが、それでも心が大事などというのは綺麗事という冷たい現実を淡々と突きつけているようでもあり、この点はリメイク版との大きな違いに思われた。 ところで劇中では、兄も実は弟の妻に心惹かれていたが2人の意向を尊重する形で譲り、その後はずっと独身で通してきたらしいことが示されていた。事件の結果、弟は失われたがその名誉は守ったまま、愛する女性とその息子と3人の安定的で穏やかな生活が実現していたようで、これは素直にハッピーエンドとして受け取れる。続編などなければよかったのだが。 [DVD(字幕)] 7点(2014-01-27 20:48:53) |
1112. ギャルバサラ -戦国時代は圏外です-
《ネタバレ》 一応説明しておくと、名古屋テレビの開局50周年記念映画とのことでSKE48のメンバーが合計14人も出演しており、またAKB48関係者も2人が出ている。監督は「マジすか学園」の人だそうだが、当然ながら自分はそういう番組を見たことはない。 内容に関しては、要は女子高生が携帯持って戦国時代へ行く話で(男子もいる)、圏外といいながらも結構多用している。歴史上の著名人と女子高生とのやり取りは少し笑えるが、このままもう少し見ていたいと思っているところで着信音が流れを中断するのはケータイ時代のリアリティということか。ほか「三方ヶ原」という地名に対するバカ男子の反応には失笑した。 また一応まともな映画らしくドラマ性も重視されているが、しかし重要な台詞が変に小難しいのは困ったことである。例えば「未来」というのはもともと現在を基準として未だ到来しない時点の集合だろうが、その基準点をずらして相対的な概念として捉えるまではいいとして、個人が実現すべき将来像という意味も持たせてわざとわかりにくくしているようなのが面倒くさい。また「天下を取る」の意味が「日本一」というならまだ自然としても、これが拡張可能なのは「立身出世」という程度までが限界で、それ以上に一般化しようとしても意味不明でしかなく、これで最後に関係者が納得していたことの方が変である。さらに終盤では説明台詞が続く上、全く別のこと(生命の連続性?)を語る人物も混じっていたりするので、もっとすっきりさせてくれと言いたくなる。 そのため、そういう面倒くさいことはいちいち考えずに、とりあえず劇中の誰々は可愛い、とか言っておしまいにするのが正しい鑑賞方法だろうという気がして来る。個人的感覚としては主人公も可愛いとは思ったが、普通に正統派美少女のため見たあと顔を忘れてしまった。かえって態度の悪い親友の方は、ふてくされた顔のようでもにっこり笑うとかわいいのが印象に残った。そのほかSKE48の主要人物2人(木崎・小木曽)はさすがに個性的で存在感があった。 ところで劇中の女性教員は「日本史の教師」とのことだったが、この年でまだ独身だったようで、それがかつての歴女の末路だとすれば寂しいものがある。もっと歴女が愛される世の中になった方がいいと思うが、とりあえず劇中の歴女は可愛いので、自分がもっと若かったら嫁さんにしたい。話も合うと思う。 [DVD(邦画)] 4点(2014-01-13 18:27:57) |
1113. 白夜行
《ネタバレ》 まず主人公の出身地に関して、劇中に出た首都圏の某県某市にそういう感じの場所が存在するとは思われない(あったら謝ります)。本物の地名を出してしまってはちょっと洒落にならないのかも知れないが、2人の境遇が現実にありうるものとして納得するには日本国中どこでもいいとはいえない。 また主に前半で登場人物が変にマンガ的なのは苛立たしい。男子高校生の引き起こす騒ぎはバカバカしく、また川島江利子の顔をわざとらしく汚したりするのでは真面目に見るのがつらくなる。これが映画的表現というものだろうか。 それに加えて被害者になる人物がことごとく不快で、あえて観客の同情を妨げているようなのはどういう意味か。川島江利子や篠塚一成もそうだが、特に栗原典子(原作の西口奈美江に相当)の独白は吐き気を催す。もしかするとこれには主人公2人の心境を観客に体験させる意図があって、“こういうバカは破滅して当然”という感覚を共有しろというなら確かにそのような効果はある。しかし原作では特別扱いだったと思われる篠塚美佳が映画ではただの被害者のように見えたこともあり(この人だけはかわいそう)、結果として主人公2人の非情さばかりが強調されたように感じられる。 ほかストーリーとしては、終盤で元刑事と亮司が唐突に泣かせる場面を演じる一方で、雪穂の方はますます調子づいていく方向性が示されていたようである。これから一人で真っ暗な中をご苦労様ということだろうが、どうせこの女なら何とでもするだろう、という突き放したような感情を催すので、どこに悲哀を感じればいいのかわからない。あるいは悲哀など感じなくてもいいのか。 なお個々の場面を盛り上げる背景音楽は、観客がここでどういう感情を持つべきか丁寧にリードしてくれているのだろうが、少なくとも個人的には全く共感できずやかましいばかりである。特に終盤は「砂の器」並みの感動の押し売りが気に障る。 違和感を覚える点としては以上である。原作と違うのが悪いともいえないが、だからといって映画ならではの効果を挙げているとも感じられないのは困る。ただし全体としては長大な原作をうまくまとめたようでもあり、また映画を見た後に原作を読んでも、雪穂は堀北真希が演じたイメージで全く問題ないと思えたので、キャスティングとしてはよかったかも知れない。 [DVD(邦画)] 4点(2014-01-13 18:27:54) |
1114. 死亡時刻<OV>
《ネタバレ》 題名は「死亡時刻」だが、DVDの中身は「死角関係」との2本立てになっている。監督の公式サイトでは「密室シリーズ」と称しており、前者は2006年、後者は2005年の制作で、外部情報によると前者は2009年に渋谷・ユーロスペースのミディアムショートフィルムフェスティバル「真夏の夜の万華鏡」で公開されたとのことである。 それでまず「死亡時刻」に関しては、主演の粟田麗さんがとにかく可愛らしい。彼女のファンが全国にどの程度いるかわからないが、見て損はないと一応お知らせしておきたい(こんな所に書いても誰にも届かないだろうが)。内容の方は殺人をテーマにしたサスペンスのように想像するが、実際見てみるとそれだけでもない。短時間に各種要素を詰め込んで退屈せず、ラストもきれいに収拾されて一応しんみりさせる構成になっている。 また「死角関係」は女3人男1人の四角関係で、これもサスペンスフルな展開で先が読めないが、最後はちゃんと丸く収まりラストは爽快である。小粒でキュートだが心の広い主人公を主演女優(つぐみ)が好演していた。 両方とも小気味よさを優先した短編で深みはないが後味は悪くなく、また女優が好印象だったので少しいい点にしておく。 なおこの監督はもともと脚本家として関わった映画が多かったようで、監督としての代表作は上記2009年時点で「ホッタラケの島 遥と魔法の鏡」(2009)だと紹介されていたのは笑ってしまったが、それはそれで自分としても嫌いでないので結構である。 [DVD(邦画)] 6点(2014-01-13 18:27:49) |
1115. 君のままで
《ネタバレ》 一応説明しておくと、主題歌を歌う”DEEN”のライブツアーに合わせて制作されたショートムービーとのことで、メンバーも出演しているようである(顔を知らないが)。また長野県上田市(別所温泉)のご当地映画的な性格もあるようだが、そういったことに関心のない人間にとっては、要は坂井真紀の主演映画として捉えておくのが妥当と思われる。 内容としては、ヒロインが東京で不倫相手に捨てられて帰郷し、昔の彼とよりを戻したいと手前勝手に妄想していたが、その婚約者に東京へ帰れと言われてしまい、どうすればいいかわからなくなって酔っぱらってしまった、という痛い感じのストーリーである。しかしラストは少し意外性があり、人によっては(主に同年輩の女性)著しく都合のいい話とわかっていてもなお泣ける、ということも考えられるので、そういう意味では価値のない映画ともいえない。季節感としては夏が終わって最後の花火といった感じで、短い時間にコンパクトにまとめた見やすいお話になっている。 なお全くどうでもいいことだが、劇中では市役所が著名なイラストレーターに依頼して地元の風景をバックにした少女の絵を描いてもらい、これを市のPR用ポスターにするという話をしていたが、今なら「サマーウォーズ」(2009)のポスターでも間に合うだろうと思われる。 [DVD(邦画)] 4点(2014-01-13 18:27:44) |
1116. nude
《ネタバレ》 実在の人物とは関係なしに書く(といっても本人が出ているので困るが)。 まず事務所のマネージャー?は、人を扱う立場として非常に理性的に見える。本人の意向や思いを利用または誘導しながら営業が成り立つ方向へ持って行こうとするのは当然のことであり、これはAVでない俳優やタレントやアイドルなども含めて事情は同じだろう。リタイア可能であることも折に触れて示されているが、これに応じないのは本人側の原因も根深いはずである。現に主人公は自分を見せることにこだわりはあっても具体的な将来像は持っていなかったようで、これでも当初志望の範囲内だったのだろう。一方で、劇中に出ていた女性としての素直な心情を基準にすれば、AVと枕営業(実態は知らない)の差は表に出るか出ないかだけのことになり、その意味でもAVとそれ以外との間がそれほど隔絶したものとは思えない。 またある程度歳を取ると、たまたまなってしまったことを受け入れる、というのも職業生活(及び人生)の本質に関わることだろうという気がして来る。昔の貧しかった頃の人々であれば初めから職業に理想など持っておらず、その時点で食っていけると思った仕事を迷わず選び、結果的にそれを天職と思うようになる場合も多かったのではないか。劇中の出来事に即していえば、有名になるにはAVを経由する必要があるというのはこの事務所固有の事情だろうが、しかしAVを経由したからこそ今の自分がある、という思いも本人にはあるだろう。その上で、この主人公がいわば開き直ってこれからの人生を肯定していこうとするのなら、あとは他人がどうこう言うことでもなく、自分の思うように進めというしかない。 ところで主演女優は個人的趣味の範囲外なので、何の思い入れもなく冷やかに見られる。代わりに友人が可愛いのは好印象だが(少しやかましい)、劇中ではこの人がいくら親友だったとはいえ、何でここまで主人公の行く末にこだわって怒ったり泣いたりしているのかがわからなかった。しかし終盤で、主人公が真っ暗な海の前に取り残された場面では少し鳥肌が立った(ホラーかと思った)。故郷との絶縁によって失ったものの大きさを、この映画では元親友が一人で体現していたということかも知れない。 [DVD(邦画)] 6点(2014-01-09 21:24:11) |
1117. 高速ばぁば
《ネタバレ》 「先生を流産させる会」の内藤瑛亮監督の映画ということで注目される(が、個人的には女優の未来穂香を見ようとしただけである)。 まず登場するアイドルグループはコンセプトが極めて適当で、持ち歌を聞いても脱力感を免れず(これのフルバージョンをぜひ見たい)、こんなののファンもバカばっかりだろうと思わせるものがある。メンバーそのものは劇中に出た通り少し性悪な普通の女子なわけだが、アイドルグループとしてのおバカな印象とのギャップがほのかに可笑しい。 またストーリーとしては、最初の事件が起こってこれは大騒ぎになるだろうと思うと場面が飛んで、また何事もなかったように芸能活動が続いているのがとぼけた感じだが、その後も事態が進展して登場人物が次々に破滅していき、これはさすがにただでは済まないだろうと思うような大事件が起きても、なお無反省に脱力系アイドルの営業を続けているのが非常に変である。画面上では公園のステージや事務所の外観が出るたびに、まだやるつもりなのかと呆れてしまう。まったく懲りない連中だと思うが、結果としては微妙にシュールでブラックな世界が表現されていたようで、これは意外に面白い(変な)ものを見せられた気がする。最後のソロデビューの曲は「夢見る少女日記」とのことで、これも聴きたかったが果たせずに終わったのは無念だった。 ところで出演者としては、アヤネ役の女優(未来穂香)はある程度キャリアもあり、この人が主役と思っていたら実際はそれほど出番がなく、かえって他の2人に焦点が当たる場面が多くバランスがいいと感じられる。特にナナミ役(北山詩織)はモデル出身らしく細身で美形だが、劇中人物としてもわりと良心的で実質的な主役のように思われる。一方で最も可愛くなくてアヤネに嫉妬していたという設定のマユコ役(後藤郁)も、現実にはアイドルグループ「アイドリング!!!」のメンバーとしてファンに愛されているらしい(よく知らないが)ので決して侮ってはならない。 [2014-05-13追記] 先日、マユコ役の後藤郁が6/7を最後に「アイドリング!!!」を卒業するとの発表があった。映画の価値には関係ないことだが、かおるんの新しい旅立ちを祝して+1としておく。 [DVD(邦画)] 6点(2014-01-09 21:24:08) |
1118. ことりばこ<OV>
《ネタバレ》 ネット発祥の著名な怪談を題材にした映画ということになっている。 冒頭に文章で延々と説明が入るので、元の話を下敷きにしているのはわかるが中身は別物になっている。元の話がかなりまともにできている(素人の創作とすれば秀逸)ので、その通りに映像化したものを見てみたいとは思うが、そのようにできない事情があるのかも知れない。 ホラー映画としてはどこかから既成のイメージを借りて来ただけのところもあるが、しかし見せ方や演技でけっこう雰囲気と迫力を出している。出演者も若年者らしく自然にふるまうべきところは自然に見せる一方、演技すべきところはそれなりに演技しているように見えており、主要キャストについての印象は悪くない。 物語に関して真面目に考えると、機能不全のおかげで(いわば代償として)生き延びたはずの主人公が、結局は逃れられずに終わったことで、やはり本当に怖いのは呪いよりも生きた人間だということが言いたかったのかと思われる。しかしそれが見る者の心情に訴えかけるかというとそうでもなく、やはりまず村人の演出に問題があって真面目に見る気がしなくなるのと、片思いの先輩がそれほど魅力的な人物でもないので、主人公の純な心情が素直に受け取れないというのが残念なところである。またその機能不全ということ自体も理屈先行という感じで、特にこの主人公をめぐるドラマがもう少しうまくできていればという気がした。 結果として、それなりに作ろうとしているようには見えたが惜しい映画だった。 [DVD(邦画)] 3点(2014-01-09 21:24:04) |
1119. クネクネ<OV>
《ネタバレ》 脚本・演出・編集といったことのうち何がどのように問題なのか的確な指摘はできないが、とにかく全般的に低調に見えている。素人がこういうのも何だが、素人が映画を作るとこんな感じになるかといったところである。 ストーリーも作り物感が強く、ラストの締め方も理屈はわかるが戦慄を覚えるようなものではない。また残念なのは元の話のうちどの要素を生かそうとしたのかがわからず、題名以外は全く違う話に見えることである。特に対象物を見てはならないというのは“正体を知ってしまえば正気ではいられない”という意味だったろうから、変に実体化して小理屈まで付けてしまっては底が浅いのが丸見えになった印象がある。 加えて主演女優がきれいに見えないのも味気なく感じられる原因だろう。すらりとして長身(172cm)なのがこの人の特徴だろうと思うが、このビデオではただ単にすらりとして長身、としか見えておらず、役柄のせいもあって義姉役(所里沙子)の方がまだしも普通に好印象である。どういう意図なり事情があってのキャスティングだったかわからないが、この主演女優を魅力的に見せることも一つの使命ではなかったのか。これでは「アイドルもの」として位置づけるにも躊躇する。 そういうことでほめる点がほとんどなく、そもそもどれだけ本気で作っていたかもわからないのだが、少なくとも外見的には特にふざけたところもなく、基本的には真っすぐに作ってあると見えたので、自分としては極力好意的に評価しておく。 [DVD(邦画)] 2点(2014-01-09 21:23:59) |
1120. 大巨獣ガッパ
《ネタバレ》 当時の特撮怪獣映画としてはそれなりというしかない。特に前半の南洋の場面はかったるいので、以前見た時には洞窟探検の前あたりで寝てしまったこともある。それでも改めて全編を見れば、中盤で米潜水艦の近くの海面から親ガッパが飛び立つ場面はなかなか迫力があるとは思える。熱海に上陸した場面では、建物が倒壊して出た塵埃のために、せっかくのタコがほこりまみれになるのではないかと少し心配だった。 ところで、この映画の何年か前に公開されたイギリスの「怪獣ゴルゴ」が親一人子一人の親子怪獣だったのに対し、それを受けた?この映画ではさらに設定を強化して両親+子一人の家族怪獣にしてあり、そのためにドラマ部分でも“家族”をテーマにしなければならないよう運命づけられたともいえる。劇中ではヒロインと社長の娘が子ガッパの心情に共感し、周囲を動かして親子を故郷へ返していたが、またこの2人がそれぞれ核になって人間世界にも2つの家族(踊りの先生を含む)を誕生させたのだろうと想像される。現代ではキャリア志向の女性を家庭に押し戻そうとするかのようなお話を作るなど考えられないが、一方では立身出世を第一義とする男の論理にも再考を促しているようであり、この時代に理想として提案された家族のあり方を改めて現代に示すこともまた有意義ではないかと思われた(誰も見なければ無意味だが)。 一方、この映画で最も感動的なのは何といってもヒロイン役の山本陽子さんであり、撮影時点で24歳くらいかと思うが(設定は22歳)、とにかく可愛いらしいので心なごむものがある。全体としてはすらりとした体型でも、あごの下の肉が少し余って見えるのが何ともいえず愛らしい。ラストでは、相手役の男がヒロインを追いかけて二人が寄り添うなどという場面もあってまことに微笑ましく、ちゃんとした万人向けの娯楽映画になっているのが何より嬉しい。この点はネタ元になったイギリス映画と一線を画すところであり、わが国怪獣映画の美点がこの単発映画にも確実に受け継がれていると感じられた。 [DVD(邦画)] 6点(2014-01-06 23:46:28)(良:2票) |