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よしのぶさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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141.  プリズン211 《ネタバレ》 
スペインの刑務所暴動もの。意外の拾い物だ。 物語の端緒は卓抜だ。翌日に勤務を控えた新任看守フアンが刑務所の見学に訪れ、天井落盤事故で頭を負傷する。そのとき不運にも暴動が発生し、ひとり監房に取り残されてしまう。生き残るためには囚人になりすますしかない。そう判断した彼は、機智とはったりで刑務所のリーダーに取り入り、脱出の機会を伺う。いつバレるのか、サスペンスが持続する。冒頭の囚人が腕を切って自殺する場面とあいまって、今後の展開を期待させる。実にうまい。 異国ゆえの物珍しさがある。文化や政治、生活習慣の違いによるものだが、予想外のことが多く、興味をそそられる。 ①刑務所の暴動が日常茶飯事である。囚人と看守の癒着も同様。②囚人達が、収監されているETA(バスク祖国と自由)のテロリストを人質にし、政府との交渉の切り札にする。ETAを殺すとETAの反発によるテロが予想され、政府が窮地に陥る。だから強力な切り札となるのだ。一方、囚人達はテロリストであるETAを憎んでいて、一触即発の関係にある。③囚人達の要求が、看守による虐待の禁止と、待遇の改善と至極全うである。囚人達にも一理あるのだ。④ファンの妻が、暴動の報を聞き、夫を心配するあまり、身重の身でありながら刑務所に駆けつける。日本人ではありえない。⑤刑務所を囚人の家族や関係者が取り巻き、準暴動状態になってしまう。それを看守らが警棒を使い鎮圧する。⑥政府の最終手段として、SWATに突入させ、囚人達を皆殺しにするという、非常に荒っぽい解決方法がある。 これらのどこまでが現実に近いのかは不明だが、ゴヤ賞8部門受賞したことからも、全くの絵空事とは思えない。スペインでは「社会派映画」なのかもしれない。 物語はどんどん予想外の方向へ進み、結末も慮外。フアンの妻との愛情、リーダーとの友情は「お約束」だが、○○は誰が予想しただろうか。ハイレベルの緊迫感が持続していくというよりも、物語の展開に唖然としながら観るといった方が正確。 日本やハリウッド映画の手法や展開に「飽きてきた人」が観るのには最適の映画だ。 ところで疑問だが、派手なパンツしかないという理由でパンツを穿かないで出勤するだろうか?身体検査があるわけでもないのに。
[DVD(字幕)] 8点(2013-09-11 16:01:24)
142.  武士道残酷物語 《ネタバレ》 
現代のサラリーマンと封建時代の藩士の雇用での最大の違いは、藩主と藩士の雇用関係が永代就職であること。つまり、ある役目(仕事)をその家の家督者が代々引き継いでゆくというもの。土地も家も藩主から拝領しているものなので、武士の身分である限り、独立は叶わない。更に職分が硬直していて出世することはほとんどない。これは、藩士は子子孫孫に至るまで藩主には頭が上がらないことを意味する。不祥事と起こせば一家のみならず、連座制により親類中にも累が及んだ。がんじがらめである。これが藩主に対して「絶対服従」であらなければならない理由である。ここに悲劇の生まれる土壌がある。藩主は時に放恣、専横になるだろうし、藩士は忍従、卑屈に傾いてゆくだろう。だから「武士道残酷物語」はあったに違いないと思う。だが問題は見せ方である。 不運の宿縁の連鎖が七代も続くことにいささか無理がある上に、各話の主人公を同じ役者が演じているのでは現実味に欠ける。ギャグとしか思えない。同一人物が近習小姓から老人役までを演じる必要性はないだろう。どう考えても不自然だ。純粋に武士の被虐性を表現したいのなら、そのような不合理な設定をするわけがない。「大人の事情」が働いているのだ。だから白けてしまう。 江戸時代の各話はそれなりに興味をかりたてられた。個人の力ではどうすることもできない重圧、運命、特殊事情がくみ取られ、主人公の悲しみ、苦しみに共鳴できた。しかし明治以降の各話は底が薄い。元廃嫡藩主を世話をする話はいくらなんでも作り過ぎ。先祖の不幸を考えれば、藩主に対してあのような憐憫を持つ筈がない。特攻の話は、取り立てて特殊性が感じられない。国家により国民がマインドコントロールされていた時代で、飯倉家だけが不幸を背負ったわけではない。現代サラリーマンの話は、完全に自業自得だ。産業スパイを誰に強要されたわけではない。自分達の利得に目がくらんだだけの話だ。それに会社組織を藩に見立てることはナンセンスだろう。会社がいやなら辞めればいいだけの話だ。武士よりも土地持ちの百姓の方が自由があった。サラリーマンはそれ以上の自由を持っている。自分達の不幸を会社や社会の所為にするのは慎みたいものだ。
[DVD(邦画)] 6点(2013-09-11 04:55:19)(良:1票)
143.  踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ! 《ネタバレ》 
一風変わった事件が発生し、所轄の下っ端刑事たちが、横柄で独善的な警視庁本庁の面々の鼻をあかして事件解決、というのがお約束の筋立て。そこにカタルシス(感情浄化)があるわけだが、本作品ではその点なおざりにされ、対立や軋轢があいまいのまま終始する。多くの人物を描くのに熱心のあまり、基本を忘れてしまったようだ。以前の作品では、青島刑事の活躍が物語の中核にあるが、驚いたことに、今回ほとんど活躍しない。鋼鉄シャッターに木製杭を打ちつけ、穴を開けようとする奇妙な行動が目立つのみ。内容は、12年前に公開された劇場版第一作の続編で、何をいまさらの感がある。脚本はチグハグが目立つ。 最も疑問に感じたのは次の部分。実行犯達は新湾岸署ビルを人質ごと封鎖し、猟奇殺人犯の日向真奈美の釈放を要求した。電源をオフにすることで新湾岸署ビルの封鎖は解かれ、実行犯が確保され、事件は解決しているのに、何故青島は目の前にいる日向を確保しないのか。一緒に旧湾岸署ビルに入って、時限爆弾が炸裂、ガラスが全て割れるも何故か二人は無傷という不思議な展開。他に目についたものを上げると。 ①釈放した囚人を理由なく射殺するという安易な決定。 ②肺がんが濃厚なエックス線画像を単なる撮影ミスでしたで片づける。 ③亡くなった和久刑事の親族を安易に登場させる。 ④拳銃の管理があんないい加減な筈がない。 ⑤銀行の金庫を開錠したが何も取らなかった。バスジャックを起こして乗客から財布を集めたが結局奪わなかった。この理由がはっきりと説明されていない。 ⑥毒ガスがフェイクであったのはわかるが、スカンクやワニを登場させるのはおちゃらけが過ぎる。
[DVD(邦画)] 5点(2013-09-10 21:09:49)
144.  宝島(1950) 《ネタバレ》 
誰でも御存じ、冒険小説の代名詞的作品だ。物語は文句なく面白い。 だが遺憾ながら、本作は演出が淡白で古臭く、興奮・忘我・熱中からは程遠い。著しく興趣に欠けるのだ。 冒険をしているのはジム少年なので、彼を中心に、彼の視線を通じて描かれるべきだ。 子役の少年の演技力量不足が原因なのかもしれないが、監督は客観的な視線で「宝島」という物語を過不足なく描こうとしているように見える。 だが、物語などは荒けずりでもよい。ジム少年の興奮や感動が伝わってこそ、観る者が共感するのだ。 観客が自己投影するのはジム少年であって、物語や筋立てではない。 ジムは何度も驚くべき体験をし、危機に直面し、大人顔負けの英雄行為を果たしている。 ビリー・ボーンズの死に遭遇し、宝の地図を発見し、宝探しの航海に参加し、ジョン・シルバーの悪巧みを盗み聴きし、船長のスパイとなり、銃撃戦を経験し、人質となり、脱出し、船を座礁させ、ナイフで刺されながらも敵を射殺したりと、まさに八面六臂の活躍だ。 特に、林檎樽の中に隠れて悪人共の姦計を盗み聴く場面と、ナイフで刺される場面は、観客の感情移入のしやすい場面で、もっと時間をとってじっくりを描くべきだろう。この二つの場面でハラハラ、ドキドキしなければ、映画は失敗だ。 原作は改変され、シルバーはジムとの交流を通じて、いくぶん人間らしい心を取り戻すラストになっている。それはそれでよいが、それなら伏線が欲しい。 シルバーの成長を描きたいのであれば、彼の過去や人間性を描いておく必要がある。彼に子供がいたとか、自分の子供時代をジムに重ねる場面があるとか、そういう細部にこだわってほしかった。ジムにしても、父親不在で育ったので、父親像をシルバーに重ね、彼を慕うようになるとか、そういう要素があれば感動的だし、一層真実味がでるというものだ。映画にリアリティが生まれるのはそういう瞬間だ。それがあれば、忘れがたい作品になる。この作品は、すぐに忘れてしまいそうだ。
[地上波(邦画)] 6点(2013-09-10 01:47:22)
145.  第十七捕虜収容所 《ネタバレ》 
古い映画だが堪能できた。サスペンスとユーモアのほどよく融合した娯楽作品だ。機知に富んだ脚本の勝利だろう。 人物がきちんと描き分けられ、一見群像劇のようだが、主人公は間違いなくセフトンだ。 彼は軍人としてはぱっとしないが、世故にたけた人間で、如才なくその才を発揮し、それなりに捕虜収容所生活を楽しんでいる。 そこへかつての士官学校の仲間ダンパー中尉が入棟してくる。 彼はセフトンとは対照的な人物。お金持ちで、軍人として出世し、英雄扱いされる。貧乏で出世の叶わなかったセフトンは当初反発するが、紆余曲折を経て、最後にはセフトンが命がけでダンパーを脱出させるという憎い筋立て。美しい友情物語に変貌する。 最も感心したのは二つのサスペンスを用意していること。最初は、誰がスパイか、どうやってナチスと連絡を取り合っているかというサスペンス。それが判明すると、次はそのスパイをどう糾弾、処理するかというサスペンス。悟られれば逃げられるし、殺せば、こちらも殺されるという難題。それを上手に解決したのが最後の脱出劇。それも二段構えの豪華さ。最初は、煙幕を張って、その騒動に乗じてダンパーを奪取し、絶妙の場所に匿う。煙幕の材料となるピンポン玉の伏線もきちんと張ってある。そして、スパイを囮に利用しての脱柵作戦。実にあざやかだ。 気になったところもある。第一に、ユーモア過多であること。内容的から判断して、シリアス路線で行くべきなのに、途中で完全なコメディ路線に脱線してしまっているところがある。全員でヒトラーの真似をしたり、ピンナップガールを想像して踊るところなどはカットしてもよい。ナチス高官がマヌケ過ぎるのも気になる。敵側をぬるくする必要はない。厳格一点張りでも成立する物語だ。次に気になったのは、冒頭の脱出時、セフロンはどうして脱出が失敗すると思ったのかということ。その伏線がない。そもそも仲間が命がけで脱出を図るのに、それを賭けの対象にするのかという疑問もある。文化の違いを感じる。それにしてもナチスは捕虜にたばこを奮発しすぎでは?
[DVD(字幕)] 8点(2013-09-07 01:31:26)
146.  ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬 《ネタバレ》 
全編「007」のパロディに終始するコメディ映画だが、歯切れが悪い。 コメディに徹しきれていないのだ。政府首脳を暗殺する悪の組織があり、全うな筋書があり、裏切りや友情、恋愛があり、アクションがあり、オチがある。雪の崖上に建つ敵の組織の要塞をみればわかるが、相当な予算をかけている。映画作りを半分真面目にやっているのだ。そうではなくて、もっとバカバカしく、おちゃらけて、笑える内容にすればよかったと思う。主人公ジョー・イングリッシュが、ミスター・ビーンズのように突き抜けたおとぼけキャラクターになっていない。ジョーをサポートするタッカーのおまぬけぶりも中途半端だ。どうせなら二人で徹底的にボケて、名コンビを組んでもよかった。 脚本はよく練られていて、笑いどころは沢山用意してある。残念なのは見せ方がうまくないこと。例えば車椅子でのカーチェイスの場面。アイデアは秀逸だが、爆笑にはつながらない。音楽の使い方やスローモーションなどでコミカルさを強調するなどの工夫が欲しい。最後の大ネタ、女王陛下を叩く場面は爆笑した。
[DVD(字幕)] 6点(2013-09-06 22:16:35)
147.  古井戸 《ネタバレ》 
遥か昔に井戸が涸れてしまったために、長年に渡り執念で井戸を掘り続けてきた山国の村のお話。 水を汲むためには約10キロも離れた所まで行かなければならないという苛酷な環境だが、故郷愛のため、村人は容易に村を棄てない。 父親を井戸掘事故で亡くした旺才という青年が井戸を掘ることを決意して、井戸を掘りあてるまでの物語。 ひたすら井戸を掘る物語と予想していたが、意外にも恋愛の要素が多い。旺才には巧英という恋人がいた。 しかし旺才の父と祖父は、巧英をいつか村を出る今風な娘として嫌い、勝手に喜鳳という子持ちの未亡人への婿入りを決めてしまう。 いわゆる売買婚で、旺才の弟の結婚費用を工面する意味もあった。旺才と巧英は駆け落ちを決意するが、見つかって未遂に終わる。 旺才は運命を受け入れ、婿に入り、井戸掘りに専念する。巧英は旺才のことをあきらめきれずに助手を務める。 落盤事故があり、暗闇の井戸の底で二人は結ばれるという屈折した経過をたどる。 水の少ない山国の苛酷な環境に堪え、岩盤にへばりつくように生き抜く村人の逞しい様子や風俗、風習は観ていて飽きない。井戸掘りへの不撓不屈の執念も伝わってくる。恋愛要素を絡めたのもよいアクセントになっている。良作と思うが、不満点もある。 まず、主演男優に魅力がないこと。設定では、旺才と巧英は高校の同窓。巧英は大学受験に失敗して村に戻って来たばかりなので、旺才は19歳。いくらなんでも老けすぎだ。巧英の父親にしか見えない。よって恋愛場面は感興を欠く。 旺才の婿入りにしても、本人に全く知らせずに事を進めるのは無理があるように思える。それに何故長男を婿に出すのかという疑問もある。 次に井戸。井戸を汲む場面が無い。遥か彼方から井戸を汲み、遥かな山道を運ぶ。その苛酷な姿を見せてほしかった。最も残念なのは、井戸を掘り当てる場面が無いこと。井戸を掘り当てるのが主題なのに、それを省略するのは手抜きとしか思えない。最も感動する場面ではないか。長年に渡り耐え忍んできた苦悩が歓喜となって爆発する。その村人の喜ぶ姿を観て、観客もカタルシスを覚えるのだ。
[DVD(字幕)] 7点(2013-09-01 07:09:29)
148.  ぼくの伯父さん 《ネタバレ》 
フランスらしいエスプリの効いた上質なコメディ映画で、文明批判的色彩が色濃いのが特徴だ。チャップリンの「モダン・タイムズ」のフランス版といったところ。 近代合理主義に基く非人間的な工場労働と、虚飾と見栄にこだわり、皮相的な人間関係しか築けないブルジョアジーを徹底的に笑い飛ばそうという映画だ。 定職につかずぶらぶらしている「伯父さん」が主人公で、何事ものんびりしていた古き良き時代を象徴する。 何事も「伯父さん的なもの」と「非伯父さん的なもの」に分かれて描かれ、両者が出会うとき、衝突が起き、笑いが生じる。 「伯父さん的なもの」は、込み入ってごたごたしている下町の風景、奇妙に内部が入り組んだアパート、ジョークで挨拶を交すような人情味あふれる庶民、いたずら好きの子供達、商売気はなく、どこなマヌケにみえる商人達だ。 「非伯父さん的なもの」は、虚栄に満ちたブルジョアジー、見栄にこだわった超モダンな家、プラスティック工場、近代建築の学校、都会的デザインの車など。両者の境界に崩壊した煉瓦塀がある。 犬が度々登場するが、犬は「伯父さん的なもの」と「非伯父さん的なもの」をひっかきまわすトリックスターの役割を果たす。自由の象徴であり、「伯父さん的もの」の理想の姿でもある。 魚のオブジェの噴水のすっとぼけたデザインは出色で、強く印象が残る。「非伯父さん的なもの」を笑いの対象とすることの象徴だろう。 興味深いのは、ブルジョアジーの追及する近代合理主義と見栄とが両立しないこと。 モダンな敷石は歩きづらいし、噴水は電気代がかかるし、オートマティックなキッチンシステムは便利だが騒音のため会話が聞こえない。 「伯父さん」は、あちこちでさんざん騒動を巻き起こしたあげく、町を追われて去ってゆく。異質なものははじかれてしまうのが現実だ。だが救いはある。最後の場面での親子の和解だ。偶然の賜物だが、父のいたずらによって、息子が心を開いたのだ。「伯父さん的なもの」が親子の結びつきに一役買ったわかで、これからは父親も「伯父さん的なもの」に理解を示すようになるだろう。 珍重すべき映画だが、残念な点もある。 役者の演技に難があるのだ。チャップリン映画のような”絶妙なタイミングによる笑い”が見られず、どこか演技じみていて、笑えないきらいがある。こなれてないのだ。子供達と「キッド」の演技を比較すれば瞭然だろう。 
[DVD(字幕)] 7点(2013-08-28 12:41:53)
149.  THE GREY 凍える太陽 《ネタバレ》 
石油採掘場で狼退治の仕事に携わる射撃のプロ、オットウェイが、 人生に絶望して銃自殺を図るという意表を突く冒頭部分から、 翌日乗った飛行機が墜落してしまうという意外な展開へなだれ込む。 幸運にも軽症で済むが、奇跡的に助かった7人に猛然と吹雪と狼が襲いかかる。 生きのびるためにどういう行動を取るのか? 突如自然の脅威にさらされ、極限に追い込まれた人間の心理状態を描くのが主題。 最も予想外だったのは、オットウェイは狼退治のプロなのに銃を使わないこと。 自分のライフル銃を雪中に発見するが、壊れていたようで、捨ててしまう。 これでは、狼退治の専門家で射撃のプロという設定が無になってしまう。このことが最後までひっかかった。 散弾銃の弾を枝につけて武器にする場面があるが、結局使わない。 彼が人生に絶望したのは愛する妻が死んだから。父も母も既に亡く、天涯孤独だ。 そんな彼が極限のサバイバル経験と他の生存者との交流を通じて、生きる勇気と希望を取り戻す魂の再生物語とも思ったが、それも違った。 彼は最初から十分なリーダーシップを発揮し、他者の面倒をよく見、声をかけ、励まし、狼を度々撃退するなど、大活躍し、心の弱さは微塵も感じられない。以上述べたような演出にはなはだ疑問を感じる。 言いたい事の焦点が絞られていないのではないか? 生存者は一人一人と消えていくが、彼らの人生が観客の心に重くのしかかるわけではない。 彼らの反応、行動は想定内で、これといった印象も残さず、「型どおり」に消えていく。 狼の恐ろしさはよく描けているが、ところどころに作り物めいたところが見え、恐さは薄らいでいった。 普通に考えれば、飛行機の残骸でシェルターを作って立てこもり、救出を待つのが正解と思う。 あの状況で森に逃げ込む人は、まずいないだろう。 狼から必死に逃げたあげくに狼の巣にたどり着くという皮肉な結末を用意した意図は何だろうか? 人生には逃れられない運命があり、結果はどうであれ、最後まで諦めずに戦うことが人間として最も勇気ある行動だ、とでもいいたのだろうか。死者の財布を持ち帰る美談があるが、重くかさばるので、写真と免許書類だけでよいと思った。 自然の猛威を示す映像は申し分なく、狼との戦いも迫力がある。何より音響効果が素晴らしい効果をあげている。なので一見の価値あり。
[DVD(字幕)] 7点(2013-08-04 09:01:15)(良:1票)
150.  LOOPER/ルーパー 《ネタバレ》 
素晴らしい脚本だ。タイムマシンをマフィアものに適応する新視点。SF、暴力の姿を借りているが主題は「人間愛」で、真摯な命題を含む。謎の出し方が巧みで、最後までサスペンスが持続する。タイムマシンがマフィアの処刑に使われるという奇抜な設定。処刑人ルーパーの無機質な仕事・生活ぶり。将来の自分を処刑する苛酷な運命。未来でレインメイカーという素性不明のボスが君臨し、ループを閉じる。ヤングジョー(YJ)はオールドジョー(OJ)を処刑したが、そのYJが未来で妻を殺され、未来を変えるために再びYJの元へ現れるというパラレル世界の提示。子供のシド(未来のレインメイカー)が「ママを死なせちゃった。止められなかった。今のママは本当のママじゃない」と口走る。シドの驚異的なTK(念動力)。YJの最後の意外な選択。と中だるみがない。一見無関係に見えるシドの母サラの登場場面が多いのは、実は「母」が隠れた命題だからだ。YJが悪に染まったのは母親の育児放棄が原因で、育ての親のボスに恩義を感じている。優しい母の思い出は、頭を撫でられたこと。それで売春婦に頭を撫でてもらう。エンディングでサラが死体のYJの頭を撫でるが、これはサラが母親として再生したことを示す。サラが母の自覚をもち愛情深くシドを育てることで、シドがレインメイカーとなる運命は消滅する。結果、現在から消滅したOJは妻と平穏に暮らす。YJは、シドがレインメイカーとわかったとき殺害しようとしたが断念した。情が移ったからだ。サラと肉体関係を持つことで彼女をより深く知ることができた。OJはレインメイカー候補の、結果として無垢な子供を殺し、組織メンバーも大勢殺し、シドも殺そうとした。それでも未来は変えられなかった。未来を変えたのは、YJの愛を信じる信念だ。YJは自身の生い立ちと母親との関係を鑑み、サラとシドが母子の絆を取り戻すことが最上の結末であると知り、二人にはそれが出来ると信じた。だから自分の命を捧げた。キッドが育ての親のボスに対して想像以上の愛情を感じているのも命題を補完している。不要と思えたウエイトレスが後に意味をもつなど、無駄な場面がない。フランス行きを中国行きに変えたのは、未来(OJの処刑)が現代を変えることの象徴。残念なのは低予算のため、舞台を麦畑にしたこと。麦畑の隣に簡易食堂があったり、女手ひとつの農場など無理がある。TKの必然性は薄い。
[DVD(字幕)] 9点(2013-08-03 18:17:36)
151.  タイムマイン 《ネタバレ》 
ジャンルは、ライトSF青春アドベンチャー。ふとしたことから、それをつけた人物の分子速度を25倍も早くする“分子加速装置”を手にいれた高校生ザックの冒険物語。“分子加速装置”とは、手っ取り早くいえば、時間を止める時計のこと。悪気は起こさず、恋人と一緒にいたずらに使う程度だったが、悪の組織に狙われてしまう。この悪の組織がよくわからない。武器製造会社らしいが、国家安全保障局から48時間以内に時計を差し出せとの命令を受ける。装置は未完成で、使用した人物が老化してしまうという欠陥があった。組織はリミット内に、何とか装置を完成させたいらしいが、完成したらどうするのかは不明だ。開発者ドップラーは組織に監禁され、装置を完成するように強要されている。ドップラーは、ザックの父である物理博士の教え子で、彼がドップラーが博士に時計を送ったことが事件の発端となる。 時計の争奪戦と組織に連れて行かれた父親の救出を主軸に、ザックの恋愛、ザックの友人との友情、家庭内不和の解消、ザックの警察からの逃走劇が絡む。それなりに複雑な内容だが、無理なく消化されている。どれも深追いしていないところが長所で、SFに名を借りた青春ものと割り切り、明るく、バランスがよい。冒頭のドップラーの変装逃走場面は秀逸。ザックが警察官に変装して時間が止まったように見せるアイデアは傑作。加速を止める氷結装置のアイデアも面白い。こういうアイデアを積み重ねて、シリアス度をより増せば、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に近づけただろう。同じテイストの作品だ。残念なのは、時計と父親の関係があいまいな点。時計の開発とどう関わったのか?送付された時計をどう扱ったのか?使ってみたのか?脚本に空白部分がある。最後にドップラーは若返って元の姿に戻るが、さてどうやったのやら。売れてしまった赤のムスタングを買い戻せているが、あのいたずらで売買契約が御破算になったのだろうか。ザックが時計を持ち帰り、安易に使用するが、これはいただけない。退屈しのぎにはちょうどよい作品。
[DVD(字幕)] 7点(2013-08-02 22:48:17)
152.  スピード2 《ネタバレ》 
ある意味お手本となる映画。反面教師として良い教材だ。前作はノンストップ・アクションの傑作。同じ監督の続編で、巨大な制作費、巨大セット、派手な爆発。なのにどうして?まず主人公の変更が大きい。アクションはこなすが、華がなく、表情に乏しい。恋愛ものとしてみると、ドラマ描写が不足だ。女はある程度描かれるが、男はよくわからない。SWAT隊員で危険な業務をこなし、クレイジーの綽名なのに妙に気弱で、手話が出来たりと、ちぐはぐ。二人のドラマを丁寧に描くべき。コメディ要素が強過ぎる。これが最大の欠陥だ。大勢の人命に関わるのだから。少女との淡い恋で「ロリータ」、タンカーとの衝突で「眼下の敵」を出すなど安易だ。客船が陸に暴走して、ようやく止まった場面で舳が鐘を突いたり、水上飛行機がタンカーのポールに都合よくひっかかるなど冗談の度が過ぎている。客船の暴走場面は映画史上に残るスペクタクルになれたはずだ。序章と終章で女の車免許試験場面をおくが、これがコミカル路線を印象づけてしまっている。最後は「感動」で終るべきだ。人命が救え、悪は滅び、愛は成就し、人々は二人に感謝する。それが最大の見せ場になるはず。見せ場を履き違えている。次々危機が訪れ、スピード感のある映像を撮り、派手な爆発があれば観客は満足すると勘違いしている。アクションが凄くても感動がなければ佳作にはならない。敵役にも問題が多い。開発した船管理システムを会社に横取りされ、病気になったら首、だけでは動機が弱い。ルームサービス係を殺さなかったり、乗客を下船させてから船の爆破を計画するなど、「悪」として中途半端。ヒルによる排毒療法は観客が同情してしまう。単独犯では役不足だ。ダイヤと船爆破が目的なのに、人質の女ににこだわるなど不自然な行動が目立つ。謎がほとんど無いのも欠点。犯人の行動をあますなく映し、犯行動機も早い段階で説明してしまう。興味が激減だ。どんな人物、どんな動機、どんな計画かは可能な限り隠しておこう。挿話のつながりも薄い。聾唖の少女、饒舌な写真係、ユーモラスなルームサービス係、太った夫婦など魅力的な人物が登場するが、伏線が回収されず、流れが断ち切れている。彼らに思わぬ活躍、思わぬ勇気、思わぬ知恵を出させることで各挿話のつながりが出来、一つの物語として完結する。尚、船が暴走した場合は機関室でエンジンを手動停止させればよい。
[DVD(字幕)] 6点(2013-08-02 18:54:35)
153.  テール しっぽのある美女 《ネタバレ》 
老人の遺体が森の小屋近くで発見された。何年も前に獣に殺されたとおもわれるもので、犯罪現場の特殊清掃人レオとエルビスが派遣された。レオは物事に動じないが、エルビスは何事にも敏感に反応するという好対照のコンビ。二人は小屋で秘密の地下室を見つける。埃の積り具合から何年も使用されていない。研究用の部屋があり、古い缶詰が残され、バスタブには白濁水が張ってある。テープを再生すると、老人の声が流れるが、何について語っているか判然としない。服から遺体は軍医とわかる。エルビスが装置の管をいじっていると、突如、バスタブから素裸の美女が飛び出して倒れ込んだ。白い肌、豊満な肉体。驚愕する二人。エルビスが近づくと、美女は跳ね起き、首を絞める。レオは美女を落ち着かせ、服と食料と水を与える。冷蔵庫には尻尾が保存されていた。美女の手がレオに触れると、彼女の過去が断片的に伝わってきた。軍医は未発見生物の赤ん坊を森の中で発見し、軍の研究施設に持ち帰った。ターレと名付けられた生物は驚くべき順応をみせ、人間に似た姿に成長した。情の移った軍医は、彼女を施設から連れ出し、森の小屋に隠れ住んだ。尻尾があるとターレの仲間から感知されるので仕方なく切断。そこまで判明したとき、武装した軍の組織に取り囲まれてしまう。謎の多い映画だ。ターレの正体は、北欧の伝説上の生物「フルドラ」とされる。美しい容姿に牛の尻尾を持ち、美しい歌声で人間の男たちを誘惑し、怒ると老婆の姿になるという。本作品では残忍な一面も見せる。単なるホラーで終らず、二人の友情を描いているのも特徴。レオは肺ガンと宣告されていたが、事件後ガンの影は消えていた。ターレの治癒能力によるものだ。エルビスには娘がいたが、貧困を厭った妻が去り、娘を誰かに預けていた。事件後レオの説得により?妻が戻り、三人は元のさやに戻る。明るいエンディングは、逃走したタールの未来を暗示している。冒頭、反吐を吐く場面を何度も映すが、これは減点。フルドラのCGは不出来。【疑問】①ターレは数年間をどうやって生きのびた?どうして小屋を出なかった。②小屋の電力供給方法。エンジン式発電機では何年ももたない。③軍の組織の正体。④軍の組織のリーダーが老人。⑤フルドラがリーダーの死体を持ち去った理由。⑥フルドラはどうして二人を襲わなかった?⑦軍とフルドラはターレの居場所をどうやって知った?
[DVD(字幕)] 6点(2013-08-02 12:34:45)
154.  アイアンマン3 《ネタバレ》 
三作の中では最も良かった。常に緊張した場面や戦いがあり、中だるみの部分がほとんどみられないのがすがすがしい。 前作の反省を踏まえてか、トニーが精神病に悩み、克服する挿話と恋愛部分は最小限にとどめ、敵役との戦いを何段階にも描いているのが成功の要因だろう。子供を登場させ、物語を明るくしたのも成功の一因。やはりヒーローものは明るいのがよく似合う。 ところで敵役キリアンは何をしたいのか?彼はウイルスにより遺伝子を書き換え、脳の未使用領域を利用して人の能力を飛躍的に向上させる「エクストリミス」というバイオ・テクノロジーを完成させた。これにより、体温は3000度にまで上昇、肉体は鋼鉄のように改造され、、肉体の欠損箇所も再生可能な超人に生まれ変わる。一種の不死ともいえる。しかし体がウイルスを受け入れない場合は爆発してしまうという不完全なテクノロジー。荒唐無稽と一笑してしまえば物語が成立しないので、受け入れるしかないが、これなら「宇宙人が責めてきた」という設定の方がまだわかりやすかった。キリアンはこの素晴らしいテクノロジーを平和利用する気はなかったのか?テロを起こしたり、大統領を殺したりして、何をやりたい?彼の経歴から推して、社会に対する強烈な復讐心を持つとも思えないなど疑問が残る。前2作品はメカ対メカのシンプルな戦いだったが、今回はメカ対改造人間。改造人間は飛べないし、飛び道具も持たないのに対し、アイアンマンは遠隔操作できる上に、30数体も登場する。敵の目的が不明な上に弱いのでは話にならない。TV電波ジャックができるくらいの頭脳があるのなら、対アイアンマン戦略も万全にして戦ってほしかった。ヘリで家をミサイル攻撃するなど、おおざっぱすぎて感心しない。 トニーの恋人ポッツが、改造人間になり、アイアン・ウーマンになるのには笑うしかなかった。一種のファンサービスと割り切ろう。 SFアメコミヒーローものだが、やっていることは西部劇と変わりない。善が悪を倒すのだ。「かっこよさ」は西部劇に軍配が上がる。人間が描けているからだ。アイアンマンには真の困窮者も貧困者も社会的弱者も登場しない。荒唐無稽なヒーローと巨悪が存在するだけだ。頭を空っぽにして見る映画。
[DVD(字幕)] 7点(2013-08-01 23:15:22)
155.  アイアンマン2 《ネタバレ》 
前作では、巨大軍事企業の社長かつ天才科学技術者トニー・スタークが、テロ組織に拉致され間一髪のところで生還した経験から、自分の進むべき道を問い直し、会社の軍事部門を廃止し、戦闘スーツを身に着け世界を守るヒーローとしての活躍を始めると意思表示をするところで終る。 本編では、アイアンマンのおかげで各地の紛争は鎮静化され、平和が維持されているという場面から始まる。 ヒーローの活躍場面が省略されているわけで、物足りない。 代わりに、その余りの威力を危惧した国から、軍事兵器として接収されそうになるという、ヒーローの活躍に水を差すような展開になっている。 このヒーロー、飄々としているのは良いが、おちゃらけが過ぎるのが難点だ。 前回では拉致された際に受傷し、生命の危機に瀕するという真摯な場面があった。 だから、他の場面で見せるおちゃらけとバランスが取れていた。 今回は徹頭徹尾、おちゃらけ路線。これでは、危機が危機におもえなくなってくる。よって感情移入もない。 酔って踊りながら、群集の面前で火器を使用しての西瓜割りなどの危険行為も目に余る。 第二のアイアンマンも、トニー監視役の友人が、暴れるアイアンマンを止めようとして着用するというさえない登場の仕方をする。いわば仲間割れで、集中心が削がれる。 恋愛パートだが、毎度痴話喧嘩レベルの言い争いの繰り返しで新鮮味がない。秘書を社長にしたのはよいが、軍事会社が軍事をやめてなにをしているのか? 父親が遺したフィルムをヒントに新動力源を発見する挿話はよかった。冷めがちだった父親との絆を深め、人間らしい感情を取り戻した瞬間だ。 さて、ライバルだが、トニーの父親の元同僚の息子イワンが、父の研究を奪ったトニー父子に恨みを抱いているという設定。 独自開発した戦闘スーツでトニーを急襲するものの撃退される。しかしトニーのライバル企業のハマーに救出され、新兵器の開発に協力する。最終的にイワンはハマーを裏切り、新兵器軍団を伴ってアイアンマンを襲うという、どうにも複雑な展開。善対悪の戦いになっていない。この外にシールドやブラック・ウィドウなどが登場し、流れが途切れがち。これでは、いくら戦闘場面が魅力的であっても爽快感は得られない。スーツケースからの流麗な変身場面のみ印象に残っている。
[DVD(字幕)] 6点(2013-08-01 13:05:43)
156.  海底二万哩 《ネタバレ》 
子供向け映画でありながら、どの場面も手を抜かず、丁寧に仕上げられており、好感がもてる。 本物とみまがう潜水艦、迫力ある軍艦への突撃攻撃、巨大イカとの死闘、エキストラの数など、大作の雰囲気が漂っている。 しかし残念だが、特撮ものは時間の経過と共に色あせる運命にあり、本作も例外ではない。 今でも十分に観賞に耐えれるが、取り立てて見事な出来栄えとはいえない。 原作の書かれた1870年は、動力といえば蒸気機関しかなく、電球も発明されてなかった時代だったことを勘案すると、その豊かな想像力には感心させられる。原作は悲観的だが、本作は原作以上に悲観的だ。超凡な頭脳を持つ科学者のネモ艦長は、新エネルギーをはじめ、人類を幸福に導く数々の傑出した発明をものにしながら、それを世界に秘匿している。彼は過去に、戦争のための強制労働をさせられ、家族を殺されたという心的外傷により、人間を信じることができなくなっている。自分の発明がやがて戦争に悪用されることを極度に恐れている。それで信条を同じくする同士たちと潜水艦に乗り込み、七つの海を冒険し、海の神秘を体験しながら、自給自足の生活を送っている。いわば”人類の孤児”だ。 彼は戦争を憎むあまり、軍艦や火薬を積載した輸送船を見つけると攻撃を仕掛け、沈没させてしまう。戦争という暴力を憎みながら、暴力を使ってしまうという矛盾に満ちた人物である。 ネモと好対照なのがアロナクス教授で、人類の未来に対して楽観的だ。二人はお互いに認め合いながらも、意見は平行線で最後まで合意に達することができない。最終的にネモは秘密を死守するため、基地を爆破し、潜水艦もろとも海の藻屑と消える。 絵空事のようだが、考えてみれば、今日にでも何者かが将来人類を滅亡に導くような大発明、大発見をするかもしれない。原発事故で分ったように、人類に有益な発明に見えても、使い方を誤ったり、事故が起れば、たちまち人間に牙を剥く。 そういう意味で、誰もネモを笑うことができない。 もし水爆より数段も威力のある非核爆弾の原理を発明したとしたら、誰でも一瞬、発表をためらうのではないだろうか。 ウェルズが提示した”戦争をやめられない人類の愚かさ””科学の進歩に対する不安と恐怖”は、今でも新しい。 演出面でネッドや助手が空回りしている印象があった。ネッドは笑いがとれないし、助手は不気味さが漂う。ミスキャストである。
[地上波(吹替)] 6点(2013-07-21 23:24:09)
157.  モハメド・アリ かけがえのない日々 《ネタバレ》 
モハメド・アリは、ベトナム戦争への徴兵に対して良心的兵役拒否を貫き、ヘビー級王座を剥奪された。さらにボクサー・ライセンスも取り上げられ、復帰まで3年7か月間の空白を余儀なくされた。復帰後、王者ジョー・フレージャーに挑戦するが、判定負けを喫する。それから3年余の紆余曲折を経て、ようやく新王者ジョージ・フォアマンとのタイトル・マッチが実現する。本作品は、後に「キンシャサの奇跡」として有名になる、その試合を取材したドキュメンタリー映画だ。 アリは巨大なものと戦っている。 当時史上最強、ゾウをも倒すといわれた鉄腕ファイター、ジョージ・フォアマンが対戦相手だが、戦う相手はそれだけではない。 先ず兵役拒否したことへの社会的バッシングがあった。 マスコミや評論家はおおむね、盛りを過ぎた元チャンピオン、アリに勝ち目はないと予想していた。 そして黒人差別問題。本名カシアス・クレイを奴隷の名として拒絶し、イスラム教に改宗し、モハメド・アリと改名したのも、根本には黒人差別が存在したからだ。 アリは、これらの敵に対して独特の戦法を講じた。 マスコミに対して、わざと大口を叩き、試合への関心を煽り、報道を加熱させた。フォアマンに対しては「お前は弱い」「ミイラのように動きが鈍い」と挑発し、精神戦を展開。差別社会に対しては「黒人は美しい」とアピール。 試合の場所がアフリカと決まると、「まるで故郷に帰ってきた気分だ」と、アフリカのファンを味方に付ける。 大口を叩くことによって世界の関心を集め、自分の商品価値を高め、同時に自分を追い詰め、豊富な練習量で武装する。 実にクレバーで、魅力的な男だ。貧しい環境で育ったこと、人種差別を受けてきたこと、懲役拒否により社会から手ひどい罰を受けたこと、すべてを味方にしている。二枚目的な面貌もあいまって、大人気を博するのも当然だ。 この試合で勝利したことにより伝説は作られ、アリはアメリカン・アイコンとなった。 今後、このような神がかったようなカリスマ性をもつボクサー、いやスポーツ選手は出ないのではないか。
[DVD(字幕)] 7点(2013-07-19 21:21:48)
158.  相棒 -劇場版Ⅱ- 警視庁占拠!特命係の一番長い夜 《ネタバレ》 
まさに前代未聞!警視庁庁舎内の会議室で、警視総監、副総監以下12人の上級幹部を人質とした篭城事件が発生した。 犯人は一人だが、拳銃で瞬く間に並み居る幹部らを制圧、非常に手際がよい。それでいて要求はなく、時間をくれというばかり。一体何者?何の目的で?謎は膨らばかり。こうして特命係の一番長い夜が始まった。今後どういった展開を見せるのか、期待をもたせる順調なすべりだしだ。 だが、犯人の身元はすぐに割れ、機動部隊突入によるもみ合いの最中、犯人は射殺されてしまう。緊急時の正当防衛ということで事件は落着、呆気ない幕切れとなる。特命係の右京らは独自に捜査を始める。犯人は元警察官の八重樫で、動機は7年前の反米テロリスト事件に絡んだものと推定された。捜査が進むにつれて、反米テロリスト事件の黒幕は実は公安警察で、中国人マフィアを利用してテロ事件を捏造したものと判明する。動機は、公安の存在意義を世間に認知らしめること。証人隠滅を図って船ごと爆発させるという悪辣なもので、警察官一人が巻き添えとなる。 これに警視庁幹部らの隠ぺい工作、テロリスト事件で婚約者を亡くして復讐に燃える女性警察官、警察庁と警視庁の権力争い等の要素が絡む。単純な事件から複雑な事件へと変貌するが、謎解きの面白さはさほどない。謎はさくさく解けてしまうし、最大の証拠である会議室での録音データは監察官から送られてくる。元々、刑事もので警察内部犯行というオチは芳しくない。現実味が薄い上に、後味が悪い。公安のでっち上げ事件は荒々しすぎて荒唐無稽だし、中国人をイスラム系テロリストに見せかけるのにも無理がある。もっと”らしい”事件にすべきだった。懲戒解雇された生活安全部長が、それだけで警察庁官房長を刺殺するだろうか?また八重樫らが、証人である意識不明の中国人を連れ出して1年間も監禁したのは人道的問題がある。それに窮したとはいえ、元警察官が人質事件を起こすだろうか?警察上層部が真相を握りつぶそうとしても、マスコミに訴えるなり、ネットに公開するなり、裁判を起こすなり、いろいろと手段はあるはずだ。女性警察官は、黒幕の正体をどうして知ったのか?いきなり射殺しようとしたのにも違和感がある。公安はどうして八重樫の隠れ場所を知ったのか?疑問もいろいろと湧く。すっきりしない終り方では、当然観客もすっきりしない。
[DVD(字幕)] 6点(2013-06-23 03:44:24)
159.  タイタンの逆襲(2012) 《ネタバレ》 
ギリシア神話の登場人物を総動員させて、神や半神やクリーチャーの迫力ある戦闘場面を魅せるファンタジー映画。神々の戦いが主軸となる。タイタン(巨神)族のクロノスは父により冥界に閉じ込められるが、反抗して王位を奪う。姉と結ばれ、ハデス、ポセイドン、ゼウスらの子種を得るが、「子供に王位を奪われる」という予言を恐れ、子供を飲み込む。ゼウスは母の計らいで生き延び、ハデス、ポセイドンらはクロノスの兄弟ガイアの策略で腹から吐き出される。兄弟は連合して父とに戦い、勝利して父を冥界に幽閉する。戦後ゼウスとハデスは仲違いし、ハデスは冥界に下る。以上が前段階。時は移る。人間の神への祈りが減り、神の力は衰え、冥界の壁が崩れ始める。壁が崩壊すれば、クロノスが地上を跋扈し。この世は闇に閉ざされる。危機感を募らせたゼウスは神々と半神の力を結集して、冥界の壁を建て直そうとする。だが、ゼウスを憎むハデスとゼウスの子アレスが裏切り、ゼウスは冥府に監禁され、その力をクロノスに吸われる。かろうじて難を逃れたポセイドンだったが、ゼウスの子ペルセウスに事実を告げるとやがて命が尽きた。ペルセウスとポセイドンの子アゲノール、それと何故か女王戦士になっているアンドロメダがゼウス救出に向かう。色々と展開があり、ハデスは改心し、アレスはペルセウスに刺殺され、クロノスは地上に放たれる。神々と人間の連合軍対クロノスの戦いが最終決戦。いわば神々の骨肉の争いに人間が巻き込まれる形だ。親子の情愛を絡ませることで物語に深みを与えようとしているが、成功しているとはいえない。ときに物語の進行を妨げている。アレスがどうして、あれほど父を憎むのが伝わらない。ペルセウスも当初は父に対して冷淡すぎる。ペルセウスの子はただ突っ立っているだけの存在。クロノスの心情は計りしれない。ただ「親、子、愛」という言葉が空回りしている。見所である戦闘場面だが、神々が弱すぎるのが問題。矮小化されて人間と区別がつかない。キメラ、サイクロプスの方が数段迫力があった。神々の戦いなのだがら、巨大化し、空を舞い、雷雲を呼び、雷鳴を響かせ、海を逆巻かせ、山を動かしての一大スペクタクルにすべきではなかったか。巨大なだけで溶岩を投げるだけのクロノスと、美女でないアンドロメダにも失望した。CG,VFXは一流だけに甚だ残念である。B級怪獣映画と割り切れば楽しめる。
[DVD(字幕)] 7点(2013-06-22 15:41:05)(良:1票)
160.  パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 《ネタバレ》 
ギリシア神話を下敷きにして、現代のニューヨークを舞台に、盗まれたゼウスの最強兵器「稲妻」をめぐっての冒険譚。冒頭の巨大ポセイドン出現場面では期待したが、以降の威厳の感じられない神々には幻滅させられた。総じてファンタジー色が少ない。高校生とファンタジーでは親和性が薄い。原作の12歳の方が適切だ。活躍する舞台は地上ではなく、天上などの異次元にした方がよい。そうすれば園芸店にメデューサがいて客を石に変えているが人間に露見しない、という矛盾がなくなる。ゼウスがポセイドンを呼び付けるが、そこは高層ビルで、共に人間の姿。摩天楼をオリンポス山になぞらえているのはわかるが、神同士なら天上で会えばよい。ファンタジーはイメージが大切だ。カインの渡し守もハデスもその妻も人間の姿。手抜きであろう。ゼウスはこれといった理由もなく、ポセイドンの息子パーシー(P)が犯人と決めつける。そしてポセイドンに「期日までに持ってこなければ戦争だ」と脅す。それでいて息子との面会は許さない。酷い神だ。Pは継父の酷い悪臭で神々から隠されているという。酷い設定だ。でも何故隠すのか?「Pが稲妻を盗んだ」の噂が広まり、「稲妻」を奪いに魔物が現れる。魔物に居場所が分るのに、ゼウスには分らない?母が冥界の支配者ハデスにさらわれ、ハデスは「稲妻」と母の交換を条件とする。Pは仲間と母の救助に向うが、先ず冥界からの帰還に必要な「真珠」を見つける必要がある。ここからペルセウス神話をなぞっての冒険が始まる。宝探し、怪物退治、ロード・ムービー、旅の仲間等の要素で、最大の見せどころ。が、残念ながら盛り上がらない。緊迫感がないのだ。「ジュラシック・パーク」の恐竜の迫力と比較すれば一目瞭然。前段のキャンプでの訓練もチャンバラにしか見えなかった。冥界で、ハデスを説得して母を返してもらうという最大の難問が立ちはだかるが、労せず解決してしまう。カタルシスは得られない。帰還してルークと一騎打ち。彼が「稲妻」を盗んだ真犯人で、楯に隠してPに与え、冥界でハデスに渡るように企んだのだった。「稲妻」が実践で使用されるが、驚くほどの威力はない。羊頭狗肉だ。夜の場面が多く、見にくい。何故魔物の近くに真珠があるのかは謎だ。真珠を守っている様子はなく、ハデスとも不連絡。真珠が足ずに一人冥界に残るが、後にPがゼウスに頼んで戻してもらう。無駄な挿話はやめよう。
[DVD(字幕)] 6点(2013-06-20 22:04:03)
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