1. 蜘蛛巣城
《ネタバレ》 日本版「マクベス」は大成功ですね。本家の物語は、11世紀スコットランドに実在した”名君”マクベスがモデルになってますが、それを五百数十年後に悪者に仕立ててしまったシェークスピアの罪は別にして、すぐれた人間心理の描写があり、物語としては非常によくできたものだと思います。本作もそのプロットを踏襲し、時代を戦国時代に設定したことは、武将の功名心と潜在的な下克上への嫌悪感とを描くことに大きく貢献しています。また、シェークスピアの洞窟の魔女よりもなじみ深い”化生の物”が棲む森というのも、後の展開への大きな伏線となっております。モノクロであるが故に、映像の迫力が伝わるともいえるでしょう。これは岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」(1967)でも言えることで、あえてモノクロを選ぶことで血生臭い迫力がより強調されるのだと思います。”謡い”を挿入することで、より日本的な伝奇性を醸し出すことにも成功し、先の展開がわかっていながら(「マクベス」の読者ならきっとそうでしょう)引き込まれる展開にワクワクすることでしょう。私は、浅茅の方が武時に大殿を殺せとそそのかすシーンのあと、事後に三船敏郎がどのような戻り方をするかに興味がありましたし、浅茅の方が手を洗い続けるシーンがいつ出てくるのか待ち遠しかったです。また、森がどのように動くのだろうとも期待して観ておりました。そしてクライマックスの”矢だるま”の演出! 狂気に狩られた非道の君主の最期としては、これほどふさわしい結末もありますまい。後の「影武者」や「乱」にも本作のエッセンスは見受けられますが、すでにこのような完成度の高いものができてしまったあとは、物足りない印象はぬぐえません。お見事! <以下蛇足>音声が聞き取りにくいという方は、ぜひDVDでご覧ください。日本語音声に日本語字幕というのは違和感を感じるかもしれませんが、台詞をそのまま文字に起こしているのでなじめます。 10点(2004-04-24 10:09:49)(良:1票) |
2. 隠し砦の三悪人
《ネタバレ》 普通ですね。やはり後の「用心棒」、「椿三十郎」には劣ります。キャラクターとして、又七と太平のコンビが「スター・ウォーズ」シリーズのロボットコンビに使われたとかいうエピソードはありますが、あの手のお気楽キャラクターは本作以外にもいろいろとありますしね。あ、姫を逃がすという設定があるから、ルーカスも気に入ったのかな? 本作でデビューした、雪姫を演じる上原美佐は当時21歳。つり上がった眉といい、きつい性格をあらわす美人ですが、あの台詞はいけません。三船敏郎に輪をかけて棒読みで、むせたようなしゃべり方ですから非常に心地悪い。DVDで日本語字幕を出しているからわかるといった感じです。黒澤映画の「何もかも描写して見せよう」とする完璧主義が、今の私には逆にわずらわしく感じられてしまいました。鑑賞者の想像力を換気するような演出があってもいいと思います。テンポのよい作品ならいざ知らず、本作のようなストーリー展開であると、もっと短くできるだろうと思ってしまいます。あと、これはとても気になったのですが、真壁六郎太と田所兵衛の対決で、陣営の幕を切り裂くシーンが出てきます。やったのが秋月の六郎太ならわかるのですが、兵衛があの家紋を切り裂くのは不自然な気がしました。いわば、君主を切り刻んでいるのと同じでは? でも、もしかしたら、これは後の「裏切り御免」への伏線だったのでしょうか?そこまで計算していたとしたら立派なものですが、そういう意図もなく、ただ単に槍試合を魅せたいために行ったのだとしたら、あれは不自然だという印象が残ります。みなさんの解釈はいかがでしょうか? 6点(2004-04-24 00:46:59) |
3. ハーヴェイ
《ネタバレ》 主人公にしか見えない不思議なものの存在。それがこの作品のモチーフですね。ハーヴェイの正体がなかなかわからず、それでかなりの場面を引っ張るわけですが、その間に巻き起こされるさまざまなエピソードが一般社会への皮肉や風刺になっていて、クスリ、ニヤリの連続です。スチュアート演じる主人公は、ハーヴェイの件をのぞけば、心優しい紳士で、ほのぼのとした雰囲気の好人物を楽しませてくれます。きっちりとした身なりで、物腰も柔らかく、誰にでもフレンドリーであり、「ホントにこんないい人がいるのか?」と思わせる役柄ですが、彼本人の醸し出す雰囲気がそれを違和感無く印象づけるので、観ているこちらの心も温かくなるんですね。私もできればああいう人物になりたいと願います(多額の遺産で生活に苦労しないという前提が必要だが(笑))。ケルトの神話にも出て来るという不思議な妖精pookaが、けっきょく他の人にも見えていたわけで、それを現実として受け入れられないところに、頭の固い現代人の問題があるんでしょうね。Missケリー役のペギー・ダウはグレース・ケリーを彷彿とさせる(寡作ですぐに引退など)美人で、私だって彼女には花を贈ったり親切にしたくなります(笑)。もともとが舞台劇であるけど、固定された空間よりも、映画としての演出の方が楽しめると思います。ハーヴェイはなかなか正体をあらわしませんが、肖像画の演出が1カ所だけ楽しめますからお見逃し無く(微笑)。 <2004年3月3日誤字修正> 9点(2004-03-03 02:05:30)(良:1票) |
4. ホワイト・クリスマス
「スイング・ホテル」でいちやく有名になった曲”White Christmas"を再び流行らせることに貢献した”中興の祖”とでもいうべき映画ですね。今となっては時代の格差を感じる演出の目白押し。たとえクリスマスという時期であっても、クライマックスのシーンにおいて、テレビ中継で何かを訴えることで、それをアメリカ全国の人間が見ていると確信する根拠は、テレビ放送黎明期の当時だからこそ納得できることであって、現代のようにメディアの多様化した時代であれば、それこそ巨額の費用をかけてクロスオーバーな宣伝をしなければ期待薄というもの。それが可能だった時代を懐かしくも思わせる。彼らの設定は第二次世界大戦の戦友ということだが、将軍を歓迎するケーキのトップに鎮座する戦車がどうみてもM4シャーマンではないのは、減点せざるを得ない。昔を回顧するのであれば、それなりのおもてなしをするべきであろう。さらに、朝鮮戦争が近いこともあり、軍隊万歳的な内容も鼻につく。まあ、いかにもアメリカ万歳的な内容ではある。ただし、将軍の歓迎のために仲間に呼びかける歌の中で言われることは、軍隊に限らず一般化して納得できるものがある。頑張った人が報われないのはおかしいと思う。とってつけたような雪は余計だが、クリスマスの奇蹟を素直に喜べばいいのであろう。 <追記>内容が明るいだけに、なおさら背景を考えてしまい、点数の割りに酷評に受け取れるかもしれないことをお許しください(平身低頭)。 7点(2003-12-26 19:01:21) |
5. ウンベルトD
《ネタバレ》 <ストーリー> ユーロコミュニズムの隆盛はまだ数年後のことであるが、年金値上げを求めるデモ隊の中にウンベルト(カルロ・バティスティ)はいた。永年勤めた公務員を首になり、その年金だけでは生活が苦しく、今もまさに家賃滞納で部屋を追い出されようとしていた。もとが手に職を持っているわけでもなく、70過ぎの老人には退職後の仕事も何もない。唯一の記念品である金時計を売ろうとするが、友人連中を回っても、相手にしてもらえない。飼い犬のフランクや、数少ない顔見知りの女性マリアと無頼を慰め合うのがせめてもの救いだが、彼女も妊娠した挙げ句男に捨てられた身の上である。家賃の取り立てをせまる業突張りの大家は、彼が体調を壊して慈善病院に入院したのをいいことに、勝手に部屋を改造し、愛犬を追い出していた。鬼気迫る表情で大家に迫り、犬を探し回るウンベルト。ようやく探し当てたフランクを抱きしめ、今後のことに思いをはせる彼。職もなく住処も追い出された老人は、物乞いをしてみることを考えるが、妙なプライドがあってそれを許せない。仕方なく愛犬フランクが芸をしてみせるのだが、金にはならない。そして、いよいよ意を決した彼は、鉄道の線路に立ち自殺を図ろうとする。しかし、愛犬が彼の腕から逃げ出し一命を取り留める。そして・・・。 <感想>なんとも暗い雰囲気の映画ですが、半世紀以上経った今、非常に現実的な内容を持った傑作だと思います。主人公のカルロ・バティスティは本物の大学教授だった素人で、演技の経験はないはずなのですが、ウンベルトを熱演しています。また犬のフランクがとっても可愛い。後半、追い出されたウンベルトの足元で芸を魅せる健気な姿には、思わず涙を禁じ得ません。年金問題が日本でも議論され、誰もが将来に漠然とした不安を持っています。女性が強くなったとは言え、マリアのように妊娠して捨てられれば困ってしまうのは事実でしょう。孤独な老人が自殺を考えるというのも、あんな状態になったらわからないでもありません。50年以上前にこんなに鋭い問題提起をした映画があったことは凄いことだと思います。今だからこそ、観るべき作品なのではないでしょうか。 9点(2003-12-13 09:10:08)(良:1票) |
6. ミラノの奇蹟
《ネタバレ》 人間性を風刺したファンタジーです。主人公がキャベツ畑に捨てられていたというのは、コウノトリが運んで来たというのと同じような意味合いのことだと思うのですが、その主人公トト(フランチェスコ・ゴリザーノ)は、お婆さん(エマ・グラマティカ)に育てられ、とっても素直で善良な青年に育つんですね。で、彼らはジプシーのような貧乏暮らしをしているんですが、あるときそのバラックを建てている土地から石油がわくんです。で、その土地の本来の地主が彼らを追い出そうとするんですね。このとき既にロロッタ婆さんは死んでいるんですが、彼女が現れてトトに奇蹟をさずけるんです。そのおかげで、彼らの平和は守られるんですが、それで終わらないのがこの映画の凄いところです。普通は善良で素朴な青年のおかげでハッピーエンドっていうパターンを想像しがちですが、どうなってしまうのかは、ぜひご覧になってください。モノクロで特撮技術も今の目から観れば未熟に感じるでしょうが、完成度の高さといい、ストーリーのひねりといい、なかなかの傑作だと思います。主人公のトトが自転車に乗って空を飛ぶシーンがお気に入りです。「E.T.」はこれをパクッたんじゃないでしょうか? <2004年1月23日修正>ここで「自転車」と書いてますが、とんでもない間違いです(汗)。ミラノ大聖堂前の広場で、掃除をしている人達の「ほうき」にまたがって飛ぶんです。ただ、E.T.と同じように追われている立場で逃げるのですから、こっちが早い分、真似されたと考えても不自然ではないのでは? 8点(2003-12-08 02:48:09)(良:1票) |
7. 七人の侍
「荒野の七人」との評価論争があります。まあリメークと本家の関係は難しいモノがあると思います。世間的な評価は高いようですが、わたし的には「荒野の七人」の方がずっと好きです。なぜか?それは私が単純バカなので、内面の葛藤を淡々と描写する黒澤の手法よりも、動きで魅せるジョン・スタージェスの演出方法の方が理解しやすかったからだと思うのです。雨の中の合戦シーンは、モノクロの効果もあって迫力ある映像になりましたが、首魁である勘兵衛の悟りきった態度に感情移入できず、菊千代の頑張りを観ても、客観的に外から眺めているという感じで、戦国時代の村に入り込めない気持ちが強くあるのです。それに対して、"荒野"の方は、メキシコの村に入り込めた気がしました。ブロンソンやコバーンが仲間のように思えました。これは個人的な感情なので、仕方ないことだと思います。批判めいたことを書いているように受け取られそうですが、時代劇として客観的に楽しめる作品だとは思います(・・・って、こんなこと書くと、黒澤天皇に対する”不敬罪”ですかね(汗))。 7点(2003-12-06 01:26:45)(良:1票) |
8. 蝿男の恐怖
特撮がちゃちですが、その分怖さが増しています。愛する夫が化け物になって行き、それを救う最後の手段がプレス機で・・・という、とっても悲しいラブストーリーです。「ザ・フライ」のような仰々しさはなく、こちらの方がわたし的には好きですね。ラストの蜘蛛の巣のシーンは衝撃的です。 8点(2003-12-03 09:53:00) |
9. クォ・ヴァディス(1951)
昔はこういう史劇がよくありましたね。キリスト教のコアな信者の女性(デボラ・カー)を好きになってしまったローマの軍人(ロバート・テイラー)と、その時の皇帝ネロ(ピーター・ユスチノフ)の迫害をテーマに話は進みます。映画の題名の”Quo Vadis?”というのは(このクエスチョンマークが大事なんだよね(笑))、ネロ帝の迫害が続くローマに向かう殉教者ペトロあるいはペテロの「主よどこに行くのですか?」ということばです。思想・信条の自由と、他人への無償の愛などがテーマの宗教劇ですね。 7点(2003-12-03 09:37:49) |
10. 戦艦シュペー号の最後
第二次世界大戦中の南米ウルグアイ。ドイツ海軍の戦艦グラフ・シュペー号は、イギリス海軍の包囲を抜けて、当時中立国だったウルグアイの首都モンテビデオ沖に逃げ込んだ。外交交渉によってシュペーを追い立てようとするイギリス。国際法により認められる滞在期間は24時間。修理のための滞在延長を求めるドイツ外交官。刻々と時間が迫る中、なんとかしてシュぺーを拿捕しようとするイギリスに対し、、ドイツ軍艦長ラングスドルフ(ピーター・フィンチ)はそれを逃れるため最後の手段に出る。戦後10年ちょっとで作られた作品にしては、ドイツ軍をさほどの悪役にしていないのは、イギリス映画だからということでしょうか。それとも、ポケット戦艦として有名だったシュペーを追いつめたイギリスの自慢があるので、寛大な態度を示しているのでしょうか。いずれにせよ、紳士然としたピーター・フィンチの演技には感銘を受けます。割りとドイツ海軍には反ナチスの考えを持った人物が多かったことの現れでしょうか。 8点(2003-12-03 09:20:26) |
11. ノートルダムのせむし男(1956)
ジーナ・ロロブリジーダが綺麗でした。アンソニー・クインも若いねえ。でもなんでイタリア女とメキシコ男でフランスなんだろうなあ。 7点(2003-12-02 23:22:45) |
12. 二十四の瞳(1954)
高峰秀子が清楚で活発な先生を好演していますね。もちろん皆さんご存じの原作があるわけですが、かなり忠実に再現していると私は思います。戦争の悲劇を、教え子の死というフィルタを通して描いた傑作だと思います。 8点(2003-12-02 10:34:27) |
13. ナイアガラ
ナイアガラの滝観光映画ですね。マリリンは主役じゃないでしょ。ジーン・ピータースの方が主役じゃありませんか?(笑) そう思って観れば、殺人事件に巻き込まれる若夫婦のサスペンスとして楽しめます。 6点(2003-12-02 09:58:58) |
14. 十戒(1956)
壮大なテーマを扱った一大スペクタクルなのだが、今の目で見ると、どうも中途半端に終わってしまった感じが否めない。有名な出エジプトの紅海が割れるシーンは圧巻だが、それ以外が印象に残らなかった作品。ユル・ブリンナーのエジプト王は好かった。 7点(2003-12-02 01:16:55) |
15. 七年目の浮気
女性の皆さん、男って奴は暑いとついつい妄想がふくらんでしまうんです。すみません(笑)。「マリリンとアインシュタイン」で出てくるのは、この映画の撮影をしていた頃の設定ですよね。自分の女房がスカートヒラヒラではたしかにディマジオが怒るのもわかりますが(笑)。まあ、馬鹿な男のおバカな妄想を許してやって下さいな(平身低頭)。この映画のマリリンも魅力的でした。 7点(2003-12-02 00:29:18) |
16. 遊星よりの物体X
”から”よりもこちらの方が個人的には受け入れられます。白黒なので、”より”のビロビロビローンというグロさはないけれど、もっと心理的な怖さがあるような気がするのですがどうでしょう? 例えて言えば、”より”は「ハイテクに支えられた最新鋭のお化け屋敷」で、”から”は「人間が”わっ”と人を脅かすアナログなお化け屋敷」という感じでしょうか。 7点(2003-11-20 18:12:55) |
17. シェーン
すごみのあるジャック・パランスと、アラン・ラッドの決闘シーン、何度観てもハラハラドキドキですね。ガンベルトから抜くシーンを何度もまねて、シェーンに挑戦したけれど、0.2秒の早業にはかないません(笑)。ジーン・アーサーとの微妙な恋愛感情もはかないですね。有名なラストの叫び声とエンディングの音楽は耳から離れません。 8点(2003-11-19 22:45:44) |
18. OK牧場の決斗
カーク・ダグラスのドク・ホリディは、数ある映画の中で、わたし的にはイメージ的にいちばん近いです。バート・ランカスターのワイアット・アープとのコンビは、なかなか好いのではないでしょうか。敵役のクラントン一味のデニス・ホッパーがイカれた演技でいいですね。個人的には「荒野の決闘」よりもこちらの方が好きです。 8点(2003-11-19 21:30:55) |
19. ライムライト
人生の落日を淡々と演じるチャップリンに感動します。かつてどれだけ名声があっても、やがて忘れ去られていくのは寂しくもあり悲しくもあります。文字通り命を懸けた彼の舞台に涙を禁じ得ません。優しくももの悲しいメロディが心に響きます。「独裁者」とともにチャップリンの傑作です。 9点(2003-11-19 21:05:48) |
20. 灰とダイヤモンド
主人公のサングラスが印象的ですね。ワルシャワ蜂起失敗を生き延びた男の、自己完結の映画です。「地下水道」を観て予習してから本作をご覧ください。この映画が作られた時代はまさに冷戦時代まっただなか。もちろん共産党の独裁政治が行われている時代です。ポーランドの監督によってこういう映画が作られたことに私は驚嘆し、感動を禁じ得ません。 7点(2003-11-19 20:57:28) |