1. マネー・ショート 華麗なる大逆転
《ネタバレ》 私もトレードを少々やっているのだが、天井で買って、底で売って、を繰り返している。あの規模で、逆張りのショートを二年間続けるなど信じられない。しかも顧客からのプレッシャーに加えて、債務不履行が増えているのに、値段が上昇するという不可解。ルールも何もあったもんじゃない。作中でも触れていたが確かに昔は、銀行員は真面目でお堅いというのが一般的なイメージであった。証券会社の方が悪名高かったと思う。いつからこうなったのだろうか。いきなり役者が説明を始めたり、テロップが出たり、こういう『アウトサイド』な演出は割と好きです。ドキュメンタリー映画が一般化しているが、その影響なのかな。四人とも(というか六人?)強烈なキャラクターだが、彼らの憤りと葛藤には誰もが共感できるだろう。何故、愚行が繰り返されるのか。派遣切りとかブラックにも通じるところがあると思うのだが、良心の欠如というより、想像力の欠如が問題のような気がする。ある種の集団心理だ。そっちの方向から分析すれば、再発も防げるのではないだろうか。リーマンの社内に潜入するシーンが切ない。私もアベノミクス崩壊に賭けて、全力ショートしよう。 [映画館(字幕)] 10点(2017-01-12 01:47:09) |
2. スポットライト 世紀のスクープ
《ネタバレ》 カソリック教会での児童虐待。私が初めて知ったのは、CBSドキュメントによってだったと思う。恐らく十年以上も前だろう。現在ではほぼ『常識』として認知されているが、そうなるまでには当然何らかのきっかけがあったわけだ。この記事がそうだったんですね。性欲すなわち『種の保存』本能は、人間にとって最も根源的で強力な欲求なので、何らかの手段によって解消しないと、必ずゆがんだ形で暴発する。中世以来の魔女狩りなども、明らかに性的倒錯の発露だと思う。それにしてもこの規模と人数には驚かされる。最初は地味だなあと思って見ていたが、被害者の話を聞いているうちに、こちらまで心を動かされた。そこから話に引き込まれていく。うまい構成だ。カソリック教会、日本だと創○学会や解○に喧嘩を売るようなものだろうか。記者たちのプレッシャーは想像を絶するものがある。いやいや、教会の方がまだ良心的かも。決して他人事ではない。彼らのようなジャーナリストは日本に存在するのか。やっぱり文春?ネットの普及によって、既存メディアには逆風が吹いている。しかしネット自体が新聞やテレビにかなり依存している。誠実さに心打たれる良作。 [映画館(字幕)] 10点(2017-01-12 01:39:08) |
3. 裏切りのサーカス
《ネタバレ》 過去に原作を二回ほど読んでいたにもかかわらず、内容をあまり覚えていなかった。しかし映画を見ながら思い出した。コントロール、ナイフ使いのリッキー・ター。ギラムが若い。年配の男だと思っていた。妻も若くてギャルっぽい。もっと地味でキャリアっぽいタイプを想像していた。カーラは顔が見えないにもかかわらず、ほぼイメージ通りなのが凄い。孤独な学生と元スパイの交流。さりげないヒューマニズムもル・カレの魅力だと思うが、きっちり描かれていて好感が持てる。運転するシーンがいい。そして何と言ってもスマイリーをゲイリーが演じるとは。太っていないスマイリーなどあり得るのか。しかしこれが見事にスマイリーなのだ。お互いに壁の向こう側にいて、顔も見えない相手に対して、策を弄して人生を破滅させようとする。アクションはほとんどない。書類を漁り、証言を集め、過去を一つずつゆっくりと辿っていく。何もかもが地味な作品だが、冷戦時代の諜報戦のリアリティと恐ろしさを、これほど堪能できる作品は他にないだろう。最初から最後までゾクゾクしっ放しでした。続編が超絶楽しみ。 [映画館(字幕)] 10点(2017-01-12 01:28:22) |
4. 戦場でワルツを
《ネタバレ》 夜のシーンがいい。色のない世界をこれほどリアルに表現した絵やアニメは初めて見たような気がする。日本のアニメとは、やっぱり動きが違う。技術的なことには無知なのですが、妙なところにリアリティを追及して、逆にアニメ的に見えたりして、アニメ的に大胆なデフォルメをしてしまう日本人とは表現に対する感覚が違うのかなあ、とか思ったりしたのだがどうなんだろう。イスラエル版「地獄の黙示録」といったところだが、まさにイスラエル自体の状況が万年ベトナム的。もう何もかもが狂ってます。絵も、戦争も、人間も、音楽も、ファランヘ党も、イスラエルも、監督も。兵士がライフルでエアギター始めて、そのまま戦闘のダイジェストに突入。機関銃乱射しながらワルツを踊る。「戦車の中だと安心だった」。やっぱり戦場というのは感覚が麻痺してしまうのが怖いんですね。敵性国家に包囲されたシオニズム自体が、まさしくそういう状態。イスラエル映画界からこのような作品が生まれたというのは大変意義深いことだと思います。失われた記憶で引っ張っておいて、オチが「僕はそこにいた」だけでは物足りないような気もしますが、基本ドキュメンタリーだから仕方ないのでしょう。最後の実写は記憶を取り戻したという解釈でいいのかな?イスラエルが、あるいは世界が意識的記憶喪失になっているというメタファーのようにも思える。西岸では今も「入植」が続いているわけだが、その事実を知っている人はどのくらいいるのだろうか。 [映画館(字幕)] 10点(2010-01-06 01:52:56) |
5. バーダー・マインホフ 理想の果てに
《ネタバレ》 ヌーディストビーチで、小さな女の子たちが駆け回っているシーンから始まる。これ海外で公開できたのか。その後もおっぱいの連続。しかも女優さんたちが皆揃いも揃って美しい。それはともかく、全編通じて異様な熱気、ハイテンションで圧倒されっ放しだ。現在では、彼らが語る革命理論も、空虚でうすら寒く響くが、当時は皆本気で信じていたのであろう。反体制派のアウトローに民衆が魅かれるのは、いつの時代も一緒である。まさに現代版「ボニー&クライド」。メンバーが逮捕されるシーンはもろに「明日に向かって撃て」だ。しかしヨルダンでは軍事訓練を投げ出し、ムスリムの若者たちの前でヌードになる無神経さ。共産主義や革命といったものは、彼らにとっては、暴れるのにいい理由を与えただけなのか。時代が違えば、嬉々としてユダヤ人をいたぶったりしていたのか。あるいは純粋さゆえの暴走なのか。連合赤軍などは、集団心理が何となくエスカレートしたような、何となく日本的なところがあるが、本作の場合は、何でもとことんやる、ゲルマン気質が作用しているような気もする。オウムの事件も記憶に新しい。コミュニズム、宗教ときて、次は何か。ネット右翼はあえなく玉砕したし。テロをやれとは言わないが、今の若者たちも、もう少しはちゃけてもいいのではないかと思う。とかいろいろと考えさせられます。ちょっと実写を使いすぎのような気もするが、とにかく凄い映画です。 [映画館(字幕)] 10点(2009-09-03 22:06:50) |
6. 炎のランナー
個人の信仰と国家の威信との狭間で苦悩するアスリートたちの、宗教や人種を超えた友情と青春を高らかに謳いあげた感動作で、壮絶なまでに格調高い映像美と、貴族趣味的な友情物語、スポコンなのに汗がすっと乾いていくようなクールさと、いかにも英国らしい作品である。実話であることに加えて、俯瞰したカメラワークの多用と、スポコンの割に淡々とした演出で、いい話をあまり盛り上げようとせずに、さりげなく自慢するところが心憎い。現在のパレスチナ問題の原因を作ったのが、実は当時の英国なのだが、本作の美しさの前にはそんなことも忘れてしまう。どんよりと曇った空の下で海岸を走る選手たちの姿に、ヴァンゲリスのサイバーパンクなアナログシンセの音が、意外にもよくはまっているのが驚きだ。ただ走るという行為に、単なる競技以上の人智を超えた何か、神秘的なものを感じさせるのも、映像の美しさに加えて、ヴァンゲリスの手腕が大きいであろう。勝敗ではなく、アスリートが抱く競技に対する情熱や哲学的な深遠さを、ここまで美しく表現した作品は他に思いつかない。アイビールックもかっこいい。911以降の今では、公開当時以上に意義深い作品かもしれない。 [DVD(字幕)] 10点(2006-08-09 21:37:07) |
7. マトリックス
今更ながらDVDで観賞。本作以降、似たような映像をよく見かけるようになったが、それでもオリジナルはやはり違う。かつて見たことがないような斬新な映像が、洪水のように画面から迸り出る様は圧巻である。監督はジャパニメーションからの影響を公言しているが、ただ単に影響されるのと、実写でやるのとは訳が違う。さすがハリウッドである。映画館で観たらさぞかし楽しいだろうと思う。カンフー、禅などの東洋趣味に、コンピューターによる人間支配と、いかにもヒッピーくずれのコンピューターオタク趣味でもあり、サイバーパンクの典型でもある。そういえばここまでストレートなのは、今まであるようであまりなかったかもしれない。というよりも一度廃れたものが、撮影技術の進歩とネットの普及によって復活したような形であろうか。終末思想、「眠れる森の美女」に「不思議の国のアリス」などの古典、ワイヤーアクションと様々な引用をぶち込みつつ、SF特有の難解さをなるべく排して、徹底的に娯楽作に仕上げている点には好感が持てる。と同時に、コンピューターと仮想世界からの開放を隠喩とすると、強力かつ深遠なメッセージ性が読み取れる。「人間は苦痛がないと生きられない」は名セリフだと思う。「ニューロマンサー」「功殻機動隊」に続くサイバーパンクの系譜に新たな歴史を刻み、映画の表現技法に革新をもたらし、社会現象まで巻き起こしたという点で名作であることは間違いない。 [DVD(字幕)] 10点(2006-07-06 03:43:52) |
8. ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
《ネタバレ》 ホアキンが濃いです。アップの連続は日本人には少々キツいかもしれない。しかし主役二人の演技には圧倒される。何せホアキンは、幼くして最愛の兄を亡くし、自らドラッグに溺れるという役である。彼以上の適役はいないだろう。兄のことを話すシーンは迫真の演技である。演奏シーンは吹き替えなし。リーズのアカデミーも納得である。ホアキンも賞を取るかと思ったが残念だ。私はオールドロックが結構好きなので、ロイ・オービソン、エルビス、ジェリー・リー・ルイスの登場をかなり楽しみにしていたのだが、それほど出番がなく、この点は少々微妙である。それでもステージの袖で「良かったぜ」とか言い合っているのを見ると思わずニヤける。映画館だとさすがに音質は最高で、ベースのボンボンいう音が重たい。キャッシュの曲自体も、声も歌詞もビートもかなりヘビーである。ゴスペルとカントリーを独自のダークネスで消化したキャッシュのロックンロールは、冒頭の綿花畑のように、アメリカ人にとっては原風景の一つなのであろう。「グレートボールズ・オブ・ファイア」ジェリー・リー・ルイスのハイテンションもいいが(彼もよくキャッシュの曲をカバーしている)、本作でのキャッシュのずしりと胸に響くような重みも悪くない。ラブストーリーとしてはかなり辛口である。本当は魅かれながらも、ホアキンの求愛を拒み続けるリーズと、愛のためにドラッグに溺れるホアキンの姿が痛々しい。作品全体に南部の保守的な宗教観や価値観が通奏低音のように響いているが、結局二人が結ばれるためには、時代から見ても、ジューンにとってもある程度の時間の経過が必要だったのかもしれない。 [映画館(字幕)] 10点(2006-03-09 01:06:15)(良:3票) |
9. ジャーヘッド
《ネタバレ》 「フルメタル・ジャケット」へのオマージュから始まり、「トレイン・スポッティング」のような鬱屈した青春群像劇を経て、「プラトーン」的な戦場リアリズムで終わる。しかし「プラトーン」とは違い、イラク軍との戦闘シーンがほぼ皆無なのが面白い。訓練で殺人マシーンへと変貌する主人公。しかし戦場に来ても戦闘はなく、毎日訓練に明け暮れ、フラストレーションを発散するためにバカ騒ぎして、国の女には振られ、下ネタにオナニーと、体育会系のバカぶりと現代の若者たちのダメぶりが最高に笑える。戦争とは関係ないところで凶行に走るのがまた可笑しい。そしてやっと戦闘が始まり、狙撃兵の主人公に命令が下ったと思いきや、思いがけない結末が・・・。ストーリーは盛り上がるところであえて外しており、乾いたユーモアがさらに虚脱感を煽る。油田が燃え盛り、黒い雨が降るシーンは圧巻である。「僕たちはまだ砂漠にいる」のセリフが印象的だ。戦争自体が虚しいのか、時代が悪いのか、よくわからなくなってくる。当時のヒット曲満載で、特にパブリック・エナミーの「Fight the power」がいい。グダグダな戦争とグダグダな青春を描いた、ダルなリアリズム戦争映画。 [映画館(字幕)] 10点(2006-02-18 16:50:23) |
10. ミュンヘン
《ネタバレ》 10年ほど前、本作の参考図書(何故原作ではないのだろう?)「標的は11人」を読んで唖然としたのだが、今回スピルバーグが映画化すると聞いてさらに驚いた。細かい部分でかなり脚色されているが、初めて本を読んだ時の衝撃はそのままである。2時間半という長尺を感じさせないのは流石だ。作品は冒頭からして刺激的である。五輪村に侵入しようとするゲリラの前に、アメリカ選手と思しき団体が登場して、フェンスを乗り越えるのを助けてしまう。その後虐殺、暗殺チームの登場、ミッションまたミッションと、実にテンポよくストーリーが展開していく。引きずるような重さはあまりない。暗殺シーンはどれもグロテスクだが、どことなくコミカルだ。レバノン作戦のシーンは「地獄の黙示録」を連想させる。爆弾とおもちゃはいかにも監督が好きそうだ。「グーニーズ」ばりのトリックと、「ライアン」ばりのスーパーリアリズムを同時に殺戮シーンにぶち込むという荒業は、この監督以外不可能であろう。ミッションは進んでもテロは止まらず、ターゲットは皆紳士な普通の人間。味方と敵がわからず、狙う側がいつしか狙われる側へ。仲間が死んでいく。次第に暗殺チームを蝕む苦悩と疑心暗鬼を演じきった俳優陣もお見事である。不気味な音楽も素晴らしい。最後のシーンの貿易センタービルが印象的だ。舞台が70年代だけあって、灰色の画面はその頃のアクションの雰囲気である。しかし感動大作やアクションにしては悪趣味すぎる。とことんシリアスな内容のはずだが、視点は限りなくシニカルで、不気味で、無力感に溢れている。同時に、監督のダークサイドと偏ったリアリズムを凝縮してぶち撒けたようなぶっ飛び方が最高に痛快でもある。この暴走の果てに、監督が言いたいこととは一体何なのか。恐らく平和がどうたらというより、「あんたら、一体何やってんのさ?」という感じではあるまいか。本作は「シンドラー」「ライアン」の流れに位置づけられているが、どちらかというと「グーニーズ」「インディージョーンズ」の系譜だと私は思う。 [映画館(字幕)] 10点(2006-02-14 16:58:08) |
11. ホテル・ルワンダ
《ネタバレ》 平日の昼間だというのに、映画館は立ち見の大盛況であった。恥ずかしながら、ルワンダ大虐殺についてはよく知らなかった。犠牲者が100万人って一体どういうことよ?しかし本作では虐殺シーンはほとんどない。ナタによる集団殺戮シーンを入れたら、それだけでスプラッター映画になってしまい、本筋から外れてしまうだろう。そもそも100万人という数字からして、もう悲劇を通り越して戯画的でさえある。どうあがいても画面でその事実を全て表現することは不可能だ。その点から距離を置いたのは正解であったろう。冒頭20分で庭に転がる遺体を見せられただけで、虐殺の恐怖や、崩壊に瀕した国家の悲惨さを十二分に表現していた。その後次から次へと襲い掛かる危機また危機を、ポールの機転、人脈、勇気そして多少の運で乗り切るストーリーは、最高にスリリングだ。虐殺の恐怖、歴史の悲劇、世界の人々の無関心、次の瞬間にもナタで殺されるかもしれないという極限状況下での人間の強さと弱さ、交錯する善と悪、抑制された演出で描かれた事実の重みには圧倒される。巨大に膨れ上がった人間の狂気と憎悪に立ち向かう人々の、ささやかな良心と勇気には感服する。そして子供たちの明るい歌声は切なくもあり、希望の光のようにも思える。国連平和維持軍や赤十字の人々もカッコよい。この辺はさすがヨーロッパ映画という感じがする。ドン・チードル以下、俳優陣の演技も素晴らしい。一応ハッピーエンドではあるが、虐殺の事実と極限のサヴァイバル体験は、観た者全ての記憶と心に深く刻み込まれるに違いない。最後に、本作の公開に尽力した全ての方々に敬意を表します。次はぜひ全国公開を。 [映画館(字幕)] 10点(2006-02-13 11:17:12) |
12. 空軍大戦略
青い空をバックに、英独の戦闘機が凄惨な空中戦を繰り広げる様は奇しくもとても美しい。実物の飛行機の美しさはそれだけで絵になる。とことん本物にこだわった空中戦の映像美、そして空の戦場とのどかな地上の風景との対比に、何となく「シン・レッド・ライン」を思い出した。いかにも英国映画らしい、貴族趣味的な映像美と控え目なヒロイズムがとても心地よい。本作はバトル・オブ・ブリテンで、圧倒的な戦力差に立ち向かった英空軍のドラマである。苦悩するダウニングと、素人同然のパイロットたちの死闘、生死のドラマには胸が熱くなる。しかしハリウッドの戦争映画とは違い、独空軍の方も詳細に描かれており、一人うかれたゲーリングと、最初は血気盛んだった独軍パイロットたちが、敗北を悟りつつ戦場に向かう姿はどことなく痛ましい。延々と続く空中戦とリアルな人間ドラマには、単なる娯楽作を超えた戦争の悲哀がこれでもかというほど込められている。と同時に、戦場にまだ騎士道精神といったものが存在しており、どことなく牧歌的なのが楽しい。戦争も映画も古き良き時代が偲ばれる。戦争オタクもそうでない人も楽しめる傑作である。 [ビデオ(字幕)] 10点(2006-01-29 18:48:39) |
13. 銀河ヒッチハイク・ガイド(2005)
鬱病のロボット、無限不可能性ドライブなどなど、全編に散りばめられたユーモアは実に秀逸で、最後までにやにやしていた。しかしあまりにもベタなギャグとキャストのオーバーアクトには「ここは笑うべきシーンなんだろうな」と思いつつも苦笑していた。こういうのは国民性の違いなのか?それとも意識してやっているのかわからない。冒頭で地球が吹き飛ぶシーンが一番笑えた。マジなのかギャグなのかよくわからない意外と深遠な哲学的テーマ、着ぐるみやセットからほとばしるチープなうさんくささ、そしていかにもイギリスらしいハイセンスさとどんくささが共存するヴィジュアルセンス、それらのブレンドとギャップが、ぐだぐだかつめまぐるしいストーリーに対して鮮やかなコントラストとなり、SF特有の固有名詞と情報量の多さに多少ついていけなくなるが、ともかく細かいことは気にしなくとも最高な感じである。パンフが60ページもあるが気が付くとパラパラめくりながら、1人にやけている日々が続き、少々ハマリ気味である。マービンを見て「スターウォーズ」のフィギアを集める人々の気持ちが初めてわかった。冒頭のテーマ曲はイーグルスの75年のアルバム「One of these nights」に収録の「Journey of the sorcerer」である。BBCテレビのドラマでもこの曲がオープニングテーマだったらしい。パンフでもスルーされていたのでこの場を借りて明記する。 [映画館(字幕)] 10点(2005-10-22 00:56:36)(良:2票) |
14. ヒトラー 最期の12日間
《ネタバレ》 最初お客さんは、年配の方々か軍事オタクの男性ばかりと思っていたが、意外にも女性の方が多かった。あいにくと立ち見ではあったが、最後にはそんなことも忘れるほど熱中していた。物語は主に官邸の地下壕とベルリンの市街戦を交互に描きながら進む。ヒトラーはじわじわと正気を失い、ゲーリングやヒムラーはいつの間にか姿を消し、ヒトラーの隣の部屋で将官たちは酔いつぶれ、ある将軍は手榴弾で一家心中し、市内ではヒトラーユーゲントの少年たちが徹底抗戦を叫び、SSが処刑と称して市民を虐殺し、最前線は死体の山で、手術ができないためのこぎりで手足をぎこぎこし・・・ともう滅茶苦茶である。ヒトラーの妄言と彼をどうにもできない将軍たちの姿はほとんど喜劇に近い。ヒトラーの姿はあわれな老人という印象である。しかしその一方でベルリンの市街戦は凄惨を極め、誰も止めることができない。ヒトラーやゲッペルスは、市民の犠牲に対して「しょうがない」「死ぬのは若者の義務だ」と切り捨てる。考えさせられることが山ほどあると同時に、終末のカタストロフに快感を感じないでもない(私だけか?)。しかもナチの制服がかっこよい(不謹慎か?)。結局ヒトラーは自殺する。ヒトラーが死んだ途端、将兵たちがみな煙草を吸い出すシーンには笑った。そしてゲッペルスは一家心中。これがまた悲惨の一言だ。主役の女性秘書はユダヤ人虐殺について「ニュルンベルクで初めて聞いた」と証言している。「人間ヒトラー」とともにこの点も本作に対する非難の一因であろう。作家のデヴィッド・アービングを始めとする極右の人々の一部は、ヒトラーはユダヤ人虐殺を知らなかったと主張している。真偽はともかくとして、感情論を越えた、冷静かつ客観的な分析はやはり必要であろう。非難があることもふまえて、現代人は観た方がいい作品だと思う。 [映画館(字幕)] 10点(2005-08-12 00:54:28) |
15. プレタポルテ
全編爆笑の連続であった。しかし公開当時からの不評は現在でも相変わらずのようだ。確かにストーリーはあってないようなものでよくわからない。豪華俳優陣も演技というよりキャメオ気取りでふざけているようにしか見えない。しかしパリコレを舞台にレポーター、カメラマン、デザイナー、その他もろもろもろもろもろもろの関係者が入り乱れて殺人事件まで絡んだ、アルトマンお得意の群像劇である。ストーリーよりも小ネタ、演技よりもセレブ観賞である。そもそもファッション業界はストーリーの舞台背景ではなくあくまで主役であり、その点で最も重要なのは気分と雰囲気である。監督のシニカルな視線とユーモアのセンスは最高に冴えている。新旧セレブ総動員で魅せる、目くるめく華やかなショーとそれ以上に熱い舞台裏は、臨場感たっぷりで超ハイテンション。まるでシャンパンの洪水を一気に飲み干すかのごとく、ゴージャスで愉快な気分に浸れることは間違いない。最優秀演技賞はやはり「キティ・ポター」ベイシンガーや、最近滅多に見られない楽しそうな笑顔を見せてくれるジュリア・ロバーツを押さえて、ところかまわず糞しまくるプードルちゃんに決定。 10点(2005-02-18 22:48:06) |
16. スーパーサイズ・ミー
意外とシリアスな内容だった、というのが素直な感想である。おバカなのは最初だけで、インタヴューと取材、多数のデータ、そしてもちろん陽気なスパーロック氏の体を張った実験によって、ファストフードの害と現代アメリカの食文化の問題点に非常にわかりやすく迫っている。正月の映画館は満員で、比較的カップルが多く、スパーロック氏のガールフレンドが彼との「セックスライフの変化」について語るシーン(「前の方が凄かったわ」)で、私は少しウケていたのだが、客席は全体的に妙にシーンとしているような気がしないでもなかった。恋人の前ではテレていたのか、あるいはもしかしてシャレになってなかったりして。あらゆる面で我が国はアメリカを追随していることではあるし、数年後にはアメリカンデブならぬ、ジャパニーズデブが世界中を震撼させることになるかもしれない。牛丼、ラーメン、コンビニ系ジャンクフードと我が国の食文化も崩壊の一途を辿っている。有名なラーメン評論家などはもうすぐ死ぬかもしれない。ビジネス優先の社会構造はアメリカ以上。こういう作品は予算の点で日本の映画会社にとっても有利かもしれない。でももう遅いか。 10点(2005-01-06 23:54:51)(良:1票) |
17. 華氏911
《ネタバレ》 正直「ボーリング・フォー・コロンバイン」ほどの衝撃と感動はなかった。恐らく事前情報が多すぎたせいだろう。ブッシュ家とラディン一族の関係やハリバートンなどは、TVなどですでに間接的に知っていたので驚かなかった。このテのドキュメンタリー作品は映像とかストーリーではなく、あくまで情報が肝なので、その点では個人的に致命的であった。とはいえ本作は「ボーリング」にみられた感傷やユーモアは影を潜め、視点と演出は限りなくシビアである。そういう意味で本作の方が評価は上だろう。そもそもハリウッド映画はほとんどプロパガンダに利用されているという事実と、アメリカのメディアではすでに報道の自由が著しく制限されているという状況を考えれば、決して偏向とはいえない。印象的な点をいくつか。まず大統領選のフロリダ。当時日本でニュースを見ている限りでは、結局何がなんだか不明だった。本作ではブッシュ側の不正によるものだとほぼ断定している。アフガンでの軍事作戦については、当時山岳地帯に大規模な正規軍を投入できないため特殊部隊を投入したという報道がされていて、信じてもいたが、本作の解釈ではブッシュがやる気がなかったということですね。なるほど。政治と企業の癒着という問題は決して他人事ではない。アメリカでは軍需産業だが日本では道路族と年金か。違いは直接的に人命が奪われるか、間接的に命をすり減らすかだけだ。一番印象的だったのはやはりフリントの惨状である。失業率50%!ありえない。貧困層の若者たちは生きるために入隊し、イラクで死んでいく。同じイラクでの兵士と企業派遣社員の給料格差。両方とも血税である。それにしても陰謀とか癒着は普遍的だが、ブッシュの何が問題かというと、そのあからさまなやり方とデリカシーのなさだと思う。彼に対する反感の理由は、彼らが大衆を舐めているとしか思えないことだろう。ここまでわかりやすいとどう考えても映画より有利だ。最早現実の方がフィクションより刺激的。そういう意味でも本作は映画史においてターニング・ポイントとなり得る。本作は情報量が多く、セリフ?が多いので他の映画のようには観れない。これから観る方は集中してのぞむべきでしょう。集中して観る甲斐はあります。上記のようにテーマのデカさの割に「ボーリング」よりは地味だ。しかし本作の方がデキは上です。必ずや心に残るものがあるでしょう。 10点(2004-10-05 01:14:33) |
18. 明日に向って撃て!
一攫千金を夢見る犯罪者や銀行強盗を「倒錯したアメリカンドリームの一形態」と表現したのは、一体誰であったか?しかしたとえ倒錯したものであったとしても、それがアメリカンドリームであることに変わりはない。当時でさえ、というのはつまり、劇中の西部開拓時代と映画が製作された七十年代にしてすでに、ブッチとサンダンスの二人はボリビアに逃亡しなければならなかった。そして壮絶な最期?どちらかというとバート・バカラックは苦手なのだが、彼の音楽が作品の雰囲気を、殺伐とした西部劇から、おしゃれな犯罪映画に塗り替たことは認めざるを得ない。21世紀となり、ヴェトナム戦争も反戦運動も完全に過去のものとなった現在のこの時代に、この作品を観る者が一体どれだけこの主役の二人に、手離しで共感できるのか定かではない。しかし彼ら二人の生き方は、現在でも十分魅力的には違いない。時代に取り残されても迎合することを拒み、自ら滅びいく自由な魂の何と美しいことか。そして時代に対する鋭敏なセンスは、普遍性をも獲得する。むしろ今の時代だからこそ、ぜひ若い人たちに観てほしい作品である。 10点(2004-08-19 23:02:13) |
19. 殺人の追憶
アーミーブーツに袋を被せる。土手の上から同僚にとび蹴り。風呂屋で捜査。自白強要。スナックで喧嘩。笑うに笑えないエピソードに笑っているうちに話は進む。そして再び事件が起き、だんだんと笑えない状況へ。草原を渡る風。薄暗い空。劇中の刑事たちと一緒に、我々のテンションも徐々に、真綿で首を絞められるようにヒートアップしていく。容疑者。雨が降りラジオで曲が流れる。しかし頼みの機動隊は学生デモ鎮圧のため来ない。次の日再び遺体が発見される。ボルテージは最高潮。そしてクライマックスで限界寸前に。かろうじて正気を保つ状態で映画は終わる。観賞後の何ともいえない複雑な感慨。刑事たちの怒り、悲しみ、無念、事件の不気味さ、恐ろしさ、混乱した時代背景に思いを馳せる。と同時にいい映画を観たなという一抹の爽快感。恐らく技術的に難しいことは何ひとつしていない。しかし完璧に決まったカメラワークと俳優たちの力強い演技が、どちらかといえば淡々としたストーリーに緊迫感を加える。あれだけのアップの連続に耐えられる俳優はそうはいまい。異様な迫力で我々の胸に迫る。残るものは実に重たい。名作を通り越した怪作。 10点(2004-08-19 22:51:03)(良:3票) |
20. ブレインデッド
ゾンビムービーの傑作。というかジャンルを超えた名作。友人と一緒に最初はいやいや観たのだが、あまりの壮絶さと面白さに驚愕した。その後ビデオで3回観た。ピーター・ジャクソンという名前どこかで聞いたことあるなと思っていたら、この作品の監督だったのか。本作はまだ、当時のゾンビムービーの例に漏れず低予算?で、CGもあまり使っていない。冒頭のラットモンキーはぎごちないし、ベイビーは「ポンキッキ」顔負けのもろ着ぐるみ。この後の「乙女の祈り」では発達したCG技術を縦横に駆使、少女たちの暴走する妄想をめくるめく映像美で再現。そして「ロード・オブ・ザ・リング」での成功へと続く。やっと映像の技術が、類まれな監督の想像力、そして構想力に追いついたというところだろうか。しかし、もし本作を「ロード・オブ・ザ・リング」ばりのCG使って撮ったとしたら、やはり魅力は半減するだろう。嵐のごとく降り注ぐ血糊の前には、生半可なCGなど単なる子供だましに過ぎない。タランティーノをも凌ぐクロスオーバー。ベイビーのシーンのはスピルバーグをも越えた。当時だからこそ撮れた、まさに奇跡のような名作。 10点(2004-08-08 04:02:24) |