1. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
《ネタバレ》 「絶望とは未来を知る者が陥るもの。未来は誰にも分からない。したがって絶望するのはとんでもない間違い。人間が未来を知りえない以上、希望は常にある」(J.R.R.トールキン)。 美しいエンドロールを見つめながら、中つ国を縦断した足掛け3年にも及ぶ壮大な旅路を思い浮かべる。ホビット庄の青空と緑、霧ふり山脈の眺め、裂け谷の輝く滝、ロスロリアンの灯火、ローハンの草原、聳え立つミナス・ティリス・・・。そしてこの胸に強く残ったもの、胸を張って言う、それは希望と友情である。 真夜中の大海原の如く、どこまでも黒く広がるサウロンの大群。余りにも過酷な滅びの山への道。そして感じるのは深い絶望。だがしかし、彼らは決して逃げようとしなかった。死を恐れずに果てしない闇の中へ挑んでいき、遂に勝利を掴んだのだ。中つ国の優麗な山脈を駆け抜けていく炎の狼煙が、地平線上で太陽に照らされるローハンの騎士たちが、希望を持つことの可能性を見せ付けてくれる。そしてフロドを背負い崖を登っていくサムの姿が、軍勢の中を走り抜けるメリーとピピンが、友情の尊さに気付かせてくれるのだ。 将来の夢を描く事すら困難な今の時代、希望、友情、もはやこれらの言葉は使い古され、安っぽくさえ聞こえてしまう。だが、だからこそ我々は史上最大の幻想世界である『ロード・オブ・ザ・リング』の中で、その素晴らしさに対し素直に涙できるのだ。信頼できる仲間と、小さな勇気。そして常に希望を持ち続ければ、どんな困難も乗り越える事が出来る! 恐らく人類が存在する限り語り継がれるであろう最高傑作。これまで自分は多くの映画を観てきたし、これから先もきっと観続けていく。だがしかし、この映画の様に人生の一部とまで言い切れる作品にはもう二度と出会え無い気さえする。トールキンのとてつもない夢を映像化してくれたピーター・ジャクソン監督、全スタッフ、全キャストの方々に只々熱烈な感謝。 それにしても人間というのは高貴なエルフとは違い何ともわがままな生き物で、こんなに楽しみにしていた完結編も今となっては終わってしまった事の寂しさで胸が張り裂けそうだ。フロド達と一緒に不死の国へ旅立ってしまいたいぐらいだが、彼らの旅を胸に刻めばまた新しい明日へ進む事が出来る。そう、僕の旅はまだ終わっていないのだから。 【∞点】 10点(2004-02-07 21:58:53)(良:2票) |
2. blue
大好きな映画は何本もあるし、どれが一番かなんかを決める事は出来ない。 ただ、人に余り知られたくない映画というのがある。メジャーな作品じゃなく、隠れ家みたいに自分だけの。 この『blue』がそう。 映画館から帰った夜はこの映画の音楽が、景色が、そしてブルーが頭から離れず、しばらく寝付けなかったほど。 まず何より主演の2人が素晴らしい。 遠藤と親しげに話す友達を見た時の、桐島の表情。ムスッとした、だけど声には出せないあの感情。彼女が言う「近くにいても遠く感じる」、この先抱き続ける微妙で切ない気持ち。 小西真奈美は「阿弥陀堂だより」などから清楚で淑やかなイメージしか抱いていなかったからか、タバコの煙を気だるそうに吐き出す姿にはドキリとさせられた。大人びていて、ちょっとミステリアスで、だけどどこか淋しげ。日常の喧騒とは一線を画した様な、ありふれない独特な雰囲気を持つ彼女が見事。 フルショットに固定されたカメラが、丁寧に優しく物語を紡いでいく。 教室、グランド、鉄棒、屋上、青空、海。彼女たちが見ていた風景。 日本映画らしい「間」と「静けさ」が手伝って、緩やかな時間の流れの中なんともセンチな気持ちになってしまった。学生時代という、誰にでも訪れて、だけど一度通り過ぎると二度と戻ることの出来ない特別な時間だからだろうか。 本当に大切で幸せだった時間は、いつも過ぎ去ってしまってからその価値に気付く。 彼女達の記憶の中で、このかけがえのない時間はいつまでも青く輝き続けるのだと。 10点(2003-10-15 16:22:32)(良:1票) |
3. 素晴らしき哉、人生!(1946)
感動できる、泣ける映画は数あれど、人生そのものをこうまで魅力溢れる宝物にしてくれる映画は他に無い。街中ですれ違う、名も知らない他人にも、当然ながらそれぞれの人生を歩んでいる。そしてその人一人がいないだけで、この世界は大きく変わってしまう。あぁ、映画というものが秘めた力のなんと大きいことか!これから毎年、僕はこの映画をクリスマスに観続けていく。そしてその度に、自分はこう叫びたいのだ。「素晴らしき哉、人生!」 10点(2003-10-13 08:37:04)(良:3票) |
4. 猟奇的な彼女
誰にでもあるはずの、映画にのめり込むキッカケとなった1本。自分にとってのそれはこの『猟奇的な彼女』。映画館には長蛇の列が出来ており、座った席は一番前。スクリーンを見上げる体勢で戸惑ったが、上映が始まった瞬間からは全く気にならず。満員の観客全員で笑い、全員で感動する。どんなにホームシアターの設備が整っていようが、どんなに大きい画面があろうがこの「一体感」は劇場でしか味わえない。決して完璧な作品ではないが、その欠点さえも愛したくなるほどの素晴らしい時間をくれたこの映画、もう一生離さない。 10点(2003-10-12 23:48:38)(良:1票) |
5. コーヒー&シガレッツ
レイトショーで観た。こういう映画を人も疎らな夜の映画館で観る自分に少し酔う。場内で一番受けていたのはビル・マーレイ。自分が一番好きなのは、コーヒーのお代りを注ぎたがるウェイターと美女の話。彼女のなんと美しいこと。気怠そうに吐き出す煙に見惚れてしまう。自分は単純だから、コーヒーとタバコという不健康な昼食をすぐに真似る。 [映画館(字幕)] 9点(2005-05-18 20:44:14)(良:1票) |
6. 誰も知らない(2004)
《ネタバレ》 幼い頃、母親の帰りが遅い夜、このまま帰ってこないのではないかと不安に襲われることがあった。根拠もないし、ただの幼い杞憂である。けれどその不安はいつもつきまとい、それはひどく恐ろしかった。 物が溢れ、全てが揃っているような都会、しかしその都会のなんと生きにくいこと。部屋から出なければアパートの隣室に誰が住んでいるかも分からない世界。職も得られず、水も電気も断たれ、しかしそれでも懸命に生きていくきょうだいの強さに胸が熱くなる。だが、人が決して一人で生きられないのも事実。どんな形であれ手を差し伸ばしてくれる人がいるからこそ、初めて迎えることが出来る明日である。 人は果てしなく強く、そして儚いほど弱い。人間の強さと弱さが、淡々と綴られる映像を通して交互に浮き彫りになり、この胸を強く締め付ける。息苦しいほどに静かな映画館で、子供たちの動作ひとつひとつから目を離せない。流れる音楽がはじめて、これが「映画」なのだと気付かさせてくれる。 恐らくこの映画を観たほとんどの人がそうするように、自分もモチーフとなった置き去り事件について調べた。その”事実”は映画のそれと、特に後半部分は大きく相違していた。現実と映画とではやはり違いがあるのかもしれない。だが冒頭に記されていた「事実を基にしたフィクション」というから、いや、これが映画であるということだけで、部屋に差し込む温かい光が、額に輝く汗が、そして子供たちの眩しい笑顔こそが自分にとっての全てである。 劇場を出たところに、子供たちがそれぞれ笑っている大きなポスターが貼ってあった。それを見て、また涙がこぼれそうになる。思い出すのは、「警察に連絡したら」と聞かれた明が言った、「それだと4人で暮らせなくなる」という言葉。自分たちを置き去りにした母親を待ち続ける姿。ただ家族というだけで。そう、ただ家族というだけで。 感動でもない。同情でもない。怒りでも、哀れみでも、喜びでもない。人間の感情はそれほど単純ではない。だから、自分はこの涙を忘れる気はない。 9点(2004-09-02 23:13:16)(良:3票) |
7. 都会のアリス
船の上、幼い娘を抱えて鼻歌を口ずさむ母親、その娘と見つめ合い微笑むアリス、風になびく髪の毛、カメラを構えるフィリップ。他には何もいらない。もうそれだけで、この心は幸せに満ちあふれるんだ。なんとも健気で、なんとも無垢で、なんとも切ない。これは恋を恋と気付く前の少女の恋だろう。白と黒の映像、口少なげな台詞、優しいメロディ。あったけぇ。その全てがゆっくり胸に染み込んでくる。壮大な風景への開放感と離れ行く列車への寂しさが混在するラストシーンは、恐らく映画史上最も美しい。レンタカー、安レストラン、空港のトイレ、電車がうるさいホテル、証明写真、日光浴の公園...。何気ない光景たちがアルバムのように記憶に残る。きっと大人になったアリスの胸の中で、何より大切なものとして輝くのでしょう。 9点(2004-05-25 22:53:42)(良:1票) |
8. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
日本映画の夜明け頃、朝焼けの空を駆け抜けた流れ星。それが山中貞雄監督だったんだ。その光が永遠となり、70年後、僕の瞳に届く。 キラキラと輝き続けて。 9点(2004-05-08 17:23:31)(良:2票) |
9. キル・ビル Vol.2
《ネタバレ》 ウマ・サーマンよ、この俺を殺してくれ。さぁひと思いにバッサリと。 血と汗と涙の壮絶な復讐劇の果てに、ふと抱いた些細な夢想。 Vol.1と明らかにテイストが違うとか、映画の文法がどうとか、タランティーノはそんなこと微塵も考えていない。第一、俺はそんなものに感動しているのではない。スクリーンを通してヒシヒシと伝わってくるその魂に。そう心意気だよ、ココロイキ。だからこそ教会でブライドが見せる笑顔の輝きに惹かれ、生き埋めと暗闇の閉鎖感に潰されそうになり、パイ・メイの修行に燃えて、ワゴンカーでの鍔迫り合いに息を呑みながら、この『キル・ビル』にシビ・レルんだ。 『キル・ビル』にはワクワクが満ちている。一秒先への期待感が溢れている。これぞ紛れも無い映画体験だ。映画の喜びに満ち満ちている。客に笑みを、映画に拍手を。 頭の中の妄想をぶちまけたタランティーノは、恐らく世界一アタマの良いバカだろう。言うなれば天才バカボン。バカほど純粋な人間はいない。この冷めた世の中で、将来の夢すら持ちにくい現代で、一人の映画オタクが中学生のハートのまま天下を取った。それだけで無性に顔がニヤけてくるじゃないか。 先日ニュースで見たが、どこかの学者がメスのマウスだけで子孫を造る事に成功したらしい。もしかしたらこの世界に、もう男は必要ないのかもしれない。そう思ってしまうほど『キル・ビル』の女たちには胸が震える。ブライドもオーレンも、GOGOにもエルにも。そして残念ながら男たちは死に逝くだけだ。刀で斬られ、毒を食わされ、目玉を抜かれてツボを押されて。 そう、だから、だからこそウマ・サーマンよ、ブライドよ、ブラック・マンバよ、ベアトリクスよ、ママよ、この俺を殺してくれ。ひと思いにバッサリと、もしよければ必殺の五点掌爆心拳で。俺は血まみれの後ろ姿を、いつまでもずっと見続けていく。薄れ行く記憶の中で。霞みゆく瞳の先に。 9点(2004-04-24 20:35:25)(良:2票) |
10. 花とアリス〈劇場版〉
目をつむり、胸に自らの思い出を丁寧に描き出す。それはひどくおぼろげで、淡く、一瞬経つとすぐに消えていってしまう・・・。岩井俊二監督の映像にはそれと似た優しさがあるような気がする。冬の終わりを告げる朝の、黄金色の陽光のように。だから観る者の心の中に素直に染み込んで、その温もりを感じとることができ、いつまでも包まれていたいほど心地がいいのだ、と。 風に散る桃色の桜、はためく2人の黒い髪。緩やかな波打ち際、まぶしい太陽、舞い上がるのは無数のトランプ。家に咲く色とりどりの花々、そして白い光の中、華麗に踊り続けるアリスの姿。それらはみんな、あぁ、涙が出るほど美しい。それが些細な、例えばどこにでもある喫茶店であっても、その風景は驚くほど光に満ちている。そうして気付かされる。そう、この世界はこんなにも美しいのだと。 好きな人が自分じゃない別の人を好きだと知ったときの、雨の中のあの表情。机の列が少し曲がった、2人だけのガラリとした教室。じわじわと心に広がりくる共感。「邦画は苦手」といって聞かない人々に伝えたい。共感、懐かしさ、これらをはっきりと感じる事が出来るのは日本映画だけだ。 幻想世界のように美しい映像は、まさに「不思議の国の花とアリス」。記憶喪失、三角関係、定番を逆手にとった一筋の物語に、奇妙で可笑しな人間たちが瑞々しい葉として連なる。そして鈴木杏と蒼井優の、まるで水面に反射する日差しのようにキラキラ眩しい魅力が、永遠に美しい花として咲き誇るのだ。 間違いなく、これは世界一美しい青春物語。 9点(2004-02-27 22:20:21)(笑:1票) (良:5票) |
11. トラフィック(2000)
《ネタバレ》 麻薬という根っこで支えられた、アメリカという世界一の大木。その根の広がりの複雑さ、地中にめり込んだ深さにはただ絶望を感じるしかない。しかし、それでもラストの照明からは温もりを感じる事が出来る。分かっている、それが何の解決にもなっていない幻の光だという事を。だがしかし、希望の無い未来に光が無いという事もひとつの真実だから。 9点(2004-02-12 15:25:09)(良:1票) |
12. NARC ナーク
《ネタバレ》 冷え切った映像、掃き溜めのような街並み、廃れ切った人間達。しかし「真実の銃弾」がこの物語を貫くとき、我々は愛の温もりを知る。 9点(2004-01-18 22:46:57) |
13. ライフ・イズ・ビューティフル
今まで映画やドラマで泣いた事がなかった自分が初めて涙した、思い出深い映画。いってしまえば映画とはすべてフィクション=嘘である。この素敵な嘘でボクを騙し続けて欲しい。 9点(2003-12-25 10:33:47)(良:1票) |
14. バンド・オブ・ブラザース<TVM>
10時間という壮大なスケールだからこそ、E中隊のメンバーの絆の深さを実感でき、自分もその一員であったような錯覚も覚える。これは普通の映画には出来ないこと。衛生兵や補充兵がクローズアップされたエピソードもあり、さらに戦闘シーンの激しさはテレビだとは思えないほど壮絶、声を上げて反戦を叫ぶわけでもなく、忘れてはならない事実を描いた、自分の中では戦争映画のベスト作品です。まだ観ていない方に:この作品は登場人物の名前や関係を把握しづらいのですが、その辺は混乱していても十分楽しめます。 9点(2003-11-26 12:10:23) |
15. マトリックス レボリューションズ
《ネタバレ》 この物語が人類側から語られていたために機械は敵に見えていたが、「アニマトリックス」で語られたように、人類と機械の争いは人類が発端と言ってもおかしくない。人類が善、機械が悪、という図式は成り立たず、また人類が悪、機械が善というのも間違っている。そもそもこの世界には良い奴と悪い奴がいるわけでなく、敵と、そうでない者がいるだけだ。それぞれが自らの「正義」を叫んで衝突を繰り返す現在の世界、「勝利」ではなく「共存」を唱えたこの映画の結末には深い感動を覚える。いつか必ず評価される日が来るはず。 9点(2003-11-06 19:42:23) |
16. キル・ビル Vol.1(日本版)
必要以上に飛び散る血飛沫、吹っ飛んでいく手、首、足。ヘタな日本語で啖呵を切り合うユマ・サーマンにルーシー・リュー。ヘタな英語でベラベラ喋る千葉真一。刀置きがある飛行機、なぜかそこだけ雪が降り積もる日本庭園。栗山千明扮するGOGO夕張の鋭い眼光に、最後に流れるド演歌。あぁ、きた、ツボだ。日本人にしか分からない笑いにちょっと優越感。経験したことの無い映画の面白さを見せ付けてくれたタランティーノ監督に大感謝。 9点(2003-10-25 19:26:03)(良:2票) |
17. パルプ・フィクション
画面全体から面白さが溢れ出ている映画。チンピラがベチャクチャとどうでもいいことを無駄に喋ってるだけでこんなに面白い映画は他に見当たらない。キャストも音楽も脚本も全部が全部とにかく最高。ハンバーガーもミルクシェークも全部がとにかく旨そう。 9点(2003-10-19 22:35:10) |
18. フェイス/オフ
火花ひとつひとつにまで込められた美学。 9点(2003-10-14 21:33:27) |
19. 男たちの挽歌
血が煮え滾るほど熱い、男達の男達による男達の為の世界。「恥ずかしい」と言って一歩ヒいてしまうか、それともこの友情に、この仁義に心を震わせ涙するか。自分は俄然涙する!! 9点(2003-10-14 21:11:40) |
20. 狼/男たちの挽歌・最終章
人間も映画も完璧なんてものは存在しないと思う。ただ、もしも完璧というものが存在するのならば、その言葉はこの映画にこそ相応しい。香港ノワールの頂点にしてジョン・ウーの最高傑作。どの1秒を切り取ったとしても、完璧なまでに満たされる美。音楽が流れ、スローモーションでユンファが飛び、弾丸の雨中ハトが飛ぶ。ただそれだけで、ああ、涙が出てくる。消え行く男の誇りへの鎮魂歌。 9点(2003-10-14 21:11:21)(良:1票) |