1. アデルの恋の物語
この映画を観ると、アジャーニが「可愛いだけじゃダメかしら」な女優でないことがよくわかる。彼女の演技はまさに鬼気迫るものがある。20年以上もキャラクターを変えずにフランス映画界のトップの位置をキープしている事も、当り前のように感じてしまうから不思議だ。それにしても、アデルという”振り切れた”女性を演じるとアジャーにはスゴイ。といっても、振り切れていないただの可愛い女性を演じさせてもスゴイからなんとも言えない。とにかくスゴイと感嘆させられてしまう。しかも、ピンソン中尉というそう上等ではなさげな男に絡めとられてしまっているところが悲劇というか喜劇だ。誰の言葉も聞かない、相手のことも理解していない、将来のことも考えない、頭の中は愛という名のもとに放出され続けるドパーミンで飽和している。そんな彼女の喜劇的な行動がいとおしくもあり、ピンソンの側にたてば憎らしくもある。実際に起きた事で本屋の男という妙なキャラクターを登場させてしまいよくわからない部分もあったが、総じて面白い映画だったと思う。 7点(2004-02-15 18:55:00) |
2. ガラスの墓標
《ネタバレ》 まず一番最初に書いておきたい事は、この映画が名作であるということです。音楽、美術、演技など、映画としての素晴らしさに溢れています。ストーリーも、冒頭のコメントにあるように純愛とアクションを完全に語り尽くすこのプロットは、本当に美しいものでした。それにしても、各アクターの存在感が凄まじいほどですね。特にセルジュは、音楽・監督業だけでなく、俳優としてもこれだけの力を持っている事に、奇才の名を欲しいままにしている理由が伺えます。ジェーン.b、ポール・ニコラスも、男と女ですが、違う色の愛で満たされていて、感動的ですらありました。ラストシーンは、二人が憎み合うのではなく、ひたすらにセルジュの死を悲しんでいたことに、その愛がひしひしと伝わってきました。カット割や音楽なども最高で、絶妙のタイミングを保っていたと思う。印象的だったのが養鶏場でのシーン。鶏の中をかき分けて打ち合い、隣りの棟の男を狙撃するシーンや、両手に鶏の屍をぶらさげて肩を組むシーンなど、そうスタイリッシュでも、泥臭くもないが、新しさに溢れていて、カメラワークの見事さが溢れていた。カーチェイスでも、徹底的に3人の表情を追っていて、アップでしつこく写しつづけている所など、心情描写に徹していて気持ちがよかった。最後に、この映画が70年に製作されていることに驚きを感じます。まったく色あせないこの感性には、各スタッフの力とともに、文化大国と言われるフランスの度量を感じます。 9点(2004-01-27 20:39:40) |
3. ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ
観終わってかなりたった最近になってやっと気付いたのですが、この作品俺の生まれる前のものだ・・・・。映画の評価に製作された時代を考慮すべきかどうか、僕にはわからないが、この事実にはかなりショックを受けた。考えてみればセルジュもとうに死んでいるわけで、相当に古いのは明らかなんだけど、今頃驚いてます。はー、この年代でこのセンスがあるのか。はたはた参りました。映画としては決して美しい描写はしておらず、荒々しさを剥き出しにして、視覚と聴覚で、人間の根本的な欲求に訴えかけていた映画だと思いました。直接的な描写ですが、力があると思います。キャストではパドヴァンがいい存在感を出してますね。表情(特に顎)が、とにかく、恋人を奪われた苛立ちを表現しています。暴力的で、弱くて、愛に餓えている男性。ホモであるだけに、観ていて痛々しさが倍増です。クラスキーとジョニーは、美男美女で、粗野と美しさが共存していて、一見して良さげなんですが、並べてみると違和感アリアリです。狙いなんでしょうけど、まったく異質なものをくっつけているような印象を受けました。ドパルデューには笑ってしまいましたが、あの役はどうなんでしょう? あと、とにかく音楽が耳に残りました。 7点(2003-12-08 12:07:20) |
4. テス
《ネタバレ》 キリスト教徒は自殺ができないということに、悲しみを感じた。自殺なんて肯定できることではないのだけど、消せない過去を持つに至る顛末や、その後も続いていく悲しい転落が、とても切ない映画だった。キンスキーの笑顔も素敵で、ソフトフォーカスの画と非常にマッチしている。その時のキンスキーの表情が見たかったので、テスの殺人や絞首刑をきちんと描写して欲しかったと思うのだが、79年ということでしょうがないかなとも思う。ちょっと長いが総じて満足。 6点(2003-11-08 23:03:54) |