1. 鴛鴦歌合戦
《ネタバレ》 1939年というとあと2年ほどで太平洋戦争に突入しようかという暗く混沌とした時代にもかかわらず、マキノ正博監督のこの「オペレッタ時代劇」と言われる映画はそんなことを微塵も感じさせない非常に能天気で明るい喜劇であることにまず驚いたし、それを今見てもこんな楽しい映画はほかにあるだろうかというほど楽しく、見終わって思わず「ああ楽しかった!」と声に出して言ってしまった。登場人物たちに悪人がひとりもおらず、なおかつ、どの人物に対しても愛らしさを感じることができ、だから見ていて(DVDパッケージの謳い文句どおり)とてもハッピーな気持ちになれるのがいい。タイトル・クレジット部分に流れる主題歌からもうひきこまれるし、いざ、映画が始まっても登場人物たちが歌う、唄う、うたう。中でも生活を顧みずに怪しげな骨董品の収集に没頭するおやじを演じる志村喬は後年の「生きる」での悲しげな歌声とは対照的に明るく楽しそうな歌声を披露しているのは印象的で、演技も戦後の東宝映画などで見せる重厚で渋いものではなく、コミカルな役を軽妙にイキイキと演じていて、その上歌も歌うのだから新鮮というほかはなく、はっきり言ってこんな志村喬は初めて見るような気がする。彼と娘・お春(市川春代)のかけあい、やりとりが面白いのもこの映画の魅力だろう。(本作の主演は千恵蔵だが、志村喬のほうが目立っているような気もする。)市川春代といえば「ウルトラセブン」の中の「北へ還れ!」というエピソードでフルハシ隊員の母親役で出演しているのを見ただけなのだが、本作ではなんとも可愛らしく、とくに「ちぇっ!」と舌打ちをする仕草がなんとも言えないのだ。そんなお春を父の借金のかたに妾にしようとする殿様(ディック・ミネ)も本来は憎まれ役のはずだが、コミカルなどこか憎めないキャラクターで好きだ。クライマックスはお春の父が持っていた小汚い壺が実はかなりの値打ちがあるという展開で、山中貞雄監督の「丹下左膳余話 百万両の壺」を思わせているが、ひょっとしたらこれは意図的なものかも知れない。その壺をお春が壊すことによって何もかも丸くおさまるラストも心地よく、また湿っぽくなりそうな展開があってもけっして湿っぽくならないところも良かった。撮影の宮川一夫によるエピローグのクレーンショットも素晴らしいの一言。「ほーれほれほれ、この茶碗♪」、「ぼーくはわーかい殿様あ♪家来ども喜べー♪」 登場する歌の歌詞もいつまでも耳に残る。日本ではミュージカル映画というのは少ないが、本作はそんな中でも間違いなく最高の映画と言ってもいいほどの素晴らしい映画で、まさに見終わった後に何回でも見たくなるような名作だと思う。迷わず10点だ。 [DVD(邦画)] 10点(2014-02-20 23:49:06)(良:5票) |
2. キング・コング(1933)
《ネタバレ》 今までずっと見たかった映画ではあったが、リメイク版2作と東宝で作られた日本版2作を既に見ていることと、80年前の特撮がいかにも古臭そうな印象だったため、なかなか手が出ずにいたが、そんなことを考えるのがバカバカしくなるほど素晴らしい映画だった。登場するキングコングや恐竜たちはストップモーションでリアルに表現されていて、恐怖感もちゃんと出てて、もうそれだけで感動的だし、着ぐるみやCGによる特撮と違ってストップモーションによる特撮は見慣れていないが、トリック撮影初期の段階でここまでのものができていたとは。これが円谷英二監督などのちの特撮映画の製作者たちに与えた影響が大きいことは有名な話だが、実際に見てみてなるほどと思わされた。リメイク版は2作ともヒロインのアンが徐々にキングコングに惹かれていく展開があり、本作でもそうだろうなと思っていたのだが、それがなく、アンはキングコングに対してひたすら悲鳴をあげるのみというのがビックリした。だが、それがかえってリアルだ。ドラマ性を極力廃したシンプルな構成なのも良かったが、それでもアンを抱えてエンパイアステートビルに登ったキングコングが無残に殺されてしまうという結末はやはり初代である本作から既にどこか哀愁を帯びていて印象に残り、なにかやるせなさを感じさせる。そしてなによりもやはり当時はゼロに近い状態から始まったに違いない怪獣のリアルな表現という命題に果敢に挑戦しそれを見事にやってのけたスタッフたちはまさに賞賛されるべき偉業を成し遂げていて、きっと裏で大変な工夫と努力と苦労があったことは想像にかたくない。また、ここから今につながる怪獣映画の歴史が始まったのかと思うと感慨深いものもある。怪獣映画が大好きな自分にとっては10点以外はつけることができない。本当にもっと早く見ればよかったと見終わって素直に思ってしまった。 [DVD(字幕)] 10点(2013-11-12 14:10:02)(良:2票) |
3. マダムと女房
国産初の本格的トーキー映画として知られる映画で、冒頭のシーンなど見ていると、映像とセリフがうまくシンクロしていないように感じられ、かなり試行錯誤の中で作られた映画だということが分かる。初トーキーゆえか、赤ちゃんの泣き声、猫やネズミの鳴き声、そして隣の家から聞こえてくるジャズバンドの演奏などとにかく音を過剰なまでに意識した映画になっているが、ストーリー自体はほのぼのとした雰囲気の小品で、終始ニコニコしながら見ることができた。主人公の作家(渡辺篤)が周りの騒音が原因で仕事にならないという展開はまさにトーキーならではだし、奥さん(田中絹代)とのやりとりも楽しい。主人公が奥さんを「絹代」と呼ぶに至っては思わず大笑いしてしまった。この時代の田中絹代は小津安二郎監督のサイレント映画で何本か見ているが、後年の出演作で見せる味のある名演技とは違い、まさにもうアイドルという感じしかなく、素直に可愛らしいと思えるし、声も実にキュートである。映画自体の話に戻ると、この20年後に作られる国産初のカラー映画である「カルメン故郷に帰る」と同様に歴史的価値のある映画として語られる映画で、二本とも内容的にそれ以上のものはないかもしれないが、二本とも肩の力を抜いて気楽に見られる喜劇として評価できる映画だと思う。でも個人的にはどちらかと言えば本作のほうが「カルメン故郷に帰る」よりも単純に笑いに徹していて好きである。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-02-13 22:30:48) |
4. エノケンのちゃっきり金太
《ネタバレ》 エノケンこと榎本健一は戦後の映画で何本か見ている程度で、人気のあった頃の戦前の主演映画を見るのはこれが初めて。喜劇映画としてはトーキーではあるが、サイレント喜劇のようなつくりで、エノケンの追手から逃げるために走るシーンなどはまさにアメリカのサイレント喜劇ののりだし、中村是好とのやりとりも笑える。しかし、総集編であるからか話の流れがイマイチ分かりにくく、いちばん盛り上がるはずのクライマックスも本当は最後の見せ場だろうにかなり手っ取り早く終わってしまい、なんだかなあという印象。それでも戦前のエノケンの喜劇俳優としてのすごさはこれ一本見ただけで伝わってくるし、チャップリンやキートンにも引けをとらない存在だと感じることができた。これだけでもこの映画を見た価値はじゅうぶんにあると思う。横山隆一の描いた登場人物のイラストとエノケンの解説とともに出演者がクレジットされるという演出がなんともユニーク。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2012-08-08 01:27:12) |
5. 一人息子
《ネタバレ》 小津安二郎監督のトーキー映画第1作。戦前の小津監督の映画には喜劇色の強いものや、外国映画を意識した作風の映画が多いように思うのだが、初のトーキー作品となった本作では、「東京物語」に代表されるような親子の物語で、笑いのシーンはほぼ皆無で、シリアスな作風となっている。しかし、本作も間違いなく小津監督らしい映画となっていて、息子の東京での生活の厳しさや、その現実を見た母親の切なさを丁寧に、それもこの親子の絆を優しくあたたかく描いており、戦前のこの頃から小津監督はこういう親子のシリアスなドラマも描ける監督だったんだなあと感じた。焼却炉の煙突を見ながらの親子の会話、そしてその夜の口論はなんだか息子の立場になって考えた場合にすごく身につまされるものがあってつい息子に感情移入してしまう部分もあった。馬に蹴られた近所の子供のために息子がとった行動を見た母親が息子にかける言葉がああ、この母親は息子がどんな暮らしをしていても、自慢の息子には変わりないのだなと感じさせていて感動的だった。しかし、やはりこの映画が描いているのは理想と現実は違うということで、帰京した母親が「息子も偉くなって」と周囲に語るものの、一人になるとしょんぼりとしているラストシーンはこの母親の心情というものがすごく理解でき、侘しい気持ちになるのだけども、その前のシーンで東京で息子が今度母親が来るときにはこんな侘しい姿は見せないぞと奮起する姿を描いていて、そこに希望を感じさせているのがいい。「東京物語」だともっと親子関係はシビアに描かれるのだが、まさしくこれはその原型といったところ。主演の飯田蝶子は晩年に演じた若大将シリーズでの主人公の祖母役が大好きなのだが、この映画では息子を時に厳しく、そして優しく見守る母親を演じていて若大将シリーズとは全く違う一面も見せているのだが、その演技が非常に素晴らしく、間違いなくこの映画は彼女の代表作と言っていいだろう。もちろん息子を演じた日守新一も素晴らしい。ところで、親子が映画館で外国のトーキー映画を見るシーンで「これがトーキーってやつですよ。」というセリフを息子に言わせているのは、初めてトーキー映画を撮ったことが嬉しくてたまらないという小津監督の素直な喜びが感じられるシーンではないだろうか。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-11-24 02:21:44) |
6. 朗かに歩め
《ネタバレ》 小津安二郎監督のサイレント映画。冒頭のシーンなんかは完全にハリウッドのサイレント・コメディーのようなノリで、もうここですでに日本映画ではないような印象があるが、内容はヤクザな男がふとしたきっかけで堅気のヒロインと知り合い、恋に落ちるというちょっと「男はつらいよ」シリーズを連想しそうな話である。が、日本的な雰囲気と、外国映画のようなモダンな雰囲気が混在しているので、ある種、無国籍映画のような印象を受けた。主人公と舎弟の男とのやりとりは見ていてなんだか微笑ましく、とくにこの舎弟の男がいい味を出していて、彼がいるからこそ、モダンなだけではない人情話としての側面がより強調されているのではないだろうか。主人公が警察に逮捕されるシーンでの舎弟のセリフにはジーンとした。それに連行されていく主人公に対して「待っていますわ。」と声をかけるヒロインにも切なさを感じる。ここで終わりではなく、最後は主人公とヒロインがめでたく結ばれるというハッピーエンドなのが心憎い。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-09-25 14:22:57) |
7. 風の中の子供
《ネタバレ》 清水宏監督の映画を見るのはこれが初めてだが、子供の描き方が小津安二郎監督以上にイキイキとしていて、主役の子供二人を見ているだけで楽しいし、それでいながら戦前である当時の状況もかいま見えて面白かった。清水監督はロケ撮影を多用する監督として知られているみたいだけど、なるほど、この映画でも三平が預けられるおじ夫婦の住んでいる田舎の情景がロケならではの効果をあげていて、見ていて懐かしい気持ちになれたし癒される。腕白な子供の描写もうまく、木に登ったり、たらいで川を下っていくシーンなどはいかにも子供らしい子供というのがよく出ている。離ればなれになった二人の心理描写もよく出来ており、ひとりかくれんぼをしている善太にいないはずの三平の「まあだだよ。もういいかい。」と声が聞こえてくるシーンはもうそれだけで善太のさびしさが伝わってくる。それにおじ夫婦の家に預けられることになった三平が泣き出してしまったり、預けられたその日に木に登って家の方角を見たりする切ない。ターザンのものまねや、オリンピックの話題など時代性も盛り込まれているが、ここまで古い映画だと古臭いと思う以前に当時はこんなのが流行っていたのかと興味をひかれる。父親が警察に連行されて、二人が離ればなれになってからはちょっとつらい展開ではあるのだが、二人がずっと明るくて元気なので安心して見ていられるし、笑えるシーンも多い。最後、疑いが晴れて無事に帰宅した父親を走り回りながら呼び続けるシーンは本当に秀逸で、ここでも清水監督の子供の感情を引き出す演出のうまさを感じた。見る前はよくないという評判も聞いていた映画だったので、少し不安な面もあったのだけど、見てよかったと思えたし、小津監督の「生れてはみたけれど」や「お早よう」のような子供が主役の映画の佳作だと思う。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-09-24 19:49:49)(良:1票) |
8. 淑女は何を忘れたか
《ネタバレ》 冒頭の女三人の井戸端会議のシーンからとにかく会話のテンポがよく、最後まで全く飽きることなく楽しめた。小津安二郎監督の喜劇といえば「お早よう」だが、この映画でも斎藤達雄と桑野通子のやりとりの面白さや、ドアを使ったギャグ、飯田蝶子(始まってすぐの車からおりて来た派手派手しいかっこうにびっくり。)と吉川満子の「バカ」、「カバ」というやりとりなど思わず笑ってしまうような軽妙な描写で本当に喜劇の演出がうまい監督なんだと思わずにはいられない。それに「お早よう」でも子供をイキイキと描いていたが、この映画でも地球儀を使って地理を教えていた岡田(佐野周二)を尻目に遊びに来た友達と地球儀で遊びはじめる子供の描き方がすごくイキイキとしていて楽しい。(このシーンのとんがらがっちゃ駄目よという鼻歌もいい。)ワンカット本人役で登場する上原謙の使い方も笑える。どの人物も魅力的に描かれているが、大阪からやってきた小宮夫妻の姪 節子を演じる桑野通子が可愛らしくて印象的。桑野みゆきの母親で、もちろん出演作を見るのは初めてなのだが、あらためて戦前の女優の美しさというものを感じた。もちろん節子のキャラクターもいい。後半は妻の尻に敷かれている小宮が妻にゴルフに行くとウソを言って出かけたのが妻にバレてしまいという展開で、なんだか現代の夫婦とあまり変わらないと思えてしまう。というか戦前の日本にもこんな夫婦いたんだなあ。ラストシーンはエロスを感じさせる演出になっているが、それをあまりいやらしくならずに上品に描いているのが見事。小津監督というのはどうしても和風な作風のイメージが強いけど、この映画はハイカラな雰囲気で、小津監督がアメリカ映画から受けた影響は本当に大きいんだなとこれ一本見ただけで感じることができる。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-07-28 17:55:13) |
9. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
《ネタバレ》 加藤泰監督の伯父としても知られる山中貞雄監督の現存する三本のうちの一本。戦前の時代劇とあって見る前は少し抵抗があったが、実際見てみると全体的に76年前の映画とは感じさせないほどテンポがよく、またフィルムの保存状態もビックリするほどよくて、とても見やすくて楽しい映画だった。丹下左膳ものの映画を初めて見たのだが、見る前に得た情報から抱いていた丹下左膳の個人的なイメージというのはもっと殺伐としたものだったが、この山中監督による左膳は実に人間味あふれる人物として描かれ、好感が持てる。話はなんの値打ちもなさそうな壷が実は百万両の値打ちのある代物だったことから巻き起こる騒動を描いたコメディーだが、ちゃんとペーソスも漂わせていて、これが映画に深みを与えているし、この映画が初めて見る山中監督の映画なのだが、なにかものすごく才能を感じさせる演出で、間の取り方のうまさや、カットとカットのつなぎによってテンポよく見せていくところなどは先ほども書いたがとても1935年の映画とは思えないほどで全く古びていない。それに完成度も高く、思わず唸ってしまった。出演者も当時、左膳を当り役としていた大河内伝次郎がおそらく今まで自分が演じた左膳のイメージと違うであろう(←今まで丹下左膳を見たことがないのでこういうことを言うのも失礼かもしれないが。)山中監督の描く左膳を見事に演じており、お藤(喜代三)との夫婦漫才のようなやりとりに笑わされ、またいなくなったちょび安を探しにいくシーンでは左膳の父性のようなものも感じさせていて素晴らしく、大河内伝次郎をこんなにいいと思ったのは初めてかもしれない。沢村国太郎も本当にいい味を出している。原作者の林不忘が左膳のイメージのあまりの違いにクレームをつけたというエピソードもある映画だが、立派に後世に残るに相応しい人情時代劇の傑作だと思う。本当に面白かった。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-01-29 15:35:48) |
10. 菊五郎の鏡獅子
かなり久しぶりに見た小津安二郎監督の映画だったのだが、これは劇映画ではなく、歌舞伎「鏡獅子」を舞う尾上菊五郎(六代目)を丹念に撮った記録映画で、冒頭部分に歌舞伎の解説ナレーションまで入ってどうやら海外に日本の伝統芸能を紹介する目的で作られた映画のよう。75年ほど前の映像なので今見るとかなり貴重な映像だが、正直、歌舞伎にほとんど興味がないのでちょっと退屈に感じられた。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-02-27 01:45:04) |
11. 血煙高田の馬場(1937)
《ネタバレ》 マキノ正博監督の映画を見るのは初めてだったのだが、ものすごく面白かった。特にラストのバンツマが高田馬場まで走りぬけるシーンから決闘にいたるまでのくだりの盛り上がり方が尋常ではないすごさ。まさにこれがマキノ正博かという感じでこのシーンには本当に圧倒されてしまった。後の堀部安兵衛である中山安兵衛を演じるバンツマが飲兵衛だが、やる時はやるという威勢のいいキャラクターを魅力たっぷりに演じていてとてもかっこいいし、先ほど書いた高田馬場へと走りぬけるシーンをはじめ、やはりサイレント時代からのスターだけあって動きがとくに素晴らしい。志村喬も黒澤映画などで見せる重厚な演技とは全く違うコミカルな演技を見せており、新鮮なおかつ楽しい。全体的に見ても明るくこれぞ娯楽映画と呼ぶに相応しい作品で、戦前の日本映画はあまり見ていないのだが、こんなに楽しい作品があったとは驚き。また、これは間違いなく日本の娯楽映画の最高傑作の一本に入る映画ではと思う。やっぱり10点以外ないだろう。 [CS・衛星(邦画)] 10点(2008-08-28 13:44:11)(良:3票) |
12. 祇園の姉妹(1936)
溝口健二監督の映画は三本目。前に見たのが「雨月物語」と「近松物語」という日本が世界に誇る名作二本で実際にとても素晴らしい作品だったのでこの作品には少々不安もあった。確かに「雨月」や「近松」には及ばないと思うところもあるもののこれもやっぱり名作だと思う。宮川一夫が撮影担当でない作品は初めてだったのだが、やっぱり撮影監督が違ってもこの監督の作り出す映像はとても美しく、つい見入ってしまった。主演の山田五十鈴が当時19歳と若く、後年の黒澤作品などで見せる凄みのある演技とはまた違った初々しい演技を見せているのがとても印象的だった。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2006-09-01 00:08:25) |
13. 街の灯(1931)
《ネタバレ》 まだ無声映画など見たことがなかった中学生の頃、国語の授業で見た。しかも先生が教育テレビで放送したものを大分前に3倍録画したものだったため、非常に見にくかったことを覚えている。でも、声がないのを逆に新鮮に感じたし、酔っている時とシラフの時とでは主人公への対応が違う大富豪は素直に笑えた。そしてラストでは号泣しそうになった。授業中だったから、大泣きすることはなかったが、それでも目には光るものがあった。それほど素晴らしいラストシーンだった。今の映画だったらあのラストシーンの後ももう少し話が続きそうだが、あそこで終わってあとは見ている者の解釈に任せて正解だと思う。そのほうがいつまでも余韻に浸れるから。なぜ授業中に見せてくれたのかは分からないけど、当時の国語の先生に感謝したい。 [地上波(字幕)] 10点(2005-03-03 14:45:43)(良:2票) |