1. 悲愁物語
《ネタバレ》 作品批評においてラブストーリー・スリラー・スポコンというカテゴリーを持ち出され がちな映画であるが、そういう装飾を外すと清順による生々しいまでの自己吐露が見えてくる。 それでなにが素晴らしいのかというと、その手法の鮮やかさである。 美貌とゴルフの腕を武器に一旦はテレビ界で成功した桜庭れい子が 利用され失墜するさまを、近所の奥様による執拗なストーキング行為で れい子が徐々に精神破綻していくというカリカチュアによって再描写していく。 ”奥様方に囲まれての自宅ファッションショーにおいて、 颯爽と歩くもゴルフクラブで足をひっかけられ押さえつけられて、 ついにはカツラはおろか水着までひっぱがされて丸裸” という辛辣なシーンはまさにそれを端的に表している。 つまり、日活を解雇され長きに渡って撮ることすら出来なかった清順が、 精神破綻による「狂気」というモチーフを使って、業界に対する アンチテーゼとしての「狂気」をかくも見事に描き出しているのである。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2006-05-30 07:22:55) |
2. 殺人狂時代(1967)
漫画調のストーリー・演出・美術がまさしく一丸となってその世界観を醸し出してる傑作だが、この映画はなんと言っても編集の妙。 例えば”殺人シーン(刺客が地下鉄につき落とされる)⇒食事シーン(ステーキにどろどろのソースをかける)””殺人シーン(刺客がビルから落っこちる)⇒おもちゃで遊ぶシーン(クラッカーを鳴らす)”というカット変わり・シーン変わりでの飛躍のさせ方は十分に効果的であり刺激的だ。 こういう”感覚”で楽しむ映画は何度でも鑑賞したくなる。 [DVD(字幕)] 9点(2006-05-09 13:20:14) |
3. 模倣犯
猟奇殺人やそれを取り巻くメディアを観念的に描くことによって、 あけみの殺害・ピースの子供などのシーンに象徴される即物的な実生活も浮き彫りになるという、いわばデジタル社会におけるアナログ感は非常に上手く表現されていたと思う。 映像的にも「(ハル)」での文字だけの画、「黒い家」での悲劇的シーンでの対位法、 「39」での草木の揺れるモンタージュ等々の実験をより洗練された形で 詰め込んだ集大成的な映画だった。 [DVD(邦画)] 9点(2006-04-16 20:07:34) |
4. バタアシ金魚
モノレールやラブホテル街等の近代的な風景と、神社や畑などののどかな純日本的風景の 共存が印象的な映画。この完全な都会でも完全な田舎でもない曖昧な風景群に象徴されるように、人間も繊細で破滅的で幻想的でもある多面的な性質の存在として、実に巧みに描かれている。 最近はあまり見かけないが、筒井道隆はこれといい「王様のレストラン」のオーナー役といい、純粋でどこかぬけている役を全く嫌味なくやれる比類なき才能を持っている。 [DVD(邦画)] 8点(2006-05-09 13:24:12) |
5. 刑務所の中
この映画においてカタルシスを得るのは何をおいても食事するシーンだろう。 アルフォートにコーラだとか麦飯に醤油だとかコッペパンに小豆とマーガリンだとか、 日常においてはなんの変哲もないメニューだが、 ストイックな生活を送る受刑者に感情移入することで一変させられる。 ”砂漠における一杯の水”をこれほどユニークに体現出来た作品も珍しい。 [DVD(邦画)] 8点(2006-04-16 22:15:00) |
6. ロボコン
「まぶだち」「さよならみどりちゃん」と鑑賞したが、どちらからも感じるのは ひたすら幼稚で青臭いヒューマニズム。しかもそれがメッセージ的すぎるきらいがある。 もちろんこの「ロボコン」にも同質なものはあるんだが、純粋に娯楽として受け入れられたのは 試合シーンの見事さに他ならないだろう。 なんでも準決勝と決勝は台本なし、試合3分間ワンカットのマルチカメラで撮影した らしいが、現場の緊迫感をそのままスクリーン隔てたこちら側まで伝えられたのは 素晴らしい演出力だといえる。 [DVD(邦画)] 7点(2006-06-02 08:21:19)(良:1票) |
7. 深呼吸の必要
非常に優しい映画だった。やり方間違えればただのスポコンになってたところだが、 一人一人のキャラ説明を詳しくやりすぎないとこが成功だったかな。 ただ、引きの沖縄の風景を映す分にはシネスコの特性を生かせても、 香里奈と谷原が防波堤に座って語らう所や屋内での食事風景等の いわゆる寄りの人間に焦点をあてるシーンでは、構図が定まらないというか イマイチぐっとくる画が撮れてないように思えた。 [DVD(邦画)] 7点(2006-05-29 18:46:46)(良:1票) |