1. BU・SU
若かりし頃に一度見ているが、その時は何も感じなかった作品。そして本日、取り寄せていたビデオを再見。いや素晴らしかった。溜息のでる映像の数々と八百屋お七のキーワード「火」をうまくリンクさせた演出は流石の一言。作品として原由子の曲以外は文句のつけようのない出来でした。そして見事だったのは主演の冨田靖子。鬱積の溜まった社会に押しつぶされ、どこにも発散できない若者の感情を無表情でありながらも演じきっていました。モノクロでかぶさるエンドロールの成長した姿の対比もよかった。彼女は83'に「アイコ16歳」でデビューし、85'に大林宣彦監督「さびしんぼう」で主演。そしてこの市川準初監督作品「BU・SU」でも好演してみせた。主役を張る美しく上手な女優さんは数あれど、作品に恵まれる人は一握り。近頃の彼女を思うと心苦しいが、それでも一瞬の輝かしい時に名を残す作品で演ずることのできた彼女は本当に幸せな女優さんだと思う。80年代に二人の巨匠に見出された稀有な存在としても。それにしても彼女は時折、とても魅力的な表情をする。 [ビデオ(邦画)] 10点(2008-05-24 23:45:24)(良:1票) |
2. さびしんぼう
黄昏に染まる尾道水道。哀感溢れるエチュード。そしてあのシーン。たまらんわ。 [DVD(邦画)] 10点(2007-09-14 00:21:32) |
3. 東京マリーゴールド
《ネタバレ》 雨のおかげで扇風機もいらぬ程、めっきり涼しくなった日曜日の午後に鑑賞。最近になって市川作品にはまったおかげで、タイトルの語感は好きだったもののアイドル映画と思い込んでいた本作を手に取ることとなった。敬遠していた自分が悔しくなるほど言葉では語り尽くせない切なく美しい画が続いてゆく。話の流れはゆったりとし、登場人物も台詞の数もとても少ないのだけれど、ちょっとした仕草や表情、背景で言葉より饒舌に表現してゆく。深い青に包まれながら握り合う手。駅に向かう陸橋。一度だけある階段でのキスシーン。徐々に変わる気持ちの移ろいまでも映像で見せる。その映像表現ゆえ、不器用で真面目すぎる二人ゆえに最後で別れを拒むエリコと鼈甲飴を握り締め一人咽ぶ田村の気持ちの解放が際立つ。ただ少し気になったのは、バスの中での偶然すぎる出会い。話の展開自体はいいのだけれど、他にも表現方法があったのではないだろうか。でもそれも些細なこと。名作には違いない。 [DVD(邦画)] 10点(2007-07-02 23:34:06) |
4. 二十四の瞳(1954)
《ネタバレ》 空にゆったりと浮かぶ雲。陽光を反射してきらめく凪の海。遠くまで霞むように連なる瀬戸内の島々。桜の森の中を連なって遊ぶ楽しい日々。みんなで撮った思い出の写真。修学旅行の船上での楽しいひと時。そしてその船をそっと見送るまっちゃん。悲しい時も嬉しい時も大きな声で唄を歌い、励ましあって成長する。忘れてはいけない大切なものがいっぱいに詰まった心温まる珠玉の名作です。 [DVD(邦画)] 10点(2007-04-14 00:18:57)(良:1票) |
5. 残菊物語(1939)
これほど話と画が一つにまとまった映画を初めて見たように思う。鑑賞後に溜息と涙と感嘆を同時に感じた。画面の中にぼうと浮かぶ画に溜息を漏らし、女の慈愛に涙し、判り易く、無駄のない脚本と演出に感嘆した。なんだろう、この余韻は・・。舳先に立つ菊之助がお徳に御辞儀をしている様で・・ああ、涙が止まらない。映画に於ける全ての要素が素晴らしすぎる。ここのレビューサイトに登録してまだ日は浅いがこの様な作品を知り、そして見ることができて本当によかった。まさにみんなのレビューのおかげである。この作品を置いてくれたTSUTAYAにも“ありがとう”と言いたい。 [DVD(邦画)] 10点(2007-04-01 16:32:37)(良:2票) |
6. 惑星ソラリス
《ネタバレ》 タルコフスキーらしく何もしなくても、ものすごい作品になっている。ほんと彼の作品を見ていると想像力をかきたてられる。あのハンモックには何がいるのだろうとかみんなは何を創造してしまったのだろうかと見る者に想像させる。とはいっても見せるところはしっかり見せてくれる。生き物のように蠢くソラリスの海はとても美しく、感情を持ったハリーが液体酸素を飲み込み、再生するシーンは神懸り的で、バッハのコーラル・プレリュードに乗せ、重力の解けた部屋で抱き合い幻想に浸るシーンは荘厳でさえある。あの名作「禁断の惑星」をもっとリアルに哲学的に表現したようなSFらしくないSF巨編である。そして水の映像はどこまでも深く美しい。 [DVD(字幕)] 10点(2007-02-17 00:25:58) |
7. ひめゆりの塔(1953)
全てがリアルでまるでドキュメンタリー作品のようだ。爆撃のシーンでは実際に怪我人が出たのではないかと思うほど壮絶である。過酷な環境の中、爆撃や銃弾に晒され、命を賭して走り回り、次々に運び込まれるどうにもならない患者たちの看病や兵隊たちの理不尽な命令に翻弄され続け、一人また一人と尊い命を落としていく生徒たち。泥水を飲み、地獄のような戦場をなんとか生き延びた後、太陽の下で水浴びをする一瞬の喜びに満ち溢れたシーンに涙した。しかしその後に起こる悲惨な出来事はつらすぎる。これが60年前にこの国で本当に起きたのだ。死んでいく生徒たちを支え続けた教師の愛と、まだあどけない生徒たちの気丈さが悲しい。ただただ悲しい。そして思う。この、ひめゆり部隊の話は誰かが時代ごとに制作し続けていってほしいと。光りやまねこさんの言うとおり、この作品を情熱をもって作った方々に心から敬意を表さずにいられない。 [DVD(邦画)] 10点(2007-02-16 18:18:40)(良:2票) |
8. ニュー・シネマ・パラダイス
《ネタバレ》 まだDVDの無い時代、僕は今まで何を見ていたのだろうと思うくらい胸を打たれた。たしかにこの作品以降、見る作品の幅が広がったように思う。スクリーンで見たかったなあ。出来ればトト役の統一感と、年を経た登場人物のリアルさがあればなお良かったのかなとも思うが、でもそんなことはどうでもいいんだ。モリコーネの美しく切ないメロディーに乗せ、上映中の映画が映写室の壁をつたい、広場の壁に映し出されるシーンは最高に粋であるし、それにも増して、この作品が特別なのは観客自身が2時間余りの間に泣き笑いし、シチリアでの想い出を共有したままラストシーンを迎えることである。この時、観客はスクリーンの中にいるトトと同化する。大袈裟かも知れないがこの時の観客の表情はトトと同じ表情をしていたのではないだろうか。こんな作品は他に知らない。素晴らしすぎる。 [ビデオ(字幕)] 10点(2007-01-30 02:15:21)(良:1票) |
9. ストーカー(1979)
草むらを掻き分け、そっと川底を覗き込んだ、幼少期の狩猟体験をどこか想起させる。ノスタルジーをかきむしられた。 [地上波(字幕)] 10点(2006-12-18 17:18:11)(良:1票) |
10. ローカル・ヒーロー/夢に生きた男
《ネタバレ》 (書直し)この作品を見つけた当時は、”ぴあ”の分厚いシネマガイドを夜な夜なめくり、赤鉛筆なんかでチェックするのが楽しみだった。ガイド誌の作品評価は★で示され、四つ星が最高なのだが、この作品には三つ半の星がついていた。解説を読んでいて、音楽担当がマーク・ノップラーだと気付き、内容関係なしにとても見たくなり、早速レンタルで手に入れ鑑賞。テーマ曲は既に知っており、作中の音楽は間違いなく素晴らしかったのだが、意外なことに映画作品としても星以上に面白かったのです。こうなるとマイナーな映画でもあり、妙に愛着が湧いてきて、すぐさま探し回り、梅田三番街のレコードショップでDVDをゲット(いやここは「キッド」だったか…)。やっぱり何回見てもいいですね。大都会のビジネスマンが田舎へ買収に来て、心変わりする..というわかり易いストーリーなんだけど、人物一人ひとりのキャラと立居地をしっかりと設定し、心象表現をコミカルに、時には暗喩を用いて丁寧に丁寧に描写されていることが、すんなりと大団円へと導いてくれます。やっぱりそのあたりがフォーサイスマジックというか、「シルビーの帰郷」でも感じた、人物をどれだけ嫌味なく立たせられるかにかかっている気がします。本作は”マリーナ”の女神のような立ち居振る舞いを描写したことが、最高に素晴らしかったと思う。あ~フォーサイスは映画を撮り続けているのだろうか... [DVD(字幕)] 10点(2006-12-18 16:19:54)(良:1票) |
11. トキワ荘の青春
《ネタバレ》 原案は読んでませんが、寺田ヒロオを中心に据えたのは市川監督らしいですね。そうすることでトキワ荘での劇的な変遷も、創明期の若い漫画家たちの同志的な繋がりもよく表現されていたと思います。そう手塚治虫が寺さんを晩飯に誘うプロローグ的なエピソードからトキワ荘の性格を形付け、それから始まる青春群像へすんなり誘ってくれます。出前に来た店員だけに演技させた描写も素晴らしく、優れた小説の情景描写のように全てを静かに物語れるカメラワークは秀逸です。人間模様もうまく表現されていて、成功と挫折だけではない尊厳までもしっかりと描かれています。自分の世界を確立していても時代に取り残されるように、漫画のもつ無限の可能性と子供の娯楽といった要素との葛藤も寺さんを透して見事に表現されています。様々なジャンルがある現在ならば、寺さんの作品にも居場所があったのではないでしょうか。ラストの後輩たちからの相撲の誘い。トキワ荘の軒先から通りまでを捉え続けたアングルの中で一心に相撲をとり続ける寺さんの汗と涙がとても良かった。静けさの中、丁寧に散りばめられたエピソード一つ一つとそれらを優しく包みこむ素晴らしい選曲も心に沁みました。唯一、サントラもDVDも発売されていないのが悔やまれます。 [ビデオ(邦画)] 9点(2008-03-22 18:24:59) |
12. ブラザー・サン シスター・ムーン
富を捨てる?貧しさを選ぶ?鳥のように生きる?愛される前に愛する?・・。がたがたの石畳の上を裸足で歩き、暑さ寒さに耐え忍び、干からびたパンを分け与える。あまりに清く正しすぎる。でも、そんな彼らの姿に絵画のように美しい画の数々や敬虔な音楽と同じように癒され、敬う。やっぱり感動し、涙がでた。 [DVD(字幕)] 9点(2007-08-30 02:11:19) |
13. カプリコン・1
すんごいおもしろかった。アクション有り、サスペンス有り、ドラマ有り、ちょっとホラーチックな撮り方も奏してドキワクしっ放しでしたよ。冒頭の発射台から立ち昇る太陽のカットから、ラストの追悼式まで画面に釘付けでした。“アポロ11号の月面着陸はNASAの捏造だった!”という噂は、これを見てしまった後では「も、もしかして・・」と思ってしまいます。またSF作品としても、壮大な火星着陸というテーマを裏切ったように見せて、本物の火星のような過酷な環境にしっかりと着地させる演出は見事というほかありません。もちろん細かいところでの矛盾も感じないでもないですが、あの無機質で執拗な2匹(といいたい)の追跡者といい、起伏にとんだ地形を撫でるように交わされるドッグファイトはそれだけでも見応え十分。パイロットたちが見せる葛藤と決断も見事です。最近の作品にありがちな役者が物語の前に出てくることのない、しっかりとした脚本に支えられた大エンターテイメント作品になっています。何時の時代も楽しめる最高な一本としておすすめします。 [DVD(字幕)] 9点(2007-08-24 20:29:46) |
14. 東京夜曲
蒸し暑さの和らいだ夜更けに網戸越しに聞こえる蛙の合唱をBGMに鑑賞した。退屈さを遥か通り越して、最高に心地良かった。もうここまでくるとストーリーはいらない。どのシーンの画も惚れ惚れするほどに美しい。その辺にあるような街角や店先を撮ってはいるのだけれど、構図の取り方に悉く唸らされる。それは溝口健二監督を想い出すほどですが、それ以上に市川監督の作品は光の使われ方が印象に残ります。芸術の域だと感じました。それにしても良い晩に見ることができて良かったです。 [DVD(邦画)] 9点(2007-07-01 01:38:56) |
15. 祇園囃子
祇園の姉妹もよかったがそれとはまた違った味のある話でした。芸者として生きるために遭遇する抗うことのできない出来事に美代春自らが盾となり無垢な美代栄へと自身の理想を投影したラストの言葉が素晴らしかった。男と女の質以前の人権に焦点が当たっていて生きることの難しさがよく現されていた作品でした。コンチキチンと遠くで聞こえるお囃子を背に祇園の町を歩く二人は溜息が出るほど美しかった。 [DVD(邦画)] 9点(2007-06-17 17:24:16)(良:1票) |
16. 大阪物語(1999)
《ネタバレ》 大阪の映画として違和感なかった。背景もあんまり不自然(十三らへんまで飛んでたけど)なとこもなく演技も演出もごく自然な感じやった。東京の人間が大阪の雰囲気をここまで自然につくるとはなあ。プロやなあ。役者陣もうまかったし、少し淡い感じの画も映画の雰囲気にあってたし、忘れ難いシーンも一杯あったよ。中でも家族4人で川の字になって寝るとこは優しさ一杯で昔々を思い出し、西日を浴びた南港あたりの防波堤で涼しげな風にあたる若菜の横顔はとても美しかった。そして父を探しに寄ったバーでのシーン。大きな色眼鏡の奥から語り掛けてくるミヤコ蝶々の味のある声と奥の窓からカウンターへ差し込む光のあたり具合なんかは切なくなるほどにかっちょよく鳥肌が立つほど痺れた。しがらみの感じられへんほんまにええ『映画』や。市川準監督の画には一人スタンディングオベーションを捧げたい。 [ビデオ(邦画)] 9点(2007-06-17 03:58:12)(良:1票) |
17. グレイスランド
ほんとに良かった。静かでスローで不思議な感覚・・。作品の世界にゆっくりと沈む。エルヴィスを知らない世代でも楽しめるだろう。かつてファンだったように・・・。"remember the god" [DVD(字幕)] 9点(2007-05-25 02:45:05) |
18. 東京物語
尾道から東京までの長い旅路。容赦ない夏の暑さ。息の詰まるような東京の町。着物の重苦しさ。履物の不安定さ。気を使う息子たちの家。これでは気の休まる暇も無い。唯一、親身になってくれる紀子だけが救いである。遠くの親戚より近くの他人と言うが、本作は遠くの親戚より遠くの他人(他人ではないが)といったところか。たしかに世間では相続争いや兄弟喧嘩、果ては更に悲惨なことまで毎日のように起こっている。本作にも「それを思えばまだ幸せだ」というセリフがあるが、そうであったとしても老夫婦には心身ともにつらい旅となった。そういった老夫婦の寂しい話ではあるけれども作品としてはとてもよかった。朴訥としながらも品のある老人を演じた笠智衆を筆頭に美しいとは思わないが気品溢れる原節子の優しい眼差しにも心が洗われた。そして尾道の美しい風景や東京の復興目覚しい街並といった背景も印象的で、穏やかな情感ある音楽も作品の雰囲気に合っていたと思う。傑作であると素直に感じられた。本作が上映された1953年というと「雨月物語」といった後世に名を残す名作が封切られた稀有な年でもあり、更にこの50年代は両監督にとっても日本映画界にとっても黄金時代にあたるのだなと改めて感じた次第です。 [DVD(邦画)] 9点(2007-05-11 23:19:58)(良:1票) |
19. 雨月物語
怖いな。朽木邸での映像は若狭はもとより、枯れ木越しの邸の映像といい、鎧兜といい、おどろおどろしくも美しく、その後の廃墟(というより跡)はまた、見るからに恐ろしい廃墟を残すのではなく、呆気ないほど潔い美しさがあった。その対比が余計に怖かった。また笙や笛の音がこれ程までに映像を盛り上げるとは。すんごい。撮影場所が琵琶湖?というのも驚き。邦画でありながら何か遠い印象だった本作も親近感が湧いてきました。話も判り易いしね。なんか日本昔話をとてもリアルにしたような作品。ここでも女の強さ、執念に圧倒されました。 [DVD(邦画)] 9点(2007-04-22 13:33:27) |
20. 原爆の子
あの原爆投下後の惨状は人類のDNAに刻まれている最大の恐怖が具現化されたように思う。本作での、このシーンでは正にそうとしか思えないほどの恐れと憤りを感じた。たぶん、このシーンでは年端もいかない娘までもが体を張って演技をしたのだと実感できる。先日、あるサイトで被爆者(女学生)の描いた絵を見る機会があり、それはその女学生が被爆してから遠くの防空壕へ避難するまでを13枚の絵(原爆の絵)で表現したものだが、その絵から受けた印象は地獄としか言い表せないものだった。アメリカがどうこうではなく、本作同様、この地獄を絶対に忘れてはならないし、また後世に残していかなければならないと思う。その役目は被爆国日本しかいないはずだ。僕には何もできないがここにレビューだけでも記しておきたい。 [DVD(邦画)] 9点(2007-04-06 22:15:51) |