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1.  ブリキの太鼓 《ネタバレ》 
原作では判りませんが、映画においてはサーカス団、後の慰問団でオスカルの師となるベブラ師との邂逅が大きな意味を持つように思います。身体は成長しないけど精神は成長するオスカルにとって、その存在を見抜いているベブラ師というのはオスカルの完成形でもある訳です。オスカルはブリキの太鼓を叩いて大人の欺瞞に近づく精神の成長をも拒否しようとするのですが、子供染みた行動でオスカルを保護してくれる周囲の大人を死に追いやってしまう狂気に、戦争と父親の死をきっかけに別れを告げて西側?の新世界で成長を再開して生きて行こうとする所で映画が終わります。私は反ナチズムとか反戦がこの映画の主題ではなく、この時代の狂気とオスカルの狂気が同じ位で違和感がない、と言う所がこの映画の主題なのかなと感じました。ややグロテスクで難解なのでこの点で。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2018-10-29 16:33:15)
2.  追憶(1973) 《ネタバレ》 
高校生の息子と見ました。「アメリカではユダヤ人は金持ちもいるけど一般的には貧しいからWASPぽいハベルと貧しくて政治色の強いケイティ(いかにもジュイッシュ)の違いが出てくる」「第二次大戦ではルーズベルトは共産主義のシンパだったことは当時のアメリカでは常識で、軍人も大戦後ソ連が台頭したことに怒り心頭だったのはパットンだけじゃない、その反動でハリウッドにも赤狩り旋風が吹いた」「70年頃はアメリカの映画界もまともだったから近ごろの娯楽一辺倒や大政翼賛映画ばかりじゃなくてこういった奥の深い映画も作られた」とか学校で教えない近代史を講釈しながら見たのですが、息子も背景が理解できるとそれなりに興味深く見れたようです。私はハベルの「自分の純粋さを保ちたい、まっすぐに生きるケイティに魅かれる」しかし、「現実生活の方を選んで、結局効成り名を遂げてテレビ大衆娯楽のために働いた(しかし生活は安定)」という人間的な部分に共感しますね。その点女性の方が強いんだな。二人の選んだ道は違ったけれども、年を経て再開した時のラストシーン、本当に愛しているからこそお互いの生き方を認めていることを感じさせる「言葉のかけあい」に大人の恋愛を感じてちょっとウルっと来てしまいました。こういう映画最近少ないですね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2012-03-21 18:30:27)
3.  バリー・リンドン 《ネタバレ》 
穿った見方とは思いますがこの映画、キューブリック流「真・善・美」の解釈のように思いました。中世のカソリック、プロテスタントが交錯した国々を描く中で宗教問題は完全にスルー、牧師のラントは教育係に徹してます。つまり「真」は今も昔も不確かなものとして相手にせず片付けられています。淡々としたナレーションと現代人の我々が主人公に感情移入できない構成、しかも善悪の判断を描かないことで、何が「善」であるかも不確かなものと解釈していると思います。平民、貴族それぞれに善悪の解釈が違うし、現代人の観客とも違うと見るべきでしょう。一方で中世の城なんてもっと不潔きわまりないものだったはずですが、「美」については映像全てを壮麗な絵画の中で描くように徹底的に追求しています。虚実や善悪は人間が死んでしまえば同じでたいした問題ではないけれど「美」だけは永遠であるという監督の主張が最後のナレーションによってさらに強調されたようにも感じました。 
[DVD(字幕)] 8点(2010-05-04 18:46:56)
4.  ハリーとトント 《ネタバレ》 
愛猫トントに振り回されることで寄り道の多い旅になるのですが、猫は別に芸をするでもなく自然体で主人公と一緒にいるだけ(出歩きが否そうにも見える)というところが極めて猫らしく好感が持てました。老人問題を軸に据えながら、様々な世代の出会う人達、フラワーチルドレンや老インディアン、実の子供たちも結婚や事業に失敗して皆さえない人生を送っているのですが、それぞれの登場人物が悩みながらも一生懸命生きていることが描かれていて、しかも不思議な優しさや暖かさのようなものが伝わってきます。これは現代のアメリカを描くことでは無理かもしれません。一生懸命生きて老人になっても死はあっけなく訪れます。とても悲しい愛猫トントの死もあっさりと描かれます。しかしラスト30秒、新しいトントの出現の予感と子供の笑顔?は、老いて死ぬ事も新しい生命と希望につながるというメッセージのように感じ、清々しさを残すラストでした。
[DVD(字幕)] 8点(2010-01-18 18:49:33)(良:1票)
5.  マッカーサー 《ネタバレ》 
米陸軍の太平洋方面司令官で、戦後日本の占領政策を決定し、朝鮮戦争前半の国連軍の指揮をした大人物の半生を簡潔に描いた大作と思う。簡潔な大作というのは矛盾している評価だけれど、軍神と評しても良い軍人としての能力を持ちながら、パットンほどの癖のある人物ではないし、日本の占領政策で見せた優れた政治能力を持ちながらもアメリカ国内で政治家としての活躍がなかっただけに、どろどろした人間模様もなく人生が簡潔に描けてしまう所が映画としての見所を少なくしてしまったのかもしれない。それでも日本における天皇の立場を評した所、日本が軍隊を持たず、戦争放棄をうたった憲法を持つ過程(異論もあるけど)、ソ連代表に北海道に進駐することは絶対に許さないと言ったりした史実はそれなりに描かれていて、70年代後半のアメリカ人にとっては新鮮な部分も多くあったのではないかと思われる。朝鮮戦争において、台湾の蒋介石と個人的?に何らかの約束を交わして大統領に不評を買うところも描かれているが、70年代では、鴨緑江を超えて新生間もない中共に突入し、中華民国再興という野望まで視野に入っていた可能性にも触れるのは難しかったかもしれない。いずれにせよ米国内、米軍内での親共産主義勢力との確執やその後のレッドパージなどについてはあえて触れていないところが何か物足りなさを感ずる所以かも知れません。結局パットン同様できすぎて人気のありすぎる軍人は政府の力で現役から降ろされ「老兵は消え行くのみ」と語って表舞台を去るのですが、この辺が戦前の日本との大きな違いと思います。
[DVD(字幕)] 7点(2008-05-05 17:51:09)
6.  トラ・トラ・トラ! 《ネタバレ》 
日本軍の真珠湾攻撃を描いた壮大な記録映画という感じで、特に強いメッセージや政治性は感じないために莫大な費用と手間をかけて製作した割には印象がやや薄い気がします。米国映画にしては日本を悪、米国を善という描き方はせずに、真珠湾攻撃に至る過程を日米相方から淡々と描くという手法で、日本側は山本五十六指揮の下かなり組織立って着々と準備を進める一方で米国側は日本の暗号を全て解読していながら政府・軍中枢が一丸となっていなかったために大損害を受けたという対比が描かれています。日米開戦の真相(特にどちらが開戦したかったか)については米国の機密文書公開によっていまだに新しい事実が出てきています。この映画が作られた1970年においても開戦30年の節目になぜ米国はルーズベルトの選挙公約を破って戦争に参戦したのかについての事実を示して置きたかったのでしょうか。それにしては暗号解読で明日開戦になるという情報を大統領に直ぐに伝えるかどうかで逡巡する高官の姿などは米側の何かすっきりしない開戦についての陰謀めいた姿勢を当時の監督も感じていたのではないかと思わせます。攻撃当日港に空母がいなかった事については南方に向かう日本の輸送船団警戒のために一度空母のみを派遣して直ぐに戻ってこさせる予定だったという説明があり、真珠湾空襲自体を知っていたのではないという内容になっています。日本人としてはこのようなスケールの映画を作ることは不可能なので良く作ってくれましたとうことでこの点数です。
[DVD(字幕)] 9点(2007-01-31 22:45:38)
7.  パットン大戦車軍団 《ネタバレ》 
軍神と呼ぶに相応しい用兵の天才、しかし一芸に秀ですぎた者にありがちな社会性の欠如から組織に利用されるだけで終わってしまう男の生きようを描いた快作。史実をスケールの大きなロケーションで積み上げてゆくのみでなく、敵である独軍側からの評価もまじえて周囲との人間模様も丁寧に描いてゆくところが圧巻。しかし私はマークさんのご指摘のように監督よりも原作と脚本に携わったコッポラの目指したものを感ぜざるを得ません。出だしの星条旗をバックにしたパットンの演説は「戦って世界に冠たるアメリカの礎になることが誇りとなる」と主張し、単に枢軸軍に勝てとは言っていない。この聴衆を一切映さないカットはアメリカ=パットンを象徴しているように見えます。70年という共産圏との戦いが激化している時、アメリカの目標はソ連に勝ち、世界の覇者になることでした。同時期(73年)に作られた映画「追憶」でも明言されていたようにFDルーズベルトは共産主義シンパであったことは当時米国では常識で、パットンが述べたように第二次大戦直後のソ連への処置は間違っていたとアメリカ人の多くが感じていたことでしょう。しかし79年の地獄の黙示録がアメリカの新植民地主義への非難と考えると、コッポラはアメリカの覇権主義には批判的であったと思われます。この映画の最も最後に出てくる、帝政ローマ時代の凱旋行進で後ろに続く奴隷が主人に囁く言葉「主よ栄光は移ろいやすいものです。」という台詞が大きな意味を持ってくると思います。
[DVD(字幕)] 9点(2006-12-30 21:19:58)
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