1. 福田村事件
《ネタバレ》 観終わった瞬間、思わずため息をついてしまった。 映画の長さに疲れたからでも、出来の悪さに嘆いたからでもない。本当に、ここに描かれた実話に基づく物語にただただやりきれなかった。 現政権や小池百合子が目を背けて頑として認めようとしない近代日本の恥部、暗部がここに確かにある。 自分たちがやってきた非人道的な朝鮮人弾圧や、その後ろめたさから生じる過度の恐怖心に基づく、合理性のない国家レベルの蔑視、敵視政策という社会全体のやだみ。一方では小さなコミュニティ独特の住人たちが持つ視野の狭さ、同調圧力、そしてコンプレックスの裏返しとしてのマッチョイズムにとらわれた小人物が幅を利かせる田舎の嫌な空気。 当時の日本が持っていたマクロとミクロの歪みが関東大震災という史実に歩調を合わせて「導火線」として丹念に描かれ、そこにちりばめられていたある小道具と、無責任な噂に踊らされた一人の女が不意に衝突して、その導火線に火をつける。その挙句の大爆発として起こったのが集団ヒステリーとしての大虐殺「福田村事件」である。 本当に救いのない物語だが、さらにやりきれないのが、「真実の報道より権力への忖度を第一義とする新聞デスク」、「宴会で女性のお酌を強制し尻を撫でまわすセクハラ親父」「デマに踊らされ、周囲に「合わせる」事がひたすら大事な小市民」など、映画で描かれる「愚か者」たちが今の日本人(自分も含めて)に十分相通じる事だ。 勿論、福田村の中にも、メディアの中にも、頑として正義を貫こうとする人物の姿は描かれる。しかし彼らは圧倒的少数であるがゆえにあまりにも無力だ。 僕自身この映画を二度三度観る事はないだろうが、すべての日本人、特に何かにつけて特定の他国民を蔑視する”自称”愛国者たちに一度はぜひ見てほしい。無知蒙昧がいかに人間を醜悪にするのか。この映画の中の「愚か者たち」は教えてくれる。 そして、映画の中に描かれる「無力だが善良な人々」が少しでも増えて風通しの良い社会になりますように。 ※【キムリン】さん 行商団のお頭の頭をかち割って大虐殺の引き金を引いた女性は、映画の途中で大震災のデマ(朝鮮人が人殺しをした)を聞かされ、東京に出稼ぎ中の夫が「鮮人に殺された」と思い込んだ女性だと思いますが、違うでしょうか?映画の最後に帰ってきた旦那を見て、二重の意味で呆然としたのだと僕は解釈してました。(鑑賞一回でパンフレットも買えませんでしたので、思い込みだったらゴメンナサイ(汗) [映画館(邦画)] 10点(2023-10-12 16:02:23)(良:3票) |
2. トップガン マーヴェリック
36年ぶりに劇場で再会する「トップガン」。あまりに世間の評判が高すぎて、「俺はこんなブームには乗らないよw」と斜に構えていたのですが、 すでに鑑賞済みで「あれを映画館で観ないのは人生の損よっ!」と完全に”トップガンハイ状態”になってしまった友人の異様なテンションに押されての鑑賞です。 まずストーリー。前作同様特に目新しいものはなく、良くも悪くも王道。6点。 音響と映像はさすがにすごいの一言。+2点。 前作補正。開巻早々のトップガンアンセムからのデンジャーゾーンで興奮。+1点。 前作補正。相棒グースはじめ、36年前の懐かしい仲間たちの写真と、かつてのライバルアイスマンの登場に感涙。+1点。 でも前作ヒロイン・チャーリーの存在に全く触れられてないのは悲しい。-1点。 (しかし、なんだかんだ言ってトップガン好きだったんだな…俺) というわけで、採点は合計9点…と言いたいところですが、 前作の「若き日の自分」との比較に臆することなく、観客に老いた容貌をまざまざと見せつけながら 空(戦闘機操縦)に、海(ビーチラグビー)に、陸(バイク&ベッドシーン)にと 現役で今なお見事にマーヴェり続けるトム先輩の雄姿には完敗です! 持ってけ泥棒!アフターバーナー点火で限界突破のマッハ10点! 何にでもいつかは別れや終わりが来る。でもそれは決して今じゃない。 演じるマーヴェリックの生き様(パイロット人生)と自分自身の生き様(俳優人生)を重ね合わせてトム・クルーズが発するメッセージは かつて一作目を少年時代に鑑賞し、今や現役キャリアのゴールも視野に入る年齢になりつつある自分にとって最高のビタミン剤でした。 普段のクールビューティーぶりをかなぐり捨てて、鼻息荒く強引に鑑賞を勧めてくれた友人に感謝です。 [映画館(字幕)] 10点(2022-06-15 10:18:35)(良:1票) |
3. スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
「見に行ってよかった」 今回はもう、この一言に尽きる。前作エピソード8の悪夢的な出来栄えに加え、今作はあまり芳しくない評判も漏れ聞こえており、正直二の足を踏んでいたのですが、いやほんとに見てよかったです。(ひとまずは) もちろん1本の映画として見れば、単純なのに無駄の多い脚本、ご都合主義の展開、前作に輪をかけたフォース能力のチートぶりと相変わらずツッコミどころ満載ですが、40年間付き合った自分にしてみれば、これは「1本の映画」である以上に、映画史上に燦然と輝くスターウォーズという一大サーガの完結編なのであり(続きがある?そんなものは知らん!!)過去作をずっと追ってきたその目で見れば、感涙を禁じえない場面や登場人物、メカニックの雄姿は枚挙にいとまがなく、それだけでもう「一本の映画としては65点でも、スターウォーズ完結編としては200点満点!」なのです。 ただ、今作における僕の感動の9割がたをもたらしたのは、ジョージ・ルーカスという稀代の天才が生んだ「スターウォーズ」という宝の山を掘りつくした結果であり(新三部作も結局はルーカスの作った世界観、キャラクターありきの作品なので)後に残った残骸に、この先いくら凡人たちが寄ってたかって続編という名の張りぼてを積み上げても、もはや興味を持つ事も映画館に足を運ぶ事もないでしょう。 そういう意味で僕が贈る10点は、「42年間ありがとうジョージ・ルーカス」という感謝の想いであり、「さようならスターウォーズ!」という万感の想いなのです。 [映画館(字幕)] 10点(2020-01-14 16:02:31)(良:1票) |
4. レディ・プレイヤー1
《ネタバレ》 80年代ポップカルチャーを楽しむ「映像アトラクション」としてはもう文句なし、100点満点の120点! 一本の「映画」としては…残念、70点!(あちこちご都合主義かつ不合理な展開が目に付いて^^;) 間をとれば95点ですが、クライマックスの「俺はガンダムで行く!」の日本語セリフと ゴーグルに浮かんだ「ガンダム」のなつかしいテレビ版ロゴに+5点。 結果として「ちきしょーめ、持ってけドロボー!!!」の100点満点です。 [映画館(字幕)] 10点(2018-05-11 19:10:26) |
5. 天空の城ラピュタ
何度見ても楽しい。 見なくても様々なシーンを思い返すだけでワクワクできる。 映画で味わう感動にはいろいろな種類がありますが 少なくとも単純に「血沸き肉躍る」という点において 初めて劇場で見た31年前も今も、僕の生涯で「ラピュタ」に並ぶ映画は他にありません。 [映画館(邦画)] 10点(2017-10-10 13:24:28) |
6. ダイ・ハード
「ダイハード」以前と「ダイハード」以後。アクション映画の歴史にエポックを画した、まさにひとつの金字塔と言えるでしょう。無力な自分に思い悩み、泣き言をたれ、時にいきがり、ボロボロになりながら辛うじて勝利をおさめる汚い中年刑事。でもその姿が、たまらなくカッコいいのです。魅力的なキャラクターと周到に練り上げられた脚本。これで面白くならないわけがない。 [DVD(字幕)] 10点(2007-07-23 16:42:17) |
7. 侍タイムスリッパー
《ネタバレ》 ごめんなさい完全に舐めてました(汗 「侍が現代にタイムスリップする?ああwあるある(半笑い)。侍が「馬より速い鉄の箱があ!」とか「こんな小さい箱に人が入っとる!」とかパニックになるやつね。 そんで現代人にない純粋な価値観で周りの人の閉塞感を変えたり、侍ならでは戦闘技術を使って現代で知り合った人たちの危機を救ったりするんでしょ?」 全然違いましたね。 この映画が描きたいのは「タイムスリッパ―」ではなく、あくまで「侍」でした。 だからタイムスリップ物にありがちなカルチャーギャップネタは控えめ…どころか、周囲の現代人は(主人公が語らぬがゆえに)彼がタイムスリップしてきた本物の侍である事すら最後まで知りません。 大事なのは「侍」が未来に来て、そしてそれがゆえに、自分が置き去りにしてしまった「過去」や「自分が大切に守ろうとしていたもの」がどういう悲惨な結末を迎えたのか、「歴史」として知ってしまったという事。 そしてそれを今更どうにもできない彼が、現代社会ではほとんど無力な「武士」である彼が、果たして何を為せるのか、何を為すべきなのか…煩悶しつつ彼なりの答えを見つけ、最後に実行する姿を描き切る事なのです。 その決意を聞いた時、劇中でただ一人主人公の正体を知る男が涙します。 この場面、僕も目頭が熱くなりました。そしてそれゆえに、その男と主人公がクライマックスで繰り広げる「虚」と「実」がない交ぜになった闘いは熱く、激しく、見る人間の心を揺さぶる名勝負だったと断言できるのです。 [映画館(邦画)] 9点(2024-10-26 09:14:08)(良:2票) |
8. クラッシャージョウ
40年前(1977年)にスタートし、「本邦初のスペースオペラ」と言われた原作は、後に「機動戦士ガンダム」で名を上げる安彦良和の挿絵の魅力との相乗効果で人気を博す、今でいうライトノベルの走りでもありました。本作はその安彦良和と原作者の高千穂遙が中心となって制作され、「大人気小説がビジュアル的にも内容的にもその魅力をまったく損なうことなくアニメへと変換された」という、日本サブカル史上他に類を見ない名作です。 原作自体、複雑なストーリーよりも主人公たちの痛快な活躍に重きを置いていた作品で、アニメではその”痛快な活躍”が天才アニメーター安彦良和によって存分に描き切られています。とにかくキャラクターが動く動く…日常的な芝居から画面狭しと暴れまわる戦闘シーンまで、キャラの喜怒哀楽、指先の微妙な表情、かっこいいアクションが心行くまで堪能できます。 また最近知ったのですが、本作の大きな目玉である宇宙船や戦闘機の空中戦を中心とするメカアクションを手掛けていたのは、これまた後に「超時空要塞マクロス」において「板野サーカス」と呼ばれるアクロバティックなアクション描写で一世を風靡した板野一郎。「(アニメなのに)被写体の動きが速すぎてカメラが追いきれない(ように見える)」という斬新な描写は、すでに本作でその萌芽を見せています。まだ少年だった僕は「なんかわからないけどこんなの初めて見た!すげーかっこいい!!」と興奮したものでした。 当時本作は、全盛期の栄光はとうに失ったもののそのネームバリューはまだ強かった「宇宙戦艦ヤマト完結編」、大正義角川映画が宣伝にも力を入れた「幻魔大戦」と同時期公開となり、興行収入で両者の後塵を拝しました。しかし、乏しいお小遣いをやりくりしてリアルタイムで鑑賞した小学生の僕は「これを選んでよかった!」と大満足でしたし、その思いは自由に全作品を観られるようになった34年後の現在も全く変わっていません。 [DVD(邦画)] 9点(2017-03-02 11:04:19)(良:3票) |
9. シン・ゴジラ
《ネタバレ》 キャッチコピー通り、「日本VSゴジラ」の死闘を描き切った快作だと思う。 ハリウッド映画的な飛びぬけたヒーローはおらず、あくまで官僚”たち”、自衛隊員”たち”、科学者”たち”、政治家”たち”、といった 集団の力の集合が未知の脅威ゴジラを打ち負かすところが何より日本的だ。 やたらめったら集めた「328+1」人の豪華出演者は最初「大丈夫か?」と思ったが、そういう有名人が”端役”となって出てくると 個々にパワーを持った彼らでさえ「石垣の中のほんの一つの石」にしてしまう「”集団”というものの力強さ」が浮き上がってくる。 高度経済成長を象徴する新幹線や在来鉄道車両が自走ミサイルとなってゴジラの足元を崩し、 ゴジラより高くそびえる超高層ビル群が崩れかかってその巨体を押しつぶさんとする。 (62年前、日本の建物はゴジラに踏みつぶされる障害物でしかなかった。今の高層ビル群はまさに 半世紀強の間にゴジラを追い抜いた日本の暗喩ともとれないだろうか?) そして勝負を決めるのは日本が世界に発信する<OTAKU>たちの作戦であり、それを裏から支えるのは日本をしょって立つ 弱腰でありながら老獪な政治家たちだ。 まあ、米軍の力や海外のスパコンを借りたりする場面もあるが(^^;)おおむね”日本という国、日本人の力”が ゴジラという外敵に打ち克ったストーリーは、右翼左翼といった偏狭な考え方とは別の次元で純粋に血をたぎらせてくれる。 この作品に出てくる日本人たちはある部分はリアルであり、ある部分はマンガチックな理想像(フィクション)である。 その両極端な像が絶妙のバランスで融合され、僕にはそれが非常に楽しかった。 日本人として、オタクとして、庵野秀明という才能と同時代に生きられたことを至福に思える120分間だった。 [映画館(邦画)] 9点(2016-08-04 13:32:37)(良:4票) |
10. IAM A HERO アイアムアヒーロー
《ネタバレ》 「バイオハザード(ゲーム)大好き!ゾンビ映画は数本…」という程度のゾンビキャリアですが、 ゾンビパニック物として素直に「凄い!」と思えたし、一人のダメ男の成長物語としてもグッときました。 途中までは「英雄(えいゆう)と書いて英雄(ひでお)です」と、英雄(ヒーロー)とは程遠い自分を自虐的に自己紹介していた主人公が… 「世界が引っくり返っても自分は何もできない、何にも変われない」と悔し涙を流していた情けない男が… なけなしの勇気を振り絞って二人の女性を救った時、今まで自分を”メガネ”と呼んでいた相手に自分の事を 「鈴木英雄。ただの英雄(ひでお)です」と、あっさり名乗る。 そう、本物のヒーローになった男は、決して自分の事を「ヒーロー」とは口にしないのです。 [映画館(邦画)] 9点(2016-05-08 17:13:21)(良:1票) |
11. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 ゼロ戦・飛行機の創造に魅入られた”天才肌の欠陥人間(分野は違えどまさに宮崎駿!まさに庵野秀明!)”と、そんな男を愛してしまったけなげな女の物語。 飛行機は美しい。堀越ニ郎は美しいものを見ていたい。美しいものだけを。 飛行機と同じように彼は「美しい」から菜穂子を愛した。だが、(あるいはだからこそ?) サナトリウムで美しさを失っていく菜穂子を見舞うより、彼は美しい飛行機の創造を優先してしまった。 それでも彼を愛し、ついに山を下りて、自分がまだ美しくいられる最後の日々を 二郎とともに過ごし、そして死期を悟って一人去っていく菜穂子の姿はひたすら悲しい。 最後に菜穂子は死ぬが、同時に失敗続きだった二郎の実験機は劇中初めて成功する。 ゼロ戦はついに子を持つことがなかった二郎・菜穂子夫婦の愛の結晶のメタファーだったのかな? [映画館(邦画)] 9点(2013-09-19 11:39:42)(良:2票) |
12. バトルシップ(2012)
《ネタバレ》 この世にいい映画は二種類ある。ひとつは、巧妙な設定やキチンと整合性のとれた高度なプロットで見る者の頭脳に訴えかける「かしこ(賢い)映画」。そしてもうひとつは、「細けーことはどうでもいいんだよ!」と、細部の整合性や真っ当な理屈よりも、いかに見る者のエモーションをかき立てるか、ハートを震わせるかに重きを置いた「バカ映画」(こういうのはただ筋書きが破綻してるだけでは、「バカ映画」未満の「愚作・駄作」になってしまう)。「なんで高度な科学力を持つエイリアンがこんな弱っちーの?w」と冷笑するよりも、巨大宇宙戦艦とアメリカ海軍艦艇のがっぷり四つの派手な海戦にコーフンしたり、「この爺さんたちなんでこんな都合よく出てくんのよ?」とあきれるよりも「老兵カッコいい!いけえ、ミズーリ!」と無邪気に喝采を送ってしまったりした僕にとっては、この作品はまさに「正しい、すばらしいバカ映画」でした。満点はさらにパワーアップするであろう続編(あるかな?)への期待を込めて、とっておきます。^^ [映画館(字幕)] 9点(2012-05-01 08:46:56)(良:1票) |
13. SUPER8/スーパーエイト(2011)
《ネタバレ》 個人的には近年稀に見るジュブナイルSFの秀作。主人公は母親を失い、父親、友達との関係にもどこか鬱屈したものを抱える少年。そんな彼のささやかな日常が突然崩れ去るところから、物語は始まる。理不尽な大人たちの陰謀、少年の世界を破壊する異形の生物、その中で育まれていく小さな恋…。初恋の少女を救うために力を尽くした少年は成長し、視野を広げ、戦うよりも対話する事によって、異形の生物と彼なりの「ファーストコンタクト」を果たす。「未知との遭遇」、「ET」、「グーニーズ」、「ジュラシックパーク」…スピルバーグ映画と共に育ってきた自分にはそれらを思い起こさせる要素が散りばめられ、それだけでなんだか嬉しくなる。事件は社会性を持ちながら、あくまで少年にとっての全世界である「町」の大事件以上のスケールには広がらず、少年の日常に影を落としていたさまざまな人間関係の対立は、事件を通して解消される。命を落とす被害者は少年の「敵」である大人か、ほとんど感情的交流がない第三者に限られているから、怪獣への憎悪もギリギリ抑えられ、クライマックスにも普通に感情移入できた。描かれたあらゆる要素が少年の成長と幸福のためのステップに昇華され、そういった意味でまさしくこの映画は、「正しいジュブナイルSF」なのだと思う。 [映画館(字幕)] 9点(2011-07-14 13:44:48)(良:3票) |
14. メッセンジャー(1999)
何度見ても爽快な、「ガール・ミーツ・ボーイ」の佳作。 常に「お洒落な若者たちの姿」を描くことに腐心するホイチョイ映画がポストバブル時代に舞台としたのは、一見お洒落さとは無縁な自転車便の世界。 華やかなアパレル業界を追放された勘違い女が、ふとしたきっかけでやる羽目になった自転車便で地に足をつけた労働の尊さを学び、 「いかしたお姉さん」に変貌していく姿を描いた物語です。 いわば現代版「アリとキリギリス」とでも申しましょうか。「汗水たらして地道に働くことが格好いいんだ!」という単純だけど普遍的なメッセージは、 この作品に10年近くたっても古びない強靭さを与えていると思います。 ホイチョイらしいお洒落なセンスで、本当は大変なのであろう自転車便の仕事を、楽しそうに見せてるところも秀逸。 実際やったらかなり危ない運転や「ンなあほな!」的シーンも多いんだけど、あくまで現代のおとぎ話なんだから、固いことは言いっこなし!^^ [DVD(字幕)] 9点(2007-12-07 23:22:25)(良:1票) |
15. 特攻野郎Aチーム/必殺大西部作戦<TVM>
Aチームのスペシャル版はいくつもあるけど、これが一番好き。二時間枠のAチームは実は、本国での一時間作品を日本側で二つつなげて「スペシャル版」に仕立て上げた物なんかもあるのですが、この「大西部作戦」は別物です。長尺の中で起承転結をしっかり描き、野生馬泥棒と闘うAチームの活躍も普段よりスケールアップ。いつものお約束を踏襲しつつ、しかし単なる一時間のレギュラー枠の水増しではなく、二時間枠でなければ成立しない作品にちゃんと昇華されているのがお見事です。あと、ラストカットが数あるスペシャルの中で最も印象的。「ああ、いい物語を見たなあ」という気分に浸らせてくれます。 [地上波(吹替)] 9点(2007-07-24 15:59:59) |
16. シン・ウルトラマン
《ネタバレ》 正直、一般向けの「映画」として観るか、ファン向けの「ウルトラマン映画」として観るかで評価の分かれる作品だと思う。 マニアというほどではないが、かつては確かにウルトラマン好き少年だった自分としては、現代向け、大人向けにアップデート(アップグレード)されたウルトラマン映画として、”ほぼ”文句なしに楽しめた。 かつてのテレビ用特撮ドラマ感を残しつつ、映像的に洗練された怪獣バトル。シン・ゴジラにも通じるリアル指向のストーリー。 ことに、メフィラス星人を軸にして、個々の怪獣(禍威獣)や異星人(外星人)にまつわる事件を、外星人にとっての人類の”存在意義”と絡めて一本のストーリーラインにまとめあげた脚本には、「やっぱり庵野さんってすごいな」と唸ってしまった。 特に最後の敵ゼットンの扱い方に関しては、ある程度ウルトラマンに通じている観客は「そう来たか!」と意表をつかれた(し、それ以上の特撮マニアは苦笑しつつ膝を打った)事だろう。 ただ脚本に関しては、ファンならばなんとなく脳内で補完してしまうような、そしてあまりウルトラマンを知らない観客にしてみれば 理解できないまでも物足り無さを感じるんじゃないか、と思ってしまうような不備がちょくちょくある事も否めない。 (たとえばメフィラス星人との決着などは、ウルトラマンファンがその狡猾さと紳士的振る舞いが両立する行動を「メフィラスらしいなw」と思う一方で、あまりよく知らない観客は「え、ここまでやったのにそんなあっさり退散しちゃうの?」と戸惑うんじゃないだろうか) そして映画として最も物足りなかったのは、やはりクライマックスである。 絶対敵わない相手に立ち向かうヒーロー、ヒロインとの涙の別れ、敗北からの一縷の希望、人間の叡智の結集、そして勝利。上がる要素てんこ盛りのはずである。 なのに、あがらない…! 上映時間の制約や物語の構造上、個々の人間ドラマの掘り下げが難しく登場人物に感情移入しづらい(特に主人公は半分人間じゃないし…)など、原因は色々あるだろうが、やはり個人的には「人類絶滅の危機!」という絶望感が決定的に足りなかったんじゃないか、という気がしてならない。 「もう絶対勝ち目はないから人々にはあえて知らせず、平和な日々の中で皆で死のう」という対応策はある意味”リアル”ではあるだろう。だがそのせいで、最高のクライマックスが、ウルトラマンとごく一部の狭い人たち(その姿さえ画面では描かれない!)による「人知れぬ闘い」になってしまった。 やはりウルトラマンが全人類の希望を背負って戦い、たとえ一度は敗れたとしてもその意志を継いだ者たちと共に再び立ち上がり、そして最後には勝利を収めて全人類に讃えられ報われる姿を見たかった、というのは僕の的外れな望みだろうか… ただ、もちろんクライマックスはクライマックスとしてちゃんと機能していたし、幾分かの不満はあるものの、トータルすればこの作品にはそれをはるかに凌駕するワクワク感と興奮があった。 今はそれだけでいい。本当に時間が経つのを忘れて楽しんだ二時間だった。 ありがとう庵野さん、ありがとうすべてのスタッフ。 そして、そんなに人間が好きになってくれてありがとう、ウルトラマン!! [映画館(邦画)] 8点(2022-05-19 16:57:31)(良:1票) |
17. イエスタデイ(2019)
《ネタバレ》 僕は子供の頃から漫画家志望で、中学時代、昔の超マイナーマンガのアイデアをパクって漫画賞に応募したこともあります。 それは幸い(?)にも最終選考で落ちましたが、後になって思えば、もしそんな作品で賞を取ったとして、クラスメートに自慢できたとしても、どれだけの後ろめたさと、「バレたらどうしよう」という不安にさいなまれた事でしょう。そんな黒歴史を持つ僕にとっては、この映画の興味は「ビートルズ不在の世界」よりも、他人の名作をパクったミュージシャンがどう自分の心と折り合いをつけるのか、どういう結末を迎えるのかにありました。 最初こそ躓くものの、エド・シーランとの邂逅をきっかけに、一気にスタ-ダムを駆け上がっていくジャック。そのために大事な幼馴染と別れ、時に「結局は「盗作」で名声を得ている事」に悩みながら、それでも一度乗った「スターという列車」からは下りられないジャック。それでいいのか!? 結局、終盤に出てきた「彼以外にビートルズを覚えていた人物たち」から贈られた予想外の言葉と「あの人」との出会いによって、はっきりと自分が進むべき道を悟ったジャックがとった行動は、観る人によっては「それで全部済ませる気か!!(怒)」という大迷惑かつ大甘なものだったかもしれません。それでも僕にとっては、彼が出来る限りの誠実さで「ビートルズのない世界」に恩返しした、最高の贈り物だと思えたのでした。 [映画館(字幕)] 8点(2019-11-19 10:27:57) |
18. SPACE BATTLESHIP ヤマト
《ネタバレ》 キャ●ャーン、デ●ルマン、ヤッ●ーマン…子供の頃夢中になった名作アニメの実写化に胸躍らせて劇場に足を運び、何度打ちのめされた事でしょう。 アニメならではの大仰な世界を実在の役者が演じる、薄ら寒いこっ恥ずかしさ。派手なVFXに溺れ、原作の魅力が換骨奪胎されて失われる無念さ…今回もそうなるかという不安は、しかし今回ばかりは杞憂でした! 何よりこれは「実在の役者が演じる一個のSF作品」として立派に成立しています。そのために原作の「まんま現実に移し変えたらあまりに不合理、不自然、マンガチックになってしまう」ような設定は色々改良されています。脚本やVFXの不満な点も、「SF作品」としての今作に向けられたもので、もうそれだけでかつてのヤマトフリークとしては満点に近い出来なのです。 ただし、不満点も決して小さくありません。 まず、反発→交流→恋愛→別れと映画の中ですべてを描かなければならないために、主人公とヒロインの恋愛模様は唐突かつ駆け足で、とくに「TPOをわきまえんか!」とおそらく公開初日に全国で数十万人がツッコんだであろうワープ中のメイクラブと、最終決戦時、目の前の敵巨大戦艦をほっといて長々と展開される別れの愁嘆場は、もう少し何とかならなかったのかと……。 さらに最大の不満点は、第一シリーズに不可欠な往復29万6千光年の長旅のスケール感が、まったくなかった事。劇中で時間経過はほとんど描かれず、「え、もうイスカンダル?」「え、もう地球?」という小ぢんまり感は、「宇宙戦艦ヤマト:はじめてのおつかい激闘編」とでも申しましょうか…もう少し何とかして欲しかったです。この二点で2点減点させていただきました。 [映画館(邦画)] 8点(2010-12-02 13:20:40)(良:2票) |
19. ゴールデンスランバー(2009)
《ネタバレ》 ごめんなさい普通に楽しめちゃいました^^原作を読んで、決して和製「逃亡者」ではない、とわかっていたからかもしれません。 原作でも何度も繰り返される「もう、詰んでる」という台詞……。そう、実際にもし巨大な陰謀に巻き込まれたら、一般人は勝てない。間違ってもその陰謀を暴くことなんて出来ない。要するにこの作品は、負けが決まっている勝負に叩き込まれて、それでもまだ、もっともマシな負け方を目指してあがく男の物語なのです。その中で、過去の人のつながり……学生時代の友人、恋人や職場の仲間、そして家族の「信頼」が主人公を助ける。そこが僕にとって、この映画の何よりの肝。 だから、ストーリーのさまざまな不自然さ(森田の不合理な役回り、完全にご都合主義のキルオ、オンボロ放置自動車がバッテリー交換と給油だけで自在に動きだす不自然さetc)は瑣末な問題としてあまり気になりませんでした。 そしてだからこそラストシークエンスで、見事逃げ切った主人公の、助けてくれた人々に対する彼なりの粋な「お礼」と、かつての恋人からもらった最大級の賞賛に「よかったな」とホロリとさせられたのです。 [DVD(邦画)] 8点(2010-10-20 13:26:58)(良:5票) |
20. 第9地区
「差別されるエイリアン難民」という基本コンセプトが面白い。南アフリカという舞台からして明らかにアパルトヘイト政策のメタファーなのでしょうが、変に政治的メッセージを盛り込まず、(ドキュメンタリータッチの序盤をのぞいて)主人公である小役人の視点で「事件」を描いているのがいい。とかく宇宙人映画は大仰な侵略・戦争を描いた作品か、ファーストコンタクトそのものをテーマにするような作品が多いですが、まだまだこんな切り口があったのですね^^ただし、ややグロい描写もありますので、スプラッタ的なものが苦手な人は気を付けた方がいいかも… [試写会(字幕)] 8点(2010-03-13 22:22:55)(良:1票) |