1. 雲霧仁左衛門
《ネタバレ》 池波正太郎原作であれば、余韻や人情の機微を期待してしまう。 例えば無駄な殺生はしない真っ当な(?)盗賊は、火盗改めを小気味よく出し抜いたり、 悪運尽きてお縄にかかる時は潔く…それが池波スタイル。 ところがこの作品は、そこがおざなりになっている。 大仰な斬り合いが多い割には、双方が知略を尽くすという醍醐味は殆ど感じられない。 フジテレビのシリーズや最近のNHKのBS時代劇の方が、そこは丁寧で、事実名作も多い。 それと、裸のシーンがやたらとあるのも、制作時期ならではかもしれないが、なんか下品。 ただ、高松英郎、長門裕之、夏八木勲らの脇を固める名優陣の抑えた演技は素晴らしく、 池波スタイルを何とか保持している感があった。 終盤の名古屋城の仇討とかを無理に入れずに、ラストの仲代達也と市川染五郎(六代目)の解合のシーンに もっていけば後1点追加だったような作品。 [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 5点(2021-03-30 08:27:43) |
2. アメリカン・グラフィティ2
《ネタバレ》 自宅で1作目を友人と観る機会があり、その勢いで2作目も観賞。 公開時には酷評が目立っていたが、しっかりと前作の内容を引き継いでおり、空気感は異なるものの、正統派の続編と言える。 エピソードによって画面サイズが変わるのも、時代を感じさせる上手い演出だった。 カートだけは登場せず、セリフでしか名前が出て来ないのが、残念な点。 物語は4つのエピソードを年を重ねながら進められる。 ①ジョンのエピソードは、田舎町のレーサーとしての英雄譚。 時代もまだ明るい空気が漂っており、前作のイメージを一番残している。 レースでの結果は、町の連中がジョンを助けて、盛り上げて、一緒に勝ち取ったもの。 この田舎町ではジョンミルナーは人気者なのだ。 北欧から来た美人の留学生とのエピソードも、ジョンらしく一筋縄ではいかないが、レース後の会話が何しろ微笑ましい。 それだけにラスト、波打つ坂道で黄色いデュースクーペが見えなくなるシーンは、胸が締め付けられる。 ②最も印象深いのは、戦場でのテリー。 リアルな戦場シーンにも正直驚いた。 1作目のおっちょこちょいで、臆病だったテリーの面影はなりを潜めて、仲間の命を救ったり、 壮絶な(友軍の)攻撃から、飄々と生還したりと、一人前の男として頼もしく成長している。 理不尽な上官に逆らったり、戦場離脱を企てたりという行動は、臆病風に吹かれた訳ではない。 彼の理想が戦場に無かっただけだ。 痛快にも部隊を脱した彼が、その後行方不明になってしまう件は、作品の中では直接描かれてはいない。 彼の前向きな行動と、力強い生命力。 決して死ぬんじゃないぞと、祈らずにはいられない。 ③デビーのエピソードは、最もお気楽。 時代背景はとても退廃的でありながら、彼女の持つ素直さや、ポジティブさが、コメディパートとして息抜きとなる。 ただ「大晦日は嫌い。とても良い友人が二人も死んだ日だから」というセリフには悲しくなる。 破天荒だが、いい仲間との出会いがあり、飛び切りの笑顔が見られた、一番のハッピーエンド。 ④夫婦となったスティーブとローリーの喧嘩は相変わらず、それどころか激しさは増す一方。 しかし、「いちご白書」を彷彿とさせる、学生と警官隊の激突に巻き込まれる事によって、 1作目同様、結局信頼関係を強めていく、ある意味進歩していない二人に、何故かホッとする。 4年にわたる大晦日、それぞれの「蛍の光」の歌唱で締めくくられるラストは、明らかに前作より悲しい。 混沌とした時代に突入してしまったアメリカが、1962年の様に輝きが感じられないのは、この時代の日本も同様。 再上映や、テレビでの放映がほとんどない本作、確かに、前作のような爽やかさはない。 しかし時代の厳しさに翻弄されながらも、前に進む事を選んだ彼らに再会できたのは、やはり嬉しい事であった。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-01-28 08:48:31) |
3. 刑事コロンボ/忘れられたスター<TVM>
俳優で声優の小池朝雄さん。父の竹馬の友で、朝雄おじさんと呼んで、親戚付合いをさせてもらっていました。 そんなおじさんが亡くなられたのが33年前の3月、享年54歳。今の自分と同じ歳。 高校生だった自分は、生前のおじさんに無理なお願いをして、声優を務めていた刑事コロンボの台本を1冊欲しいとねだり、 そして頂いた本が、32話『忘れられたスター』。 なぜこの作品だったのか尋ねると、単純に自分が一番好きなコロンボの作品だからと言う事。 今でもこの台本は家宝です。 改めて観ると、物語の切なさと、コロンボの優しさが心に残る傑作。じわっと涙が出てくるラストです。 余韻という言葉が最も似合う作品でした。在りし日のおじさんを偲び、10点。 [DVD(吹替)] 10点(2018-03-14 08:07:17)(良:3票) |
4. ビッグ・ウェンズデー
《ネタバレ》 自分はサーフィンをやらないどころか、海に行くと赤く火ぶくれになってしまい、しかも泳げない。海は行くものではなく、眺めるもの。裸になるのも肉体的に自信がない。夏は苦手。 そもそも暗い映画館浸りの青春だったから、眩しい太陽なんかとは縁がない。海で裸で、女の子が常に傍にいるなんて事有り得ない。 映画サークルに在籍してたんだ。男子校の中でも「いけていないカテゴリー」だったんだ。 だから、この映画に出ているような連中なんて大っ嫌いだった。乱痴気騒ぎのパーティーや、友情の絆を試みるような徴兵、車で国境を超えて行くドライブ、そして何故だか何年かに一度、水曜日にやってくるという伝説の大波。。。。水曜日、自分とこには、水野晴郎の水曜ロードショーくらいしかやってこなかった。しかも毎週。悔しくて、羨ましくて涙が出てくる。 大好きな映画。 [DVD(字幕)] 9点(2015-06-24 08:33:43)(良:2票) |
5. ヘアー
《ネタバレ》 「グッド・モーニング・スターシャイン」のコーラスが素晴らしい。オープンカーで荒野を疾走するシーンは何とも明るく、楽しく、そして切ない。 ここでの背景の青空に感じられる解放的なイメージは、「カッコーの巣の上で」のクルーザーで釣りに出かけるシーンと相通じる。疑いもなく今を楽しんだ後に訪れる現実とのギャップ。あくまで本能のまま生きようとする主人公たちに待っている残酷な試練。 この時代のミロス・フォアマン監督は笑いと、そこからの突き落とし、そして静かに染みわたっていく怒りを描くのが実に巧みであった。 ラストの大群集のシーンでの「レット・ザ・サンシャイン・イン」。何度も繰り返されるフレーズ。未だに心の中で鳴り響いて止まない。 [DVD(字幕)] 8点(2015-02-18 08:50:50) |
6. タワーリング・インフェルノ
《ネタバレ》 他の方の投稿を観て、何だか無性に懐かしくなり改めて夜中の鑑賞。 やはりマックイーンは相当に格好いい。 特に、宙吊りエレベーターの必死の救出後、息つく間もなく再度屋上に誰かを登らして、貯水タンクを爆破しその落下水圧で消火しろ、という実際滅茶苦茶な計画を上層部から告げられる場面。 緊張感がすごく高まり、ついにマックイーンがキレるかと思わせた直後、一瞬の呆れ顔と自虐の捨て台詞を残し、彼は自ら颯爽と現場へと立ち向かう。このヒロイズム、ニヒリズム。 あと建築家のポール・ニューマン。身内業者の手抜きが火災の原因という負い目はあったにせよ、率先して人命救助に当たり、パイプ伝いの必死の救出劇を繰り返す。 頭も身体も目一杯使う。昨今の先逃げ船長たちに見せてやりたい彼の責任感。 また、冒頭、ジョン・ウィリアムスの躍動感あるテーマ曲に乗せて、ヘリコプターでビルの屋上に降り立ったニューマン。 拳を掲げてパイロットに挨拶するさりげない仕草。本当に格好いい。 もう二人とも故人。 懐かしさと寂寥感に包まれた再見であった。 [DVD(字幕)] 10点(2015-01-15 08:02:04)(良:1票) |
7. カプリコン・1
《ネタバレ》 ジェリー・ゴールドスミスの躍動感ある主題曲が印象的。朝焼けに浮かび上がる発射台の冒頭シーンの臨場感は正統派のSFスペクタクルの幕開けを予感させる。 観覧席における政治家同士の皮肉の応酬も現実にありそうで、開始15分ですっかり引き込まれてしまった。 その後の展開は、迫力あるチェイスシーンや渋いゲスト陣の好演によりメリハリのあるものだったが、国家陰謀を描いた部分の完成度は、随分と隙や手落ちがあった感も否めない。 異変に気がついたNASA職員の消され方に比較して、FBIまで動員しながらエリオットグールドを抹殺しきれない展開や、フェイクの撮影をしたセットをそのまま残しておくなど、もう少し丁寧な描き方(ネタの回収)がされていればサスペンス物としての完成度も更に上がるはずなのに。多少残念。 だだ、多くのレビューの中で比較的評判の良くないラストシーンの描き方に関しては、自分としてはすごく好印象。 新聞記者と、生き残った宇宙飛行士のがスローモーションで走り寄って来るシーンを、テレビ局のカメラが一斉に捉える。火星着陸のトリックを信じ込まされた国民が、今度は有り得ない現実をまた生中継で目にする事に。その後起こった騒動を想像するだけでもカタルシスを味わえる。 何故今さらこの作品を鑑賞したかと言うと、最近カレン・ブラックさんの訃報を知り、彼女の迫力ある風貌を見たくなった為。出番は僅かだが、発するセリフがとても粋で、テリーサバラス同様、とても輝いていた。 [DVD(字幕)] 8点(2014-01-31 09:05:41)(良:1票) |
8. 激動の昭和史 沖縄決戦
《ネタバレ》 仕事で沖縄を訪問した際に、彼の地で起こった激戦の史跡を見る機会に恵まれた。それぞれ資料館も併設されており、悲壮な史実も改めて知るに至った。 その勢いで帰宅後、この映画をDVDにて再見。 岡本喜八監督は「死」の表現を、それこそ圧倒的な艦砲射撃のような勢いで描き続ける。そして観るもの全てに容赦なく「死」を叩きつける。 切腹という自決方法を選んだ牛島中将や長(ちょう)参謀長の「死」(切腹の様式美にこだわろうとする幹部面々の思いがめちゃめちゃになる演出が秀逸)から、戦車に轢き殺される兵員の「死」、鎌で幼子と自らの首を掻っ切る「死」、乙女達の服毒「死」。本当にあっけない。感傷などに浸っている隙もないほど当然にそして慌しくそこにある「死」。 その「死」の持つ意味を見出す事が鑑賞後の責務といえる。 実際、その期間の沖縄に何が起こったのか、じっくりと考える時間を持たねば、この映画も史実も単なる悪夢に過ぎなくなってしまう。 この沖縄戦に限って言えば、自決を含め、兵士や士官の死(日米双方)は殉死であり、刀を振り上げて突入する姿はある意味悲壮感とは程遠く、覚悟を決めて「格好良い死に方」を自己表現出来た幸せな「死」であったといわねばなるまい。 一方で敵味方に自らの大地に踏みにじられ、訳も判らないうちに「皆死ぬんだから」という空気の中で、集団自決を強いられた多くの県民の「死」は、それこそ浮かばれるはずも無く、ただ、ただ悲惨で残酷である。決してここの地の「死」は平等では無い。 それだけに、「戦場を歩く少女」が、ラストで死者の水筒を手に取りその水を飲み干すシーンの清々しさは鮮烈な印象であった。生きる権利を掴み取った者の強さとたくましさ。彼女こそ、戦後の沖縄県民の象徴であり希望である。 重い重い2時間半の最後にやっと救われた思いがした。 日本軍部、アメリカ軍、それぞれの思惑に翻弄され続け、県民全体の約4分の1の尊い命を失い、さらに四半世紀も占領下であり続けた沖縄県。戦争前から続く侵略と略奪の歴史。現在の基地問題。等々・・・。 常に歴史の厳しさの矢面に立たされながらも、どこかで「受け入れる事」「共存する事」を日常化してしまっている沖縄県民。愛おしすぎる。 日本人として見るべき映画。 [DVD(邦画)] 8点(2012-11-04 16:41:05)(良:2票) |
9. 華麗なるヒコーキ野郎
《ネタバレ》 イントロダクションの躍動感が何とも心地良い。航空ショーを見に通う常連の子供に対して、ウォルドがガキ扱いして邪険にしたと思った矢先、次のカットでは機上で満面の笑顔の少年が描かれる。ガキであろうと「男」は「男」として扱う。このテンポ。このセンス。ジョージ・ロイ・ヒルならではの演出が輝いている。ヘンリー・マンシーニのスコアもすこぶる快調。 ケスラーとの「男」の一騎打ち。その後に待ち受けるだろう「死」などは眼中には無く、ひたすら本気である。バカバカしい。でもすがすがしい。惚れ惚れする。 [DVD(字幕)] 9点(2012-05-02 12:55:21)(良:1票) |
10. リトル・ロマンス
この映画を見て、同世代のダイアン・レインに憧れたのが高校2年の時。もう39年前。 ファンレターを一生懸命、英語で書いて、何だか語学の勉強になってしまった。 元来、大好きなジョージ・ロイ・ヒルが監督なので、観る前から期待度は高かかった。 それこそ、2年間くらい「リトルロマンス」テンションが続いていた。 「何とかロス」って言葉が昨今使われているが、映画の上映が終わる度、まさに「リトルロマンス ロス」になり、ロードショー公開が終わっても二番館、三番館に通い詰めていた。自分の純情シネマ時代の象徴的映画。 パリ・ベニスの美しい風景、J・ドルリューの心に響く旋律、時に「明日に向かって撃て!」の左右に振るカメラワークを彷彿させるロイ・ヒル監督の心憎い演出。主役の若い二人の新鮮で楽しい駆け引きなど、すべてが大好きな映画だった。 そしてローレンス・オリビエ卿。温かい演技。映画のラスト、幼い二人の痛い程切ない別れを、優しい眼差しで見つめていた。 同じくティーンエイジャーの楽しくも切ない男女逆転恋模様を描いた、大林宣彦監督の傑作「転校生」。 明らかにこの映画をリスペクトしている。去りゆく彼女の車を追うラストシーン、主人公の男の子が映画好きって設定まで一緒だもんな。 今でもDVDで思い出したように見る映画、傑作。思い入れも強すぎるから、満点になってしまう。 [DVD(字幕)] 10点(2009-04-22 22:17:30) |
11. トラ・トラ・トラ!
感情移入しない淡々とした演出で、国内外の政治的駆け引きを前半これでもかと見せつけた上での、後半の戦闘シーンのカタルシス。大本営発表によって歓喜した当時の日本国民同様、歴史としての敗戦を周知している自分も、奇襲による圧倒的、一方的な戦果を描いたシーンには不謹慎にも興奮、喝采してしまう。 印象的な攻撃シーンとして、カーチスP40がゼロ戦の機銃掃射で離陸前に撃破される場面。何度見ても驚愕する。死傷者が出たという撮影の凄まじさは納得できる。またレシプロ機といえども、急降下で迫りくるそのスピード感はCGでは表せないであろう迫力である。 しかし、本命の攻撃目標たる空母を発見できない状況下、南雲中将の弱腰の帰還命令や、山本長官の虚しい思いを述べたラストシーンで、あっけなく現実に引き戻される。実際、その後目覚めた巨人の国を挙げての復讐戦のすさまじさは、日本国民に取り返しがつかない犠牲を生んでしまった。 ほとんど軍人と政治家、外交官関係者しか登場しない劇中、彼らの苦悩、悲劇がストレートに感じられた。日米合作である事の意義が見事に活かされている。 そして日本軍人の凛々しさと尊厳を、ハリウッド資本の映画でここまできっちりと描く事を是とした米国製作者一同に心から感謝。 [DVD(字幕)] 10点(2009-04-22 21:53:05)(良:1票) |
12. 遠すぎた橋
《ネタバレ》 空一面を覆い尽くす落下傘部隊の映像と壮大なテーマ曲だけで、ミリタリー好きの中坊は簡単にノックアウトされた。 しかし、友人からは映画に使用された戦車等の使い回しが、現実に使用されていたものとかけ離れすぎているなどと、激しく批判された事もよく覚えている。どうでもいい中学生の知ったかぶりの会話だ。 ただ、G・ハックマン演じるポーランドの旅団の悲劇や、J・カーンの軍曹のエピソードなど、ストーリ上のいかにも映画的なシーンが、実はノンフィクションであったりした訳で、あくまで真実の歴史と、戦争の空虚感を描く事に重点を置いて、時代を継承させる重要な映画であったことを、再見した10代後半の頃にようやく気づく事ができた。 それとR・レッドフォードの登場シーン。何か、画面が輝いていたような気がする。 結構、後半に、しかも数少ない出演場面。敵の弾を自分が華麗によけて、結果後方の部下に当たらせて死なせてしまうような間抜けなシーンもあるのだが、やっぱり当時はダントツに恰好良かった。聖母マリアへの祈りを呟きながら河をボートで渡るシーンなど、鳥肌もの。 世間からは過小評価されすぎの様な気がする。傑作。 [DVD(字幕)] 9点(2009-04-22 21:31:22) |
13. アメリカン・グラフィティ
《ネタバレ》 ラスト近く、R.ドレイファスが飛行機の窓から下界を見ると、一晩中街で探し回っても出会えなかった白いTバードが、あっけなく見つかる。だが、彼は機上の人。手の届かない距離感に、苦笑するしかない。熱病のような一夜の感情は、それでも案外苦笑だけで収まってしまう。 その画面に主要登場人物のその後が、白黒のフリップで浮かび上がる。過酷な未来を、それも結構突き放した感じで。そして、ビーチボーイズの「オールサマーロング」が軽快に流れてエンドロール。 未来への辛い予感を漂わせながらも、永遠に彼らの脳裏に刻み込まれたであろう一晩の出来事を見事に演出しきった、若き日のルーカスのセンスに脱帽。 [DVD(字幕)] 9点(2009-04-22 08:50:02) |