1. ドッペルゲンガー
当然フライシャー「絞殺魔」を観ていなければこの作品の真価は到底分からないのだけれど、それにも増してこのサスペンスフルな緊張と、笑ってしまうほどめちゃくちゃな展開には度肝を抜かれる。一つ一つのショットが洗練されており、ハンマーでの「ゴンッ」という音や、突き落とすときのタイミング、ユーモラスなドッペルゲンガーなど、素晴らしいカットには枚挙に暇が無い。ラストのロードムービー的な展開は黄金時代のハリウッドを意識しているに違いない。踊りながら海に落ちていくロボットとそれを後ろで見つめる男女。素晴らしい構図だ。男と女と車がいれば映画ができる。ロボットが居ても映画はできるということを黒沢清は証明した。 [DVD(邦画)] 8点(2014-08-18 20:09:50) |
2. ラ・パロマ
この奇怪で妖しい魅力こそが映画の魅力であると断言してもいいような、空前絶後の作品であることには間違いは無いが、その魅力を言葉で表現するのは困難である。冒頭、帽子をかぶった煙草を吸う女のクロース・ショットから始まるが、そこで繰り広げられるのはいかがわしいクラブの緩慢な日常である。カメラはあくまでのろのろと動き、人々は歌や踊りを繰り広げる。この序盤に注目すべきは、これこそが主役といっていいようなランプシェードであり、人間よりも目を引きつける存在である。そこから一転して死期の迫るラ・パロマ。鏡を使って一瞬のムダもなく入る医師は一目見るだけで診断してしまう。この荒唐無稽さこそがシュミットの演出の真骨頂で、映画であることの徹底なのである。同様に、母親がラ・パロマと同じくらい若く、息子と違ってフランス語を話すのもおかしいが、だからどうしたというのか。そして脈絡のない山頂でのデュエットは、一度観たら決して忘れることはできまい。なぜ歌うのか、なぜ二人で歌うのか、なぜ場所が山頂なのかは全くわからぬまま、その当惑と共に一生脳裏に刻み込まれる。そしてラストシーン。このマジシャンのセリフがこの映画を端的に表している。決して忘れることのない映画。 [映画館(字幕)] 10点(2014-07-15 07:37:57) |
3. Seventh Code
まず最初に断っておかなければならないのは、本作は前田敦子の新曲「seventh code」のPVという位置づけであることだ。従って総合的なプロデュースは秋元康が行っているようである。しかし、そのようなことで本作の価値が減じられるものではいささかもない。むしろ、それゆえに映像の自由度を獲得したとさえいえるかもしれない(秋元氏から自由に撮るよう言われたとのこと)。わかる人には「黒沢清の活劇!」といえばすぐに伝わるだろう。冒頭から建物の前に停まっている青い車。既に非凡な構図である。完璧なフィックスの構図から、車が発進すると同時にトランクをがらがらと鳴らしながら前田敦子が左から現れ、カメラは右へパンする。前田敦子は追うが追いつけず、車はUターンし、反対車線を走り去る。カメラはそれを追い左へパンする。静止したショットからこのダイナミックな展開は計算し尽されており凄みを感じる。その直後のトランクを画面の手前に置いておくショットも息を呑む強度を誇っている。幽霊のようなカメラの動き、翻る(過剰なほどの)カーテン、「カリスマ」を思わせる「大きな力」など言及したいショット、ストーリーは数え切れない。ただ何と言ってもラストシーンのスタイリッシュさは、黒沢清の偉大さをただただ示している。なお、前田敦子という女優については可もなく不可もなくといったところだろう。 [映画館(邦画)] 9点(2014-01-17 07:52:43) |
4. そして父になる
多くの人間との関係を描くというよりは、中心となる人物のを巡るストーリーで、中心となるのが福山雅治だったのは残念と言うほかない。電車の中で「二人でどっか遠くへ行っちゃおうか」と母が言い、電車がトンネルへ入ったときのキュビスム的形象は最高だった。ラストシーンのクレーン撮影も美しい。 [映画館(邦画)] 6点(2013-09-29 23:27:18) |
5. 007/スカイフォール
面白い。ゴールドフィンガーらへんの初期007へのオマージュがそこかしこに。特にアストン・マーチンやマネーペニー、昔のオフィスの再現などたまらん仕掛け。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-21 13:48:24) |
6. わたしはロランス
新鋭グサヴィエ・ドラン。ゴダールの再来を思わせるような色使いや独白、一面の壁、ランプシェード、ジャンプカット。ゴダールにかなりの影響を受けているのは間違いないが、PVのように音楽とぶっ飛んだ映像になることもあり、かなりのオリジナリティを持っている。ぐらぐら動くカメラが続いた後にピタッとしたフィックスのカメラで完璧な構図のショットを見せたりもする。きちんとしたショットが撮れることが前提なのだ。ゴダールだけではなく、小津を思わせる無人の部屋のショットや「マグノリア」を思わせる美しいシーンなど、映画史をふまえているところに映画愛を感じる。ジェンダーに関わる主題だが、男女云々を超えて、ロランスという人物そのものだというのがLaurence Anywaysの意味なのだろう。カナダのケベックということで英語とフランス語の混じりあった(タイトルもそう)会話が心地よい。基本的にはメロドラマなのだが、この撮り方はとんでもないセンスである。今では珍しいスタンダードサイズも、極めて映画的な人物のバストショットを効果的に見せている。傑作。 [映画館(字幕)] 8点(2013-09-16 23:59:48)(良:1票) |
7. アワーミュージック
無感動なゴダール。オルガの映像を観てもいないし、ほとんど覚えていないし、関心もない。滑るように動く路面電車がただただ美しい。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-16 14:51:01) |
8. 許されざる者(2013)
《ネタバレ》 原作があまりにも有名すぎ、素晴らしい映画なのでこの映画の駄目なところばかりが目立ってしまう。根本的なことだが、銃と刀が混在する滑稽さはいかんともしがたい。設定に無理がありすぎる上、やはり原作の持っていた西部劇という文脈が台無しになっている。また、全員が饒舌すぎて、自らの心情や経歴などをぺらぺら話し、しらけてしまう。分かりやすくしようとしているのだろうが、安易である。また明らかに女郎がでしゃばりすぎている。原作から改変した点だろうが、最終的に焦点がボケてしまっている。似たような傷を渡辺謙に付けたのは上手いが、それだけでは説得力に欠ける。そして最大の問題は、かなり忠実に原作のストーリーをなぞっているため、一つ一つのシーンでどうしても比較してしまうということ。結果としてイーストウッドのどのショットにも勝るところがなく、ただただイーストウッドの作品の素晴らしさだけが残り、この映画の欠点が目に付いてしまう。このリメイクを選び、この題名を選んだ以上それは承知だったはずだが…。これを観て面白かったと言う人はイーストウッドの原作を何度も何度も観る必要がある。 [映画館(邦画)] 4点(2013-09-14 19:15:31) |
9. 鍵泥棒のメソッド
気取った言い方をすれば、演技をする演技をするという困難さを全く感じさせない演技力の凄みを感じた。 この映画は対称性に彩られており、冒頭から首吊りに失敗した堺正人。頭から落ちて仰向けになるが、これは銭湯での香川照之の転び方と同じ体勢であることを指摘しておかねばなるまい。既にここに類似性が現れている。また、殺しを終えた香川照之が道路で渋滞に巻き込まれるシーン、ここでは映画の撮影が原因となっており、演技に出会うことが既に示唆されている。堺正人が銭湯に出かけるために階段を下るシーンではちょうど電車が左から右へ通り抜ける。これはラストに彼がアパートに帰るために階段を登るシーンでは逆に右から左へ電車が通り抜けている。また、キュイーンの装置を発動させてきたのはずっと堺正人の方で、銭湯で入れ替わった直後、スーパーで愛人を待ち合わせて工藤から逃れるシーン、殺すフリに広末涼子が登場してしまい、そこから逃げ出すシーン、と計三度出てくるが、全て引き起こしているのは堺正人である。演技をし続けている堺正人と、素に戻った香川照之の対照性は興味深い。 [映画館(邦画)] 8点(2013-09-11 23:03:29) |
10. オン・ザ・ロード(2012)
あまりにも「モーターサイクルダイアリーズ」と似ているので、既視感が拭えなかったというのが正直なところで、もう少し短ければさらによかったと思う。役者の顔は抜群に良かった。 [映画館(字幕)] 6点(2013-09-10 23:43:25) |
11. サイド・エフェクト
《ネタバレ》 冒頭から「サイコ」だな、と分かる。実はそれだけでこのストーリーの大半を予測できてしまうくらいこの映画はサイコ、そしてヒッチコックで出来ている。ナイフで刺す効果音までそっくりである。ミニマムな語りとハッとする構図、きっちり基本を押さえている撮り方はさすがである。 [映画館(字幕)] 7点(2013-09-08 23:49:31) |
12. 共喰い
ほとんどHelplessのような感じで(光石研も出てるし、ロケ地は北九州だし)、その意味では原点回帰ともいえる作品かもしれない。しかし最後にはかすかな希望も見える点が違うところで、崩壊や絶望で終わっているわけではない。私は原作を読んでから観たが、原作の雰囲気を余すところなく、ごまかすことなく表現しているように思った。特に川、ウナギの辺りの描写は非常に上手い。昭和後期という意外と見られない時代設定と、ああした家屋の感じは、小津や成瀬の時代とも、平成以降のマンションの時代とも違ったまた不思議な雰囲気を醸し出している(そしてラストの新解釈にもつながる)。画面両側に開け放たれたふすまの間に背の低いちゃぶ台があり、主人公が坐っている。カメラは妙に低い位置で、まるで「寝そべっている人の視点のようだ」と思うと、光石研が右側のふすまから滑り込んできて「寝そべる」。この計算しつくされた1ショットに鳥肌が立った。木下の髪を振り乱してきっと睨むシーンも忘れられないだろう。 そして原作を読んだからこそあの後半に驚愕するわけだが、一つの体系的なまとまった原作の解釈というものが出来ていたからこそあれが出来るわけである。そしてそれには妙に納得できるものがある。子供は父親を選べない。生まれてくる子供に罪はない。しかしだからこそ逆説的にこのような悲劇が起こるのであろう。ラストは生々しい光が見えるが、喜んでばかりもいられまい。映画は冒頭から主人公が大人になってからの回想の形で描かれるが、主人公の声をナレーションしているのは光石研ではあるまいか?(確証はないが…) 狂気と愛憎を文字通り孕んでいる。 (蛇足だが、田中裕子を任意同行する警官が岸辺一徳とは、明らかに「いつか読書する日」を意識しているのだろう、と思いにやにやしてしまう) [映画館(邦画)] 7点(2013-09-08 12:19:02)(良:2票) |
13. エリ・エリ・レマ・サバクタニ
なじゃこりゃ。 [DVD(邦画)] 7点(2013-09-05 23:38:14) |
14. フォロー・ミー
いい映画。ミア・ファローはこれ。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-04 23:42:58) |
15. 人生はビギナーズ
《ネタバレ》 前作サムサッカーと非常によく似た映画。ユアンは、アイデンティティにずっと不安を感じていたが、それが表面化することはなかった。それは父親がゲイだというカミングアウトをしてからも同じである。しかしそれが表面化し、彼の深い悩み、悲しみに変わったのは、父親の死からである。元から不安を感じながらも父親の存在でかろうじてつなぎとめられてきた自らの存在がぷっつり切れたような感覚だったのだろう。父が死んでから、折に触れて彼は両親のことを思い出し、回想する。しかし「なぜ」彼がアイデンティティを確立できないのかは自覚できていない。これが自覚されるのはメラニーロラン演じるアナと出会ってからである。彼女は彼と似たもの同士で、つまり彼女もなぜ自分が自分であることに自信が持てないかを理解していなかったが、彼と会ってからそれが段々と分かるようになるのである。特に彼女は「空白」が象徴的で、それに段々と気付くのが重要なのである。彼もそんな彼女に触発され、どんどん両親と自分の思い出、父親と恋人の思い出を思い返すうちに、幼い頃に感じた様々な疑問、印象的な光景を思い出し、つなぎ合わせ、現在と照らし合わせるうちに、自らがどのような人間かを自覚するに至るのである(アメリカの歴史、両親の歴史、落書きの際の「歴史意識」なるものに彼がこだわっていたことを思い出す必要がある)。もちろんそれは簡単に言葉に表せるものではないが、しっかりと「思い出す」ことが重要なのだということを我々に知らせてくれる。それは恐らく抑圧してきた記憶なのだろう。あるいは彼自身がポジティブな意味で作り出したものなのかもしれない。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-02 23:19:44) |
16. こわれゆく女
描かれているのはジーナ・ローランズ演じるメイビル、ではなく実際はその周りにいる人々だろう。夫のピーターフォークはもちろん子供、実の母親、後に父親、義母、同僚たちとの関係は、仮借なく彼らの人柄、場を映し出している。その意味でメイビルは鏡のような存在である。ところで彼女は本当にこわれているのか?私は「こわれゆく」女という邦題はやりすぎだったように思う。すぐにキレて暴力を振るうピーターフォークだってふつうではない。under the influenceという原題のニュアンス。そして帰ってきたメイベルに対してピーターフォークが「ありのままの自分でいろ」と訴えるシーン。そしてラストシーン。これをどう解釈すべきか。子供たちにとって彼女は女神なのである。the influenceは一般的には酒やドラッグを示唆するが、この映画はまた違う「影響」を感じさせる。それは人間と人間の関係に入り込んでいる常識や「ふつう」といった見方なのではないか。 [DVD(字幕)] 8点(2013-08-30 00:57:05) |
17. 或る夜の出来事
素晴らしい。今観ても見ごたえのある作品。陽気な歌が心地よい。 [DVD(字幕)] 8点(2013-08-26 19:37:04) |
18. 自転車泥棒
おかしくなってゆく父親を現実に引き戻すのが子供。ブルーノ、ブルーノ! [DVD(字幕)] 8点(2013-08-24 23:54:48) |
19. 暗殺の森
《ネタバレ》 青、青、青、青。真っ赤な鮮血が流れるはずのシーンですら、ほとんど赤は登場しない(クアトリ教授の暗殺シーン)。アンナは不自然なほど顔中が血だらけになった。この違いはなにか。冒頭の明滅する赤い光はなにか。ラスト、炎に赤く照らされた主人公の顔。 [DVD(字幕)] 10点(2013-08-23 22:27:14) |
20. 愛、アムール
テーマとしては凡庸(これはやはり特殊日本的な事情なんだろうか)だが、良質のドラマ。ハネケらしい不気味さというか、ぎこちなさ、居心地の悪さが随所に感じられて非常に「らしい」映画になっている。よく言えば円熟味を増してきたというところか。ハトや執拗なまでのドアの描写は非常に巧みだが、やはりテーマ、その切り口に凡庸さを感じざるを得ない。 [DVD(字幕)] 6点(2013-08-19 22:51:46) |