1. ザ・バイクライダーズ
前から気になっていた作品でしたが、今更ながらようやく見られました。エルビスのオースティン・バトラーとトム・ハーディのダブル主演で、シカゴのバイク乗りの日常を撮影した写真集から着想を得た、アメリカン・モーターサイクル・クラブの架空の物語です。暴力が中心の物語で割と中身がない映画ですが、なんだかやたらと作品世界に引き込まれてしまいます。 とにかく”ベニー”ことオースティン・バトラーがやたらとカッコいい。なんだろうこの風格というか空気感。男でも惚れる男をクールに演じきっています。対するジョニー(トム・ハーディ)もバトラーに食われず、ハーディらしい落ち着いた貫禄を貫いていて、この二人が並ぶと心底絵になっていました。もちろん彼らの間に挟まる形のキャシー(ジョディ・カマー)も彼らの圧力に負けず存在感を放っていて、彼女のおかげで観客は感情移入しやすく、ドラマとしてはとても判りやすく仕上がっています。 新しい風を入れることによって古い風が消えてなくなっていく物語ではありましたが、悲しいかな致し方が無いことだろうなと妙に納得してしまいました。そのやるせない気持ちの中で、、ベニーのあのラストは非常に良かったです。本作では”暴力は暴力しか生まない”という至極当たり前でシンプルな教訓が表現されていますが、この美しく静かでスマートなエンディングのおかげで一気に上品なエンタメ作品に昇華したと思います。【たくわん】さんもおっしゃっているように、特にラストのベニーの表情が色んな感情を含んでいてとても良かったです。いい物語でした。 1950年代のオールディーズ世代の次の時代のアメリカがさらっと楽しめる素敵な作品でした。インディアンハーレーやロッカーズなどが好きな方でしたら熱中できると思います。欲をいえば、、バイクの音響がとても良かったのでもう少しバイクを走らせるシーンが見たかったかなといった物足りなさはありました。なお、ノーマン・リーダス様が登場するも結局は何も起きず、やはり彼は脇役しか演じられない人でしたww 半面、ジプコ(マイケル・シャノン)は基本的にいても居なくても良いキャラクターでしたがやたらと雰囲気が良くて素敵でした。 余談ですが、日本人には判らない部分ですがロッテントマトではシカゴなのに訛りが違うという意見がちらほら見られました。また、オースティン・バトラーの演技に対しても辛口の方が多かったですね。 [インターネット(字幕)] 9点(2025-07-13 10:50:12)《更新》 |
2. 必死剣 鳥刺し
ネタバレ 退屈せずに見られましたが、、やはり最序盤に連子(関めぐみ)を刺す兼見(豊川悦司)の心情や、またこれをミステリとして見せようとしている回想部分はいまいち冗長なだけで正確には機能していませんでした。またそれと同様に里尾(池脇千鶴)がやたらとフューチャーされている点も違和感が強かったです。時代背景を考えると故人である愛する嫁(睦江=戸田菜穂)の姪っ子に手を出してしまうのはあまりにも軽率すぎます。(2025年の現代でもキツイ) しかし本作の池脇千鶴はやたらと可愛いから困っちゃう。本作において里尾と兼見の情事は完全なる蛇足でしたが、制作サイドはこの濡れ場が重要だったようでエロシーンが予想外に長くて見ていられません。ラストの子供を抱いた里尾もあまりにもあざとすぎてシラけるレベル。映画的情感としては「睦江さんの味付けによく似てきたわね~」というワンシーンだけで十分伝わる心情だし、時代的にも秘めた想いに徹するべきでした。 御別家こと帯屋(吉川晃司)との対決は素晴らしいものの、事前に兼見と帯屋の心情が交錯していないがため、、「お互い同じ側の人間であるハズなのに斬りあわねばならない」という切ない感じは出ていません。しかし本作に置いての最大の問題点はその後でした。”必死剣鳥刺し”を見せなければいけないのは理解しますが、、やはり普通ならふすまの後ろ側から刺された辺りで”本当に”死んでしまうハズです。それを散々引っ張りまわした挙句、”鳥刺し”がさく裂する部分も色々と無理があって失笑モンでした。これでは必殺剣法ではなく妖術でした。個人的には同じ不意打ち必殺剣法作戦としては”隠し剣鬼の爪”のほうがカッコ良かったです。本作は悲壮感が漂う映画であったハズですが、映画を見た後の余韻はイマイチ半笑いになってしまう残念な仕上がりだったと言わざるを得ません。 藤沢周平は好きですが本作原作は未見です。しかしどう考えても映画的には「たそがれ清兵衛」が良すぎて後発映画作品でアレを超えるものはないですね。てか、、”たそがれ”は世界に通用するレベルなので比較するのが酷というものでしょうか。一流役者陣に免じて少々甘めの点数です。 [地上波(邦画)] 5点(2025-07-07 21:13:03) |
3. ALWAYS 続・三丁目の夕日
ネタバレ 前作の成功からか、本作では序盤から余裕のある描写が目立ちます。まあ、物語の構成的には一作目で大体のことが収束していますので、本作ではいかにして一作目の世界観と余韻を壊さずに話の続きを見せるかってことに注力されています。実際本作ではそれが上手くできていて、茶川(吉岡)の悲願、ヒロミ(小雪)の秘めた想い、淳之介(須賀健太)の希望がバランスよく融合したラストは確実に泣かせる脚本に仕上がっています。皆が幸せになって本当に良かったと思える展開は心底素敵でした。途中詐欺などの妙な一件もはさまりますが、実際問題、高度成長期後半の当時には余裕が出来てきた日本総中流家庭の人達をターゲットにした新手の詐欺が広まりつつあった時代です。 個人的には鈴木家にやってきた親戚の女の子の一件に関しては、色鉛筆よりもう少し踏み込んだ展開が見たかったところです。あと、六ちゃん(堀北真希)が映画館で嵐を呼ぶ男でハッスルしてるところは素敵でしたし、本作ではついに東京タワーにも登ります。余談ですが茶川の小説は正直大したことないと思いましたが、小雪が列車の中で読んじゃうと・・ やっぱり泣けるんですよねえww 正直、個人的には一作目より本作の方が好きでした。本作は一作目よりよく出来ていたと感じました。ネタのちりばめ方もバランスが良く、ラストの泣かせまでのまとめ方が上手くてほとんど文句のつけるところが無かったような気がします。しいていえば、前作同様、本作も編集を上手くやってもう少し短くしていただきたかったでしょうか。 [地上波(邦画)] 7点(2025-06-29 15:17:51) |
4. ALWAYS 三丁目の夕日‘64
ネタバレ 脚本的には前2作で綺麗にやり切っているので、本作は最初っからかなり遊び要素が多い展開になっています。しかしノスタルジー前提の本シリーズにおいてはそれが無駄な演出にはなっておらず、成長した子供たちがエレキに熱中したり、東京オリンピックネタやカラーTVネタも面白く仕上がっています。またなによりもお年頃になった六ちゃんの恋愛ネタも目が離せません。普通三作目にもなるとダレるものですが、本作においては面白さをきちんとキープ出来ています。この点は脚本および製作陣は本当に良い仕事をしたと思います。後述しますが茶川(吉岡)が淳之介に打つ小芝居はちょっと違和感がありましたが、それ以外は概ね良くできていたと思います。 邦画の悪い所でもありますが、茶川が実家に帰って部屋にある雑誌を見て悟るシーンですが、これがちょっとベタ過ぎて過剰演出だったと感じました。この感覚がラストの淳之介への下手な小芝居にもつながっている訳ですが、これに関してはさすがにもう少し何とかならなかったか?と感じてしまいました。もう少し茶川の心情に寄り添って静かで深い演出&脚本でもあれば、、もっと重厚な雰囲気に持っていくこともできたと思いますし、三部作のラストを締めくくるには相応しいものだったようにも感じます。正直、本作の演出では少々軽すぎて茶番になってしまっていますし、そもそも論、淳之介は天才肌なのでかりそめの両親の心情は痛いほど理解していたハズで、こんな茶番に逃げる必要などなかったと思われます。結局、、今回も淳之介に気を使わせてしまっただけのような気がします。 厳しめに書きましたが概ねよく出来た作品で、本シリーズは三作品でワンセットでライブラリしても良いレベルの作品だと思います。 [地上波(邦画)] 7点(2025-06-29 15:14:39) |
5. ALWAYS 三丁目の夕日
邦画は好きではありませんが三部作まとめて録画されていたので見てみました。これが意外にもなかなか面白くて思わぬ拾い物でした。昨今過剰な演出が目立つコンピューターグラフィックスですが、、本作ではまさに適正と思われる使われ方になっていて、なかなか味わい深い昭和の雰囲気を描き出すことにも成功しています。 特筆すべきは全てのキャラクターがきちんと作りこまれていて、高度成長期の昭和にきちんと溶け込んでいた点です。特に六ちゃんこと堀北真希は心底可愛いかったし、本作の裏主人公である小学生たちの面々も、同年代である私の両親も「当時が懐かしい」という感想を漏らすほどです。見た目的には完全に「青春デンデケデケデケ」を超える理想的な昭和作品を演出することに成功しています。 ただ、宣伝要素が強かった東京タワー建設は完全にただの背景と化しており、できれば東京タワーが徐々に高くなっていく過程と共に、高度成長期の戸惑いを含む当時の大人たちの心情まで上手くシンクロさせていただきたかったところですが、何となくギャグに逃げる流れが目立つ脚本に収束しています。 中盤以降、本作の核となる泣かせる脚本はベタですが割とよく出来ています。若干薄っぺらなところもありますが、邦画でこれ以上の心情表現は望めませんでしょうから、まあ及第点といったところでしょうか。ガチ映画通には辛い作品かもしれませんがまあ総合的には十分よく出来た作品だったと思います。間延びしてテンポが悪い箇所が散見されましたので、できれば30分くらい短く編集すべきでした。 [地上波(邦画)] 7点(2025-06-29 14:50:14) |
6. ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
ネタバレ マクドナルドの操業というよりは、一人の人間の半生という見方で見たほうが楽しめるかもしれません。マクドナルドのネタとしてはかなり端折られていて「乗っ取られて可哀そうだよね~」程度しか読み取れない人がいるのも仕方ないかなと感じました。見る前は内容的に地味では?と想像していましたが、予想よりずっと楽しめました。起業しようとしている人必見!のような意見も見られますが、そんなに難しいことは描かれておらず、起業済みの方には至極当たり前のことばかりでしたね。(私も経営者) 映画を見て感じるのはやはり「時代の波」に乗る度胸と「人との出会い」が大切だということです。むしろこの映画からは際立つ情報や感動は特になく、どちらかというと普通のことを地道にやるしかないというメッセージしか受け取れません。(でもまあ途中から怪物になってしまうわけですが、それも含めて「先見の明」と「出会い」「度胸」という3つのメッセージ性が強いと感じました) 原作を知っている方やストーリーを深読みできる方でしたら、一流の人の生き方や考え方が垣間見える深い作品だったと思います。全体的にもよくまとまっていて見やすいですので、空気が読める人や行間から色々感じ取れる人にとってはかなり良い映画ではないでしょうか。まあしかしながら全体的には端折りが多い割りに地味な感じに仕上がっていますので、もう少しドラマチックにやるか掘り下げるかのどちらかに振り切っていただきたかった気もします。 昔の、いわゆるローラースケートの美女がテーブルごと運んできてくれる”ソニック・ドライブ-イン”形式しかなかった時代、効率とスピード感を重視したマクドナルド形式を開発したマクドナルド兄弟、そしてそれの凄さに惚れ込んだレイ・クロック(マイケル・キートン)の創業者=ファウンダーとしての凄さを見抜ける方にはかなり深い映画に仕上がっています。(映画的な派手さ・ドラマチックさがあれば8-9点は献上できた作品) [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-22 11:29:46) |
7. AVA エイリアン VS. エイリアン ジャッジメント・デイ<OV>
ネタバレ 本作の見所は3箇所。ハンターがヘルメットを取るシーン、西部劇様式にエイリアンとハンターが街中で向き合って戦おうとするシーン、そしてラストのガチンコ勝負中のエイリアンを人間が後ろから槍で突くシーン。 忙しい方は上記3箇所だけ押さえておけばOKだと思います。というか、自称「超映画通」と豪語できる方以外は観なくてもよい種類の映画です。これはB級にもなれないB級映画です。ただ、邦題だけは高く評価しておきます。 [インターネット(字幕)] 1点(2025-06-17 17:15:01) |
8. スーパー!
【再鑑賞】 世の評価と自分の評価の乖離に納得がいかなかったので再度鑑賞してみました。でもやっぱり理解できませんでした。「リアルにやってみました♪」はまあ良いのですが、主人公の考え方自体が理解できません。やはり私の住む世界とは別の惑星のお話のようです。 【以前】 題名とパッケージから、ヒットガールの二次的な何かかと勝手に想像してディスクを取り寄せました。鑑賞してみてビックリ、あまりのリアルマジグロ路線にドン引きしました。私としてはこの感覚には全くついていけませんでした。 あまりにも酷い映画だと感じたので当シネマレビューや考察サイトなど多数を読んでみましたが、意外にも高評価の方がそれなりの数いることに驚きました。高評価の方々の大方の感想としては「リアルマジ路線なのが良かった」という感じです。現実世界とシンクロさせてこのイミフな世界観に意味や理由を持たせている方が多いようですが私にはさっぱりです。仮に現実世界とシンクロさせて考えるとしても、私には共感したり理解したりできる部分が一切なく、これの一体どこが良かったのか?いったい何に共感すべきなのか?基本的な部分すらもわからず、私にとっては全く理解ができない映画という結論に至りました。 真面目な話、コレほど酷評するのは珍しいくらいですが、私の感性には一切合わないし今後一切関わらなくても問題無い作品でした。もしかすると逆説的に、この映画の不幸な主人公に共感できない=私自身、ある程度恵まれた人生を送ってきた幸せな人間なのかもしれないと思ったりもしましたが、どうしたものか・・ [ブルーレイ(字幕)] 1点(2025-06-17 17:10:07) |
9. トカレフ(2014)
ネタバレ 致命的な脚本と演出ミスが目立つ惜しい作品。本作が言わんとしていることは結構まともだし奥深いものなので、脚本と演出が適正に行われていたら名作になったかもしれません。本作が伝えたかったことはラストカットの奥さんの表情が全てでしょう。 おそらく、ラストの収束のさせ方に最も注力してしまったがため、物語の道筋に少々無理がいってしまったものと思われます。ある意味本作で最も重要な主張がダニー・グローバー扮するセント・ジョン刑事が発する「誰の身にも起こり得た不運な事故だった。これを理解するためには一歩引いて冷静に考えることが必要なのだ。お前もそう考えろ」という主張だと思います。このセリフが本作全体の流れを端的に表していますが、劇中での本セリフが語られるタイミングが悪すぎて、主人公ポール(ニコラス・ケイジ)が最も頭に血が上っている&事件の真相がよくわからない嫌なタイミングであり、「でも、お前の息子は生きてるだろ」と切り捨てられるだけのただの無駄シーンと化してしまっています。物語の序盤にオコネル(ピーター・ストーメア)も似たような助言をしますが、こちらも変な匂わせ演出のせいで観客にはミスリード程度にしか伝わっていません。(結局物語上オコネルも無駄死にしますし) また、全体を貫くポリシーも(若気の至り)だったり(自己責任)だったり(後悔)など、意外とシッカリした土台があるにも関わらず、脚本の仕上がりが極めて雑なため、大切な部分がイマイチよく理解できない作品になってしまっています。むしろ反対に主人公たちに後悔や若気の至りみたいな深い感情はほとんどなく、いい年した大人になっても17才から何も変わっていないという反面教師的な演出が大半です。派手なドンパチが見せたいのか崇高な理念を見せたいのかよく理解できず、この作品の根本的な問題点を露呈してしまっています。(これに関しては映画のタイトルも悪く、娘の復讐+トカレフでは、観客は”96時間”の路線しか想像できない) 警察も警察で、主人公たちを監視している割にはやりたい放題やらせているし、真犯人のガキがパニくって自作自演した事の真相すら暴くことができない無能っぷりを呈しているだけの烏合の衆として描かれています。本当にもう何から何まで雑すぎる映画でした。ニコラス・ケイジに作品を選ぶセンスがないのか、はたまた彼が関わるから駄作になってしまうのか・・ プロット自体は非常に面白いものでしたのが、料理の仕方が絶望的にダメなのはもういかんともしがたいといった残念な作品でした。 [地上波(字幕)] 5点(2025-06-17 16:03:43) |
10. エル・スール
ネタバレ 【2025/6月 再々 鑑賞後】 世間の評価との乖離に納得いかないので再度原作本を読み、パンフレットを取り寄せ、映画も鑑賞、さらにはしっかり考察もしてみました。つまるところ、親になった経験もなく、他人と家庭を築いたことすらない私にとって、本作で感情移入できる人物は子供の立場しかありません。私は男なので100歩譲って娘の立場に立ってみましたが、それでもなかなか感情移入しにくいものでした。 その理由は明白で、本質的に私自身がこの映画の誰とも共感できない非常に幸せな生い立ちであるが故、本作の切なさを理解することができないようです。しかしながら何度見ても構図や音楽は大変美しい映画で、やはり本作は再鑑賞を繰り返し理解していくべき名作なのだと痛感しました。 【2025/5月 原作本 読書後】 原作本を読みました。しかし原作本は映画とは全くの別物で、家庭向きとはいいがたい親父と絶望的な家庭崩壊、そしてその中で内向的に育ってしまった娘の独白がメインの作品でした。その挙句の「南編」はほとんどがオマケみたいなもので、娘にとってはダメ押しされ半ば強制的に成長させられただけといった印象でした。しかし南編が描かれているおかげでダメ親父のことも少しは理解できたし、やはり物語としては綺麗に幕を閉じていたのもまた事実だと思います。 ある意味「南編」が抜け落ちている映画版のほうが情緒的でロマンチックです。明らかに原作より映画のほうが切ない余韻に浸れますので、どちらも甲乙つけがたい仕上がりだといえると思います。 【2025/4月 初見時】 世間の評判から察するに批判的なことを書くのは少々勇気がいりますが・・ とても期待していましたがイマイチでした。喪失・異性・他者との距離感など普遍的なテーマが沢山あることは理解できますが、それでも本作を見るにあたっては特別な前提条件が必要だったように感じました。 語弊を恐れずに書くとすれば、、「一度でも親になった経験があること」だったり「他人と家庭を築いたことがあること」など、新しい家族を得る過程で発生する喜びや悲しみ、また苦労などを知っていないとより深くは楽しめない作品だったように感じます。私は結婚も子育ての経験もなく、戦争経験もありませんのでスペイン内戦(市民戦争)の影響による家族内対立など、非常に深刻な問題があったことは理解できるものの、やはりその本質(市民が二分された内紛の本当の悲惨さ)まではちょっと理解が及びません。 結婚生活を知らないと書きましたが、同棲生活や複数の婚約失敗などは経験しましたので、そういった意味ではイレーネ・リオスのパートは少しだけ理解できたかもしれません。しかしそれも南編(後半部)が抜け落ちてしまっているため、過去の恋愛に関する謎は謎のまま物語が終わってしまいます。後半パートが無かったことで情緒的な雰囲気を醸し出している一方、本作をより難解な作品にしてしまったような気もします。(長距離電話の相手もわからずじまい) 理想論ではありますが、自分の家庭内で他者の存在(しかも異性)を匂わせてしまうような父親像は、、やはり親として失格だったと感じてしまいます。ここに感情移入できない時点でちょっと厳しいかなと思ってしまいました。私など独身男性にとってはあまりにも対局にありすぎる作品だったように思います。(ただし映画の雰囲気、風景、音楽、撮影手法等は本当に素晴らしい作品でした) [ブルーレイ(字幕)] 8点(2025-06-12 12:28:30) |
11. ファンシイダンス
ネタバレ 当時「シコふんじゃった」がロードショーされ、ブレイクしまくっていた周防監督の他作品も見たいということで、レンタルショップで本作ファンシイダンスをレンタルしてきました。当時、友達と小さなブラウン管で鑑賞しましたが、腹がよじれるほど大笑いした楽しい記憶が残っています。 とにかく塩野陽平(本木雅弘)と、その弟である郁生(大沢健)を軸にした人間模様が抜群に面白いのです。修行僧の同期に珍来(田口浩正)、英峻(彦摩呂)、古参に光輝(竹中直人)らというダイアモンド布陣で、画面の見栄え、セリフの妙、棒読みのギャグなど、何から何まで面白いです。個人的な意見ですが本作の鈴木保奈美はあまり好きではありませんでした。実質的に本作を見たのは東京ラブストーリーの後な訳ですが、、最近見返してみるとやはり彼女はなかなか演技が下手なんですよねぇ・・(そりゃ、竹中直人・柄本明・徳井優、新人とはいえ本木雅弘・田口浩正・広岡由里子・彦摩呂らに囲まれるとねぇ) 皆さんも同意見だと思いますが、お寺に着いた時の身体検査、ウォークマンのカセット入れ替え事件、「雑巾が歌うか~」の足蹴事件、キャバクラに乙凸事件、ケンタッキーとマドンナ事件、トイレの取材などなど、最高に大爆笑できるシーンが多いです。特に竹中直人絡みのパートが全体的に非常に面白いですが、個人的には「なんだ・・ピンサロかよぉ。。 ・・キャバクラやで」のやり取りの後、別席にカツラ姿の光輝が居たのには心底爆笑しました。 子供っぽい部分もありますがマンガを読んで楽しめるようなタイプの方でしたら十分に楽しめるライトな感じのお寺ハウツーモノに仕上がっています。周防監督の初期作品(実質本作がメジャー初作品だと思います)ですが、彼のハウツーシリーズの中ではダントツの面白さだと思います。 [ビデオ(邦画)] 8点(2025-06-11 23:57:56) |
12. アナイアレイション -全滅領域-
ネタバレ 映像=キレイ、設定=面白い、キャスト=素晴らしい、雰囲気=素敵、流れ=良い、脚本=ちょっと難しい。 エクス・マキナのアレックス・ガーランド監督の新作ということで期待しましたが、予想以上の難しさでした。原作を知っている方には意外と評判が良かったみたいですし世界的にも割と評判が良い本作ですが、、日本で映画だけを見た人には「???」が多い脚本だったと感じます。正直ちょっと不親切でした。ぶっちゃけ、脚本以外の部分はかなり良い感じなので、脚本(特に謎解きの部分)もう少し何とかならなかったのかと少々残念。(謎が残ること自体はOKですが、本当に何一つ解決しないままシマーが消滅しちゃうんですよねぇ) 旦那の別人感も最後まで生かされず(ラストのサプライズとして残したのでしょうが)、そもそも主人公が最初から最後まで「わからない」を連発していて、これでは観客には伝わらないよねっ、と。。まあしかし仮に主人公にストーリーテリングさせていたとしても結局は内容が難しすぎてついていけない感じが溢れていますので、どちらにせよこの本の映画化を選んだ時点で微妙になるのは想定内でしょうか。 しかしながら切り捨てるほど悪くもなくて、かなり魅力的な作品であるのもまた事実です。映像も綺麗だしシマ―内の事件の数々、登場人物のバックボーンも面白く、あれもこれもいちいち意味深で興味深いです。個人的には人型になる植物の件はもう少し掘り下げて欲しかったです。。また、目的意識のシッカリした人間が多数シマ―内に入った場合どうなるかも興味が湧きました。JJリーの最期がイミフでしたが、ラストの得体の知れない恐怖のドッペルゲンガーは秀逸でした。そもそも「宇宙」というものは人間の考えなど遠く及ばない未知の世界ですので、「わからない」というのはある意味正解でもある訳ですよね・・ 個人的にはドゥニ・ヴィルヌーヴなんかより断然アレックス・ガーランド派なので今後も頑張っていただきたいです。 2025/5再鑑賞 どうしてもまた見たくなってディスクを取り寄せて再鑑賞しましたら、やはり全体的には非常によくできた作品でした。初見時は「わからない」を強調しているのが不満でしたが、特典映像にてガーランド監督作品「エクス・マキナ」同様に余白部分を大きくとってあり、あえて答えを出さないとおっしゃっていて、そのように理解すると途端に納得できました。本作のエイリアンには理由などは何もなく、ただ単に無意識下での侵略(浸食)が行われただけなのです。 余談ですが、恐怖のドッペルゲンガーをソノヤ・ミズノが演じています。エクスマキナでは一切しゃべりが無かったキョウコ役でしたが、本作ではセリフはおろか顔すらも出ない状態での出演となってしまいました。ソノヤ・ミズノはインタビューではとても素直で素敵な女性でしたので、顔が出ないのはやはりちょっとかわいそうでした。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-06-08 17:26:42) |
13. 華岡青洲の妻
録画されていたので何の気も無しに鑑賞しましたが、、非常に良かった。まず200年も前に全身麻酔という概念があったこと自体に驚きます。この事実に華岡青洲(市川雷蔵)を取り巻く女たちの壮絶な人生が絡む訳ですから面白くないはずがありません。 妻・加恵(若尾文子)の心境は一般的に想像した通りなのですが、面白いのは母・於継(高峰秀子)の立ち位置。昔はみんなこうだったのかもしれませんが、嫁いできた他人様の家で男児の母となり、そしてその家中で最も力がある者に成った母親という人物を高峰秀子が非常に上手く演じています。表向きの和やかな風情と内面とのギャップが素晴らしいですが、これが息子が帰ってきた途端にあからさまになります。しかし終盤にはただの意地悪ばあさんではないことも判ってきてなかなか奥深いです。やはり題名の通り、全体的に女の戦いややり取りが非常に面白いです。 青洲のほうも「医者として何もできず妹を見殺しにするのは私の技能が足らないせいだ」ときっぱり言いきる性根の良さも見せるものの、母と妻が実験台に名乗りを上げると「そうか、やってくれるか!」とアッサリ甘んじる精神的な弱さ(幼さか?)もあって、、こちらもなかなか面白い人物に仕上がっています。 とにかく原作小説がよく出来ているおかげか脚本も全体的に無駄がなく面白い映画に仕上がっています。これは原作小説も読むべきかもしれませんね、いや必読かもしれません。 [地上波(邦画)] 8点(2025-05-25 21:26:25) |
14. バービー(2023)
話題作ということで今更ながら鑑賞しました。正直どこが面白いのか、どこに感動すべきなのかほとんど理解できませんでした。まあもちろん随所にちりばめられているパロディネタや面白セリフ、演者の仕草(や、衣装など)にはクスっとさせられますが、オープニングの2001年宇宙のネタが面白いだとか、ケンが天下を取った時のシーンが面白いだとか、まあその程度の面白さでした。ラスト、遊んでくれた家族の元で娘に転生するシーンもちょっと綺麗にまとまり過ぎていて微妙すぎます。 個人的にはバービーのMy Dream House!に対してケンの Mojo Dojo Casa House!(魔術の道場カーサ・ハウス)はかなりウケますが、吹替版(ムンムンのムキムキハウス)は全く面白くなっていませんでした。モージョー・ドウジョウで韻を踏んでいますしエロ魔術も掛けているようです。またカーサ(家)・ハウス(家)も同意語だったりして、なかなかに結構よく考えられています。対する日本語吹き替え版の”むんむんムキムキ・・”はちょっとレベルが数段低い感じで雑です。 余談ですが、確かにマーゴット・ロビーのバービー&ライアン・ゴズリングのケンはとてもよくマッチしていましたが、しかしちょっと年齢が行き過ぎているように感じたのは私だけでしょうか?もう少し吟味して何とかあと10歳くらい若いキャストを探すことはできなかったのでしょうか、、どうしても年齢問題がちょっと気になっちゃっていまいち集中力が削がれました。あとグロリア役のアメリカ・フェレーラはアグリーベティーの時の方が10倍素敵でした。お歳を召してイマイチ魅力が無くなってしまったような感じでちょっと残念でした。色々酷評している割になぜかちょっと甘めの採点になっていますが、個人の感想ということでお許しください。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2025-05-18 15:42:48)(良:1票) |
15. ジャッカル
ネタバレ 元ネタ「ジャッカルの日」の原作本とも1973年の映画版とも異なる本作、暗殺者がジャッカルという名前と、試し撃ちをする以外には特に類似点は無いような気すらします。作品の出来映えは1973年版と比較するとあまりにもご都合主義が多くて散漫な仕上がりだったように思います。ダメな点をいちいち箇条書きにすることはしませんが、とにかく脚本自体がダメだったような気がします。 しかしジャッカル(ブルース・ウィリス)を筆頭に出演陣は結構頑張っていて、決してつまらない作品とは言い切れません。ロマンス要素、謎解き要素、宿敵同士の対決など見どころは多く、特にブルース・ウィリスの七変化はかなりの見ものでした。出来映えの悪さは決して出演陣のせいではなく、むしろ演者は豪華すぎるくらいだしかなり頑張っていたと思います。 余談ですが、、オリジナル「ジャッカルの日」はよく出来た作品でしたが、しかし古い作品&地味&ドキュメンタリー風でちょっと退屈してしまうような作品でもありました(個人の感想)。エンタメとして考えた場合、むしろ本作のほうがより観客を楽しませようという気概すら感じられて非常に好感が持てます。ヴァレンティーナ・コスロヴァ(ダイアン・ヴェノーラ)もかなり贅沢な使われ方をしていて素晴らしい最期を見せてくれますし、映画自体のラスト、電話一本で唐突に駆け付けるイザベラ(マチルダ・メイ)も全然悪くありません。いや映画としてはコレが正しい演出なのです。 そもそも論、題材が素晴らしいだけに、原作の呪縛から離れてもう少し脚本を煮詰めたほうが良さそうな作品なのかもしれません。そういった意味では本作の路線のほうが正解なのかもしれません。。演者に免じて少し甘めの点数です。 [インターネット(吹替)] 7点(2025-05-18 15:40:23) |
16. 悪の法則
ネタバレ 評価が低いので驚きました。絶妙なバランスの大人向けクライムサスペンスアクション。妙なこじつけや予定調和もなし、CGアクションもほぼ無いのに予想外によくまとまったストーリー展開は素晴らしいの一言。まさに監督リドリー・スコット、脚本コーマック・マッカーシー、主役級キャスト5名が高次元できちんと融合している作品です。 「あなたは今岐路に立っていると思っているかもしれないが、あなたの決断はずっと前にすでに終わっているのだ」 この作品を一言で表現するならば「不条理」でしょうか。淡々と静かに、、野うさぎであるカウンセラーが捕食(破滅)させられてゆきますが、描かれていない部分をあれこれ詮索して「意味がわからない」というのはナンセンス。あえて詮索しないのが正解であり、見せられた一つのシーンから前後を想像するのがこの映画の正しい見方です。映像特典でも監督自身が人物像の背景や人間形成上何があったのかは知らないと発言していますし、一般人にはおよそ想像もつかない”悪の法則(恐ろしい世界)”があるというおとぎ話でもあります。 そもそもカウンセラーは一流なので自分の考え方や行動に絶対的な自信があり、何度も遭遇する説教じみた会話も軽くスルーする描写は反面教師そのもの。また、過去の商売相手からは恨まれ、現在進行中のメキシコの女死刑囚は見下して軽く扱う。カウンセラーの人と成りがよく表れていて結末は十分予見できます。そして案の定、気付いた時には「時すでに遅し(因果応報)」という非常にシンプルな流れがリアル過ぎて本当に素晴らしかったです。あと、随所で見られる無駄話や与太話は一見無駄なようですが、相手の価値観を知るための腹の探り合いという意味で非常に重要でした。根本的にタランティーノのそれとは異なり、ブラピとの緊張感あるやり取りなどは生々しく色んな意味でゾクゾクさせられます。 これほど贅沢な配役と救いのないマジ結末な映画も珍しいです。ある程度自分でイメージを膨らませ、様々な状況を脳内で想像できる方でしたら高評価ではないかと思います。強いてマイナス点を書くならば、ほぼ全ての演者が哲学を長々しゃべるのには少々違和感を覚えました。何名かサッパリした人物を混ぜておけばよりリアルだったと思うのでその点は少し残念でした。 あと、拡大版と劇場版を比較しましたが、追加された人体欠損表現やバイカーのしゃべりなんかはなくても良かったと思います。しかしトラックのドアを直すシーンだけは拡大版のほうがずっと判り易かったです。 一見さんお断りの雰囲気も含め、リドリー・スコットの切れまくった演出、コーマック・マッカーシーの多くを語らない脚本が最高にマッチした大人向けの素晴らしい作品です。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2025-05-17 22:44:04)(良:2票) |
17. ドリームハウス
パッケージの雰囲気から子供向け映画かな?と勝手に想像していて鑑賞が遅くなってしまいました。改めてパッケージ裏をよく確認してみると出演陣がやたらと大物揃いなのに驚きます。本作は家族ドラマの仮面をかぶったサスペンスで、予想していたよりずっと素晴らしい映画でした。(後に夫婦役の二人が実際に結婚したことを考えると、コテコテのラブストーリーともいえます) 今や当たり前の凝った脚本で、オチが二段落としになっています。ネタバレするので色々書けませんが、やはり小さい子供の親御さんでしたらかなり感情移入できると思います。(独身の方でも綺麗な奥さん(レイチェル・ワイズ)とかわいい子供たち(本当の姉妹)のおかげで十分に感情移入できますが) 幽霊モノかと思えば犯罪の匂いがするし、犯罪モノかと思えば違うかもしれないというストーリーの曖昧さが秀逸で、ご近所さんの主婦アン・パターソン(ナオミ・ワッツ)が出てきてますます話がミスリードさせられます。結果的には二段目のネタが少し陳腐でしたが、全体的には怖さの中にラブリーな雰囲気がプンプンしていてなかなか素敵な香りが漂っている良作でした。 考えようによっては誰の身にも起こりうる非常に恐ろしい事件ともいえます。男としてウィル・エイテンテン(ダニエル・クレイグ)のように行動できるのか?と妙に考え込んでしまいました。とにかく絶対にネタバレせずに見ていただきたい映画です。個人的には久々のヒットでした! [ブルーレイ(字幕)] 8点(2025-05-17 22:38:21)(良:2票) |
18. モンキー・キング 西遊記<TVM>
ネタバレ 1999年頃、アメリカの制作会社が作ったTVドラマ映画がNHKでまとめて放送されたことがあります。本作「モンキーキング」はそのシリーズの中の一つだったと思います。日本では日活が代理店としてDVDで広く展開されていて、レンタルビデオ店などで見かけた方も多いでしょうか。このシリーズは確か10作品ほどあったと思いますが、特に出色の出来映えだった「アラビアンナイト」や「ビーンストーク」と比較すると、本作「モンキーキング」はかなり稚拙で退屈であったといわざるを得ません。 第一にストーリーが面白くない。定番の西遊記ですのでもうちょっとウマいやり方もあったと思いますが、話があまりにも取っ散らかっていてロードムービーの体を成していません。あと、菩薩様(バイ・リン)がヒューチャーされ過ぎていて、西遊記の面々がほとんど彼女の恋愛物語の背景になってしまっているように感じました。脱線しますが、光の教授こと(トーマス・ギブソン)がダーマ&グレッグのグレッグにしか見えない、またかなりの大根役者であったことも大きなマイナス要素でした。。そもそも論、最新のSFXを強調しまくっている作品ですが、SFX部分がかなりショボいのが痛すぎます。 しかしチョイチョイ素晴らしいセリフもあって、主人公が修練中に自分に打ち勝つよう「己自身の師匠となれ」だとか「世の中で書物が最も強大な力がある」だとか・・ あちこちに中国っぽい素敵な言葉も沢山ありました。ラストがキレイな終わり方だったのだけが救いでしょうか。まあ可もなく不可もなくといった凡唐な作品ですが、、それでも見て損したというほど悪くはなかったような気はします。愛嬌があった猪八戒に免じて少し甘めの点数です。(本当ならせいぜい4点がいいところ) [DVD(吹替)] 5点(2025-05-16 14:11:32) |
19. レジェンド・オブ・エジプト
非常に良かった。これほどの大作をたったの140分程度で過不足なく綺麗に終わらせたのは本当に素晴らしいです。先日見た同シリーズ「モンキー・キング」とは雲泥の差でした。 本作「レジェンド・オブ・エジプト」は原題では「Cleopatra」となっており、確かにクレオパトラ=エジプトの伝説で間違いではないのですが、やはり鑑賞した印象ではクレオパトラの物語でしたので原題のほうがシックリきそうです。特に本作で素晴らしいのが新人レオノア・ヴァレラ=クレオパトラです。メイクが上手いというのもありますが、目つきが一般的にイメージされるクレオパトラ像そのものでした。もちろん脇を固める男性陣も名優ぞろいでシーザーにティモシー・ダルトン、アントニウスにビリー・ゼーンがメインを固め、その他もかなり落ち着いた演技ができる性格俳優が起用されていて抜け目がありません。おまけにこの女優さんは後にビリー・ゼーンと結婚しています。 クレオパトラに関しては娼婦みたいだという辛辣なご意見も見られますが、本能的に若くて美しいというだけでそれは立派な武器になりうる訳ですので、ある程度は仕方がないかなと思います。特にシーザーとの顛末はそういった側面があったかもしれませんが、シェイクスピアではアントニウスとクレオパトラは真実の愛を貫いた物語になっています。そういった意味ではシーザー編をもう少し短くしてアントニウス編に時間を割いても良かったかもしれません。 やはり本作最大の問題点かつ泣き所が、”あまりにも有名な物語であるが故に結末が判っている”ということです。演技・構成・演出・美術・セットに至るまでほぼ全ての部分が完璧な作品でしたが、いかんせん観客のほとんどの人が結末を知っています。「タイタニック号の悲劇」「ロミオとジュリエット」と同じくらい有名な話なので、史実に近い状態でエンディングを迎えてしまったことが最大の泣き所でした。そういった意味ではキャメロン版のタイタニックは心底上手かったといわざるを得ません。 そうはいっても劇場公開されないTV映画でこの完成度は素晴らしすぎます。少々辛口でしたが、まあ文句なしの作品だと思います! [DVD(吹替)] 8点(2025-05-16 14:10:10) |
20. 新・座頭市物語
ネタバレ 20年以上前に10作品以上見た記憶だけは残っていて、私のイメージでは「関所破り」が最高だと思っていましたが、最近見返してみると一作目と初カラー作品である本作3作目がやたらと素敵でした。続けて見た4作目(座頭市兇状旅)もなかなか良かったのですが、本作「新・座頭市物語」のほうが頭一つ抜き出ていたと思いました。(2作目は超絶に駄作だったと思いますが、それでも座頭市を押さえておきたいなら1~4作目だけ見ておけば完璧だと思います。5作目以降は惰性で進んでいる感じがあって、まあオマケみたいなものでしょうか) 深い感銘を受けたのはきっと私自身が年齢を重ねて感受性が変わったためだと思われますが、しかし大人になって冷静に見返してみると、本作や次作(座頭市兇状旅)ではやたらと市の心情を表現したシーンが多いことに気づきます。勝新が監督した89年版のメイキングでも女の子にしきりに感情指導していましたので、おそらく勝自身が”哀しき孤高の盲目ヤクザ”の内面を演じたかったのでしょうか。とにかくこの心情表現が素晴らしい。 ベタな展開ながら師弟関係(河津清三郎)と天狗党の一件も非常に面白いし、師の妹(坪内ミキ子)に惚れられる展開もシンプルで良いです。なんだかんだと市はよくモテます。因果応報で安彦の島吉(須賀不二男)に執拗に追われる展開も綺麗な結末を見せるし、その後の市の心情を揺さぶる流れもよく出来た展開でした。兄の本当の姿を目撃して見せる弥生の表情も素晴らしかったのですが、極悪人である兄が死に、その兄を斬った市も去って行く流れは少し可哀そうではありましたね。 さりげないシーンですが、幼馴染みに「イチタさん」と呼び止められます。おそらく座頭市の本名が判明する唯一の回ではないでしょうか。 [地上波(邦画)] 9点(2025-05-12 23:47:26) |