321. ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春
《ネタバレ》 ゾンビを主人公にした映画は何本もありますが、自分にとっての「ゾンビ主人公映画」初体験がコレだった気がします。 正確には「半分ゾンビ」という設定であり、主人公は「人間を食べたい」という欲望は全く抱いていない為「食人鬼の苦悩」的な物は描かれていなかったりするので、その点については拍子抜けでしたね。 他にも「途中で死んだ仲間のクリフはゾンビ化しないの?」「ラストで主人公はヒロインと結ばれたけど、子作りとかは可能なの?」と気になる点が多く、本作における「ゾンビの生態」があまり説明されずに終わってしまうのは、かなり残念。 せっかく劇中にて「ゾンビを研究する集団」まで登場させているのだから、彼らの口を通して、もっと詳しく説明して欲しかったです。 監督であるピアース兄弟の父親は、あの名作「The Evil Dead」(邦題:死霊のはらわた)にスタッフとして参加していたとの事であり、その縁もあってか、劇中のドライブインシアターにて「The Evil Dead」を流したりと、過去のゾンビ映画に対するオマージュ描写が散見される辺りは、同じゾンビ映画好きとして嬉しかったですね。 「主人公はゾンビである」という設定が、劇中でキチンと活かされており「ゾンビを退治しようとする人間達から逃げる主人公」という、通常とは真逆の面白さが味わえる辺りも良かったです。 普通のゾンビ映画であれば、如何にも主役になりそうな黒人青年がゾンビハンターと化して主人公達を追ってくるって点も、面白くて好きですね。 この辺り、主人公のマイクが「冴えない眼鏡のモブ顔」って感じなのに対し、黒人青年は「精悍な二枚目」っていうビジュアル面の対比もあって「普通なら主人公のはずのキャラクターが敵役」「普通なら無数にいるゾンビの中の一人に過ぎないはずのキャラクターが主役」という設定の妙味を、より深く楽しめるようになっていたと思います。 同じ「半分ゾンビ」仲間である相棒のブレンドが、頭の軽いチャラ男と思わせておいて、要所要所で名台詞を吐いてくれるという意外性も、実に心地良い。 ゾンビになった事を悲観する主人公に対し「そりゃあ個性っていうべきだ」と元気付けたり「彼女の気持ちは分からなくたって良い。でも、お前の気持ちは確かなんだろう?」と告白を後押ししてくれたりする様が、凄く良かったんですよね。 彼の他にも、半分ゾンビではない完全にゾンビなチーズに、元軍人のクリフなど、道中で一緒になる仲間達が三人とも魅力的だったりするもんだから、ゾンビ映画としてだけでなく、青春ロードムービーとしても、しっかり楽しむ事が出来ました。 途中までは苦みを含んだ展開が多く(これは主人公とヒロインが結ばれずに終わる可能性もあるかな……)と思わせておいて、意外なハッピーエンドで終わってくれるって辺りも、嬉しかったですね。 上述の通り、細かい点について考え出すと(半分ゾンビの主人公と、人間のヒロインとで、本当に上手くいくんだろうか?)って疑念も湧いてきたりするんですが、そんな野暮な観客に対し「愛さえあれば大丈夫だよ」と言わんばかりに、それまで敵だった人間達にまで二人を祝福させて、有無を言わさず終幕させている。 その強引さと、能天気なほどの人間賛歌&ゾンビ賛歌っぷりに、初見では戸惑う気持ちもあったんですが…… (この映画は、そこが良いんだ)と、今ならそう思えちゃいますね。 明るく、和気藹々としたNG集に至るまで、ゾンビ映画らしからぬ陽性な魅力を味わえた、とても貴重な一本でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2019-04-12 02:11:45)(良:1票) |
322. クライムダウン
《ネタバレ》 映画「エラゴン」で主演を務めたエド・スペリーアスの数年後の姿を拝めるという、非常に貴重な一品。 自分としては、劇中で彼がどんな活躍をしてくれるのかに期待していたのですが……良い役とは言い難いものがありましたね。 一応、副主人公に近いポジションなのですが、どうにも憎まれ役というか「主人公の好感度を下げない為に、マイナスな言動を代わりに行うキャラクター」って感じなのです。 最後も(えっ? 死んだの?)って戸惑うくらいにアッサリ撃たれて退場するし…… 何だか凄く不憫で、応援したくなりますね、エドさん。 それで映画本編の方はといえば、これが中々面白い佳作。 登山を楽しむ主人公達が、地中に女の子が埋められている事に気が付き、慌てて掘り起こして木箱を開けるシーンのドキドキ感なんて、凄く良かったですね。 その後に少しずつ謎が解き明かされていくのかと思いきや、かなり早い展開で「彼女は誘拐され、ここに閉じ込められていた」「誘拐犯の二人組は、すぐ近くにいて、銃を手に主人公達を追跡している」と分かるので、これにも吃驚。 謎解きを放棄した、追いかけっこに特化した作りだったとは、完全に予想外でした。 舞台が山の為か、危険な崖を降りるシーンもあるのですが、そこに関しては「急がなければいけないのに、危険だから慎重に、ゆっくり降りなければいけない」というのが何だかチグハグで、緊迫感を削いでいたように思えて、残念。 そんな崖のパートを過ぎて、河の急流に差し掛かる辺りからは、ようやく演出もスピーディーになり、以降はノンストップで楽しめたように思えます。 「追ってくる奴らの狙いは、その子だけだ」と言い出し、女の子を犠牲にして助かろうとするかと思われた男が、自ら囮になって他の皆を逃がしてあげる展開なんかも(そう来たか!)という感じで、実に好み。 誘拐犯の一人が「以前、人質の男の子と仲良くなってしまった事がある」と語り出し、その子が苦しまないように後ろから頭を撃ち抜いてやったと話す件なんかも、彼の恐ろしさと人間味を同時に感じられて、良い場面だったと思います。 最終的には、主人公と女の子の二人は何とか助かるので、ハッピーエンドと呼ぶ事も出来そうな本作品。 でも「実は女の子の父親が悪どい権力者であり、誘拐犯は彼の手によって無残に殺される」というオチまで付いているのは、ちょっと蛇足に感じられましたね。 誘拐された側が絶対的な正義ではない、という深みを持たせたかったのでしょうが(後味が悪くなっただけじゃない?)というのが正直な感想。 どちらかといえば、楽しめた場面の方が多いのですが(ここ、もうちょっと何とかなったらなぁ……)と細部が気になってしまう。 そんな映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2019-04-09 21:42:15)(良:1票) |
323. O〔オー〕
《ネタバレ》 「古典を現代の学園ドラマに置き換えてみました」ってタイプの映画は色々ありますが(「小悪魔はなぜモテる?!」「恋のからさわぎ」など)その中でも最初に観たのが本作であった為、非常に新鮮な気持ちを味わえた思い出がありますね。 そういった「初見補正」のようなものが存在する事、主演が贔屓のジョシュ・ハートネットである事などを含めて考えると、自分の評価は甘々になっているのかも知れませんが…… それでもなお本作に対しては(意外と良く出来ているんじゃないか)っていう想いが強いです。 まず、騙されるオセロ=オーディン側ではなく、騙すイアーゴー=ヒューゴが主人公となっている点が面白い。 ダブル主人公って感じでもなく、完全にヒューゴ目線で物語が進行する為、元ネタの「オセロ」の粗筋を知っていたとしても、目新しい気分で観賞出来るんですよね。 軍人=スポーツ選手という置き換えも自然にハマっているし、合間合間にバスケの試合シーンが挟まれる事も、良いアクセントになっていたと思います。 白と黒、白人と黒人という「オセロ」ならではの対比もキチンと描かれているし、オーディンが抱える悩み、ヒューゴが抱える悩み、どちらも観客に理解出来るよう作ってある。 特に「逮捕歴のある不良少年だったが、スポーツ特待生として、金持ちの白人だらけの名門校に入学出来た黒人」というオーディンの設定は非常に分かり易く、感情移入もしやすいですよね。 だからこそ、彼の側に尺を取る事無く、ヒューゴ目線の映画として成立させる事が出来たんじゃないかな、って思えました。 ヒューゴと父親の間にある「心の溝」も丁寧に描かれており、基本的には「嫌な奴」のはずなヒューゴにも、自然と同情出来る形になっている。 オーディンをMVPとして表彰する際に「この青年を心から愛してる。息子のように」と言ったりする父親には(それ、実の息子の前で言う台詞じゃないでしょうに……)とヒューゴが可哀想になるし「ここでメシ食うの久し振りだね」と、ヒューゴが父子の対話を望んでいるような場面でも、父親はオーディンの事ばかり気にしているというんだから(そりゃあ息子は傷付くし、歪んじゃっても仕方無いよ)と、納得させられるものがありました。 オーディンを騙す件の演出も良くて、実際は「ブランディ」について話しているのに「デジー」について話していると思い込ませる話術には、特に感心。 元々「オセロ」には「もっと妻と直接対話すれば、不貞の疑惑なんて簡単に解けたんじゃない?」っていうツッコミ所が存在している訳ですが、本作はそれをなるべく緩和するという意味でも、かなり頑張っていたと思います。 ニガーという差別用語も巧みに活用されており、自分とは肌の色が異なる彼女を信じられなくなってしまうオーディンの心理にも、ちゃんと説得力があったかと。 「君は俺の全てだ。友達なんてもんじゃない、兄弟だ」と囁きかけるヒューゴの台詞など、オーディンに対する同性愛めいた想いが描かれている点も「悲劇」に相応しい背徳的な趣きがあって、良かったと思います。 そんな具合に、色んな長所が備わっている映画なのですが…… 肝心のクライマックスで失速しちゃうというか、あまりにも展開が滅茶苦茶になり過ぎて、観ていて醒めちゃうのが欠点なんですよね。 「終わり良ければ総て良し」の逆を行く形であり、ラストの辺りは、本作が好きな自分でも褒めるのが難しい。 特に、ヒューゴが持っていた拳銃がオーディンの手に渡る流れは凄く雑で、そこはもうちょっと格闘させるとか、ボールの奪い合いはオーディンの方が上手いので拳銃も奪われちゃったとか、そういう感じに仕上げても良いんじゃないかって思えました。 主人公の心が壊れ、狂人になってしまった事を示すかのような最後のモノローグも、ちょっとわざとらしく、自己陶酔が強過ぎて、ノリ切れない感じ。 オーディンが自殺する際の「俺がこうするのは、黒人だからじゃない」という涙ながらの訴えは良かっただけに、凄く勿体無いですね。 いっそ、あれを最後の台詞にして、あとは静かな音楽と共に護送されるヒューゴを描くだけの結末にした方が、余韻も生まれ、綺麗に纏まっていたかも。 優等生ではあるけれど、スポーツの世界では一番になれず、完全犯罪を計画しても失敗してしまった主人公。 そんな「あと一歩で成功しきれない」という主人公に相応しい「あと一歩で傑作に成り切れなかった佳作」という感じの、どこか物悲しい一品でした。 [DVD(吹替)] 7点(2019-04-02 15:11:45) |
324. JAWS/ジョーズ
《ネタバレ》 サメ映画の原点にして頂点……と断言してしまうのは、後続の映画群が可哀想になりますが、思わずそう言いたくなるくらいの傑作ですね。 正直、サメ本体の造形に関しては現代の目からすると稚拙であったりするのですが、ジョン・ウィリアムズの音楽と、スピルバーグの冴え渡った演出とが、それを忘れさせてくれます。 桟橋を破壊するシーンで、敵となるサメが如何に怪力かを知らしめてくれるのも良いし、今ではお約束となっている「巨大な歯を拾い、そこからサメの全長を推測する」流れも、実に効果的。 特に印象深いのは「樽を三つも背負っているんだ、潜れっこない」という台詞の後に、サメが海に沈み、水音が止んで静寂に包まれる演出ですね。 劇中の人物だけでなく、観客にも(潜れっこないはずなのに、潜りやがった!)という衝撃を与えてくれて、本当に痺れちゃいます。 サメを発見したかと思いきや、実は子供の悪戯だったと分かり、気が緩んだところで、本物が襲来するという緩急のある展開も良かったですね。 ここで主人公の息子が標的となる訳ですが、事前に子供が殺されているので(子供といえど、無事に済むとは限らない)という危機感を煽ってくれる形。 グッタリした息子を地上へと引き上げる際に、死体かとドキドキさせておいて、無事な下半身を映し出し(良かった……食べられていない)とホッとさせるのも上手かったです。 ちょっと気になったのは、終盤に主人公達三人が、酒を飲みながら語り合うシーン。 ここ、再観賞する前の自分の認識では「それまで喧嘩してばかりだった三人が打ち解け、一致団結してサメに戦いを挑む事になる名場面」というものだったです。 でも、いざ実物を観てみると、仲良くなったのは一時的で、翌朝には再び喧嘩してばかりの関係に戻ってしまっているんですね。 あくまで猟師のクイントの過去を描き、人物像を掘り下げるのが目的の場面であったみたい。 どうも都合良く美化した上で記憶していたようで、何だか寂しかったです。 それに対し、終盤のサメとの対決シーンは記憶に残っていた通りの素晴らしさであり、嬉しかったですね。 そもそも「海に浮かぶ小さな船」というだけでも孤立感が強いのに、その船の中にまでサメが襲い掛かって来て、沈みゆく船の中で戦うという、二重の意味で「追い詰められた」緊迫感が凄まじい。 派手な爆発と共にサメを倒すも、生き残ったのは主人公のブロディ唯一人……という寂寥感の中で、実はフーパーも生きていたと判明し、ホッとさせてくれるエンディングも良かったです。 後に無数のサメ映画を生み出す事に繋がり、それと同時に(結局、原点である「JAWS/ジョーズ」が一番面白い)という認識さえも生み出してしまった、恐るべき傑作。 でも、自分は後続のサメ映画の数々も好きですし、他のジャンルにおいては「元祖を越えてみせた名作」を幾つか知っているだけに、希望を失いたくはないですね。 (これは「JAWS/ジョーズ」より面白い!)と思えるようなサメ映画と、何時かは出会ってみたいものです。 [DVD(吹替)] 9点(2019-03-25 20:07:47)(良:3票) |
325. 空飛ぶペンギン
《ネタバレ》 家族の絆が再生する様を描いた映画なんだけど、そのキッカケとなるのが「ペンギン」っていうのが珍しいですね。 主人公は離婚した身であり、今は別居中な子供達の気を引く為にペットのペンギンを飼う流れとなるのですが、そんな「子供達と上手くやる為の道具」に過ぎなかったはずのペンギンに対し、愛着を抱くようになる流れも、ちゃんと描かれている。 高級な家具に囲まれていた部屋を、ペンギン達の為に雪まみれにする流れは微笑ましいものがあったし、公園でペンギンや息子達と一緒にサッカーして盛り上がる場面なんかも良かったです。 邦題の通り「空飛ぶペンギン」という、ビジュアル的に派手な見せ場も用意されているし「餌の魚ではなく、主人公を選ぶペンギン達」という場面によって、息子達だけでなく、ペンギン達も主人公の家族になったんだと示して終わる辺りも、上手かったと思います。 そういった「ファミリー映画」「動物映画」としての魅力を感じさせる場面がしっかり用意されてあった点は、文句無しで素晴らしかったです。 ただ、この映画は色々と気になる点も多かったりして…… 一概に傑作とは言えない出来であったのが、非常に残念ですね。 基本的には好きな作風の品なので、それらの点も「愛嬌の内」と捉えたいところなんですが、ちょっと気になる点が多過ぎて、許容量をオーバーしてしまった気がします。 まず、根本的な話になってしまうんですが、ペンギン達を可愛いとは思えなかったりしたんですよね。 アップになると顔も怖いし、鳴き声だって、耳に心地良い響きとは言えない。 おまけに糞をするシーンをギャグとして何度も描いたりするもんだから、これには正直ゲンナリです。 ペンギンが主軸となる映画において、その可愛さを殆ど感じられなかったっていうのは、致命的なマイナスポイントでした。 主人公の部屋から聞こえる鳴き声や足音に迷惑している隣人に、元嫁の現恋人である男性など、主人公にとって都合の悪い存在の影がやたら薄いし、悪人っぽく描かれている点なども、何だか偏っている気がして、観ていて居心地が悪くなりましたね。 白頭鷲はアメリカの象徴であり、主人公の父親のニックネームも白頭鷲であるとか「アメリカは勝負に勝った者を逮捕するような国じゃない」って台詞だとか、やたらアメリカって国を意識した作りなのも、どうもノリ切れない。 こういうファミリー映画兼動物映画にまで、そういう愛国心みたいものを持ち込んで欲しくないなって、つい思っちゃいました。 で、最後に、これは短所ではなく長所に分類される事だと思いますが…… 実は本作において一番キュートに感じられたのが、子供達でもペンギン達でもなく、脇役である「パ行が好きな秘書」のピッピだったりもしたんですよね。 単純に女優さんのルックスも愛らしいし、パ行の言葉ばかり好んで用いるというギャグキャラなのに、秘書としては意外と有能っていうアンバランスさも、非常に魅力的だったと思います。 彼女にスポットを当てた続編なり外伝なりが存在するのであれば、是非観てみたいものです。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2019-03-22 22:25:15)(良:1票) |
326. ロード・キラー
《ネタバレ》 ポール・ウォーカー主演作品なのですが、彼がスターのオーラを全く漂わせておらず「等身大の若者」を演じ切っている点が素晴らしいですね。 同年には「ワイルド・スピード」でタフガイの刑事を演じているはずなのに「寮住まいの大学生」「精神的には、まだまだ子供」っていう主人公像にも、自然と馴染んでみせている。 彼の他作品を考えれば「こんなストーカー紛いの殺人鬼なんて、ポールに掛かればイチコロじゃん」「酒場でポールに因縁付けるとか……たったの三人じゃあ、どうせアッサリ撃退されて終わりでしょ?」となってもおかしくないのに、殺人鬼に怯える姿や、何とか喧嘩せずに場を切り抜けようとする臆病な若者としての姿に、しっかり説得力があったんだから、これは凄い事じゃないかと。 彼の人気の要因は「何処にでもいそうな、気の良い兄ちゃん」という独特の雰囲気にあったのでしょうが、演技力においても確かなものを持っていたんだなって、再確認させられた思いです。 相方となるスティーヴ・ザーンも良い味を出してあり「傍迷惑な兄貴なんだけど、憎めない」って、主人公だけでなく観客にも思わせているんだから、お見事でしたね。 本作は明らかに「激突!」(1971年)が元ネタの作品なのですが、オリジナルの魅力を感じられたのは、彼らが演じる主人公兄弟の存在あってこそ、って気がします。 中年男の孤独な戦いを描いた「激突!」に対し、本作は若い兄弟の掛け合いが主となっているし、ヒロインであるヴェナとの三角関係を交えた「青春映画」としての味わいもありましたからね。 自分としては、この「車での三人旅」になる中盤の件が凄く好きなもんで(殺人鬼とかもう出て来ないで、このまま青春ラブコメ物として進めて欲しいな)と思えたくらいです。 久し振りに再会した兄が「弟のルイスと、ヴェナの関係をあれこれ詮索する」という形で、主人公ルイスとヒロインのヴェナの関係性を、観客にも分かり易く伝えている点。 そして、精神的な恐怖に訴えかける演出であり、血生臭い描写が殆ど無い点など、ライト層の観客に配慮した作りとなっているのも、嬉しい限りでしたね。 本作を初めて観賞したのは、スプラッター映画などに全く耐性の無かった十代の頃だったんですが、それでもしっかり楽しめたのは、作り手側がちゃんと「そういう層の観客でも楽しめるように」と、色々計算した上で作ってくれたお蔭なんだと思います。 今になって改めて観返すと、元カレが「危ない感じ」という冒頭の台詞が伏線じゃなかった事が肩透かしとか、犯人が逃げ延びて終わるのでカタルシスに欠けるとか、欠点も目についちゃうんだけど…… それよりは、色褪せぬ魅力の方を強く感じ取る事が出来ましたね。 感動するとか、強烈な衝撃を受けるとか、そういう類の作品じゃありませんが「軽い気持ちで楽しめる一本」として、オススメです。 [DVD(吹替)] 7点(2019-03-21 05:36:47)(良:1票) |
327. アイアン・スカイ
《ネタバレ》 これは面白いっていうよりは、観ていて楽しい映画ですね。 月の文明を発見する件や、宇宙船同士の戦いを描いた場面なんかは純粋にワクワクさせられるし、各所にシニカルな笑いも散りばめてある。 円盤型の宇宙船に、ハーケンクロイツを模った月面建造物など、魅力的なビジュアルが次々に飛び出す辺りも良かったです。 一歩間違えば「正義のアメリカ」VS「悪のナチス」な映画になっていてもおかしくなかったのに、ちゃんとアメリカ側も悪役っぽいバランスで描いているので、違和感無く観賞出来たのも、非常にありがたい。 軍服姿の金髪美人に、眼鏡の女性大統領(サラ・ペイリンがモデル)など、オタク心をくすぐる女性キャラクター達まで登場しているので、所謂「萌え映画」として楽しむ事も可能なんじゃないかな、って気がしました。 チャップリンの「独裁者」を効果的に活用し「月世界の住人は偏った教育を受けている」と分かり易く説明している点も上手いですね。 120分以上もある反戦映画が大幅にカットされ、月世界ではヒトラーを称える十分間の短編映画として扱われているとの事なのですが、その十分間バージョンの「独裁者」も是非観たいなぁ……なんて思っちゃいました。 他にも、手を震わせながら眼鏡を外す「ヒトラー 最期の12日間」のパロティ描写など、クスっとさせられる場面が多かったです。 ただ、どうせ「独裁者」と「最期の12日間」を劇中で扱うなら、いっそヒトラー本人を復活させても良かったんじゃないかとも思えたんですが…… まぁ、そちらのネタに関しては続編の「アイアン・スカイ:ザ・カミング・レース」に持ち越し、という事なんでしょうね。 でも、映画単体として考えると「この流れならヒトラーも出るんじゃないかと思ったのに、結局出ない」って辺りの肩透かし感は、欠点になってしまうかも。 その他にも…… 1:地球のスマホに驚いたりして、文明レベルは月の方が劣る描写があったのに、軍事力では互角に近いバランスだと終盤明らかになるのは違和感がある(せめて、もっと早めに説明しておいて欲しい) 2:国家を流すとナチス兵達は敬礼してしまう習性を利用して形成逆転する流れを、二度もやるのは流石に白ける。 3:ヴィヴィアンとアドラーの因縁を描いておきながら、両者を対決させずに終わるのは残念。 といった具合に、色々気になる点や、不満点も多かったりするんですよね、この映画。 黒人の主人公が白人に改造されてしまう件はショッキングだったけど、終わってみれば(別に白人に改造されなくても、話としては成立したのでは?)と思えちゃうしで、どうにも消化不良。 この辺りは正直、設定倒れというか、面白い設定を思い付いたら全体のバランスなど考えずに詰め込んじゃうという、オタク映画の悪い部分が出ちゃってる気がします。 あとは「女性大統領が、ナチス式の演説を取り入れて支持率をアップさせる」って件が一番シニカルで面白かったですし、月育ちのアドラー准将と婚約者のリヒター伍長が大統領の側近となり、月と地球のカルチャーショックに戸惑いつつ馴染んでいくという「三ヵ月」の件も、出来れば省略せずに描いて欲しかったですね。 ナチス兵達が地球のヌード雑誌に興奮する件なんかも良かったですし、もっと「月と地球のギャップの面白さ」を押し出した脚本にしてくれていたら、より楽しめたかも。 ラストも「博士の異常な愛情」のパロディっていうのは分かるんですが、世界中で核戦争が起こっている様を描いて終わりっていうのは、ちょっと微妙でしたね。 「月と地球との戦争によって、月の住民は大変な目に遭った」→「それでも主人公とヒロインは力を合わせ、月を復興させる」という、悲劇からのハッピーエンドの流れが心地良かっただけに、その後に更に「悲劇」を上乗せするブラックユーモアなどは付け足さず、あのまま気持ち良く終わって欲しかったです。 それこそ、続編に繋がるような「ヒトラーは生きていた!」という衝撃を与える終わり方でも良かったかも知れませんね。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2019-03-21 04:56:36)(良:3票) |
328. アフター・アース
《ネタバレ》 ゲーム的な要素の強い内容ですね。 船尾という名のゴール地点、ホットスポットという名のセーブポイント、空気濾過カプセルという名の時間制限、ゴーストという名の無敵モード、といった感じ。 この「船尾を目指せゲーム」を主人公父子が頑張ってクリアしようとするのを見守る形になる訳なのですが、これがどうにもこうにも退屈で、困ってしまいました。 せっかく通信機によって父子は意思疎通が出来るのに、ナビゲイター役の父親は視力の低下と眠気によって殆ど役に立たない&必要な事以外は喋らないというんだから、盛り上がりようが無いんですよね。 喧嘩していた父子が和解し、協力する事によって危機を乗り越えるのかと思いきや、結局主人公が助かったのって「鳥による自己犠牲」「ゴーストの習得」という要素が大きいし、これらに必ずしも父子の和解や協力が必要だったという訳でも無いのだから、何とも中途半端。 どうやら制作側は本作を三部作の一作目とする目論みがあったらしく、父子の決定的な共闘を描くのは先延ばしにする腹積もりだったのかも知れませんが、どうもそれがマイナスに作用してしまったように思えます。 「危険度最高レベル」「全てが人類を殺す為に進化している」という地球の恐ろしさが、具体的に伝わってこないのも不満。 殺すどころか、地球の鳥が命を投げ出して主人公を助けている訳だし、それが「人間を殺す立場にあるはずの存在が、逆に助けてくれた」という意外性の感動に繋がらず「全然殺す気なんて無いじゃん」という拍子抜けに繋がってしまったのですよね。 鳥の自己犠牲(我が子を助けてもらった恩返し?)シーンの演出からすると、ここは宗教的なメッセージ性もありそうなのですが、信仰心なんて殆ど持ち合わせていない自分からすると、どうもピンと来ない。 そもそも序盤において「能力は高いが性格に難がある」という主人公の姿が描かれていた以上、改心するなり精神的な成長を遂げるなりするのが王道なのでしょうが、本作ではそんなの関係無しに「エリートの息子がエリートの父親と同じ超技術を習得して敵を倒す」というシーンがクライマックスとなっているので、物語の前後が繋がっていないような気がしました。 ここ、父親役のウィル・スミス目線で考えるなら「息子が自分と同じ力に目覚めて成功してくれる」というのは、そりゃあ嬉しいだろうけど、観客としては置いてけぼり気分です。 結局、主人公の「周りの意見を聞かずに独断で暴走する」という性格は作中で明確に改善される事は無く「父親の意見に背いて崖から飛び降りたお蔭で二人とも助かった」という形で、むしろ肯定的な結果に繋がっているのだから、何というか……主人公を最終的にどうしたいのか、着地点が見えてこないんです。 姉が目の前で殺されたトラウマを乗り越える事を主軸に据えたかったのだろうな、という事は窺えましたが、それなら上述の要素の数々は排して、もっとシンプルに「姉のトラウマを乗り越える主人公」という形だけに定めた方が良かったのではないかと。 ラストシーンで「母親と同じ仕事」を主人公が選び、父離れするのかと思ったら「父さんもだ」って最後まで父子一緒なのが示唆されるのも、凄く微妙。 仲が良いんだなぁと和む気持ちより、もうちょっと互いに親離れ子離れした方が良いんじゃないかって冷めた気持ちの方が強かったです。 「バッドボーイズ」や「ベスト・キッド」(2010年版)など、父子で共演しておらずとも面白かった映画があるし、二人とも好きな俳優さんであるだけに、何だか非常に勿体無く思えましたね。 舞台となる地球の風景などは中々壮観でありましたし、アクション描写なども悪くないと思います。 けれど、それ以上に色々と気になる点が多過ぎて、最後まで没頭出来ず仕舞いな、残念な映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2019-03-08 07:38:21) |
329. マイノリティ・リポート
《ネタバレ》 さながらオーケストラの指揮者のように、空中に浮かんだ情報の数々を整理する主人公の姿が印象的。 他にも「エレベーター式で上下にビルを移動する車」「次々に新しいニュース映像が表示される為、紙一枚分の薄さで事足りる新聞」など、近未来的なギミックが次々に飛び出すもんだから、それらを眺めているだけでも退屈しないし、面白かったですね。 裏路地のトンネルや、シリアルの箱にまで忙しなく映像が表示されるという「情報過多社会」を描いており、ディストピア的な雰囲気を醸し出す一方で「風船売り」の存在だけは今と変わらぬ等身大のまま描いてるってバランスなのも、実に興味深い。 この辺りは、たとえ世相がどれほど変質しようとも「夢を売る商売」だけは変わらずにいて欲しいという、作り手側の願いが込められているんじゃないかな、って思えました。 独特の粗い画面処理も魅力的だし、それらの「視覚的な面白さ」は満点に近いものがあったのですが…… ストーリーの方はといえば(何で?)と思える部分が多かったりして、残念でしたね。 まず、主人公の息子ショーンを誘拐した犯人が最後まで分からず仕舞いって事には、ひたすら唖然呆然。 こう言ってはなんですが、全体的にかなり無理のある展開を重ねている訳なんだし、ここも適当に「知り合いの誰かが犯人だった」って事にして、決着を付けても良かったんじゃないかって思えました。 あるいは、単なる事故死だったのをラマー局長が誘拐殺人に偽装して、主人公のジョンを「殺人の被害者代表」「犯罪予防局の象徴」として担ぎ上げたとか、何でも良いので、観客に「答え」を提示して欲しかったですね。 ジョンの眼球が便利アイテム過ぎて「とにかくID認証システムさえ突破すれば、セキュリティを無効化して自由に侵入出来る」って形になっているのも、流石に不自然。 「システムに頼り切って警戒を怠っている人間」の迂闊さを描いているのかも知れませんが、作中で二度も同じ手を使っているとなると(いや、ジョンは指名手配されてるし、その後に捕まってるんだから出入り禁止にしておけよ)とツッコんじゃいます。 ラストにて、主人公と妻が復縁するハッピーエンドになるのは歓迎なんだけど、さながら失った息子の代価のように「妻が妊娠した」というオチを付け足しているのも、ちょっと即物的過ぎて、興醒めしちゃいました。 勿論(ここは上手い脚本だな……)と感じる部分もあって「どれだけ息を止めていられるか」「片目でも見える奴がキング」などの台詞が伏線になっている辺りは、素直に感心させられましたね。 「殺人は予知されるもの」という先入観ゆえに、銃を突きつけられても平然としていた男が、警報を耳にした途端に怯えを示す展開なんかも、この設定ならではの妙味があって、面白い。 元部下に追われる展開になるんだけど、その際に「二分待ってから警報を鳴らすよ」「お願い、チーフ。抵抗しないで」などの台詞を挟み、主人公に信望があった事を示している辺りなんかも、妙に好きです。 それによって主人公が「良い奴」なんだって事が伝わってくるし(部下達が同情的だからこそ、追撃を何度も振り切る事が出来たんだ)って思えて説得力があるしで、二重の意味で効果的だったんじゃないかと。 それと、予知通りにリオ・クロウを殺すのかと思われた中で、ギリギリで踏み止まり「君には黙秘権がある」と。怒りと悲しみを押し殺して逮捕しようとする場面が凄く良かっただけに、その後「実はリオは犯人ではない」という陰謀色の強い展開になるのは、失敗だったんじゃないかって思えちゃいましたね。 これなら「ショーンを誘拐して殺した犯人は、リオ・クロウである」「主人公は彼を殺さずに逮捕し、プリコグの殺人予知システムは絶対ではないと証明してみせた」って形で終わる方が、ずっと綺麗に纏まっていた気がします。 ちなみに、本作には直接の続編となるテレビドラマ版「マイノリティ・リポート」(2015年)なる代物が存在しているのですが、そちらでもショーン誘拐事件の真相は明かされず仕舞いで、しかもドラマ自体も物凄く中途半端に終わってしまう為、あまりオススメ出来ないのが残念ですね。 ビジュアル面、ガジェット面の面白さは「傑作」と呼ぶに相応しいのでしょうが…… 映画として総合的に判断すると「中々良い映画」くらいの評価に落ち付きそうな、そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2019-02-20 14:35:07)(良:2票) |
330. ディープ・カバー
《ネタバレ》 潜入捜査を題材とした映画は好みなので、充分に楽しむ事が出来ました。 何といっても、主演を務めたローレンス・フィッシュバーン(ラリー・フィッシュバーン)の目力が素晴らしい。 冒頭、潜入捜査官を選抜する為、黒人警官達に面接を行うシーンがあるのですが、何の予備知識も無いと、ここで「んっ? こいつが主人公?」と思わせるような潜入捜査官候補が、次々に登場する形になっているんですよね。 でも、幾つかの面接が不首尾に終わり、フィッシュバーンが画面に現れた途端に「間違いなく、この男が主人公だ!」と納得させられてしまう。 それほどまでに、その精悍な顔付きと、鋭い眼差しには、独特の存在感が漂っていました。 父親が麻薬中毒であった為に、厳しく自己節制し、酒も飲まずにいる主人公。 そんな彼が、潜入捜査で麻薬の売人として振る舞い「悪」になりきろうとする内に、段々と自らの内面に眠っていた「悪の素養」とも言うべき一面と向き合う事になる脚本が、実に秀逸。 終盤、彼が酒を飲み干し、麻薬にも手を出してしまう場面では「とうとうやってしまったか……」という、人が堕落する瞬間の、後ろ向きなカタルシスさえ感じられましたね。 仮初めの生活を行う裏町のアパートにて、近所の少年を可愛がる主人公に対し、その子の母親から「あの子が好きみたいね。二千ドルで売ってあげる」と提案されるシーンなんかも、潜入した先の闇の深さが窺えて、印象深い。 また、売人としてコンビを組む事になった、ジェフ・ゴールドブラム演じるデビットとの、奇妙な友情も良いんですよね。 主人公に正体を告げられた後も「デカでもいい」と答え、一緒に悪党としてのし上がっていこうと誘い掛ける姿なんかも、忘れ難い魅力がありました。 あえて不満点を挙げるとすれば、主人公が最後の最後で「正義」を選ぶキッカケとなる「牧師さん」の出番が少なめである為、その決断に今一つ重みを感じられなかった事。 そしてラストシーンにて、上述の少年の母親の墓に、手向けの花と現金を添える行為によって、主人公が少年を引き取った事を示す演出が、ちょっと即物的に思えてしまったくらいでしょうか。 隠れた傑作と呼ぶに相応しい、もっと多くの人に観賞してもらいたくなるような、そんな一品でありました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2019-02-19 21:02:25) |
331. 予告犯
《ネタバレ》 この映画、面白いです。 面白いんですけど……序盤の拷問シーンで「悪趣味だなぁ」と思い、終盤の感動シーンで再び同じ感想を抱いてしまったので、どうも手放しでは褒められない内容。 「良い話にしようとしているのは分かるけど、無理あるよね?」という思いが浮かんで来てしまい、中々それが消え去ってくれなかったのです。 結局のところ、本作を楽しむ上でのキーポイントは「外国人の友達が死んでしまった」→「彼は死ぬ前に父親に会いたいと願っていた」→「自分達で探しても父親は見つからない」→「日本で一番捜査力が高いのは警察。死んだ友人の名前を騙って事件を起こし、彼らを動員して父親を探させよう」という、犯人達の行動を受け入れられるかどうかに尽きるのではないでしょうか。 自分としては「死んだ友人の名前を騙って」の部分が、ちょっと受け入れられなくて、本当に友達想いの奴なら、そんな事はしないだろうと白けてしまい、残念でしたね。 作中のテーマとしては「理由があって、頑張れない奴もいる」という、社会的弱者の存在を肯定するような意図があったのだと思われます。 けれど、就職活動はともかく、父親探しにおいて主人公達が「頑張れない」理由がハッキリしなくて、真っ当な方法では探せないと諦めて、死んだ友達に犯罪者の汚名を着せるのを承知の上で、楽な手段を選んだだけとしか思えないのです。 せめて「何年もかけて自力で探したけど手掛かりすら掴めなくて、止むを得ず最後の手段を選んだ」という形なら納得も出来るのですが、そういった過程を経ていないので、主人公達が努力を放棄したようにしか見えない。 酷く典型的な台詞になってしまうのですが「そんなやり方を、本当に生前の友人は望んでいたのか?」という疑問も浮かんできます。 それらの罪を償う為の自殺オチだったのでしょうが、終盤やたらと主人公を賛美する展開になっているものだから、どうも作り手との価値観のズレを感じました。 主人公と対峙し、その思想を否定する立場だった美人女刑事にまで「全てを予告し、やり遂げた」と嬉しそうに言わせたりしたのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかなと。 生き残った犯人グループの仲間が、罪を全部主人公に被せて自分達だけ助かる件も、シニカルに描くのではなく「主人公の自己犠牲の美しさ」を強調するような演出だったりするものだから(えっ、そこで感動させようとするの?)と驚いてしまったくらい。 その他、主人公が会社での陰口に気が付く件なんかも、あまりにも非現実的な「周りの人間は皆、嫌な奴」過ぎて(これ、現実なの? それとも主人公がそういう被害妄想を抱いているって描写なの?)と戸惑ってしまったし、女刑事と犯人の追跡シーンでも(どうして応援を呼ばないんだ? 刑事なら何らかの連絡手段は確保しておくべきでは?)と集中力が削がれてしまった形でしたね。 そういった諸々が伏線なのかと思いきや、全然そんな事は無かったという意味も含めて、終盤の展開が本当に残念。 「作中で明かされた真相に納得がいかなかった」というパターンの為、ついつい文句を並べてしまいましたが、以下は良かった点を。 まず、導入部から展開がスピーディーで「異常な犯人、シンブンシの目的は何か?」と観客にも推理させていく流れは、とても楽しかったですね。 映画の構成としては、序盤は刑事側の目線で事件を追いかけていく形であり、中盤以降に主人公=犯人へと視線転換して、その背景が明かされる訳ですが、順番が逆だったら冗長な話になっていたでしょうし、この導入部には「掴みが上手い」と感心。 主演の生田斗真の力によって、新聞紙で覆面をして犯行予告するシーンでも、ダークヒーロー的な恰好良さが醸し出されており、作中で彼らの賛同者が生まれていく展開に、さほど不自然さを感じさせなかった辺りも有難かったです。 ここのハードルをクリアしてくれないと、作中の世界観が根底から崩れかねないので。 犯人グループが仲良くなっていく過程も、短いながらも丁寧に描かれており、青春ドラマとしての魅力も備えている形。 主人公の「友達が欲しい」という夢が叶っていたのを示す、和気藹々としたやり取りを、最後の最後に持って来て、カタルシスを与えて終わらせた辺りも、上手かったですね。 ここで「良い友達を持つ事が出来て、幸せだ」などと口に出しては言わせず、主人公の表情や音楽などで伝えてみせる演出は、本当に好み。 決してハッピーエンドではないはずなのに、それに近い味わいがありました。 色々と気になる点は多かったのですが、それらを差し引いても面白かったし、良い映画だったと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2019-02-08 03:00:41)(良:1票) |
332. 赤穂城断絶
《ネタバレ》 深作監督の描く「仁義なき忠臣蔵」と聞き及び、さぞやバイオレンスな内容なのだろうなと予想していたのですが、思っていた以上に王道な作り。 吉良邸討ち入りのシーンでは血生臭さ全開だし、小林平八郎(渡瀬恒彦)と不破数右衛門(千葉真一)というファン感涙の戦いも用意されてはいるのですが、全ては「忠臣蔵」というオーソドックスな物語の枠に収まっている印象でしたね。 それだけ、この題材は器が大きいという事なのだろうなと納得し、安心感も覚える一方で「どうせなら、もっと破天荒な内容にして欲しかったなぁ」という物足りなさもあったりしました。 思うに、赤穂城にて「すわ籠城戦か」と盛り上がる件や、上述の討ち入りの件では確かに「この映画だからこその、荒々しい魅力」を感じられたのですが、吉良殺害を成功させた後の切腹までのシーンが妙に長く、そこで平坦な演出が続く関係上「結局は、数ある忠臣蔵映画の中の一つ」という印象に繋がってしまった気がしますね。 勿論、内蔵助の切腹シーンは迫力があったし、深作監督の面目躍如といった感じでしたが「討ち入りから切腹までの時間を、もっと短く纏めていれば、より鮮烈な印象を与えられたのではないかな……」と思ってしまったのも事実です。 それと、橋本平左衛門のエピソードは単体で観れば面白いのですが、メロドラマ的な悲劇となっており、この映画の中では浮いているように感じられたりもして、ちょっと残念。 浅野大学による御家再興が認められそうになっても、あまり嬉しそうな素振りを見せず、そちらよりも「吉良を討って浅野家は武門の家柄である事を示す」のに拘っていそうな武闘派な内蔵助に期待感が高まっていただけに、中盤以降どんどん出番が減ってしまうのが、何だか拍子抜けだったのですよね。 一時的に橋本が主役格となり、彼が死んで再び内蔵助に主点が戻るという構成なのが、どうも落ち着かない印象を受けてしまいました。 最後は、ともすればバッドエンドにも感じられそうな空気の中で「時代と共に人の心も変ったが、今もなお(赤穂四十七士に)香華を手向ける人が絶えない」というテロップを挟んだ辺りには、作り手の優しさが感じられましたね。 後味も悪くないし、印象に残る場面も多いという、中々の満足感が味わえる一品でした。 [DVD(邦画)] 6点(2019-02-08 02:56:58) |
333. ショコラ(2000)
《ネタバレ》 こういった内容の映画である以上、観賞後に「チョコレートを食べてみたい」と観客に思わせる事が出来れば成功なのだと思います。 自分はといえば、事前に買い込んでおいたチョコレート菓子の包装を解いて、美味しく頂かせてもらったので、まず満足。 基本的に優しい映画であり、作中の人物殆どが幸せな結末を迎えてくれるので、後味も良かったですね。 特に感心させられたのが主人公の扱いで、こういった御話では 『主人公は癒しを与える天使のような存在なので、心の弱さを見せて取り乱したりしない』 『村の人々が幸せになるのを見届けた後、主人公は次の村に幸せを運ぶ為に風のように去っていく』 という不文律が存在しているにも関わらず、本作は意図的にそれを覆しているのです。 終盤に北風が誘い掛けるシーンでは(あぁ、やはり立ち去ってしまうのか……)と寂しく思っていただけに、それを否定して窓を閉め、街に留まる事を選択する姿に驚き、安堵もさせられましたね。 遺灰を撒いて、それが北風に運ばれる描写もあったとなると、次の「幸せを運ぶ旅人」の役目は、あのお婆ちゃんにバトンタッチされたのかな? とも推理出来て楽しかったです。 ちょっと気になったのは、作中で唯一「救われない」人物として、セルジュが存在している事。 彼の扱いが完全なハッピーエンドとなる事を妨げているので、そこをもう少し上手くやってくれていたら、より満足出来たんじゃないかと思えましたね。 女性目線の映画なのだから「家庭内暴力」を振るった以上は許されるべきではないという判断なのかも知れませんが、一応彼なりに妻を愛していて、反省し、許しを乞うていたのだから、復縁するのは無理としても、もうちょっと救いを感じさせる顛末にしても良かったんじゃないかなぁ、と。 火事の件など、物語の進行上に必要な悪事は全て彼に押し付けて、村から追放したという形だったのが、どうにも居心地が悪かったです。 意地悪な見方かも知れませんが、村長の妻だって浮気という罪を犯しているのに、そちらは全く罰せられる描写が無しというのも、何だか女性に都合の良い世界観に思えてしまいました。 いっそ次の「幸せを運ぶ旅人」の役目を、セルジュに担わせても良かったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。 そんな本作の中で自分の一番のお気に入りは、倦怠期に陥っていた夫婦が「情熱を呼び戻すカカオ豆」を通じて、仲睦まじい夫婦に変わっていくシークエンス。 ちょっと下世話な描写でしたが、お風呂掃除中の妻のお尻に欲情してしまう件なんかが、非常に共感を持てたのですよね。 その後に、妻の荷物を「持つよ」と優しく提案する姿など、些細な描写の中にも「不器用ながらも、妻想いな旦那様」に変わった事が窺えて、微笑ましかったです。 断食の果てにチョコレートに貪り付く村長の姿からは、一種のカタルシスが感じられたし 「人間の価値は何を禁じるか、何を否定するか、誰を排除するかではなく、何を受け入れ、何を創造し、誰を歓迎するかで決まる」 というアンリ神父のお説教も、心に沁みるものがあって良かったですね。 娘の友達であるカンガルーの存在も、物語の寓話性を高める程好いアクセントになっていたと思います。 ゆったりと身を委ねたくなるような甘みと、微かな苦み、両方を味わえた映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2019-02-08 02:47:55)(良:3票) |
334. 帰らざる日々
《ネタバレ》 アリスのベストアルバムで何度も耳にした「帰らざる日々」が、主題歌として流れるだけでも嬉しくなってしまうのですが、映画自体も中々好みの味わいでしたね。 高校生活が、退屈で仕方ない主人公。 そんな彼の片想いの対象である、年上の美人ウェイトレス。 中学の頃の同級生で、初体験の相手となる少女。 何故か自分を気に入って、妙に懐いてくる不良の男子生徒。 ……といった具合に、登場人物達が、現代の青春映画、小説、漫画などにも転用出来そうな普遍性を備えている事に、まず驚かされました。 主演の永島敏行に関しては、正直、ちょっと棒読みなんじゃないかとも思えたりして、そこは残念。 けれど、気だるげで白けたような態度、それとは対照的に情熱を秘めた眼差しなど、その独特の魅力も、確かに感じ取る事が出来たと思います。 彼をはじめ、高校生を演じるには全体的に老け過ぎな俳優陣にも思えたのですが、これに関しては、青春映画のお約束なのだから、ツッコむ方が野暮というものでしょうか。 序盤にて、級長が不良生徒に殴り掛かる展開に「何で?」と戸惑った事を筆頭として、当初は面白みを感じられなかったりした本作。 ですが、主人公達が首吊り死体を見つけ、残された金を盗み取るシーン辺りから、少しずつ良くなっていった……という印象ですね。 ちょっと主人公に都合の良い展開が多いような気もしますが、これくらいなら、何とか許容範囲内。 終盤、すっかり親友となった不良生徒の隆三が、主人公を庇い、事故で脚を潰してしまうシーンなどは、かなり衝撃的でしたね。 上述の窃盗に、飲酒などを含め「悪い事をしたら罰が当たる」という道徳的なテーマも窺わせる一方で、彼が友を庇う「善行」の結果として、不幸に見舞われてしまったのだという事が、何ともやるせなかったです。 二人が仲良くなったキッカケが、マラソンであった事。 競輪選手になる夢を隆三が語っていた事なども、上手く布石として活用している形なのですよね。 友情と希望の象徴であったはずの親友の「脚」が失われると同時に、過去を回想するパートが終わるという構成も、鮮やか過ぎて、意地悪に思えてしまうくらいに上手い。 あまりにも残酷な、青春の終わり。 そして現代で再び見舞われる「交通事故」「死別」という悲劇によって、二人の友情にも終わりが告げられる……と思いきや、それを主人公が否定する結末にしてくれた事は、嬉しかったですね。 過ぎ去りし日々、帰らざる日々の中で、二人で一緒に走った、あの道を、今度は一人で走り抜いてみせる。 それは友情が失われていないという証、今後も決して青春の日々を忘れる事などは無いという証明にも繋がっており、実に切ない余韻を与えてくれました。 [DVD(邦画)] 6点(2019-02-08 02:42:11) |
335. ディーバ
《ネタバレ》 1981年という制作年度を考慮すれば、非常に御洒落でスタイリッシュな映画なのだと思います。 主人公が暮らしている部屋なんて、如何にもな「秘密基地」テイストが感じられて、憧れるものがありましたね。 コーラの缶にガソリン臭いチューブを差し、それをストロー代わりにして飲んでみる少女のシーンなんかも、妙にお気に入り。 青と赤が巧みに配された画面。 そして、聴くだけで鳥肌が浮かぶような歌声と、視覚的、聴覚的にもセンスの良さを感じさせる本作。 ただ、ちょっと主人公が情けなさ過ぎるというか、変質的なストーカーにしか思えなかったりして、今一つ感情移入出来ないものがありました。 映画序盤における彼の行動はといえば、恋い焦がれる歌姫のコンサートを無断録音したり、衣装を盗んだり、その衣装を売春婦に着てもらってから一夜を共にしたりと、どう考えても単なる変態さんなのです。 にも拘わらず、演じている役者さんが爽やかで繊細な二枚目過ぎるせいで、やたらと嘘くさい。 主演俳優のルックスが優れているに越した事はありませんが、それにしても、本作のような主人公の場合、もう少し粘着質な感じがあった方が、キャラクターにリアリティが生まれたのではないか、と思います。 また、主人公とヒロインの二人が結ばれるまでの過程も、あまり説得力が感じられなかったりして、残念。 海賊版の存在を「泥棒、強姦です」「軽蔑します」と言い放つような歌姫のヒロインと、実は彼女の声を無断録音してしまっている主人公が結ばれるという「意外な結末」ゆえに、観ていて(えっ? 何でくっ付くの?)と思わされてしまった気がしますね。 劇中にて、主人公が目覚ましい活躍をして自信を手に入れるとか、死線を越えて生まれ変わるといった事もなく、映画序盤から特に性格なども変わっていないのだから、序盤の彼の罪の「帳消し」感が生まれてこないのです。 その結果、ヒロイン側の一方的な優しさによって「主人公の過ちを許してくれる」「求愛を受け入れてくれる」という形になっており、ちょっとばかし男性にとって都合の良過ぎる女性像に思えました。 これならば、最初から主人公をもっと誠実で善良な男として描くなり、ヒロインを海賊版には拘らない人物として描くなりしておいた方が、二人が結ばれる結末に対しても、違和感が生まれずに済んだかと。 「本来結ばれるはずのない二人が結ばれるストーリー」という難しい題材にして盛り上げた以上は、ハッピーエンドにする為の難易度も上昇してしまうのだな、と思わされました。 それでも、ラストシーンにて、生まれて初めて客観的に「自分の歌声」を聴く事になるヒロインの姿には、胸を打たれるものがありましたね。 彼女が彼の罪を許し、愛を受け入れた理由は「自分の歌声の素晴らしさを教えてくれたから」なのか、それとも別の理由か……などと考えるだけでも、色々と楽しい映画でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2019-02-08 02:33:46) |
336. ぼくのプレミアライフ
《ネタバレ》 姉妹編「2番目のキス」に比べると、何処か真面目で、御洒落なセンスすら漂わせている本作。 「趣味」か、それとも「愛する女性」かと、世の男性に対し二択を迫るような内容となっており、観賞後は色々と考えさせられるものがありましたね。 結論から先に言えば「一番大切なのは愛する女性、趣味は二番目」という、ごく真っ当な答えを出したエンディングとなっているのですが、主人公はアーセナルの優勝決定の瞬間には「趣味」であるサッカー観戦の方を優先させている為、ちょっと中途半端な印象も受けてしまいました。 あるいは、長年の宿願であるアーセナルの優勝を目に出来たからこそ、スッキリとした気持ちになって、一歩進んで、大人になれたという事なのでしょうか。 この辺りの心理に関しては、劇中で必要以上に説明しない演出となっている為、解釈が分かれそうなところです。 スタジアムに連れて行った父親も引いてしまうくらい、サポーター活動に熱中していく主人公の姿は、何処か微笑ましくて、好印象。 「大人が何かに夢中になって、何故悪い?」という主張にも、大いに共感を抱きましたね。 このくらい強烈に没頭出来る趣味があるというのは、羨ましい事だな、と思えます。 優勝出来なかった時の失望が怖くて「どうせ無理」「絶対に負ける」なんて悲観的な事を呟き、自らの心に予防線を張っておく主人公の気持ちなんかも、同じスポーツファンとしては、実に良く分かりますね。 それだけに、優勝決定のゴールが決まる瞬間には、完全に気持ちがシンクロして、大いに興奮する事が出来ました。 その一方で、彼とは正反対な現実的思考のヒロインに関しても、きっちりと描かれていたんじゃないかと。 一定の理解は示しつつも「父親になるのだから、もっと落ち着いて、大人になって欲しい」と訴える姿は、説得力満点。 これだけしっかり者の奥さんがいてくれるなら、多少子供っぽい旦那さんでも、家庭は安泰だな……なんて、男目線で無責任に考えてしまったくらいです。 ラストシーンにて、二人は明確に「結婚」というワードを口にした訳ではありませんが、寄り添いながら歩く姿を見ていると、無事に夫婦になれたのじゃないかな、と思えますね。 生まれてくる子供は、父親に似てアーセナルファンになってくれるのかどうかも、気になるところです。 [DVD(字幕)] 7点(2019-02-08 02:22:35)(良:1票) |
337. 中学生円山
《ネタバレ》 これはつまり、正義の変身ヒーロー「中学生円山」が誕生するまでを描いた映画であった訳ですね。 彼はマスクを装着すると身体が柔らかくなり、さながら体操選手のような動きが出来るようになるという、何とも地味な能力の持ち主なのですが 「自らの性器を口に含んで自慰をしたい一心で、柔軟運動を続けてきた」 という背景を背負っていたりもして、一応は努力型のヒーローと呼ぶ事が出来そう。 その他「妄想を現実に変えてしまう」という便利な能力も備わっているみたいですが、こちらに関しては効力が曖昧で、何もかも自分の思い描いた通りに叶えてみせる事は出来ないみたいです。 構成としては「主人公円山の妄想」と「現実」が入り乱れる形となっており、観客によって「ここまでが現実」「ここからは妄想」といった具合に、解釈が分かれそうな感じ。 作中で起きる最も非現実的な出来事が「主人公が超人的な動きで弾丸を避けた事」ではなく「体育館で皆が主人公の自慰行為を応援してくれた事」だったりする辺りがユーモラスですが、恐らくは後者の体育館の件から、主人公の理解者である下井が撃たれて死ぬ件までが「妄想である」と解釈する人が、一番多いのではないでしょうか。 ご丁寧に「現実に負けるな」「妄想と向き合え」という台詞を重ね合わせる演出であった為、作り手側としても、それを想定していたのではないかな、と思えます。 ただ「下井が武器としている、ベビーカーを変形させた銃」が異様にスタイリッシュで、円山が妄想してきたレトロで分かり易いヒーローや悪役達と比べ、明らかに異質感があった辺りは気になりますね。 そもそも映画前半における、妄想の中で襲って来た「殺し屋下井」は、使用する銃のデザインもコロコロ変わるような適当さだったし、あの銃だけが浮いているというか「円山が妄想した代物にしては不自然」という意味で、妙に現実感がありました。 あれは円山ではなく下井の妄想の産物か、あるいは現実に作った代物なのか? と思えたりもして「もしかしたら終盤の戦いは、全て現実だったのかも知れない」という可能性を与えてくれる、良いアクセントになっていました。 個人的に残念だったのは、上述の体育館の件が非現実的過ぎて冷めてしまった事と「中学生円山」に初めて変身した時のデザインが、どう見ても単なる覆面レスラーみたいで、今一つ好みではなかった事。 下井の死後に届いたプレゼントのマスクは、ちゃんと恰好良かったので、意図的に「プロトタイプのマスク」として見劣りするデザインにしたのかも知れませんが、出来ればラストの「青い服に、赤いマスクとマフラー」という恰好で戦って欲しかったなぁ……と思わされましたね。 落ちぶれた韓国人俳優と、韓国ドラマに夢中になる人妻との不倫関係。 そして、老人の男性と小学生の女性との恋模様など、主人公の家族にまつわるエピソードも、しっかり面白かった辺りは、流石という感じ。 同じ宮藤官九郎脚本の「ゼブラーマン」と比べても、何処となくオシャレな感じが漂っていたのは、この二本のエピソードにて、色恋沙汰を扱っている事が大きかったように思えますね。 下井と円山の最後のやり取り「おめでとう」「ありがとう」には、感動を誘うものがありましたし 「正義っていうのは、人を殺しちゃいけない理由を、ちゃんと知ってる人の事だ」 という台詞も良かったです。 そして極め付けは「まだ早いって言われた」「もう遅いって言われた」「最初のキス」「最後のキス」の対比であり、年齢差のあり過ぎるカップルの悲恋が、何とも切ない余韻を与えてくれました。 主人公の円山だけでなく、その母親と、妹も 「韓国ドラマに夢中になっている」→「そのドラマに出演している俳優と出会う」 「同い年の男の子には興味ないけど彼氏が欲しい」→「素敵な老人の彼氏が出来る」 といった具合に、都合の良過ぎる出来事が起こっている為 (もしかしたら、この一家全員に妄想を現実に変える力があるの?) とも思えるのですが、そんな中で、唯一妄想をしない父親の存在が、何とも良い味を出していましたね。 家族の中で、彼だけは現実に満足して、幸福を感じている為、妄想する必要が無いという形。 実に羨ましくなるし、それって、とても素晴らしい事なんじゃないかと思えます。 「何があっても、お父さんお前の味方だからな」 と言って、悩み多き息子を抱き締めてみせる姿なんかも、コミカルな演出なのに、妙に恰好良い。 妄想に耽る事の魅力だけでなく、きちんと現実と向き合って生きる事の魅力も感じられた、バランスの良い一品でした。 [DVD(邦画)] 6点(2019-01-24 21:48:54)(良:1票) |
338. カオス(2005)
《ネタバレ》 ジェイソン・ステイサムとウェズリー・スナイプスといえば、ヒーローも悪役も貫禄たっぷりに演じられるのが強み。 そんな二人の悪役っぷりを同時に堪能出来るという、非常に貴重な一本なのですが…… 改めて観返してみると、二人が同じ画面に映っているシーンが殆ど無かったりしたもんだから、ちょっと寂しかったですね。 この後「エクスペンダブルズ3」にて本格的な共演が果たされた訳だけど、あちらでは二人ともヒーロー側だった訳だし、出来れば本作にて「悪役同士」ないしは「刑事と犯人の対決」という形での共演を、じっくり披露して欲しかったものです。 とはいえ、映画単品としては手堅く纏まっており、変に期待値を上げたりしないで観賞すれば、充分楽しめる出来栄えじゃないかと思えましたね。 粗野な中年刑事と、大学出のスマートな青年刑事によるバディムービーかと思いきや、片方が途中退場して真の黒幕だったと明かされる展開なんかは、この手の刑事物を沢山観ている人ほど騙され易く、新鮮に感じられるんじゃないでしょうか。 とにかくステイサム演じるコナーズが周りから悪口ばかり言われるもんだから、普通なら彼が強盗事件を解決し、周りを見返してやる結末になるはずなのに、本作に限っては全く逆で「彼を非難していた連中の見解が正しかった」と言わんばかりの結末を迎えるんだから、実に皮肉が効いています。 1:犯人が人質を殺した事を、コナーズが責める。 2:コナーズの出した紙幣をシェーンが財布に仕舞う。 3:押収品の紙幣には、特殊な香りが付けられている。 といった場面が印象的に描かれており、それらが伏線だったと明かされる流れも気持ち良い。 本作は「主人公が犯人だった」という叙述トリックを用いているのですが、バディムービーという体裁を取って、自然な形で主人公格を二人用意し、観客が感情移入させる対象をコナーズから青年刑事のシェーンへと自然に移行させた辺りも、上手かったですね。 バイクでトラックを追いかけるカーチェイス場面なんかも良かったし「観客を楽しませよう」という意思が伝わってくる、丁寧に作られた一品だったと思います。 不満点としては、コナーズが逮捕されずに逃げ延びて終わってしまうので、後味が悪い事。 事前に見せておいた爆破シーンと、その後の種明かしシーンとで、それぞれの時間経過に差があるのは(ズルいなぁ……)と感じちゃう事。 人質を誤射してしまった元刑事のローレンツが、今度は自らが人質を取るような悪党となってしまったのを自嘲し「お前ならどうする?」とシェーンに問い掛ける場面が劇的で良かっただけに、それに対する答えを示す場面が無いのは片手落ちに思える事とか、その辺りが該当するでしょうか。 バッドエンドである事も含めて、観賞後はモヤモヤも残ってしまうんだけど…… とりあえず観ていて退屈はしなかったし、途中経過は楽しめたので、自分としては一応満足です。 [DVD(吹替)] 6点(2019-01-19 19:03:43)(良:2票) |
339. コネクテッド
《ネタバレ》 「セルラー」(2004年)ほどのスタイリッシュな魅力はありませんが、アジア映画らしい泥臭さが濃密に盛り込まれており、あちらに負けず劣らずの傑作に仕上がっていますね。 勿論、全編に亘って改良が施されているという訳ではなく(ここは「セルラー」の方が良かったなぁ……)と思える部分もチラホラ見つかってしまうのは、非常に残念。 恐らく「セルラー」で不自然だった箇所を、なるべく自然にしようと改変を行ったのだと思いますが、それによってテンポが悪くなっていたり、逆に説得力が失われていたりもするんですよね。 この「悪くなっている部分」さえ無ければ、あの「セルラー」を越える傑作だと、胸を張って紹介出来た気がします。 中でもキツかったのが「監禁中のヒロインの手枷を解いてあげる犯人達」という場面。 確かに「セルラー」に対しても「なんでヒロインの手を縛っておかなかったんだよ」というツッコミは成立する為「最初は縛っておいた」という形にするのは分からないでもないんですが……それによって「わざわざ一度縛ったものを、何故解いた?」という、より強いツッコミ所が生まれているんだから、本末転倒じゃないかと。 無理矢理に推測するなら「手枷を解いてやる事によって飴を与え、自白させやすくする」という効果を狙ったのかも知れませんが、ちょっと分かり難かった気がします。 「セルラー」では「犯人達が手を縛る事を思い付かなかっただけ」という事で、ギリギリ納得出来る形だった訳だし、ここは変えなくても良かった気がしますね。 と、そんな具合に冒頭部で(こりゃあダメじゃないかな……)と失望させられたりもした訳ですが、その後にどんどん挽回。 気が付けば画面に釘付けになっていたんだから、やはり凄い映画なんだと思います。 先程は「セルラー」に比べて悪くなっている部分を述べましたが、それと同じか、あるいはそれ以上に良くなっている部分も多かったんですよね。 まず、主役格の「青年」「女性」「警官」の三人が、不自然な程に有能過ぎない、等身大な存在となっている点が好ましい。 中でもヒロインのグレイスが「教師だから色んな事に精通していて、何でも出来てしまう」という万能属性を取っ払われて「設計士だから電話を直す事が出来た」「男との揉み合いで勝利出来たのも、偶々刃物が血管を傷付けたから」といった感じに改変されており、これは凄く良かったと思います。 警官に関しても「これまでロクに銃を撃った事も無いはずなのに、何故か物凄く有能」というキャラから「性格に難があって降格させられている元敏腕刑事」という設定になっており、グッと説得力が増している。 極めつけはルイス・クー演じる主人公の青年であり「如何にも頼りない眼鏡姿」「でもやる時はやるという精悍な顔立ち」「経理関係の仕事をしており、頭も良い」「これまで息子に嘘を吐き続けていた為、今度こそ約束を守ろうと奔走する」というキャラクターになっていて、実に自分好みでしたね。 小道具として「バットマン」を巧みに活用し「ヒーローに憧れているはずなのに、現実と妥協して情けなく生きてきた主人公が、今度こそ本物のヒーローになる」というカタルシスを生み出している辺りなんて、見事としか言いようがないです。 誘拐犯のリーダーも貫禄があって良かったし、香港映画らしいカーアクションが盛り込まれている点も、嬉しい限り。 空港での犯人達との駆け引きも緊迫感がありましたし「一件落着かと思いきや、実は……」という、どんでん返しのやり方も上手かったと思います。 ヒロインは人妻ではなくシングルマザーなので、この後に主人公と結ばれる未来が示唆されているんですが、それも直接そうとは描かず、あくまで「結ばれるかも?」と思わせる程度に留めている辺りも、上手いバランスでしたね。 最後に息子に理解してもらえて、親子で抱き合うハッピーエンドになるのも、実に気持ち良い。 人質の命を救う為、止むを得ず息子との約束を破ってしまう主人公の姿が切なかっただけに、この「和解」のシーンは、本当に心に響くものがありました。 (あんなに約束を守ろうと頑張ったのに……)というやるせなさが強かっただけに、約束を破ってでも他人の命を救ってみせた主人公の恰好良さと、それが息子に伝わって仲直りする事が出来たという感動も、更に際立つという形。 「バットマンに転職したら?」との言葉通り、この後の主人公は、貧乏な家族を泣かせるようなヤクザ紛いの仕事なんて辞めちゃって、警官になっていたりもしそうですよね。 あるいは息子をロビン役にして、クライムファイター的なヒーローになるかも? なんて妄想まで出来ちゃう、実に面白い一本でした。 [DVD(吹替)] 8点(2019-01-09 19:04:44) |
340. ホーム・アローン4<TVM>
《ネタバレ》 原点回帰を果たし、再びケビン少年が主人公となったシリーズ第四弾。 役者は変更されている為、ケビンとバズの背が縮んで幼くなっている事に違和感があったりもするんだけど、自分としては直ぐに慣れて、楽しむ事が出来ましたね。 他にも「TVMなので低予算が丸分かりな作り」とか「3とは対照的に罠が地味」とか、色々と欠点が目に付くんだけど、ちゃんと良い部分もあったと思います。 まず、自分が「ホーム・アローン」を好きな理由である二大要素「主人公の少年が親の監視から解放されて好き勝手やる」「偏屈な大人と仲良くなる」という場面を、しっかり用意してくれた辺りが嬉しい。 しかも「家出して別居中なパパの新しい家に転がり込んだ」「最初は敵役かと思われた人物と和解し、共闘する」って形で、過去作をそのままなぞるだけでなく、上手い具合に変化を付けてくれているんですよね。 この辺りは、上記二つの要素が希薄だった代わりに罠の仕掛けが凝っていた3とは、好対照な作り。 それでいて「音声認識システムで管理された家」「その家を自由に動き回る為に必要なハウスキー」など、3で登場した「ハイテク要素」という新機軸も柔軟に取り入れているんだから、過去作の良いとこ取りをしたなって思えました。 父の新しい恋人なナタリーは、悪い人じゃないんだけど、主人公一家とは壁があるって関係性なのも、リアルで良かったですね。 彼女を決定的な悪役にはせず「好きな映画は何度も観る」タイプなケビン父と「どんな映画でも一度観れば充分」なタイプのナタリーって描写によって、この二人は上手くいかないだろうなと、自然と観客に納得させる辺りも見事。 かなり早い段階で家の中に内通者がいると明かされる為(ケビンに優しいモリーが犯人で、如何にも怪しいプレスコットは潔白ってオチなんでしょう?)と、そこまでは簡単に読める作りになっているんだけど「実はモリーはマーヴの母親」「疑いが晴れたプレスコットと仲良くなって、共闘展開になる」って形で、程好いオマケ要素を付け足してくれているのも、良かったと思います。 ファミリー映画ならではの「予想は裏切らないけど、ちょっとした驚きも与えてくれる」バランスが心地良かったです。 ケビンのお気に入りだという「テディ」が登場する場面では(そんなの、1や2に出てきたっけ?)と戸惑ったけど、改めて観賞したら1の屋根裏部屋のベッドに、しっかり熊のぬいぐるみが置いてあったもんだから(ちゃんと過去作を研究しているんだなぁ……)と、感心させられたりもしましたね。 「スポーツカー」の喩え話で、大人もドキッとするような真理を語る辺りも、ケビンらしくて良い。 役者が変更しても受け入れる事が出来たのは、そういった細かい部分がしっかりしていたのが大きかった気がします。 「ママはハッピーエンドに弱いのよ」との言葉通り、離婚の危機にあった両親も和解して、家族揃ってのクリスマスというハッピーエンドを迎える辺りも、良い意味で予定調和的。 勿論、最初に語った通り、欠点も多いです。 特に、マーヴの妻と母親を登場させておきながら、その存在をあまり活かせていないのは、何とも勿体無い。 せめて「夫婦円満の秘訣をケビン父に語るマーヴ」とか「アンタは母親の器じゃないとナタリーに説教するモリー」とか、そういうシークエンスがあっても良かった気がしますね。 あるいは、ずっと一緒だった相棒のハリーと別れてしまったのを後悔しているマーヴが、両親の離婚危機に落ち込んでるケビンに同情しちゃうとか、そんなベタな展開でも良かったんじゃないかと。 ナタリーが決定的な悪人として描かれていないのは長所だと思いますが、それゆえに「妻と復縁する事を選ぶケビン父」という結末にて、ナタリーが可哀想に思えてしまった辺りも、痛し痒しな感じがしましたね。 脚本的には、ケビン達の存在を無視して「子供はいません」と言ってしまったナタリーに対するお仕置きのようなものなんでしょうが、ちょっと納得し難いです。 ショックを受けた彼女を嘲笑うようなテイストが感じられたのも、ハッピーエンドに影を落とす形になっており(それで良いのか?)と思えて、どうもスッキリしない。 ここの終わり方をもっと上手くやってくれていたら「1や2ほど目立たないけど、意外な良作」と、自信を持ってオススメ出来ていた気がします。 いずれにしても、シリーズのファンであれば、一応チェックしておいても損は無いかと。 外伝的要素が濃い3と5とは違って、2と同じ「ケビンを主人公にした続編」ではある訳だし、なるべくハードルを低くした上で観賞してもらいたいものです。 [DVD(吹替)] 5点(2019-01-09 18:55:48) |