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《ネタバレ》 黒沢清は目に見えぬものを見えたかもしれないと思わせてしまう。それはホラーというジャンルにおいてじゅうぶん発揮されてきた。しかし『アカルイミライ』という傑作がホラー以外でもその力を発揮できることを証明してみせた。だから黒沢清の非ホラー映画を心待ちにしていた。この待ちに待った黒沢清の新作が傑作であることは当然なのだという、作品にとっては非常に酷な期待を持って観たのだが、全く期待は裏切られることなく、そして期待を裏切られないということがこんなにも幸せなことなのかと感動した。『トウキョウソナタ』に登場する家族のそれぞれは、これまでの黒沢映画が描いてきた人物同様に、自らの存在価値を見出せずにもがいている。この世界に自分は必要なのか。この家族に自分は必要なのか。「お母さん役もそんなにいやな事ばかりじゃないよ」と小泉今日子が演じる佐々木恵が言う。そこに「お母さん役の人」はいるが「佐々木恵」という個人はいない。お母さんでいることから外に出て何かを見る。真っ暗な夜の海辺にオレンジの薄明かりに照らされる小泉今日子の顔が映し出された瞬間に、あぁ黒沢清の映画だぁと何かがこみ上げてくる。圧巻はラストにも訪れる。希望という目に見えないものが間違いなく映されるのだ。ドビュッシーの「月の光」を主人公である少年が奏でる。その美しく優しい音色と少年を照らす光と決定的なカーテンのゆれ。このカーテンのゆれはゾクゾクっとした。神懸かっている。神懸かっているにもかかわらず、それはやっぱり当然なのだ。なぜならこれは黒沢清の映画なんだから。
【R&A】さん [映画館(邦画)] 9点(2008-10-20 18:28:56)(良:2票)
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