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この戦争を描いて、右にも左にも流れず、戦争自体の悲惨さは大前提としておきながらも、その中での人の生き様を(それも敵である日本人の生き様を)きちんと描いているのは高く評価したい。
そしてそれを見せるために、「プロジェクトX」的な意味でのエンターテイメントの要素をぎりぎりまで省き、しかしそれでいて、観客が最初から最後まで、それなりに興味を持って見られるような要素も必要最小限に残している、そのバランス感覚が本当に素晴らしい。 たとえば、戦闘中にさしはさまれる、回想シーンのカットバックは、将兵が過去を振り返っているというレベルのリアリティを十分に残しつつ、観客にとっては過度の緊張から一時でも解放されるオアシス的な機能をうまく果たしていて、お涙頂戴的な作り物感を感じさせないのはさすが。 この映画を見る人は、いったんアメリカ軍が上陸したら、その後は悲惨な戦いがずっと続くことを覚悟して見始めるんだろうけれど、映画の前半をまるまる栗林中将の人を食ったようなあっけらかんとした姿でぐっとひきつけ、そこにエンターテイメントの要素を集約しているのが素晴らしい。(エンターテイメント要素のない)戦闘シーンがはじまってから、観客が耐えられるストレスをきちんと計算尽くしているように思われた。 戦闘がはじまってからは、日本軍が圧倒的な物量差の中で、意外な抵抗を見せるということを、作品のエンターテイメント的な要素としてももってこられたのかもしれない。それをやらなかったのは、一つには「敵の」アメリカ軍に感情移入するアメリカ人の観客の反応を意識したからなのかもしれないけれど、結果的には、そうした盛り上がりを排除した結果、この戦争のなかで「とにかく生き延びよう」とするだけだった兵士が、「最後まで戦う」ことを選んだ将官の生き方、価値観に影響されていくというドラマが、よりくっきりと描けるようになったようにも思う。「二度あることは三度ある」という栗林の言葉が特に心に残った。 「ディア・ハンター」や「フルメタル・ジャケット」、「地獄の黙示録」などに比べれば、目を開かされるというような要素はあまりなかったし、「戦場にかける橋」のようなポジティヴな感動もなかったけれど、あの戦争を我慢せずに見られるレベルでフェアに描いていることを高く評価したい。 【小原一馬】さん [地上波(邦画)] 7点(2009-09-03 02:05:18)(良:1票)
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