| 作品情報
レビュー情報
吾朗さんの『ゲド戦記』を大プッシュしていたいきがかり上、ちゃんとその先を見届けねばと思って見てきた。がっかりしたわけではないし、それなりに楽しめたけれど、でも「コクリコ」公開記念でテレビ放映してた『海がきこえる』とかと比べてしまえば、深い感動は特になかったといわざるをえない。はじめてカルチェラタンに入るところとか、自転車で坂を駆け下りるところとか、見せるいいシーンはあったけれど、物語自体に力がない。だから『ゲド戦記』とは比較にならない。何がいけないのかって考えると、この物語の設定をリアルに考えれば、当然あってしかるべきな葛藤・対立が何もないことに気付く。血の葛藤は、自分が動く間もなく簡単に乗り越えられてしまうし、大人との葛藤なんて、ないも同然だった。きっとあるはずだった、校内の男女の間の葛藤もなくなっているし、校内のヒーロー俊をめぐる競争でも、海ちゃんが当然のように勝利して、誰も足をひっぱらない。うまくいきすぎて気味が悪いくらいだ。『ゲド戦記』は、あの4部作をたかだか二時間ばかりの尺に収めること自体が、とんでもない挑戦だった。当然無理があるんだけれど、それを無理やり達成するところに、吾朗さんにしかできないような、オリジナリティが生まれていたと思う。もちろん吾朗さんが、父に挑むこと自体が誰もが知っているドラマだったわけで、その自分自身の葛藤をちゃんと作品の中に昇華できていたと思う。でも、ここでは、お父さんに与えられた脚本を、見られるだけの一つの作品としてただこなせているにすぎない。お父さんが書いたのは、自分自身が青春をすごした時代へのノスタルジーに満ちたストーリーだった。まんまそれだけと言って良い。もし駿監督自身がこれを映像化したら、それを自ら対象化して、何かそこから新しいものを探し出したかもしれない。でも息子には、それを否定して、別のものに書き換えてしまうだけのものがなかった。そこには神格化されたオヤジのホームグラウンドで、アウェイで戦うというハンデだって大きかったろうし、『ゲド戦記』に対する世間の批判も大きかったろう。だから、生ぬるい話にしかできなかったのではないかと思う。
【小原一馬】さん [映画館(邦画)] 5点(2011-09-06 18:01:01)
小原一馬 さんの 最近のクチコミ・感想
|