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あえて言うが、この映画には、映画表現としての語り口の巧さだとか、映像的な巧みさ、小気味いい展開の妙など、表現としての工夫は何も無い。冒頭から繰り広げれるあまりに無骨な映画世界に一瞬“嫌な”予感がしたことは正直否めない。そして、その無骨さは、全編通して一貫される(戦艦大和上での圧倒的な戦闘シーンは別にして)。
しかし、涙が溢れ、止まらない。もはやあまりに普遍的な描写に、問答無用で涙がこみ上げる。そうして、次第に、「ああ、この映画には、表現としての工夫なんて必要ないんだ」ということを考える。 もちろん、ここに、映画的な巧さが加われば、それこそ物凄い映画になるのかもしれない。でもおそらく、この映画に携わった人々は、あえてそういうことに目を向けなかったのだと思う。それよりも、たとえくどかろうと、“事実”を明確に伝えることに力を注いだのではないか。 正直なところ、この映画の題材を聞いた時、時代に対して「古い」という印象がよぎった。戦後60年という時代を迎え、多くの人の中で、この国が経験した「戦争」という事実が確実に風化してきている。この映画は、そういう人たち、そういう時代に対する警鐘なのだ。 そして、この映画は無骨で語り口は非常に古臭いけど、描かれるテーマは今まで多くの戦争映画で描かれてきたものとは、確実に一線を画す。この作品は、日本が経験した「戦争」とそこに生き死んだ人たちを、美化も卑下もしていない。事実としての戦争を指してひとつの価値観で描くことはとても傲慢なことだ。この映画は、ただただ真摯に“そこ”で生きて死んでいった人たちを描き、生き続けることの意味、語り続けることの意義を、どこまでもまっすぐに訴える。 【鉄腕麗人】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-12-20 00:51:05)
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