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“女”にとって、“男”は、ほんとうに、純粋に、暗く空いた心の隙間を埋めるためだけの、“詰め物”だったのかもしれない。
精神が歪んでいるわけでも、感情が欠如しているわけでもない。 むしろ逆だ。 あまりに真っすぐに、あまりに直情的に、自分に“無いもの”を求めた結果だ。 不条理であり、おぞましさすら感じる。 しかし、その激情を表す言葉はやはり「愛」以外にはあり得ない。 「あれは私の全部だ!」と、“女”は叫ぶ。 もう、この咆哮にすべてが表れている。 文字通りの死の淵から、“空っぽ”の状態で生き延びた少女は、「必然的」に現れた“男”で、その空洞を埋め尽くしていったのだろう。 “女”が“男”で満たされるのにそれほど時間はかからず、同様に“男”も“女”で満たされていく。 「秘密」が誰に暴かれようが暴かれまいが、それを誰に非難されようが非難されまいが、最初から最後まで彼らの世界には、二人しか居なかったのだと思える。 何かがほんの少し違っていれば、辿り着いた場所はもう少しマシだったのではないか……と、僕自身を含めて、他人は思う。しかし、そんな他人の思考はあまりに無意味であることに気づく。 “男”の台詞に表れているように、彼らがほんとうに望んでいたことと、彼らが辿った運命は、少しずつ確実に乖離していったのかもしれない。 それでも、彼らはああやって互いの命をつないでいくしかなかったし、あの先もああやって生きていくのだろう。 ドヴォルザークのメロディーが夕刻を告げるチャイムとして流れる中、“女”が数日ぶりに帰ってきた“男”を迎える。 映画の展開的には、まだ物語が劇的に転じる前の何気ないシーンとして映し出されているが、おそらくはこの映画の中で最も重要なシーンだったろう。 誰も知らない二人だけの世界。孤立感と、それ故の多幸感。 そして彼らの背景に染み渡っているような不穏さと背徳感。 でも、たまらなく美しいこのシーンを忘れることはできない。 【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 10点(2014-07-21 07:01:22)(良:1票)
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