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BiSHのセントチヒロ・チッチが、悔しさと憤りが入り混じった涙を流す。
アイドルオーディションの中に渦巻く過酷。そこには、アイドルを目指す過酷と、アイドルを続ける過酷が混在していた。 チッチの涙は、WACKというプロダクションのトップランナーとして、その世界で走り続ける者のプライドと悔しさ、そして優しさが溢れ出たものだったように思う。 BiSHにハマり、彼女たちが所属する音楽プロダクションWACKを追い始めて3年。同プロダクションが毎年開催している合宿オーディションのWeb中継を見るのも3回目だった。 毎年沢山の女の子たちがアイドルを目指して、せめぎ合い、そしてその大半が去っていく。 その様子をつぶさにカメラで追い続け、生配信をし、映画化するこのプロジェクトは、非常に残酷であり、その反面物凄くエモーショナルだ。 その“残酷”と“エモーショナル”が合わせ鏡のように共存し、アンビバレントな価値観を放つことこそが、“アイドル”という存在の本質的な魅力だと思う。 現在40歳の僕自身は、アイドルファンを公言して間もない。ただ、4年前、36歳の見まごうことなき“おじさん”になってから初めてアイドルにハマった理由は、まさにその相反する二面性が表現するドラマティックに他ならない。 今回の合宿オーディションの参加者は、例年になく良い意味でも悪い意味でも曲者揃いで、ある部分においては明らかに脆く、拙かった。 その様が、プロダクションの稼ぎ頭ではありながらも、まだまだ一般的な認知度は低く、活動の中で悔しい思いの方が圧倒的に多いであろうチッチの感情を昂ぶらせ、乱しただろうと思える。 今回のドキュメンタリー映画は、二人の有力候補生の様子を主軸にして綴られる。 年格好も、技能も、才能も似通った二人は、互いに励まし合い、刺激し合い、過酷なオーディションを生き残っていく。 だが、最終日にして、或る“直接対決”によってその片方が脱落し、片方は合格を勝ち取る。 アイドルオーディションのドキュメンタリーとしてその“ストーリーライン”は、とても王道的だった。 ただ、今作はそこで終わらない。 「合格」のその先、アイドルを続けるということの過酷が、端的に、リアルに伝えられる。 そこには、セントチヒロ・チッチの涙が表していたことの本質、“アイドル”として存在を示し、決して綺麗事ではなく残り続けていくことの難しさが、表れていたと思う。 “コロナ禍”というタイミングも相まって、“彼女”が、アイドルとして歩み出し、存在し続けていくことが極めて困難であったことは容易に想像できる。 ただそれでも、アイドルとして存在し続けられたことのみが「正義」であり、それ以下もそれ以上もない。 運も必要、タイミングも必要、強かさや、狡猾さ、そしてもちろん“ファン”とそれに密接に結びつく“お金”も絶対的に必要。 それら全部ひっくるめて、この生きづらい世界の中で、アイドルたちは存在し続ける。 【鉄腕麗人】さん [インターネット(邦画)] 7点(2021-12-07 22:00:02)
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