| 作品情報
レビュー情報
なぜ私は3年前に公開されたこの映画を、映画館で鑑賞せず、今の今まで放置してしまっていたのか。自分自身のことながら、まったくもって理解に苦しむ。
2025年2本目の鑑賞作品にして、最高得点、フェイバリットの上位に入り得る、私にとっては最高で最愛の映画作品だった。 --- 夢と狂気の世界に囚われたフェイブルマン家の人々 --- 暗闇を恐れて映画館に足を踏み入れることを嫌がっていた年端もいかない少年が、両親に連れられて観た「地上最大のショウ」に心を奪われることから、フェイブルマン一家の物語は始まる。それは「映画」という“夢と狂気の世界”への入口だったのだろう。 主人公の最たる理解者である母親から8mmフィルムカメラを渡され、彼は目に映るもの、そして頭の中に浮かんだイメージを、次々に写し撮り、「映画」を生み出していく。 イマジネーションと映画作りの才能に富んだ少年の眼差しは、明確な意志が満ち溢れていると同時に、ほとばしる才気が抑えきれないような危うさや、現実世界でも夢の中を浮遊しているような不安定さも感じ取れる。 そして、その眼差しは、本作の創造者であり、主人公の実像でもあるスティーヴン・スピルバーグのあの眼差しに重なり、入り交じるようだった。 世界最高の映画監督と言って無論過言ではないスティーヴン・スピルバーグが、そのキャリアの最終盤において描き出したこの半自伝的映画は、「映画」というものがもたらす奇跡と呪縛を等しく映し出した素晴らしい作品だった。 映画ファンのはしくれとして、そしてかつて映画製作を志した者の一人として、個人的な人生観にも染み渡る特別な作品だった。 --- スピルバーグだからこそ描き出せた映画製作にまつわる愛と憎しみ --- あのとき、幼い少年に、映画の中で映し出されたスペクタクルを見せなければ、“衝突”に対する衝動は起こらず、彼はもっと平凡に生きられたかもしれない。 あのとき、彼に8mmフィルムカメラを渡さなければ、この家族は表面的には波風が立つことなく、離散せず、幸せに過ごし続けられたかもしれない。 あのとき、興行の世界に身を置く大叔父を家に入れなければ、彼は普通に進学し、就職し、父親同様にビジネスで成功したかもしれない。 「映画」に出会わなければ、主人公は平穏で安らかな幸せな人生を歩めたのかもしれない。 しかし、母親が強く発し、子どもたちにも復唱させたように、「すべての出来事には意味がある」。 母親が衝動的に追いかけた竜巻の道を阻まれたことにも、主人公が撮った家族フィルムに母親の浮気心が映り込んでいたことにも、ユダヤ人差別をする同級生たちにいじめを受けたことにも、その出来事自体には悲痛が伴っていたとしても、その先に意味は生まれ、それが人生の価値となる。 そういうことを、決して幸福とは言い切れない少年時代を通じて深く理解した主人公、もといスティーヴン・スピルバーグは、それを具現化して表現する手段として「映画」を撮り続けてきたのだと思う。 人生は上に昇るか、下に降るかの連続であり、ど真ん中の平坦な地平線に向き合うことは死ぬほどつまらない。 スティーヴン・スピルバーグは、これまでも、これからも、スクリーンに映し出される世界の地平線を上へ下へと大きくずらし、面白き映画世界を生み出し続ける。 【鉄腕麗人】さん [インターネット(字幕)] 10点(2025-01-03 23:51:09)《更新》
鉄腕麗人 さんの 最近のクチコミ・感想
|