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捕鯨に取り憑かれた奇怪な村落共同体を描いたインモラルなプロレタリア映画。宇能鴻一郎と新藤兼人は、近世捕鯨を経済行為や食文化としてではなく、あくまでエロスとバイオレンスに突き動かされた人々の狂気の営みとして、男尊女卑もはなはだしいプロレタリアートの視点から捉えています。したがって、これは本来なら日活や近代映画協会あたりで制作すべきだった題材ですが、なぜか芥川賞受賞の直後に大映が権利を買い取ってしまったのですね。そして、あろうことか東宝の特撮映画を模範にしてしまった。 しかし、同じ特撮映画とはいっても、文明批判をテーマにした「ゴジラ」と、反理性的な習俗をテーマにした「クジラ」とでは、まるで方向性が逆だというほかありません。しかも終盤の特撮映像の嘘くささは、かえってリアリズムに逆行し、本来あるべき神秘性を損ね、たんなる安っぽい怪物映画にまで貶めています。 田中徳三の演出で勝新太郎が出演していますが、どこにも大映時代劇のような様式美は見られないし、伊福部昭が音楽をつけて志村喬が出演していますが、どこにも東宝特撮映画のような科学的理念は見当たりません。結果としては、やはり日活や近代映画協会のような野蛮かつ土俗的なテイストに帰着している。 特撮の安っぽさを大目に見れば、これはこれで成立してる気もしますが、だからといって、この映画や原作小説を引き合いに商業捕鯨を正当化できると思い込む人間がいるなら、途方もない馬鹿だと言うほかないでしょう。そんなことをしたら、かえって捕鯨文化の狂気と前近代性を世界中に触れまわることになります。 【まいか】さん [インターネット(邦画)] 6点(2023-01-11 04:12:02)
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