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ドキュメンタリーに限らないが、映画ではどこに視点を置き、何を撮り、どう編集・構成するかに撮る側の立場・思想が自ずと浮かび上がる。土本監督の作品の魅力は、単なる事実記録や告発などという皮相ではなく、被写体である人間に対する繊細なポジションや撮影手法を通して画面上に具体的に表れるその人間性にある。犠牲者の遺族へのインタビューでは、キャメラは背後に故人の遺影が必ず入る様に位置し、両者を同一画面内に入れるという配慮を忘れない。タコ漁の場面では、漁師と一緒に海中を覗き込み、瑞々しい画面を獲得する。あるいは、胎児性水俣病患者の少女が海沿いの畑道を歩くのをキャメラは後方から慎み深く距離を置いて追っていき、角を右手に曲がったところで海面への夕日の美しい照り返しで彼女を包ませている。注目すべきは、映画の随所で非常に印象的なこの美しい陽光の採り入れ方である。クライマックスともいえる株主総会後のエピローグでも、ボラ漁に出帆していく漁師たちの小船を岸から見送るキャメラは彼らを確信的に輝く水面に包ませる。土本監督の控えめでありつつ雄弁なメッセージだ。映画の中で紹介される胎児性患者たちの表情や仕草、それを慈しむ母親の手などの優れたクロースアップは、時間をかけて撮影環境と馴染ませる地道な関係づくりがあってこその賜物だ。憐憫などという驕りを忘れさせる彼らの表情にはまさに生の輝きがありただただ素晴らしい。映画ではシンクロ撮影が出来なかった為だろう、別撮りの音声と画面を編集段階で調整していることがわかるが、その微妙なズレが方言の難解さと併せて不思議に見る側を画面に引き込む効果をあげている。
【ユーカラ】さん [映画館(邦画)] 9点(2008-10-05 22:09:40)
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