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日本の戦争映画では学徒兵などインテリを主人公にしているのが多く、いかに彼らが古参兵にいじめられたかを繰り返し描いてきた。そもそも兵隊の記録がインテリによって綴られてきたせいで、軍隊の大半を占めていた農民あがりの兵の視点が弱く、もっぱら悪役として扱われるパターンが出来てしまっていた。本作はその偏向を是正する作品。元学生にとってはキツかった軍隊生活も、食うや食わずの元農民にとっては極楽だったという視点、イデオロギーではなく極楽の采配者としての天皇への帰依。そういう視点の新鮮さはいいのだが、それが十分に生かされていたかどうか。エピソードに分解されたあれこれはあまり新鮮でなく、インテリの記録とさして違わなかった気もする。けっきょく記録を採ったのはインテリの作家の語り手によるわけで、そこらへん仕方なかったのか。こういう視点からもっと戦争を深くえぐれる映画が生まれた可能性もあっただろう(極楽の軍隊に馴染みすぎたせいで、戦後の日常に不適応になってしまうあたり、もっと突っ込めなかったかな)。渥美清と藤山寛美という東西の天才喜劇役者を揃えたのに、なんかもったいない使い方をしている(あの授業のエピソードはいいんだけど、この顔合わせで期待させるものとは違うんじゃないか、という気分)。嬉しいのは当時の映画を回顧するシークエンス、水中撮影でやっているのが『与太者と海水浴』。これは高峰秀子が男の子を演じたうち残っている数少ない一本。豚を追いかけているのが『子宝騒動』。斎藤寅次郎のサイレントコメディの水準の高さを現在に伝える貴重な作品。二本ともフィルムは揃って残っているので、機会があれば御覧になれます。
【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2012-09-10 09:52:28)
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