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《ネタバレ》 素晴らしい。この竹取物語という日本人なら誰もが知っている日本最古の物語を現代に甦らせた本作は、アニメのみならずここ10年の間に製作された全ての映画の中でも歴史に残る傑作と言ってもいいくらいの素晴らしい出来栄えだった。高畑勲という日本を代表する映画作家は、この平安期の日本に古色蒼然と埋もれていたかぐや姫という女の子をその見事なまでの芸術的才能によって、千年の時を経た現代の日本に活き活きと生き返らせたのだ。水彩画を思わせる淡いタッチの絵の中で瑞々しく躍動する、このかぐや姫ほど魅力に満ちた主人公を僕は他に知らない。光り輝く竹の中から生まれた小さな女の子であった彼女が心優しき老夫婦の元ですくすくと成長していくさまを自然に見せていく冒頭部分から僕は心を鷲掴みにされた。最初は心優しき翁だった父が都に出てくると、次第にその出世欲と見栄を増大させ、単なる俗物へと変化していくのは、このかぐや姫という物語の本質を象徴している。生きることは、その純粋さを少しずつ穢していくこと――。常日頃からそう思っている僕にはとても共感できるテーマだった。光り輝く魅力に満ちたそんなかぐや姫も都に出たことによって、社会の序列化の波に組み込まれていく。やがて、彼女は男どもの横柄な支配欲――その裏には必ず醜い性欲が潜んでいる――によって、その美しさと純粋さを完全に奪われそうになるのだ。ただ綺麗なだけの着物を脱ぎ捨て、楽しかった生まれ故郷の里山に帰ろうとするかぐや姫(絵のタッチを意図的に荒くして描かれるこのシーンは息を呑むほどに美しかった)だが、男社会の論理はそれを許さない。何とかしてそんな男どもの支配欲に抗おうとするかぐや姫だったが、とうとう帝に見初められることによって追い詰められてしまう。そして、彼女を後ろから抱き締めようとする帝の醜い支配欲…。かぐや姫はその純潔を守るために自らの意志で迎えを呼び、そして“穢れなき”月の世界へと帰ってゆく。だが、そんな俗世にまみれたこの世界でも初恋の思い出や鳥や虫たちの健気に生きる姿、そして父母の情愛という彩りに満ちた素晴らしいものがあると悟り、かぐや姫は涙を流す。不覚にも、僕はこのラストシーンを見ながら涙が止まらなかった。映画でこんなにも泣かされたのは久し振りのことだった。理不尽で醜い現実に満ち充ちたこの世界で、少しずつ穢れていきながら日々の生活を送る僕たち人間の悲哀を象徴的に描いたこのラストシーンは白眉としか言いようがない。そうなのだ。だからこそ、僕たちは物語というものに純粋さ・美しさ・あるいはユートピアを求めていくのだ。それは竹取物語が誕生した千年前も現代を生きる我々でもなんら変わることはない。そんな普遍的なテーマを追求した本作は、近年稀にみる傑作と言っていい。
【かたゆき】さん [DVD(邦画)] 9点(2015-08-02 16:41:20)(良:2票)
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