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《ネタバレ》 天才と聞いて真っ先に思い浮かぶ映画監督が山中貞雄だ。なにしろあの若さで傑作を少なくとも三本、軽々と作ってしまったのだから。軽々、とは言ったものの山中監督の苦労と努力を疑いはしない。しかし三本の傑作を幾度も見返すにつれて、この怒涛の面白さは監督の持つ天性の演出能力によるものとしか思えないのだ。そしてこの河内山宗俊は、霧状の感情を映像の枠内に封じ込めてしまう山中の才能が抜群に発揮された作品だ。それが顕著に見て取れるのがあの有名な雪の降るシーンだ。まずなよなよと項垂れて座り込む少年(弟)が手前に、ふすまを超えて奥の部屋の縁側近く姉が立ったまま障子にもたれていて、さらにその奥で雪がちらついている。この絶妙な人物の配置と奥行きを感じさせる構図。弟のアップ、全体を写すショット、姉のアップと続く一連の流れは極上の映像体験である。映像以外のところでは中村翫右衛門の斜に構えながらも笑いを誘う演技に魅かれた。「ただなんとなく生きておりますから、御安心ください」このセリフとあの淡々とした口調に笑みがこぼれた。幸せな気分になった。
【吉田善作】さん [DVD(字幕)] 7点(2012-12-04 23:36:14)
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