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レビュー情報
1969年のアポロ11号月面着陸を背景に、「月面着陸捏造説」を逆手に取ったロマンティック・コメディだ。
テーマとしては宇宙開発の捏造という大胆な切り口だが、その描き方がコミカルで皮肉たっぷり。 主演のNASスカーレット・ヨハンソンと、発射責任者役チャニング・テイタムの掛け合いが秀逸で、二人のロマンスも軽快で微笑ましく、 このコンビの絶妙な掛け合いだけでも充分観る価値がある。 特に感心したのは、月面着陸捏造という大胆な設定を笑いに転じているところだ。 映像を通じて繰り広げられる、ある種バカバカしい捏造劇は、思わず笑ってしまうほど滑稽だが、 一方で、真面目にフェイクを作り上げる登場人物たちを見ているうちに、自分自身の仕事にも似たような滑稽さが潜んでいることに気付かされる。 真面目な表情で必死に取り組んでいるその姿には、自分の普段の仕事の姿を重ねてしまい、不思議な自嘲感にとらわれた。 真剣だからこそ生じる滑稽さという、人間の本質的な部分をうまく突いている。 本作を観て、1978年の映画『カプリコン・1』を思い出した。 『カプリコン・1』は同じく宇宙開発の捏造をテーマに扱っているが、こちらはシリアスで緊迫感に満ちたサスペンス映画だ。 対して『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、軽快でコミカルな空気感が特徴である。 この二作品の違いは、まさに描こうとしたテーマに対する「向き合い方の違い」であり、 深刻なテーマを笑い飛ばすことで、逆にテーマの本質を浮かび上がらせているのが面白いところだろう。 しかし、個人的に少し気になったのは、歴史的事実をフィクション化する手法だ。 確かにユーモアとして面白いが、あまりにコミカルな要素が前面に出過ぎると、観る人によっては史実と虚構の境目が曖昧になり、不快感を覚える場合もあるかもしれない。 もう少しだけ、史実への配慮を示しつつ、バランスを取ればさらに奥行きが出る作品になったのではないかと感じた。 とはいえ、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は全体的に非常に楽しい映画だ。 スカーレット・ヨハンソンの鮮やかな演技もあって、宇宙開発を題材とした映画としても、 ラブコメとしても純粋に楽しめる出来栄えとなっている。 ちょっとだけ複雑な気分になった自分の心を含めて、鑑賞後にはどこか愛着を感じる、不思議な魅力にあふれた作品だった。 【そくらてつこ】さん [インターネット(字幕)] 9点(2025-03-05 01:28:37)《新規》
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