1.台湾の旅芸人:パオジャンフーの生活を追うドキュメンタリーであると同時に、
その職業柄ゆえに、本作は一種のロード・ムービーでもある。
予算と撮影期間は限られているようで、本来なら望ましい長期密着取材はままならない。
不幸な生い立ちの娘へのインタビューでは、やはり「話したくない」という
答えも返ってくる。他者には語れない過去の重さが、彼女の表情をふと翳らせる。
柳町監督の談話では家族へのインタビューは同時通訳で行ったらしいが、
それも彼らとの距離を出来る限り縮める関係つくりの工夫なのだろう。
日本語と台湾語で交わされるインタビューのスムーズな間が、なるほど面白い。
毒蛇を相手にする危険な芸の稽古の最中に、あえて間近に寄り添って
取材している柳町監督と田村キャメラマンも楽ではないだろう。
あるいは夫婦や恋人同士など複数の相手に語らせることが、
彼らをリラックスさせてもいるはずだ。
そうした工夫あっての、生き生きとした表情の数々だろう。
すぐにやきもちを焼いて他愛無い痴話喧嘩をする恋人たちのやり取りの微笑ましさ。
海辺で寛ぐパオジャンフー一家のロングショット。
その開放感が印象的だ。