芸術家或いは天才肌のミュージシャンの半生を描いた作品の傾向と .. >(続きを読む)
芸術家或いは天才肌のミュージシャンの半生を描いた作品の傾向としては、様々な苦悩を抱えたまま波乱の人生を送ってきたと言うのが多数派である。そして波乱に満ちていればいるほど、格好の映画的素材となり得る。自伝映画とは本来そういうものだし、とりわけハリウッドにとっては、なおさらである。今まででも、酒に溺れるか麻薬に手を出すかといった違いはあるにせよ、異性や金銭にだらしない主人公のスキャンダラスでダークな部分を描いた作品は少なくない。そういう意味でも、本作で描かれるR・チャールズの物語などは、その基本パターンを確りと踏襲していて、もはや伝統芸と言ってもいいぐらいだ。しかし、裏を返せばそれは新味に欠けるということであり、いかに技巧を凝らし斬新な演出でソツなく描いても、所詮ひとりの人間の人生など大同小異だということを示唆している。ましてや、描かれる偉人に然程の関心が無い者にとっては、まさに面白くも可笑しくも無いハナシなのである。しかし本作には他と一線を画する意匠を凝らせてある。長くアメリカのミュージック・シーンを賑わせ、今やスタンダードともいえるヒット・ナンバーの数々。そして、J・フォックス。見事なほどの歌いっぷりや仕草のひとつひとつがなんとも得意気であり、そのソックリさんぶりはこの映画を観た人すべてが納得させられるほど圧倒的である。彼の力技がなければ、単なる凡庸な作品に終わっていたかもしれない。