この作品には基本的に葛藤が描かれていない。主人公である女性は .. >(続きを読む)
この作品には基本的に葛藤が描かれていない。主人公である女性は常にポジティブで、例えお客がどんなに来なくても、文句も愚痴も決して言わない。だから観ているこっちといては感情移入できたとしても、心の揺れ動きが描かれていないためさほど感動はしないし、出来ない。だが、それでもこの作品を好きになってしまうのは、その主人公の女性が本当に魅力的なのだ。優しくて、穏やかで、上品で、まさに日本を見ているような心境になり、感情移入というよりは、応援したくなる。それはやはり作品の中でも同じ事が言える。店に入ることを躊躇していたフィンランド人も、彼女の穏やかな笑顔に釣られて、入ってしまう。入ってしまうと彼女の優しさに触れてしまい、離れられなくなる。彼女の周りには終盤に向かうに連れて、人が次々集まってくる。ぼくは不思議な心境にとらわれた。この作品は主人公に感情移入するのではなく、お客に感情移入してしまうのだ。ぼくらは画面、あるいはスクリーンという名のショーウィンドウの向こうから“かもめ食堂”を覗いているのだ。だから、観終わった後、無償に豚のしょうが焼きやおにぎり、玉子焼きや鮭の塩焼きが食べたくなるのだ。入りたい、あの店に行ってみたい、そう思ってしまうのだ。ぼくはこの作品は凄い作品だとおもう。