シムノンの原作は、描写が特に細かいというわけではないものの、 .. >(続きを読む)[良:1票]
シムノンの原作は、描写が特に細かいというわけではないものの、生々しさがあり、読んでいる最中、イメージが強く喚起されるので、改めて本作を観ると、なんだかリメイク作品を観ているような妙な気分になりました。が、原作そのままではなく、原作は。イール氏と尾行刑事のやりとりなどがもっと描かれていて、サスペンス色を出していますが、本作の方は、そういった部分は抑え気味。その分、幻想味が増していますが、「作られた不健康さ」みたいなのが垣間見えるのがちょっととまどうところ。ところで!イール氏の覗きのシーンでは、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番の第4楽章の一部が繰り返し、執拗に流れます。本当にシツコイです。私は上記の曲が昔から大変に好きです。私は好きな曲は頻繁には聴きません。時間の流れとともに音楽もまた流れ去ってしまう儚さ、それこそが音楽の魅力であり、あまり頻繁に聴くとその魅力が台無しになる気がするから。それに好きな曲は頭に入っているから、それで十分なのです。しかるにその曲をこれだけしつこく(無意味に)繰り返されると、なんだか嫌な気分に。この曲のこの引用部分、特筆すべき大変美しいメロディであり、おそらく「それゆえに」ブラームスはこのメロディを曲の後半で再現する際には敢えて不完全な形でしか出さなかった(惜しげもなく!)。これが「音楽」の凄みだ。「映画」というジャンルは、この刹那的凄みとは無縁なのか?このように「好きなもの」を「好きなだけ」垂れ流すものなのか?そうでは無いと信じたい。[良:1票]