音が印象的な映画。浮浪児にかぶせる汽車の音、アパートの一室の .. >(続きを読む)[良:2票]
音が印象的な映画。浮浪児にかぶせる汽車の音、アパートの一室のポツリポツリとした雨漏りの音、突然スピーカーから流れる音楽、タクトを振り上げようとした時の風の音・・・。それぞれがその場の雰囲気を代弁しています。中北千枝子さんの、薄幸そうとはいえない明快な雰囲気も戦後の荒廃を明るく夢を持って生きようとする女性によくあっていますね。作中では、やたらと残金を計算しているのですが、現実に使ったお金が動物園の入場料以外、不本意な支出ばかり。しかしこの事実が、その後のベーカリーや音楽堂でのお金を使っていないシークェンスへ生きています。喫茶店でのミルクコーヒーの一件など残金を執拗に描いているのはそのためでしょう。またここではコートを手離させることで、目に見える形としての暖かさまでも奪っています。よって目には見えない未来のベーカリーや音楽堂でのコンサートがより際やかにその暖かさを纏うことになっているのが巧いなあ~と。音楽堂では、嬉しそうにタクトを振る男、涙ながらに観客席から見る女、お互い同方向を見ているためその表情はわからないはずなのですが、気持ちは一つになっている様子が画から伝わってきます。ラスト、黙って駅のベンチに座る二人。ここで喫茶店での女の言葉がまた生きてきます。汽車の音、揃ってちらりその方向を見る二人・・・彼ら二人の未完成交響曲が完成に近付きつつある瞬間でありました。[良:2票]